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24 嬉しいはずなのに悲しい夢
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その日の晩、エアリスに今日のカフェでの出来事を話してみた。
ベッドに寝転がった状態で、エアリスは眉根を寄せる。
「何か色々なことが一度に起きたのね。とにかく、ディラン様に相談したほうがいいんじゃない? 何も聞いてないなんてことになっても、その先輩に怪しまれるかもしれないし」
「でも、先輩とミーグスが会うことなんてないと思うのよ」
「あなたのバイト先で会うかもしれないじゃない。ビアラを二人で奪い合うなんて、おもしろ、じゃない。私はちょっと見てみたいけど」
「エアリス、面白がらないでよ」
「ごめんなさい。でも、あなたが逆の立場なら見たいでしょう?」
エアリスは手を合わせて謝ったあとに尋ねてきた。
友達が悲しんだりしているのでなければ見てみたいかもしれない。
「あなたとディラン様は付き合ってるフリかもしれないけれど、やるなら完璧にしたほうがいいんじゃないの?」
「そうね、そうするわ!」
「あと、ビアラはその先輩をどう思ってるの?」
「常連のお客様で良い人くらいかしら」
「ディラン様のことは?」
エアリスに聞かれて、なんと答えれば良いのかわからなくて言葉に詰まった。
今までは腹が立つとかの感情が多かったけれど、最近は違う感情が混じってきてしまっている。
即答しなかったからか、エアリスは微笑む。
「やっぱり、ディラン様のほうが今のところはビアラはいいみたいね」
「そんなものかしら」
「そんなものよ。身分差がありすぎるのは確かだけど、卒園する時に男爵の爵位をビアラがもらえたら、一応、貴族になるわけだからハードルは下がるかもしれないわ」
「男爵と公爵令息が付き合えるわけないじゃない」
「ディラン様にベンさん、だったわよね。彼との話をしてみたら反応があると思うわ。で、その反応をあとで教えてくれない?」
「それはかまわないけど……」
ミーグスの話題はここで終わり、次はフェルナンディ卿のことを話すことにした。
エアリスに愚痴を言い終えた、その日の晩、家族が夢に出てきた。
「ねえたま」
さ行がうまくいえなかった弟のアランは、私に近寄ってきて言った。
「ねえたん、ぼくのあげりゅ」
「何をくれるの?」
差し出してきた小さな手を握りしめると、手に温かな何かを感じた。
驚いて手を離すと、アランは手を横に振る。
「じゃあ、いくね」
「待って! 行かないで!」
「ねえたん、だいちゅき」
にっこり笑った弟に手を伸ばしたところで目が覚めた。
夢に現れたアランは、最後に見た傷だらけの姿ではなく、傷一つない大好きだった可愛い笑顔で笑ってくれていた。
涙が止まらなかった。
だから、嗚咽をあげないようにだけ気を付けて、シーツに包まって泣いた。
*****
朝を迎えた頃には感情も落ち着いていて、ミーグスに昨日の話をしてみた。
「は?」
ベン先輩の話を聞いたミーグスは眉根を寄せて聞き返してきた。
その様子がなんだか怖くて謝ってしまう。
「あ、なんかごめん。今の話は忘れてくれていいから。あと、先日はありがとう」
「どういたしまして。というか、なんで忘れないといけないんだよ」
「え、あ、いや、迷惑をかけているなと思って」
「別に迷惑だとは思ってない。で、そのベンさんとやらは頻繁に店に来てるの?」
「常連さんだけど、最近は不定期ね」
「ふぅん。じゃあ、僕は君が出勤の日は毎回通えばいいんだね」
「どうして、そんなことになるのよ」
ノノレイの席のほうから視線を感じて顔を向けると、なぜかニヤニヤしているノノレイとエアリスの顔が見えて、私は眉根を寄せた。
「聞いてる?」
「ごめん。別にそこまでしなくてもいいと思うわ。とにかく断ったのは断ったし、もし、ミーグスが先輩に会うことが会ったら、話を合わせておいてくれる?」
「日にちを教えて」
「ん?」
「君のバイトに行く日にちと時間。行ける時は行くようにする」
「そこまでしなくていいって言ってるじゃない。別に先輩だって、毎日来るわけじゃないんだから」
「いいから教えて」
ミーグスがいつになく不機嫌そうなので困惑しながらも、私は彼にバイトの出勤日と時間を教える。
「わかった。教えてくれてありがとう」
「そこまで完璧にする必要はないと思うわ。大体、本当の恋人同士だったとしても、彼女のバイト先に毎回顔を見せる彼氏なんていないんだから」
「そうかもしれないけど、危険な芽があるってわかってるのに何もしないわけにはいかないでしょ」
「え、先輩ってそんなに危険な人物なの?」
「……僕にとってはね」
ディランは大きく息を吐くと、話を続ける。
「で、昨日、フェルナンディが来たって言ってたけど、謝りたいことって何?」
ベン先輩の話をする前に、一通りのことを軽く話していたので素直に謝る。
「フェルナンディを殴った時に私の後ろにはミーグスがいるからって言ってしまったの。そういうことを言う前に相談しろって言われてたのに、本当にごめんなさい!」
「別にそれぐらいはいいけど、っていうか、殴ったってどういうこと?」
「いや、何かまた訳のわからないことを言ってきたから頭にきちゃって」
「あの男は、僕が前に君に近付くなって言ったのに、もう忘れてるのか」
「賢かったらフェルナンディ家の借金が私の借金だなんて馬鹿なことは言わないんじゃないかしら」
「そう言われればそうだね」
ミーグスは頷いたあと、ノノレイたちを指差して言う。
