捨てたのはあなたではなく私のほうです

風見ゆうみ

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15 シュキーへの天罰

 メイドがノックをすると、すぐにヒース様の声が返ってきた。
 私たちが何か言う前に扉が開いて、ヒース様が廊下に出てこられた。
 隣国の国王陛下を相手にするためか、黒の軍服を着ておられて、いつもとイメージが違う。

 婚約の話があったからか、変に意識してしまう気持ちを振り払い、ヒース様の話を聞く。

「シュキー国王は君に国に帰ってきてほしいと言ってる」
「私は今の生活が好きです。戻るつもりはありません」
「そうか。ありがとう。なら、断っておく」
「お待ちください、ヒース様。精霊たちが天罰を下したいようなのです」
「天罰を?」

 小声で言ったからか、ヒース様も小声で聞き返してきた。
 先程の精霊たちの様子をウムオさんと一緒に説明すると、ヒース様は難しい顔で頷く。

「わかった。とにかく俺も同席する。あと、天罰ってのは部屋の中でも落とせるのか?」
「わかりません。外に出た時に落とす可能性もありますが」
「見送り代わりの天罰というやつか」

 ヒース様は頷いたあと、閉まっていた部屋の扉を開けてくれた。

 真正面にコの字型になっている応接セットがあり、向かって右側の席にシュキー様が座っていた。

 シュキー様は私を見て勢い良く立ち上がる。

「ミーア! 私が悪かった! 頼むからオーランドを助けてくれ!」
「オーランド殿下にはセフィラ様がいらっしゃるでしょう」

 部屋の中に入ったものの、シュキー様に近付きたくないので、ヒース様の横に立ったまま言葉を続ける。

「呪いが解けたのでは?」
「それが解けていないんだ! セフィラでは役に立たん。2時間も効果が持たないんだぞ? このままではオーランドは呪いで死んでしまう!」
「オーランド殿下の呪いはもう解けているはずです。今の状況は天罰の一種だと思われます。オーランド殿下が心から反省して」
「うるさい!」

 シュキー様は私の言葉の途中で怒り出すと、テーブルの上に置いてあったティーカップを手に取り、私に投げつけてきた。
 すると、私が避ける前に目の前に大きな手が現れてカップを床に叩きつけた。
 カップは赤色のカーペットの上に落ちて、私の足元に転がってきた。

「大丈夫か?」

 ヒース様に尋ねられたので首を縦に振る。

「はい。ただ、今のは」

 私の目の前に現れた黒い腕と手は何だったのか聞こうとすると、シュキー様が私の横を指差して絶叫した。

「うわあああっ! な、なんだ、この動物は!?」
 
 顔を向けてみると、私の横には見たことのない動物がいた。
 驚いて何も言えないでいると、ヒース様が説明してくれる。

「ゴリラのゴリリーでメスだ。父上と契約している」
「ゴリリーさん」

 私が名前を呼ぶと、私よりも背は低いけれど、逞しい体付きのゴリリーさんは、じろりと気難しそうなグレー系の顔を向けてきた。

 顔は猿っぽいけれど、大きさが全然違う。
 全身を覆う毛も茶色というよりかは黒に近い。

「ゴリリー、彼女はミーアだ。お前のライバルじゃない」

 ヒース様が言うと、ゴリリーさんは手を差し出してきた。

 握手ということかしら?

 そっと手を出すと、ゴリリーさんは優しく手を握ってくれた。
 優しく触れるだけ握り返してはくれなかった。

 嫌われてしまったのかしら。

 そう思った時だった。
 ゴリリーさんは私から離れ、シュキー様に近寄っていくと、シュキー様に向かって手を差し出した。

「な、なんなんだ、この獣は! 不細工な顔をしやがって!」

 その言葉を聞いたゴリリーさんは、大きな手でシュキー様の左頬を叩いた。

「いっ! な、何をするんだ!」

 痛むのか左頬を押さえながら、シュキー様がもう片方の手でゴリリーさんを指差した。

 すると、ゴリリーさんがその指を掴んだ。

 ボキボキボキッ!

 という音のあと、ゴリリーさんはシュキー様の指を離した。

「あ、あ、あああ!」

 シュキー様が情けない声を上げる。

 シュキー様の人差し指は骨が粉々にされてしまったのか、ふにゃんと垂れてしまっていた。

「国王の指をへし折るのは良くない」

 ヒース様は大きく息を吐いたあと、私に目を向ける。

「悪いが治してやってくれるか? 十分な脅しにはなったはずだ」
「承知しました」

 私が近付いていくと、セフィラにラリアットをしていた私の姿を思い出したのか、シュキー様が叫ぶ。

「ち、近寄ってくるな! 暴力は良くない!」
「それはそうですが、ゴリリーさんは暴力をふるったわけではないかと思いますわ」
「暴力だろうが! 今日のところは勘弁しておいてやる! 帰るから、そのゴリラとかいう動物を大人しくさせろ!」

 ゴリリーさんは鼻息を荒くしたけれど、ヒース様に止められて、何とか落ち着いてくれた。

「くそう。覚えていろよ。あと、エトワは元気なのか? そうだ、せめて彼女に会わせてくれ!」
「それ以上何か言われるようでしたら、指を噛みちぎってくれる動物を連れてきますが?」
「そ、そんなことはしなくても良い!」

 ヒース様に脅されたシュキー様は慌てた顔で首を横に振る。

 これだけ元気なら、回復魔法はかけなくても良さそうね。

 シュキー様は廊下で待っていた自分の側近と共に、メイドに案内されてエントランスホールのほうに向かっていく。
 ヒース様はゴリリーさんとウムオさんに自分の部屋に戻るように指示してから聞いてくる。

