邪魔者はどちらでしょう?

風見ゆうみ

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6  お前のせいとはどういうことなのか

「どうしたら、俺を女性だと間違うのかわからない」

 不機嫌そうに呟くセナ殿下の顔を見つめてみる。

 下から見ても横から見ても美少女にしか見えないわ。
 でも、それを口にしたら私も怒られてしまいそうね。
 隣国だろうがなんだろうが、王族なんてものは雲の上の存在に近い人物だもの。

 不敬罪だなんだのと言われても困る。

 それにしても、セナ殿下は目はぱっちりだし唇だってツヤツヤしていて羨ましい。

 小顔だし、肌も透き通るような白い肌で、腹が立つくらいに綺麗だ。
 彼が立ったからわかったが、長身痩躯でスタイルも良い。
 
 私はカサカサの唇に一重で目は細めだし顔色はいつも良くない。

 酷い時は死んだ魚のような目をしていると言われた時もある。
 寝不足な上に馬鹿共の相手をする時は、そんな目になってしまうのよね。

 だから、こんなキラキラしたセナ殿下の近くにいたくないわ。

「どうした?」

 私の動きが止まっていたからか、セナ殿下が顔を覗き込んできた。

「あ、あの、誠に申し訳ございません。本当に悪気はなく、素直に綺麗だと思ったから口にしてしまいました」
「……わかってるよ。ムキになって悪かった。俺が男だという証明は出来るが、さすがに今は無理だ。というか、君も見たくないだろ」
「証明?」

 聞き返してからすぐに男性にはあって女性にはないものを思い浮かべた。

「そ、そうですね。そんなことまでさせてまで確認しようとは思いません。そういうものは同性か婚約者、もしくは奥様以外には見せないほうが良いと思います」
「普通はまあそうだろうな。というか、同性にも別に見せたくはないが」
「あ、あの!」

 私達のどうでも良い会話の途中に、公爵夫人が割って入ってきた。

「誠に申し訳ございません、セナ殿下! どうか、このことは家族や両陛下には内密にしていただけないでしょうか」
「……どうしてだよ。今まで堂々とイチャイチャしていたじゃないか。それに、自分が悪いのにオブリー公爵のことを悪く言っていたよな」
「そ、そんな! 誤解です!」
「大体、あなたの娘はそこにいる彼と年が変わらないだろ? 娘がこのことを知ったら、なんと言うだろうな」

 セナ殿下は胸の前で腕を組んで呆れた表情をして言った。

 子供が大きくなって手が空いたから、ボルバー様との逢瀬を楽しむことにしたって感じかしら。
 私が娘だったら、自分と年の変わらない男性と母親が浮気していたなんて知ったらショックだわ。

「あの、もしかすると、お嬢様も知っている可能性がありますから、早く家に帰って確認したほうが良いのではないでしょうか」

 私が手を挙げて進言すると、公爵夫人は私には冷たい態度を見せる。

「あなた、うるさいわよ! 娘にも夫にも気付かれていませんから、ご心配なく! そのためにわざわざ隣国まで出向いているんじゃないの! 主人は仕事の日は王城に籠もっていますから、私がどこで遊んでいようと気にはしないでしょうけど、娘は活発な子なのよ!」

 活発に動く娘さんだから、自分の国でデートしていたら、どこかで出くわす可能性がある。
 だから、この国に来たと言いたいみたいね。
 なんだかんだ言って後ろめたいから、そんなことをしてるんじゃないの。

「あの、バレなきゃ良いという問題ではありませんし、セナ殿下に証拠を押さえられているのですから、このことが公になるのは確実です。人から話を聞くよりかは、本人から聞いておいたほうがお嬢様も幾分かは気持ちが楽になるのではないでしょうか」

 いや、ならないかしら。
 でも、他の人から初めて聞くよりかは、本人にそのまま怒りをぶつけられるし、それはそれで良いと思うんだけど、普通はどうするものなんでしょうね。

 まあ、すでに知っている可能性もあるけど。

「そ、それは、だから、今、セナ殿下に公にしないでほしいとお願いしているんじゃないの! あなたを相手にしている暇はないのよ! 私の邪魔をしないでちょうだい!」
「果たして、どちらが邪魔なんだろうな」

