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44 どうぞ他をあたってください ④
「あなたは私の母のものを、自分のものだと言うのか?」
「ど……、どういうこと?」
ウララさんに見つめられた私は、冷ややかな目で彼女を見つめ返す。
「ジゼル公爵夫人がそっくりなブローチを持っていらして、私に貸してくださったのです」
「そんな……っ、どうしてそんなに面倒なことをするのよ!?」
「高価なブローチをこんなセキュリティの甘い会場に付けていくわけにはいかないでしょう?」
今日、私が付けているものは、昔出回っていた模造品だ。よく見れば材質が違うことがわかる。
「あなたは私のことを泥棒だと言いましたけど、それはあなたのほうではないですか?」
「そ、そうだわ。これじゃない! 私が言っているのはミアリナさんが持っているブローチよ! 間違えたほうは私が持っているから、それと取り替えてほしいのよ!」
「そんな言い訳は通じません。財産目録に書かれていたブローチは一つでした」
ウララさんは必死に言い訳を考えているようだけど、すぐには思い浮かばなかったようで口を閉ざした。そんな彼女にラフリード様が話しかける。
「母のブローチを盗品扱いされたんだ。黙っているわけにはいかない。あなたにはゆっくり話を聞かせてもらおう」
「誤解です! ほら、ミアリナさん! ブローチを返すわ!」
「返すのは当たり前です」
差し出されたブローチを受け取り、ラフリード様に手渡す。
「私が持っていると泥棒に狙われるようです。パーティーが終わるまで持っていていただけますか? 公爵夫人には私からお返しします」
「わかった」
ラフリード様は頷くと、警備をしていた兵士に声をかける。
「前ビレディ侯爵夫人は母を侮辱した。話をする際に父にも同席してもらうつもりだから、彼女をジゼル公爵家に連れて行ってくれ」
「承知いたしました」
ここまではシナリオ通りなので、兵士たちも困惑する様子もなく頷き、ウララさんを取り押さえた。
「ちょっ、ちょっと、やめてよ! 私がちょっと勘違いしただけじゃないの!」
「神に誓うとおっしゃいましたよね?」
微笑んで尋ねると、ウララさんは暴れながら訴える。
「ミアリナさん! 意地悪をしないで。お願い。助けてよ。お金が欲しいならあげるから!」
「お金は欲しいですが、あなたからはいりません」
笑顔で手を振ると、ウララさんの表情は絶望のものに変わった。
「お母様!」
連れて行かれるウララさんを、フララさんが慌てて追いかけていく。ウララさんたちが会場を出ていくのを見つめていると、父がラフリード様に話しかけた。
「あ、あの、ラフリード様、娘がお騒がせして申し訳ございません」
「ミアリナは悪くない。悪いのは前ビレディ侯爵夫人だ。彼女のような人をこのパーティーに呼んだあなたとはもう関わりたくない。今日は帰らせてもらうし、二度と主催のパーティーには出席しない」
「そ……、そんなっ!」
父はいつも私の前では怒ってばかりだった。そんな男の焦った顔を見た瞬間、私の恐怖心は消え去ったのだった。
******
あれから二十日が過ぎた。
ウララさんがジゼル公爵家でどんなことをされたかはわからないが、彼女は出頭し、公にされていなかった罪を全て話した。
窃盗だけでなく、おじ様のこともあったため、彼女は重罪の人が集められる刑務所に送られることになった。
懲役はかなり長く、彼女は生きている間に刑務所から出られることはないと思われる。
一人ぼっちになったフララさんは、トータムに助けを求めたが、彼は彼女を助けなかった。
そのため、フララさんは過去に関係のあった男性に助けを求めたが、過去のことが掘り返されて詐欺罪で訴えられ、現在は留置所で惨めな思いをしているそうだ。
騙す必要のない人を騙したせいで、天罰が下ったのだと思う。
私は孤児院での暮らしにも慣れ、今では仕事量も増えて、物心がついた子どもたちともかなり打ち解けることができた。
ファルナ様とアリム様の結婚の話も出始めて、良いことばかりの日々を送っていた。
ラフリード様と出かけることになったある日、待ち合わせ場所近くの道で馬車を降りると、馬車に乗ろうとしていたトータムに出会った。
相変わらずやせ細ってはいたが、以前よりも生気はあるように見える。
トータムも私に気がついて近寄ってきた。
「待ち伏せしていたわけじゃないんだ。たまたま、こっちに用事があって」
「何も言っていないわ。じゃあね」
辻馬車の御者にお金を払って去ろうとすると、トータムに呼び止められる。
「待ってくれミアリナ! 僕は再婚しようと思ってる」
「おめでとう」
宣言されてもどうでもいいわ。
立ち止まって振り返り、お祝いの言葉を述べると、トータムは泣きそうな顔で私を見つめる。
「相手は……、君がいいんだ」
……相手が見つかったわけではないのね。本当にしつこい。
「私はあなたと再婚なんてしません。どうぞ他をあたってください」
「……本当に駄目なのか?」
「今回はたまたま出会っただけだから話をしたけれど、あなたは私と関わらないという約束を交わしたはずよ」
睨みつけると、トータムはがっくりと肩を落とした。
「ミアリナ」
トータムの後ろに馬車が停まり、ラフリード様が降りてきて、私に駆け寄ってくる。
「大丈夫か?」
「はい。心配していただきありがとうございます」
ラフリード様に微笑んだあと、トータムに話しかける。
「あのね、ビレディ侯爵。私、ラフリード様と婚約したの。だから、あなたを選ぶことなんて天と地がひっくり返ってもありえないわ」