「天罰はどうする?」
「そうですね。光の精霊はやる気のようですから、周りに迷惑がかからないように考えながらやります」

 そう答えたあと、ヒース様と一緒にシュキー様たちを追ってエントランスホールに向かった。

 ポーチまで馬車を回す手配をするために、側近は馬車を待機させている場所に向かって走っていく。

 1人取り残された陛下は、私たちが見ていることには気付かず、キョロキョロとあたりを見回したあと、動物の家エリアの木に、魔法で火をつけようとした。

「火の精霊よ、燃やせ!」
「水の精霊よ、消せ!」

 すぐにヒース様が反応したため、魔法の発動のスピードがヒース様のほうが早く、火が木を襲う前に水で消化できた。

「貴様ら! 邪魔をするな!」

 私たちに気が付いたシュキー様が叫び、魔法を使おうとしたので、私は手を前に出す。

「光の精霊よ、天罰を下せ!」

 2回目ともなると躊躇する気持ちもなかった。

 一瞬にして空は暗くなり、すぐに雷鳴と共に光の鉄槌が落ちる。

「うわあああっ!」

 オーランド殿下たちの時とは違い、光の矢のようなものがシュキー様の全身を突き刺したので、シュキー様は悲鳴を上げてポーチに倒れ込んだ。

「し、死んでませんよね?」
「血は出ていないし大丈夫だろう」

 ヒース様は倒れているシュキー様に近付き、呼吸や胸の動きを確認する。

「大丈夫だ、やっぱり生きてる」
「……シュキー様への天罰はどんなものになるのでしょうか」
「さあな。だけど、何かは絶対にわかるはずだ」
 
 それについては私も同感だった。
 しばらくすると、シュキー様の側近がやって来て、倒れている陛下を抱き起こした。

 そして、私たちに平謝りしたあと、シュキー様の体を抱えて馬車に乗せて帰っていった。

 数日後、シュキー様の側近からお詫びの品が送られてきた。

 お詫びの手紙も添えられていたけれど、シュキー様の天罰らしきものは書かれていなかった。

 けれど、コロール王国にいる動物たちから連絡があり、陛下の様子がわかった。

 天罰が下った陛下は、大きな判断は神の許可なしではできなくなってしまった。

 たとえば、シュキー様がキブズドーツに「宣戦布告をする!」と言おうとしても、彼の口から出てくるのは「キブズドーツと仲良くする!」なのだそうだ。
 反対の言葉を言えば良いのだと思ったシュキー様は「キブズドーツと戦わない!」と叫んでみたところ、そのままの言葉が口から出たらしい。

 シュキー様はエトワ様との離縁も認める発言をしてしまい、エトワ様は円満に離縁ができることになった。

 シュキー様はそのショックで寝込んでしまい、今はシュキー様の周りがフォローでとても忙しいんだそうだ。

 エトワ様との離縁がシュキー様にとっての天罰かもしれないわ。
 それに、このままでは国政に関わることももうないでしょうし、国民も救われるはず。

 オーランド殿下が国王陛下になるまでは、コロール王国も良い国になるかもしれないわ。

 そんなことを考えながら、動物の家エリアの中心付近にある池の周りを箒で掃除をしていた時だった。

「ミーアさん、いつもお疲れ様です」
「お疲れ様です」

 わざわざ道から外れて近付いてきたのは、ドードー様だった。
 ドードー様は爽やかな笑みを浮かべて言う。

「僕、一生懸命な女性が大好きなんです! 特に清くて美しい人が」

 ドードー様は悪いことを言ったつもりはなかったと思う。

 でも、私にとっての清くて美しいは、イコールセフィラになってしまっているので、そんな女性を好きだというドードー様に苛ついてしまった。

「コロール王国に少なくとも1人はいますので見つけてみてください。そしてお幸せに」
「ちょっ、ミーアさん!? 僕はあなたのことを言おうと」

 踵を返した私をドードー様は追いかけてこようとした。
 すると、近くの茂みから狼のウルオさんとウルメさんが現れて、ドードー様を威嚇する。

「な、何にもしやしないよ! ミーアさんをデートに誘おうと思っただけで」

 それを聞いたウルオさんが「グルルル」と唸る。

 ウルメさんが私に顔を向けて「行きなさい」と言わんばかりに顔を動かした。

 お言葉に甘えて、私はドードー様をその場に残し、自分だけ場所を移動することにする。

 それにしてもドードー様は一体、何を考えているのかしら?

 私をデートに誘う?
 何か裏があるとしか考えられないわ。

 大股で歩いていると、ウムオさんが飛んできて叫ぶ。

「ミーアタイヘンダ! オーランドカラミツギモノガキタ」
「貢ぎ物? そんなのいらないわ」
「デモサ、カエスワケニハイカナイミタイ。オクッテコラレタノハ、セイジュウミタイダヨ」
「聖獣?」
「ウン。チイサナイヌデ、チワーッテナマエナンダッテ」
「チワーという名前の聖獣?」

 わからないことが一杯で、私の腕に止まっているウムオさんを見つめた。

 世界は広く、陸続きではない国もたくさんある。

 そのうちの一つの大陸に、私たちの大陸には存在しない聖女や聖獣がいるという話を聞いたことがある。

 聖獣は聖なる獣なのだから、オーランド殿下から送ってくるだなんておかしい。

 違法なことをしていなきゃいいけれど……。

 そんなことを思いながら、ウムオさんに聖獣のいる場所へと案内してもらうことにした。

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