 私が答える前にセナ殿下は公爵夫人に冷たい声で言うと、周りで警戒を続けている護衛達に声を掛ける。

「公爵夫人を公爵の元へ送り届けてくれ。あの人は馬鹿じゃないから、彼女の浮気に薄々、気がついているとは思うけどな」
「承知しました」
「ちょ、あの、お待ち下さい、セナ殿下! あなたは誤解しているのです! ここにいる彼と会ったのは今日が初めてでして!」
「そんなことはない! 何度も会ってるだろ!」

 公爵夫人の考えなどおかまいなしに、ボルバー様は訴え続ける。

「俺達は何度も一緒に出かけたじゃないか! 何を寝ぼけたことを言ってるんだ」
「寝ぼけたことを言っているのはあなただわ! 大体、あなたが婚約者に会わせるだなんて言い出さなければ、私はここに来なくて良かったのよ!」
「そんな! 一体どうしたって言うんだ!? 別に離婚しても良いって言っていたじゃないか! これを機に別れたらどうなんだ?」
「そんなことを言った覚えはありません!」
「不倫している方の常套句ですね」

 ボルバー様の肩を持つわけではないけれど、つい思ったことを口にしてしまった。
 そのため、怒りの矛先がこちらに向けられた。

「誰のせいだと思っているのよ!?」
「そうだ! 悪いのはお前だ! くそっ! 一体、どうなってるんだ! どうして王族がこんなとこにいるんだよ! 全部、お前のせいだぞ!」

 公爵夫人とボルバー様は、なぜか私を責めてきた。

 この店を指定したのはボルバー様なんですけど。

 何も言わずに冷めた目で見つめていると、目が合ったボルバー様は舌打ちをして視線を逸らした。

 護衛騎士が公爵夫人に話しかける。

「オブリー公爵夫人、御主人のところまでお連れいたします」
「結構よ! 自分で家に帰れるわ!」
「そうか。それなら帰ればいい」

 セナ殿下は頷くと、近くにいた高身長で精悍な体つきの男性に声を掛ける。

「悪いが早馬でオブリー公爵の元へ向かって、さっきまでの話を伝えてくれ」
「承知いたしました」

 セナ殿下に命令された男性がカフェの出入り口に向かって走っていく。

「ま、待って! 話は自分でしますから! セナ殿下、どうか、あの人を止めていただけませんか!?」
「いいかげんにしろ。浮気自体良くないのに、婚約者の前にわざわざ現れるだなんてどうかしてる」
「セナ殿下! もうこんなことは致しませんので、どうかお許しください!」

 セナ殿下の足元に跪くと、公爵夫人は涙を流して懇願した。
 ボルバー様は泣いている公爵夫人と私を交互に見ながら言う。

「なんだよ、なんで、こんなことになるんだ!? 全部お前のせいか!?」

 さっきから、お前のせいお前のせいって、それしか言えないのかしら。

「いえ、浮気したあなたが悪いのですよ」

 責任転嫁されても困るので、きっぱりと答えると、ボルバー様は唾を飛ばして叫ぶ。

「くそっ! こんな可愛くない女はお断りだ! 婚約破棄してやる! あとで泣いて謝っても知らないからな!」
「……今すぐ婚約破棄は困るので、あと1年後くらいでお願いできませんか? それまでに何とかしてお金を貯めるようにしますので。あ、手切れ金として生きていくために十分なお金を今すぐにいただけるなら、婚約破棄を受け入れますがいかがでしょう?」

 大事なことだから、何度でも思う。
 生きていくにはお金が必要だ。

 婚約破棄されてしまったとわかれば、私は家から追い出されてしまう。
 それなら、婚約関係を続けるか、お金で解決するかしかない。

 お金を要求するために、そっと手を出してみる。

「なんだ、その手は」
「慰謝料をいただきたいという手です」
「な、何を言ってるんだ、この女は!」

 ボルバー様は奇妙なものを見る目で私を見つめて叫んだ。

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