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第一部
9 10倍以上のお金
グレイル達がこちらに来るのは明日の昼頃になると聞いたので、私は荷物を取りに宿屋に戻ることにした。
刺客に狙われているのなら、私が宿屋にいればドヤドさん達に迷惑を掛けることになる。
二人の命に危険が及ぶかもしれないと思うと、絶対に嫌だった。
リファエル殿下が付いてきてくれると言うので、最初はお断りしようと思った。
だって、王子様に付いてきてもらうなんて申し訳ないんだもの。
でも、刺客に狙われる可能性も高いし、人手不足で他に人がいないということで、結局は殿下が護衛として付いてきてくれることになった。
「俺のことは外ではエルと呼んでくれ」
「エル様ですか?」
「ああ。この国の人間じゃない奴らには、正体を知られたくない」
「承知しました」
フルージアの人たちで殿下の命を狙う人はいないんでしょうね。
いるとすれば、他国の人間だけ。
一応、私も他国の人間だけれど、最低国王との因縁を知っているから、信用してもらっているってところかしら。
検問所の人から私と最低国王の話を聞いていたら、そう思わざるを得ないかもしれないわね。
「そういえば、エル様は普段はどのようなことをされておられるのですか?」
「そうだな。用心棒とか、護衛とか、何でも屋って感じかな。フルージア国内をまわって、何か困っていることなどはないか確認してる」
「余計なお世話かもしれませんが、城に戻ることはないのですか?」
「今のところはそのつもりはねぇな」
国王が存在しない今は、城の敷地内で宰相が国の指揮を執っていると聞いたことがある。
それなのに、エル様が城に戻ろうとしないのには、きっと理由があるのでしょうね。
政治が面倒だとか、国王になりたくないとかじゃなく……って、そういうことね。
エル様は両親の仇をとるつもりでいらっしゃるんだわ。
国王になれば、そんなことは出来なくなってしまう。
宰相たちも国民も、その気持ちをわかっているから何も言わないのね。
「暗くなる前に宿屋に着かねぇと」
「そうですね」
空がオレンジ色に染まり始めたので会話しながらも、歩くスピードを速めた時だった。
「エル様! それにリーチェ様!」
ドヤドさん夫妻が私たちのところへ駆け寄ってきた。
「怪しい男が宿屋の前でウロウロしているんです。この辺の人間ではありません! きっと、リーチェ様を探しているんだと思います」
ドヤドさんの奥様は早口で言った後、私に尋ねてくる。
「お部屋の中に入ってもかまわないのであれば、私が荷物を持ってまいりますがよろしいですか?」
「駄目です。私と奥様は客と宿屋の人間という関係性でしかないと思わせないと、お二人に危険が及ぶ可能性があります」
私が申し出を拒否すると、エル様も頷く。
「俺もそう思う。仲が良いと思われたら人質にとろうとするかもしれない。俺が行く。二人は買い物でもしていてくれ。事情を話せば、こんな時間だが、どの店の人間も開けてくれるだろう」
「承知しました。リーチェ様はどうされるのですか?」
ドヤドさんが聞いてくるので、エル様に確認する。
「私もエル様と一緒に行ってもよろしいですわね?」
「危険だぞ?」
「相手は私の命を狙っているのでしょう?」
「そうだな」
「なら、どこにいても同じです」
ドヤドさん達は私を心配して、一緒にどこかのお店に逃げようと言ってくださったけれど、一緒にいるほうが二人に迷惑をかけてしまうのでお断りした。
二人が商店街に向かって行くのを見送ったあと、私は斜めがけバッグの中からお金を取り出して、エル様に差し出す。
「これでエル様を雇います。私の護衛をお願いできますか」
「金はいらねぇよ」
「これからお世話になるんで受け取ってください!」
「いらねぇって!」
「いいからもらってくださいませ! どうせ、お渡しした以上のお金が返ってきますから!」
「そんな訳ねぇだろ!」
押し問答をしていた時、競豚に行っていた二人が手を振りながら、こちらに向かってくるのが見えた。
