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8 アーとは?
「あの、質問してもよろしいでしょうか」
「どうぞ」
挙手すると、セナ殿下が許可を出してくれたので質問をする。
「どうして私の母がキレーナ公爵家にいるんでしょうか」
他にも聞きたいことがいっぱいありすぎて混乱してしまいそうだ。
とにかく、一番聞きたいことを口にしてみた。
セナ殿下は私の質問を聞き、少し考えてから苦笑する。
「悪い。話が長くなりそうだし、ここで話すのもなんだから改めて場を設けさせてもらう。いつなら都合がつくだろうか」
「ボルバー様との婚約の破棄後でしたら、いつでも空いています!」
食い気味に言うと、セナ殿下は気圧された様子で後退した。
そんなに怖がらなくてもいいじゃないですか。
だって、しょうがないじゃないでしょう。
気になることが多すぎるんだもの。
相手は王子だから、もっと謙虚な態度を取らなくちゃいけないんでしょうけど、セナ殿下はそんなことを気にするタイプじゃなさそうだし良いわよね。
「いつでも空いてるというけど、隣国に行くんだぞ? 父親に相談しなくて良いのか?」
「かまいません。父は私のことなんてどうでも良いんです。先程も言いましたが、婚約破棄されたら追い出される予定なんです。追い出されたあとに私が何をしようが、父にどうこう言われる筋合いはありません」
笑って言うと、セナ殿下は口をへの字に曲げて眉根を寄せた。
「アーティア、君は今までどう過ごしてきたんだ? まさか、虐待されていたとかいうわけじゃないよな?」
「暴力は物心ついた頃から受けていますが、ここ最近はシルバートレイで防御しておりましたから大丈夫ですよ」
「いや、大丈夫じゃないだろ。それに、トレイで防御ってどういうことだよ」
「父は気に入らないことがあると、すぐに手を出してくるんです。あと、継母も私をストレス発散の道具みたいに扱ってきました。ですから、身を守るために何か防具はないかと考えまして、仕事に使うシルバートレイが使えるなと思ったんです。向こうから殴ってきたくせにシルバートレイに拳が当たると、痛いと言って暴れるので、その姿がそれはもう滑稽でした」
正直に事実を伝えただけなのにセナ殿下だけでなく、彼の護衛や、ボルバー様までもが黙り込んでしまった。
しかも、どこか呆れたような顔になっている。
私、何かおかしなことを言ったかしら?
だって、向こうから喧嘩を売ってきたんだもの。
売られた喧嘩は買わないといけないでしょう。
も、もしかして、そこは我慢するのが一般的なルールなのかしら。
「アーティア、君は今までどんな生き方をしてきたんだよ」
「今、お話したような生き方をしてきたんですが、おかしいでしょうか。嫌なことをされても楽しめるように生きてきました。今日も少しは楽しむつもりでいたんです。オブリー公爵夫人の件は驚きを通り越して楽しめました。ボルバー様、ありがとうございました」
お礼を言ってから、セナ殿下に顔を向ける。
「私がキレーナ公爵家に住むことは、本当に可能なのでしょうか」
セナ殿下はきっと、私を助けに来てくれた人なのだろうと期待を込めた目で見つめる。
彼が口を開こうとした時、邪魔が入った。
「俺に婚約破棄されてしまったら、家を追い出されると言っていたよな!? それなら絶対に婚約破棄だ! お前のせいでメルメルは連れて行かれたんだから、責任を取ってもらう!」
「ボルバー様、勝手に決めてしまっては旦那様に怒られますよ!」
付き人が焦って止めても、ボルバー様は勝ち誇った笑みを浮かべて話を続けようとする。
「あ、なんだ、あれだ、アー!」
いきなり、意味のわからないことを言い出したので、私とセナ殿下は顔を見合わせた。
「おい! 呼んでるだろ! お前のことだよ!」
ボルバー様の視線は私に向けられているので、どうやら、私に用事があるらしい
「……なんでしょうか」
「アー! ほら、その、お前だ!」
「……カラスとお話でもしたいのですか?」
「違う! お前の名前はアーだろ!」
「ああ、そのアーですか。申し訳ございません。私の名前はアーティアです」
この人、婚約者になる予定だった人の名前も覚えられないの?
