捨てたのはあなたではなく私のほうです

風見ゆうみ

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18 たくさんの味方②

 ジャガオさんはゆっくりと小屋に入ってくると、説明を求めるかのようにキペンギオさんを見つめた。

 キペンギオさんは感情の読めない顔で、そっとドードー様のほうを羽で示した。
 それだけで伝わったのか、ジャガオさんはドードー様を見たあと、今度は私を見上げてきた。

「ジャガオさん、今、この人と話をしているところなの。別にいじめられているわけじゃないのよ」

 ジャガオさんは理解してくれたのか、私の横にお座りしてドードー様を凝視する。
 まるで、無言の圧力をかけているみたいだった。

 そんなジャガオさんを見て、ドードー様は笑みを引きつらせる。

「え、その、何かな。別に僕は何もしていないけど?」
「お聞きしたいのですが、ドードー様は本当に動物がお好きなのですか?」
「え? どうしてそんなことを今聞いてくるの? それよりもさ、僕は怪我してるんだよ。その犬のせいで。だから、手当てをしてもいいかな」
「手当てをするのはどうぞ。手当てをしながらで良いので質問の答えを返してください」

 普通の動物好きなら、さっきの質問に対しては「好きだ」と即答できるはず。
 それなのにそうじゃなかったということは、彼は他に何か目的があって動物の世話係に立候補したことになる。

 普通なら給金が良いからとかになるのかもしれないけれど、彼の場合は出世欲かしら。
 さっきも王城内で働きたいと言っていたものね。

 こういう人って世渡り上手だから腹が立つわ。
 
「質問の答え? そんなの決まっているじゃないか。動物が好きだからだよ」

 すると「嘘をつくな」と言わんばかりにジャガオさんとチワー様が威嚇する。

「ほ、本当だよ! 好きじゃなかったら、こんな仕事はできない!」
「こんな仕事? どういう意味ですか?」

 動物好きの私にしてみれば、こんなに良い職場はない。
 普通の動物たちと違い、ここにいる動物は私の言うことに理解を示してくれるし余計にだ。

 しかも肉食動物に触れられる機会なんてないし、嫌がられなければ撫で撫でし放題という素敵な職場なのに!

 憤慨する気持ちを抑えるためにジャガオさんに「撫でますね」と一声掛ける。
 すると、ジャガオさんは頭を私のほうに傾けてくれた。
 チワー様を片手で抱き直し、空いたほうの手でジャガオさんの頭を撫でながらドードー様に言う。

「この職場は動物好きにしてみたら、どんなにお給料が安くても働きたい職場だと思いますよ?」
「言い方を間違えただけだよ。一々、揚げ足をとるような真似はしないでほしい」

 手を木桶に溜めていた水で洗って消毒を終えたドードー様は、不機嫌そうな顔をして言い返してきた。

「本当に動物がお好きで、ここで働けることを幸せだと思っているのですか? ここで働いて、なんとかしてヒース殿下に気に入られて王城内で働きたいんじゃないんですか?」
「しつこいなぁ! 僕の本音を聞きたいって言うんなら、その獣をどこかにやってくれよ」

 ドードー様は我慢しきれなくなったのか、柔らかった口調を強いものに変えて言った。

「ジャガオさん、さっきの発言許せますか?」

 尋ねると、ジャガオさんがお座りをやめて臨戦態勢を取るように四本足で立った。
 それを見たドードー様は焦った顔をして後退する。

「お、落ち着いてくれよ。別に獣という言葉は馬鹿にして言ったわけじゃない」
「では、何なんです?」
「ジャガオって言いたかったんだよ! 名前が出てこなくて獣だって言ったんだ」
「……そうですか」

 この人は、自分の言っていたことを認めそうにないわね。
 私のこともジャガオさんがいなければ何とかなると思っているみたい。

 舐められているみたいで腹が立つわ。
 
「ジャガオさん、せっかく来ていただいたのに外で待っていてもらえますか?」

 私がお願いすると、納得いかないといった感じではあったけれど、ジャガオさんはゆっくりとした足取りで小屋の外へ出ていこうとした。
 すると、いつの間にか小屋の外に出ていたキペンギオさんが助走をつけているかのように、小屋の外から走ってくる。

 そして小屋の中に入ってきたかと思うと、迷うことなくドードー様に体当りした。

「いった!」

 キペンギオさんは攻撃を休めず、よろけた体を支えるために近くの椅子に向かって伸ばされたドードー様の手をばくりと噛んだ。

「痛い痛い! なんだ、この力!」

 ペンギンの噛む力は強いと聞いたことがある。
 キペンギオさんはドードー様を噛んだまま、私のほうに顔を向けた。

 なんとなく「今だ!」と言ってくれている気がした。

 お言葉に甘えて、人にはまだかけたことのない攻撃魔法を試してみることにした。
 この魔法ならば小屋を壊さなくて済む。

「光の精霊よ。手に集まれ」

 そう言うと、右手が温かい何かに包まれた気がした。
 目には見えないけれど、光の精霊が手の周りに集まってくれているのだと思う。

「ひ、光の精霊だって!? まさか、君は光の属性の魔法が使えるのか!?」
「さあ、どうでしょう」

 正直に答えてあげる必要もないし、使えるかどうかというのは、これから試してみたらわかることなので曖昧な答えを返しながら、ドードー様に近付いていく。

「何をするつもりだ!? というか、痛いから離せ!」

 ドードー様が腕を動かしてキペンギオさんを振り払おうとした。
 でも、キペンギオさんは離さない。
 キペンギオさんが怪我をしたりする前に、光の精霊が集まった私の右手をドードー様の左腕に当てた。

 すると、バチバチという音と共に、ドードー様の体が小刻みに震えた。

「うああああぁっ」

 叫び声を上げたかと思うと、気を失ってその場にひっくり返ってしまった。

「キペンギオさんは大丈夫?」

 キペンギオさんには害は及ばなかったらしく、噛んでいた手を放して頷いてくれた。

「や、やり過ぎてしまったかしら」

 光の魔法で雷を呼べるのなら、応用できるのかと思って試してみたら、結構な威力になってしまった。
 床に倒れ、体を痙攣させているドードー様を見て心配になった私は、軽く回復魔法をかけた。
 痙攣はおさまり、意識は戻らないけれど呼吸がは落ち着いたようなのでホッとする。
 彼の左腕の服の袖が焼け焦げてしまっているから、結構な力が働いてしまったのかもしれない。

「こういうものはオーランド殿下がセフィラにやってあげるべきだったかしら」

 呟くと、腕の中で静かにしてくれていたチワー様が言う。

「これもある意味、天罰かもしれぬのじゃ」
「そうかもしれませんね。やりすぎてしまったけれど、今回のことをヒース様に御報告しないと」
「動物たちから聞いて急いで来たんだが、今回は大丈夫だったようだな」

 チワー様と話をしている途中で声が聞こえて、後ろを振り返った。

 小屋の入り口には息を切らした状態で、肩や頭に鳥やリスなどの小動物をのせているヒース様がいた。
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