「エル様ぁ! 姐さぁん! 見てくださいよ、これぇ! これ、全部、姐さんのお金ですよぉ! あ! 刺客でしたら、僕らにお任せあれ!」
そう言いながら高く掲げて見せてくれたのは、私がエル様に差し出そうとした金額の10倍以上はあった。
「見ていただけました?」
「……どんだけ強運なんだよ」
エル様が苦虫を噛み潰したような顔で言った。
刺客に狙われているのなら、私が宿屋にいればドヤドさん達に迷惑を掛けることになる。
二人の命に危険が及ぶかもしれないと思うと、絶対に嫌だった。
リファエル殿下が付いてきてくれると言うので、最初はお断りしようと思った。
だって、王子様に付いてきてもらうなんて申し訳ないんだもの。
でも、刺客に狙われる可能性も高いし、人手不足で他に人がいないということで、結局は殿下が護衛として付いてきてくれることになった。
「俺のことは外ではエルと呼んでくれ」
「エル様ですか?」
「ああ。この国の人間じゃない奴らには、正体を知られたくない」
「承知しました」
フルージアの人たちで殿下の命を狙う人はいないんでしょうね。
いるとすれば、他国の人間だけ。
一応、私も他国の人間だけれど、最低国王との因縁を知っているから、信用してもらっているってところかしら。
検問所の人から私と最低国王の話を聞いていたら、そう思わざるを得ないかもしれないわね。
「そういえば、エル様は普段はどのようなことをされておられるのですか?」
「そうだな。用心棒とか、護衛とか、何でも屋って感じかな。フルージア国内をまわって、何か困っていることなどはないか確認してる」
「余計なお世話かもしれませんが、城に戻ることはないのですか?」
「今のところはそのつもりはねぇな」
国王が存在しない今は、城の敷地内で宰相が国の指揮を執っていると聞いたことがある。
それなのに、エル様が城に戻ろうとしないのには、きっと理由があるのでしょうね。
政治が面倒だとか、国王になりたくないとかじゃなく……って、そういうことね。
エル様は両親の仇をとるつもりでいらっしゃるんだわ。
国王になれば、そんなことは出来なくなってしまう。
宰相たちも国民も、その気持ちをわかっているから何も言わないのね。
「暗くなる前に宿屋に着かねぇと」
「そうですね」
空がオレンジ色に染まり始めたので会話しながらも、歩くスピードを速めた時だった。
「エル様! それにリーチェ様!」
ドヤドさん夫妻が私たちのところへ駆け寄ってきた。
「怪しい男が宿屋の前でウロウロしているんです。この辺の人間ではありません! きっと、リーチェ様を探しているんだと思います」
ドヤドさんの奥様は早口で言った後、私に尋ねてくる。
「お部屋の中に入ってもかまわないのであれば、私が荷物を持ってまいりますがよろしいですか?」
「駄目です。私と奥様は客と宿屋の人間という関係性でしかないと思わせないと、お二人に危険が及ぶ可能性があります」
私が申し出を拒否すると、エル様も頷く。
「俺もそう思う。仲が良いと思われたら人質にとろうとするかもしれない。俺が行く。二人は買い物でもしていてくれ。事情を話せば、こんな時間だが、どの店の人間も開けてくれるだろう」
「承知しました。リーチェ様はどうされるのですか?」
ドヤドさんが聞いてくるので、エル様に確認する。
「私もエル様と一緒に行ってもよろしいですわね?」
「危険だぞ?」
「相手は私の命を狙っているのでしょう?」
「そうだな」
「なら、どこにいても同じです」
ドヤドさん達は私を心配して、一緒にどこかのお店に逃げようと言ってくださったけれど、一緒にいるほうが二人に迷惑をかけてしまうのでお断りした。
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そう言いながら高く掲げて見せてくれたのは、私がエル様に差し出そうとした金額の10倍以上はあった。
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「……どんだけ強運なんだよ」
エル様が苦虫を噛み潰したような顔で言った。
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