両親と縁を切ったが、私が伯爵家の血筋であることは変わりない。王妃陛下の後押しもあり、私とラフリード様は十日前に婚約していた。
世間にはまだ公表していないので、トータムが知らないのも無理はない。
「そんな……」
どんなに後悔していたって、私の知ったことではない。
地面に崩れ落ちるトータムを置いて、私とラフリード様は歩き出す。
「本当に何もされてないんだな?」
「少し話をしただけです。偶然会うことがあっても、もう話すこともないでしょう」
「それなら良いんだが……」
「もう彼への愛情は私の中にはありません」
私は今度こそ幸せになる。
そして、そんな幸せを一緒に分かち合える人が、ラフリード様であるように願いを込めて、優しく包むように握られた手を、私は少しだけ強く握り返した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最後までお読みいただきありがとうございました。
少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。
新作「あなたに言われても響きません!」も投稿しておりますので、そちらでお会いできましたら幸いです。
あとがきに付き合ってくださる方は下へスクロールをお願いいたします。
本作を読んでいただき、本当にありがとうございました!
しつこい夫にイライラした方もいらっしゃるかと思いますが、本当に悪気のない人ってこんな感じなんですよね。
自分がやってはいけないことをやったと思わせることが難しい。
トータムは最後になってやっと気づいた形です。
侯爵家を潰さなかったのは、ミアリナや王妃陛下たちの思いを生かした結果です。
義理の母娘については、贅沢できなくなったことが一番のざまぁかなと思っております。
話の通じない相手にどこまで付き合うか、難しいところだなあと思いながら書いたお話でもあります。
私は関わらないようにするんですけど、皆さんはどうされているのでしょうか。
ラフリードとの恋愛については離婚しないと書けなかったため、ほとんど書けずじまいで申し訳ございません!
二人は結婚して子供にも恵まれて幸せになります。
ちなみにトータムは再婚できず、従兄の子供を跡継ぎにもらうことになります。
そして、また新作を投稿しております!
「あなたに言われても響きません!」になります。
使える人が少ない付与魔法を使えるヒロインが、家を追い出されたことをきっかけに自分を虐げたり嫌な思いをさせた人に対して、隠していた力を使ってざまぁしたり、助けるべき人は助けるお話です。
前向きヒロインを応援してやっていただけますと嬉しいです。
久しぶりの長編の予定ですので、お付き合いいただければ幸いです。
長々と書きましたが、お気に入り、エール、いいね、しおりをありがとうございました。少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
新作、もしくは他作品でお会いできますように。
「ど……、どういうこと?」
ウララさんに見つめられた私は、冷ややかな目で彼女を見つめ返す。
「ジゼル公爵夫人がそっくりなブローチを持っていらして、私に貸してくださったのです」
「そんな……っ、どうしてそんなに面倒なことをするのよ!?」
「高価なブローチをこんなセキュリティの甘い会場に付けていくわけにはいかないでしょう?」
今日、私が付けているものは、昔出回っていた模造品だ。よく見れば材質が違うことがわかる。
「あなたは私のことを泥棒だと言いましたけど、それはあなたのほうではないですか?」
「そ、そうだわ。これじゃない! 私が言っているのはミアリナさんが持っているブローチよ! 間違えたほうは私が持っているから、それと取り替えてほしいのよ!」
「そんな言い訳は通じません。財産目録に書かれていたブローチは一つでした」
ウララさんは必死に言い訳を考えているようだけど、すぐには思い浮かばなかったようで口を閉ざした。そんな彼女にラフリード様が話しかける。
「母のブローチを盗品扱いされたんだ。黙っているわけにはいかない。あなたにはゆっくり話を聞かせてもらおう」
「誤解です! ほら、ミアリナさん! ブローチを返すわ!」
「返すのは当たり前です」
差し出されたブローチを受け取り、ラフリード様に手渡す。
「私が持っていると泥棒に狙われるようです。パーティーが終わるまで持っていていただけますか? 公爵夫人には私からお返しします」
「わかった」
ラフリード様は頷くと、警備をしていた兵士に声をかける。
「前ビレディ侯爵夫人は母を侮辱した。話をする際に父にも同席してもらうつもりだから、彼女をジゼル公爵家に連れて行ってくれ」
「承知いたしました」
ここまではシナリオ通りなので、兵士たちも困惑する様子もなく頷き、ウララさんを取り押さえた。
「ちょっ、ちょっと、やめてよ! 私がちょっと勘違いしただけじゃないの!」
「神に誓うとおっしゃいましたよね?」
微笑んで尋ねると、ウララさんは暴れながら訴える。
「ミアリナさん! 意地悪をしないで。お願い。助けてよ。お金が欲しいならあげるから!」
「お金は欲しいですが、あなたからはいりません」
笑顔で手を振ると、ウララさんの表情は絶望のものに変わった。
「お母様!」
連れて行かれるウララさんを、フララさんが慌てて追いかけていく。ウララさんたちが会場を出ていくのを見つめていると、父がラフリード様に話しかけた。
