捨てたのはあなたではなく私のほうです

風見ゆうみ

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16 聖獣との出会い

 ウムオさんに連れて行かれた場所は謁見の間だった。
 聖獣という神秘的な生き物に出会うのは、キブズドーツ国でも初めてのことらしく賓客扱いになる。
 
「どうやらオーランドが他国に助けを求めて、他国に頼んで聖獣を借りたみたいだ」

 入り口から真正面にある壇上に向かって敷かれている赤いカーペットを踏みしめながら謁見の間に入ると、正装姿のヒース様が私に近付いてきた。

「オーランド殿下のことをよく知らないから、他国は大事な聖獣をお貸ししてくださったのですね」

 聖獣を貸し借りだなんて普通はありえないはず。
 だけど、話を聞いた以上、他国の王家が呪いで苦しんでいるのならと親身になってくださったのね。

「急に呼びつけて悪かったな」

 壇上から低い声が聞こえてきたので慌ててカーテシーをする。

「ロディ様、ご挨拶が遅れて申し訳ございません」
「気にしなくていい。俺が呼んだのだからな」

 白色の軍服姿で玉座に座るロディ様の膝の上には、白く長い毛を持つ小さな犬がちょこんと座っていた。
 
 怖がっているのか小さな体を小刻みに震わせていて、くりくりの目は潤んでいる。

 三角のような耳をピンと立てて、聖獣のチワー様は私に

「われがチワーじゃ。よろしく頼むぞ」

 人間の子どものような可愛らしい幼い声だった。

 おかしいわ。
 聖獣とはいえ、犬の言葉が私にも理解できるだなんて!

「ふむ、驚いているようじゃな! われは聖獣だから偉いのじゃ。だから、人間の言葉を話せるのじゃ!」

 チワー様は白い毛で覆われている小さな胸を張って言った。

 精霊とは違い、聖獣は私たちの大陸では未知のものだから、そんな風に言われてしまえばそうだと納得するしかない。

「失礼しましたチワー様。お目にかかれて光栄です。わたくし、ミーア・テンディーと申します」
「ミーアじゃな! われはチワーじゃ。迎えが来るまでこの城に滞在させてもらうことになったのじゃ。よろしく頼むぞ」

 詳しい話を聞いたところ、チワー様はチワワという犬種の異国の犬らしく、力を開放すれば私たちよりも大きな犬になれるらしい。
 そこまで大きくなると普段の生活がしにくいらしく、いつもはチワワの姿で過ごされているとのことだった。

 そして、会話ができるのも聖獣ならではの力らしい。
 可愛い見た目だけで判断してはいけないということなのでしょうね。

「あの、コロール王国の王太子殿下とはどのようなご関係なのでしょうか?」
 
 質問する許可を得てから尋ねると、チワー様は怒り始める。

「呪いに苦しめられているから解いてほしいというから、聞いた以上見捨てられんと思って、わざわざ遠くまで来たのじゃ。それなのに呪いではなかったのじゃ!」
「……そうでしたか」
「あやつ、われが何もしてやれんとわかると、もう用はないと言って、この国に送りつけてきたのじゃ」
「申し訳ございません」

 チワー様の話を聞いて、深々と頭を下げるしかなかった。

 現在のオーランド殿下が苦しんでいらっしゃるのは、やっぱり呪いではなかったのね。
 天罰というなら、オーランド殿下は自分が悪かったと自覚しない限りは苦しみから逃れることはできないでしょう。
 一生、苦しみ続けなければいけない気がするわ。

「この大陸の神とわれの国の神は違うので、われへの酷い扱いに対しては、われの国の神からも天罰が下るじゃろう。二倍の天罰じゃから大変じゃろうな」

 とても大事な話をしていらっしゃるのだけれど、可愛い顔と渋い口調とのギャップのせいか、微笑ましい話に聞こえてしまう。
 内容は微笑ましくもなんともないから、そんなことを思ったら不謹慎かしら。

 でも、オーランド殿下の場合は自業自得ね。

 1人で納得したあと、気になったことを聞いてみる。

「どなたかが迎えに来てくださるのですか?」
「ああ。フェニックスが来てくれるらしいのじゃ」
「フェニックス?」

 聞いたことのない名前だったので聞き返すと、チワー様は黒い目をキラキラ輝かせて言う。

「すごいのじゃぞ! とても綺麗な赤い鳥なのじゃ!」

 きっと、そのフェニックスという鳥も聖獣なのでしょうね。
 一生、見ることができないと思っていた聖獣をもう一匹見れるかもしれないなんて、とても光栄だわ。

 ところで、私がどうしてここに呼ばれたのかしら?
 オーランド殿下のやったことの責任を取れとでも言われるんじゃないわよね?