アーだけでも間違ってはいないのかもしれないけど、すぐに理解できるわけがないでしょうよ。
ボルバー様に呆れ返ったのは私だけでなく、セナ殿下達も同様だった。
周りからの冷たい視線に気がついたのか、ボルバー様は咳払いをして、改めて口を開く。
「アーティア・レモン!」
「レモンズです」
「う、うるさい! アーティア・レモンジュ!」
緊張しているのかかんでしまったらしい。
ツッコむべきかどうか迷っていると、セナ殿下が言う。
「レモンズだよ」
「ちょ、その、あれです。ちょっとかんでしまっただけです! とにかく、アーティア! 俺はお前との婚約を破棄するからな!」
「慰謝料くださいね」
「俺から直接は無理だ! 父上に言え!」
「……承知しました」
まさか、こんな急展開になるとは思っていなかった。
でも、今の私には希望がある。
セナ殿下を見つめると、彼は私と視線を合わせて微笑む。
「ズラン侯爵家との手続きは俺の側近にさせるから心配しなくていい。あと、君をキレーナ公爵家に連れて行く。馬車での移動になるから長旅になることを覚悟してくれ。その時に君の疑問に答える。それから、今から君の家まで荷物を取りに行こうか」
「承知しました」
「じゃあ、行くぞ」
セナ殿下が私を促して歩き出すと、ボルバー様が私に向かって叫ぶ。
「お、おい! アーティア!俺のことは無視かよ!?」
「無視はしてませんよ。もう、あなたとの話は終わったので帰るだけです」
「ズラン侯爵令息、もう、君は彼女の婚約者じゃないんだろ?」
セナ殿下に尋ねられたボルバー様は悔しそうに顔を歪めた。
「どうぞ」
挙手すると、セナ殿下が許可を出してくれたので質問をする。
「どうして私の母がキレーナ公爵家にいるんでしょうか」
他にも聞きたいことがいっぱいありすぎて混乱してしまいそうだ。
とにかく、一番聞きたいことを口にしてみた。
セナ殿下は私の質問を聞き、少し考えてから苦笑する。
「悪い。話が長くなりそうだし、ここで話すのもなんだから改めて場を設けさせてもらう。いつなら都合がつくだろうか」
「ボルバー様との婚約の破棄後でしたら、いつでも空いています!」
食い気味に言うと、セナ殿下は気圧された様子で後退した。
そんなに怖がらなくてもいいじゃないですか。
だって、しょうがないじゃないでしょう。
気になることが多すぎるんだもの。
相手は王子だから、もっと謙虚な態度を取らなくちゃいけないんでしょうけど、セナ殿下はそんなことを気にするタイプじゃなさそうだし良いわよね。
「いつでも空いてるというけど、隣国に行くんだぞ? 父親に相談しなくて良いのか?」
「かまいません。父は私のことなんてどうでも良いんです。先程も言いましたが、婚約破棄されたら追い出される予定なんです。追い出されたあとに私が何をしようが、父にどうこう言われる筋合いはありません」
笑って言うと、セナ殿下は口をへの字に曲げて眉根を寄せた。
「アーティア、君は今までどう過ごしてきたんだ? まさか、虐待されていたとかいうわけじゃないよな?」
「暴力は物心ついた頃から受けていますが、ここ最近はシルバートレイで防御しておりましたから大丈夫ですよ」
「いや、大丈夫じゃないだろ。それに、トレイで防御ってどういうことだよ」
「父は気に入らないことがあると、すぐに手を出してくるんです。あと、継母も私をストレス発散の道具みたいに扱ってきました。ですから、身を守るために何か防具はないかと考えまして、仕事に使うシルバートレイが使えるなと思ったんです。向こうから殴ってきたくせにシルバートレイに拳が当たると、痛いと言って暴れるので、その姿がそれはもう滑稽でした」
正直に事実を伝えただけなのにセナ殿下だけでなく、彼の護衛や、ボルバー様までもが黙り込んでしまった。
しかも、どこか呆れたような顔になっている。
私、何かおかしなことを言ったかしら?