「あ、あの、ラフリード様、娘がお騒がせして申し訳ございません」
「ミアリナは悪くない。悪いのは前ビレディ侯爵夫人だ。彼女のような人をこのパーティーに呼んだあなたとはもう関わりたくない。今日は帰らせてもらうし、二度と主催のパーティーには出席しない」
「そ……、そんなっ!」
父はいつも私の前では怒ってばかりだった。そんな男の焦った顔を見た瞬間、私の恐怖心は消え去ったのだった。
******
あれから二十日が過ぎた。
ウララさんがジゼル公爵家でどんなことをされたかはわからないが、彼女は出頭し、公にされていなかった罪を全て話した。
窃盗だけでなく、おじ様のこともあったため、彼女は重罪の人が集められる刑務所に送られることになった。
懲役はかなり長く、彼女は生きている間に刑務所から出られることはないと思われる。
一人ぼっちになったフララさんは、トータムに助けを求めたが、彼は彼女を助けなかった。
そのため、フララさんは過去に関係のあった男性に助けを求めたが、過去のことが掘り返されて詐欺罪で訴えられ、現在は留置所で惨めな思いをしているそうだ。
騙す必要のない人を騙したせいで、天罰が下ったのだと思う。
私は孤児院での暮らしにも慣れ、今では仕事量も増えて、物心がついた子どもたちともかなり打ち解けることができた。
ファルナ様とアリム様の結婚の話も出始めて、良いことばかりの日々を送っていた。
ラフリード様と出かけることになったある日、待ち合わせ場所近くの道で馬車を降りると、馬車に乗ろうとしていたトータムに出会った。
相変わらずやせ細ってはいたが、以前よりも生気はあるように見える。
トータムも私に気がついて近寄ってきた。
「待ち伏せしていたわけじゃないんだ。たまたま、こっちに用事があって」
「何も言っていないわ。じゃあね」
辻馬車の御者にお金を払って去ろうとすると、トータムに呼び止められる。
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「おめでとう」
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立ち止まって振り返り、お祝いの言葉を述べると、トータムは泣きそうな顔で私を見つめる。
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「……本当に駄目なのか?」
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睨みつけると、トータムはがっくりと肩を落とした。
「ミアリナ」
トータムの後ろに馬車が停まり、ラフリード様が降りてきて、私に駆け寄ってくる。
「大丈夫か?」
「はい。心配していただきありがとうございます」
ラフリード様に微笑んだあと、トータムに話しかける。
「あのね、ビレディ侯爵。私、ラフリード様と婚約したの。だから、あなたを選ぶことなんて天と地がひっくり返ってもありえないわ」
両親と縁を切ったが、私が伯爵家の血筋であることは変わりない。王妃陛下の後押しもあり、私とラフリード様は十日前に婚約していた。
世間にはまだ公表していないので、トータムが知らないのも無理はない。
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そして、そんな幸せを一緒に分かち合える人が、ラフリード様であるように願いを込めて、優しく包むように握られた手を、私は少しだけ強く握り返した。
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最後までお読みいただきありがとうございました。
少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。
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トータムは最後になってやっと気づいた形です。
侯爵家を潰さなかったのは、ミアリナや王妃陛下たちの思いを生かした結果です。
義理の母娘については、贅沢できなくなったことが一番のざまぁかなと思っております。
話の通じない相手にどこまで付き合うか、難しいところだなあと思いながら書いたお話でもあります。
私は関わらないようにするんですけど、皆さんはどうされているのでしょうか。
ラフリードとの恋愛については離婚しないと書けなかったため、ほとんど書けずじまいで申し訳ございません!
二人は結婚して子供にも恵まれて幸せになります。
ちなみにトータムは再婚できず、従兄の子供を跡継ぎにもらうことになります。
そして、また新作を投稿しております!
「あなたに言われても響きません!」になります。
使える人が少ない付与魔法を使えるヒロインが、家を追い出されたことをきっかけに自分を虐げたり嫌な思いをさせた人に対して、隠していた力を使ってざまぁしたり、助けるべき人は助けるお話です。
前向きヒロインを応援してやっていただけますと嬉しいです。
久しぶりの長編の予定ですので、お付き合いいただければ幸いです。
長々と書きましたが、お気に入り、エール、いいね、しおりをありがとうございました。少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
新作、もしくは他作品でお会いできますように。
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