 冷静になって少し怖くなっていると、ロディ様がチワー様の背中を撫でながら口を開く。

「お迎えの方が来るまでに2、3日かかるらしい。その間、チワー様のお世話をミーアに任せたいと思う」
「わ、私にですか!?」
「ああ。光属性の人間と一緒にいるほうが聖獣様に良いと思うし、ミーアにとっても良いだろう」

 聖獣は光属性の動物みたいなものということかしら?
 詳しくはわからないけれど、国王陛下からの命令を断るわけにはいかない。

「承知いたしました。精一杯お仕えさせえていただきます」

 エプロンドレスの裾を持ち上げて膝を折ると、チワー様がロディ様の膝の上からぴょんと飛んで、壇上から下りてこられた。

「よろしく頼むぞ、ミーア」

 チワー様はふさふさの尻尾を左右に振って、私の足元でお座りする。

 とっても可愛い。
 近付いてこられると、思った以上に小さくて触れたら壊れてしまいそうだ。

「われは歩幅が小さいからな。抱っこして移動してくれると助かるぞ」

 そう言って、チワー様が私の向こう脛に前足をかけてくる。

「では、失礼いたします」

 しゃがんで抱きかかえると思った以上に軽くて、ふわふわな毛ので見るだけではわからない骨格がすごくわかる。

「ミーア、チワー様が聖獣だということは他の人間には知らせないでくれ。悪いことを企む人間がいるかもしれないからな」
「承知いたしました」
「チワー様もあなたの身の安全を守るためにも、ご協力願えますでしょうか」
「もちろんじゃ。長い間いるならまだしも、2、3日なら、ただの気品のある犬と思われていたほうが良いじゃろうしな」

 うんうんとチワー様は首を何度も縦に振る。

 そうして、期間限定のお世話係に任命された私は、チワー様と一緒に仕事に戻ることにした。

 チワー様がいる間はお仕事はお休みさせてもらおうと思った。
 でも、チワー様が動物たちと触れ合いたいというので、私から離れないということを約束してもらい、一緒に行くことになった。

「たくさん、動物がいるんじゃな! 皆、幸せそうな顔をしておる」

 チワー様はご機嫌なのか、私の腕の中できょろきょろと首を左右に動かしながら、ふさりふさりと尻尾を振る。
 動物の家エリアに入ると、動物たちは異質な気配を感じるのか、皆がチワー様を見に来た。
 チワー様が普通の動物ではないとわかるのか、見に来た動物たちはチワー様をジロジロと見ることはなく、一礼してまた自分たちの住処に戻っていくといった感じだった。

 置いてきていた掃除用具を取りに、動物の家エリアの中心付近にある人間用の休憩小屋に向かっていた時だった。

「む。悪い奴の臭いがするぞ」

 チワー様が黒い鼻をふんふんと活発に動かす。
 どんな臭いなのか気になりながら小屋に近付いていくと、窓が開いていて、小屋の中で話をしている声が聞こえてきた。

「いやぁ、中々、落ちないなぁ、あの子」
「もうやめておけよ。ミーアさんってヒース殿下のお気に入りだって噂だぜ? それに、動物たちの面倒を見るのが俺たちの仕事じゃないか」
「ヒース殿下のお気に入りだから落とす必要があるんだろ? 俺のことを好きにさせて王城内で働けるようにヒース殿下に頼んでもらうんだ。それくらいしか、あの子の価値なんてないだろ」

 二人の男性が話をしていたのだけれど、両方とも最近はよく聞くようになった声だった。

 そう、私と同じチームの男性二人の声だ。
 そして、私を落とすとか言っている男性は動物たちが嫌っているという噂のドードー様の声だった。
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