だって、向こうから喧嘩を売ってきたんだもの。
売られた喧嘩は買わないといけないでしょう。
も、もしかして、そこは我慢するのが一般的なルールなのかしら。
「アーティア、君は今までどんな生き方をしてきたんだよ」
「今、お話したような生き方をしてきたんですが、おかしいでしょうか。嫌なことをされても楽しめるように生きてきました。今日も少しは楽しむつもりでいたんです。オブリー公爵夫人の件は驚きを通り越して楽しめました。ボルバー様、ありがとうございました」
お礼を言ってから、セナ殿下に顔を向ける。
「私がキレーナ公爵家に住むことは、本当に可能なのでしょうか」
セナ殿下はきっと、私を助けに来てくれた人なのだろうと期待を込めた目で見つめる。
彼が口を開こうとした時、邪魔が入った。
「俺に婚約破棄されてしまったら、家を追い出されると言っていたよな!? それなら絶対に婚約破棄だ! お前のせいでメルメルは連れて行かれたんだから、責任を取ってもらう!」
「ボルバー様、勝手に決めてしまっては旦那様に怒られますよ!」
付き人が焦って止めても、ボルバー様は勝ち誇った笑みを浮かべて話を続けようとする。
「あ、なんだ、あれだ、アー!」
いきなり、意味のわからないことを言い出したので、私とセナ殿下は顔を見合わせた。
「おい! 呼んでるだろ! お前のことだよ!」
ボルバー様の視線は私に向けられているので、どうやら、私に用事があるらしい
「……なんでしょうか」
「アー! ほら、その、お前だ!」
「……カラスとお話でもしたいのですか?」
「違う! お前の名前はアーだろ!」
「ああ、そのアーですか。申し訳ございません。私の名前はアーティアです」
この人、婚約者になる予定だった人の名前も覚えられないの?
アーだけでも間違ってはいないのかもしれないけど、すぐに理解できるわけがないでしょうよ。
ボルバー様に呆れ返ったのは私だけでなく、セナ殿下達も同様だった。
周りからの冷たい視線に気がついたのか、ボルバー様は咳払いをして、改めて口を開く。
「アーティア・レモン!」
「レモンズです」
「う、うるさい! アーティア・レモンジュ!」
緊張しているのかかんでしまったらしい。
ツッコむべきかどうか迷っていると、セナ殿下が言う。
「レモンズだよ」
「ちょ、その、あれです。ちょっとかんでしまっただけです! とにかく、アーティア! 俺はお前との婚約を破棄するからな!」
「慰謝料くださいね」
「俺から直接は無理だ! 父上に言え!」
「……承知しました」
まさか、こんな急展開になるとは思っていなかった。
でも、今の私には希望がある。
セナ殿下を見つめると、彼は私と視線を合わせて微笑む。
「ズラン侯爵家との手続きは俺の側近にさせるから心配しなくていい。あと、君をキレーナ公爵家に連れて行く。馬車での移動になるから長旅になることを覚悟してくれ。その時に君の疑問に答える。それから、今から君の家まで荷物を取りに行こうか」
「承知しました」
「じゃあ、行くぞ」
セナ殿下が私を促して歩き出すと、ボルバー様が私に向かって叫ぶ。
「お、おい! アーティア!俺のことは無視かよ!?」
「無視はしてませんよ。もう、あなたとの話は終わったので帰るだけです」
「ズラン侯爵令息、もう、君は彼女の婚約者じゃないんだろ?」
セナ殿下に尋ねられたボルバー様は悔しそうに顔を歪めた。
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