「彼女たちにニヤニヤしすぎって伝えてくれる?」
「りょーかい」
ミーグスの言葉に頷いて立ち上がると、ノノレイとエアリスは真顔になって明後日の方向を向いた。
ベッドに寝転がった状態で、エアリスは眉根を寄せる。
「何か色々なことが一度に起きたのね。とにかく、ディラン様に相談したほうがいいんじゃない? 何も聞いてないなんてことになっても、その先輩に怪しまれるかもしれないし」
「でも、先輩とミーグスが会うことなんてないと思うのよ」
「あなたのバイト先で会うかもしれないじゃない。ビアラを二人で奪い合うなんて、おもしろ、じゃない。私はちょっと見てみたいけど」
「エアリス、面白がらないでよ」
「ごめんなさい。でも、あなたが逆の立場なら見たいでしょう?」
エアリスは手を合わせて謝ったあとに尋ねてきた。
友達が悲しんだりしているのでなければ見てみたいかもしれない。
「あなたとディラン様は付き合ってるフリかもしれないけれど、やるなら完璧にしたほうがいいんじゃないの?」
「そうね、そうするわ!」
「あと、ビアラはその先輩をどう思ってるの?」
「常連のお客様で良い人くらいかしら」
「ディラン様のことは?」
エアリスに聞かれて、なんと答えれば良いのかわからなくて言葉に詰まった。
今までは腹が立つとかの感情が多かったけれど、最近は違う感情が混じってきてしまっている。
即答しなかったからか、エアリスは微笑む。
「やっぱり、ディラン様のほうが今のところはビアラはいいみたいね」
「そんなものかしら」
「そんなものよ。身分差がありすぎるのは確かだけど、卒園する時に男爵の爵位をビアラがもらえたら、一応、貴族になるわけだからハードルは下がるかもしれないわ」
「男爵と公爵令息が付き合えるわけないじゃない」
「ディラン様にベンさん、だったわよね。彼との話をしてみたら反応があると思うわ。で、その反応をあとで教えてくれない?」
「それはかまわないけど……」
ミーグスの話題はここで終わり、次はフェルナンディ卿のことを話すことにした。
エアリスに愚痴を言い終えた、その日の晩、家族が夢に出てきた。
「ねえたま」
さ行がうまくいえなかった弟のアランは、私に近寄ってきて言った。
「ねえたん、ぼくのあげりゅ」
「何をくれるの?」
差し出してきた小さな手を握りしめると、手に温かな何かを感じた。
驚いて手を離すと、アランは手を横に振る。
「じゃあ、いくね」
「待って! 行かないで!」
「ねえたん、だいちゅき」
にっこり笑った弟に手を伸ばしたところで目が覚めた。
夢に現れたアランは、最後に見た傷だらけの姿ではなく、傷一つない大好きだった可愛い笑顔で笑ってくれていた。
涙が止まらなかった。
だから、嗚咽をあげないようにだけ気を付けて、シーツに包まって泣いた。
*****
朝を迎えた頃には感情も落ち着いていて、ミーグスに昨日の話をしてみた。
「は?」
ベン先輩の話を聞いたミーグスは眉根を寄せて聞き返してきた。
その様子がなんだか怖くて謝ってしまう。
「あ、なんかごめん。今の話は忘れてくれていいから。あと、先日はありがとう」
「どういたしまして。というか、なんで忘れないといけないんだよ」
「え、あ、いや、迷惑をかけているなと思って」
「別に迷惑だとは思ってない。で、そのベンさんとやらは頻繁に店に来てるの?」
「常連さんだけど、最近は不定期ね」
「ふぅん。じゃあ、僕は君が出勤の日は毎回通えばいいんだね」
「どうして、そんなことになるのよ」
ノノレイの席のほうから視線を感じて顔を向けると、なぜかニヤニヤしているノノレイとエアリスの顔が見えて、私は眉根を寄せた。
「聞いてる?」
「ごめん。別にそこまでしなくてもいいと思うわ。とにかく断ったのは断ったし、もし、ミーグスが先輩に会うことが会ったら、話を合わせておいてくれる?」
「日にちを教えて」
「ん?」
「君のバイトに行く日にちと時間。行ける時は行くようにする」
「そこまでしなくていいって言ってるじゃない。別に先輩だって、毎日来るわけじゃないんだから」
「いいから教えて」
ミーグスがいつになく不機嫌そうなので困惑しながらも、私は彼にバイトの出勤日と時間を教える。
「わかった。教えてくれてありがとう」
「そこまで完璧にする必要はないと思うわ。大体、本当の恋人同士だったとしても、彼女のバイト先に毎回顔を見せる彼氏なんていないんだから」
「そうかもしれないけど、危険な芽があるってわかってるのに何もしないわけにはいかないでしょ」
「え、先輩ってそんなに危険な人物なの?」
「……僕にとってはね」
ディランは大きく息を吐くと、話を続ける。
「で、昨日、フェルナンディが来たって言ってたけど、謝りたいことって何?」
ベン先輩の話をする前に、一通りのことを軽く話していたので素直に謝る。
「フェルナンディを殴った時に私の後ろにはミーグスがいるからって言ってしまったの。そういうことを言う前に相談しろって言われてたのに、本当にごめんなさい!」
「別にそれぐらいはいいけど、っていうか、殴ったってどういうこと?」
「いや、何かまた訳のわからないことを言ってきたから頭にきちゃって」
「あの男は、僕が前に君に近付くなって言ったのに、もう忘れてるのか」
「賢かったらフェルナンディ家の借金が私の借金だなんて馬鹿なことは言わないんじゃないかしら」
「そう言われればそうだね」
ミーグスは頷いたあと、ノノレイたちを指差して言う。
「彼女たちにニヤニヤしすぎって伝えてくれる?」
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