捨てたのはあなたではなく私のほうです

風見ゆうみ

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25 成長したシロクマ

「お願い! ミーア、助けて! 血は止まったけれど傷が治らないのよ!」

 先程までいた応接室に通されていたセフィラは、私とヒース様が部屋に入るなり涙を流して訴えてきた。
 そんな彼女に呆れた顔をして言う。

「だから、回復魔法をかけてあげると言ったのに、あなたが出て行ったんじゃないの」
「しょうがないでしょう! あんな奴らがいたんじゃ怖くて逃げるわよ!」
「グクマオさんたちを悪く言うつもり? それなら治さないわよ」
「えっ!? 別に悪く言っているつもりじゃないわよ」

 セフィラは目を泳がせながら答えた。

 信用できないけれど、今回だけはしょうがない。
 
「とにかく傷を治せばいいのね?」
「そうよ、お願い!」
「今回はグクマオさんが治してあげてと言っていたから治すけど、次はないわよ」
「次があったら困るわよ! というか、もう、こんなところには二度と来ないわ。それからミーア、オーランド殿下をよろしくね」
「は? 何を言ってるのよ。オーランド殿下の面倒を見るのはあなたじゃないの」

 私が答えると、傷がなくなったことを手鏡で確認してから、セフィラは満面の笑みを浮かべて答える。

「もういいわ。だって、もうオーランド殿下は私には必要ないもの」
「だから何を言ってるのと言ってるでしょう! オーランド殿下をよろしくとか必要ないとか、一体どういうことなの?」
「オーランド殿下は普通の人よりも強いと聞いていたから好きになったのよ? なのに、あんな白い熊に一発殴られたくらいで気を失うなんて私のタイプじゃないわ」
「熊に殴られて平気でいられる奴なんているのか」

 セフィラの言葉を聞いたヒース様が私に尋ねてくる。

「わかりません。普通はいないと思います。ただ、殴られる前に避けろということかもしれませんし……」
「もちろん、殴られる前に避けてもいいわよ? でも、やっぱり、攻撃を食らっても私を守ろうとしてくれる人じゃないと駄目よ」

 セフィラはふふんとなぜか誇らしげに笑うと、座っていたソファーから立ち上がる。

「もう用はないから帰るわ。私は消えるけれど探さないでね。オーランド殿下にもそう伝えておいてくれる?」
「あなた、自分がやったことや今からやろうとしていることがどんなことだかわかってるの!?」
「何よ。不敬罪とでも言いたいの? でも、残念ね。私とオーランド殿下は約束したのよ。どんな時も守ってくれるという約束で愛を貫くことに決めたの。それなのに、なんなのよ、あの体たらく」

 セフィラは肩をすくめて言ったあと、扉に向かって歩き始める。
 私たちが呆気にとられて何も言えないでいると、セフィラは歩みを止めずに、こちらを振り返った。

「じゃあ帰るわね」

 ピンク色のドレスが血で赤く染まっているから、笑顔で手を振る様子は少し怖かった。
 彼女が部屋から出ていくのを黙って見送ったあと、ヒース様が私に言う。

「オーランドの肩を持つつもりはないが、彼女にはやはり痛い目に遭ってもらったほうが良さそうだな」
「どうされるおつもりですか?」
「シロクマオには子供がいるんだ。シロコクマオと言うんだが」
「ヒース様、本当にこれから新しく仲間になる動物の名前は私に付けさせてください」

 真顔で言うと、ヒース様は眉根を寄せはしたけれど頷いてくれた。
 そして、こほんと咳払いしてから話を続ける。

「シロコクマオは臆病な子で、家の外にはあまり出ないんだ。シロコクマオはシロクマオほどは大きくない。軽く殴ってもらうくらいなら何とかなると思うんだが」
「そうですわね」

 この時の私は子熊だと思いこんでいたので、大きくても私よりも大きくはないと思いこんでいた。
 話が決まったのでセフィラを追いかけると、出ていこうとしていたセフィラをヒース様の命令で動物たちが足止めしてくれていた。
 しかも、私たちがセフィラにやろうとしていることを聞いていた動物がいて、先に話をしてくれたらしく、動物の居住エリアまでセフィラを連れ込んでくれていた。
 私たちがセフィラのいるところに辿り着くと、居住エリアの真ん中にある広場の地面に座り込んでいた。
 そんなセフィラの周りを色々な動物が取り囲んで、物珍しそうに彼女を見つめている。

「ちょっと! 何なのよ、これ!」

 私とヒース様が来たとわかったセフィラが涙目で叫んできた。

「君が熊のパンチを馬鹿にしているようだから知っておいてもらったほうが良いと思っただけだ。野生の熊に出会った時にその心構えではいけないからな」

 ヒース様はそう応えてから「シロコクマオ!」と名を呼んだ。

 すると、多くの動物たちを押しのけて現れたのは、シロクマオさんよりも一回りくらい小さいシロクマだった。

 思った以上に大きかった。

 そうだったわ。
 子供の熊だって成長する。
 シロクマオさんの子供だからシロコクマオであって、成長しないわけじゃなかったわ!

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