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六話
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【勇者でも魔王に恋がしたい!】
六話
あれは、俺がまだ十二歳頃の話。
バニラとは血は繋がってないが兄妹のようなものだった。
……というものの腹違いとかそういう訳ではなく、両親を亡くした彼女を可哀想に思った俺の両親が彼女を引き取ったのだ。
そして、もう一人俺の幼馴染はいた。それはもう一人の勇者候補であるマーリンだ。彼は俺の良い友人でありながら、良きライバルでもあった。
俺の故郷であるモカ村は小さく、栄えているとは言えない町であったが、海が隣接する美しい町だった。
___________そう、あの日までは。
「このぉ!!」
その日、俺とマーリンはいつものように浜辺で木刀を振るっていた。
コンコンっ!と、鈍い音が砂浜に響く。
「やったなー!」
淡い青髪の女の子にも見えるほどの可愛げな少年が、マーリンだ。
「ねねっ!遊ぼーよ!!」
そんな時、俺の後ろからひょっこりとバニラが現れて、一時休戦する。そんなことはしょっちゅうだった。
「少し休もうよ。ね?お母さん」
彼女は甘えるような声でそう言う。
「そうね……少し気晴らししてきなさい?お母さんは町に戻ってるわね」
近くで俺らの稽古を見ていた母さんはそう言うと、街に戻っていった。母さんはいつも俺らの稽古を見ていてくれた。母は優しく、俺らには甘かった。
俺らの稽古の後には必ず美味しい料理を作って暖かい笑顔で待ってくれた。
その中でも、特に俺らが頑張って稽古をした日は、シチューを作ってくれた。人参やブロッコリーなんかの野菜や、肉なんかがふんだんに使われているとびきり美味しいシチューで、俺らはそれが大好きだった。
そしてある時、いつものように三人でかくれんぼで遊んでいると…………それは不意にやってきた。
突如、魔物達の大軍が空を覆ったのだ。
「おい!!」
俺が大声を出しバニラとマーリンを呼んだ。
バニラは鬼だったのですぐに見つかったが、マーリンの姿は見えなかった。
「マーリン!」
すると、すぐ近くの茂みから彼は現れたので少しほっとしたが、今はそれどころじゃない。みんなが危ないんだ。
「マーリン!やれるか?」
「ああ。特訓の成果みせてやろうぜ!」
俺は……俺らは初めて鉄製の剣を握った。それは木刀よりずっしりと重く、幼い俺は恐怖していた。
だが、そんなこと言ってられない。老夫婦ばかりのこの町で剣を取れるのはあまり居ないのだ。だから!勇者候補である俺らがどうにかしないと!
そんな思いを胸に抱きながら、町の中心まで駆け戻るとお父さんや隣のおじさんなんかも剣を振るっていた。
「父さん!僕もやるよ!」
そう言って勇気を振り絞って魔物達に剣を向けるが、やはりまだ少し怖いのか足が震えていた。
「ダメだ!お前らは逃げろ!」
「どうしてだよ!?俺らはそのためにいるんだろ!?」
「違う。……剣は大切なものを守るために振るうものだ。殺すためだけに振るう剣はそれは剣ではない。だから、父さんはな。剣を振るうんだ。お前も大切なもんを守るために振るえ」
「俺もみんな大切だよ!」
「……それはわかってる。でも、父さんは母さんを近くで守ってやることは出来ない。だから、守ってやってくれ」
そう言う父親の目は優しかった。
俺は父さんとの言いつけを守るべく、女、子供の逃げた地下へと急ぐ。当然バニラはそっちにいるし母さんもいる。
俺は父さんにさよならは言わないで「またね」と、言って去った。俺はそのくらいしかできなかった。でも、父さんも笑って「またな」と言ってくれた。
「あ、マルク!」
父さんと別れた後、マーリンと合流した。彼も父親に同じようなことを言われたらしく、俺らは二人で避難した人達が逃げた方へと駆けた。
「……俺らが弱いから邪魔なのかな?」
走ってる途中、ぼそっとマーリンは力なく呟いた。
「……そうなのかな?」
俺らが弱くて足を引っ張っるし邪魔だから、あっちに行ってろってことか?ということは父さんは俺を信用してないのか?……でも、もう分からない。引き返すことは出来ない。
考えれば考える程、父さんに信用されてないかもしれない。そんな憎悪にも近い気持ちを持ったまま道を走っていくと、いつの間にか俺らは追いついていた。
「あっ!マルクにマーリン!」
バニラが馬車の中から飛び降り、無邪気に笑ってこちらに近寄ってくる。
「危ないからお前はその中にいろよ」
マーリンが溜息をつきながらもそう言う。
だが、バニラは戻る気配はない。俺とマーリンの間を歩く。
「なぁ……」
「別にいいじゃない!この辺は魔物もいないんだし!」
俺もマーリンの意見には賛成だったので説得しようとすると、彼女は睨んでそう言う。
「まあ、そうなんだけどな……危ないだろ?な?」
結局、この問題児は戻らずに俺らの横を歩く。
そんな時、ゴゴゴゴゴゴゴ!と、地面が鳴った。
「……なんだ?」
ふと、来た道を振り返ると魔物達が追ってきていた。
そして、空からも無数の群れがやってきていた。
俺らが来た道から来たってことは父さんたちは……いや、きっと大丈夫だ。
俺はそう思い込み、バニラを無理くり馬車の中に放り込むと剣を取った。
勝ち目は当然皆無だ。
でも、やるしかねえ。二人を守らないといけないのは変わらないのだから。
「マーリン……やれるか?」
「どうした?震えてるじゃねえか。怖気付いたか?」
「ふっ。お前こそ。俺は武者震いってやつだがな……背中は頼んだぜ。」
「倒した数で勝負な!」
そう言ってマーリンは勢いよく魔物の大群に突っ込んでいく。
出遅れてしまったが俺もそれに続き突っ込む。
「いち……に……さん……」
全力を尽くし、二人して狩る。
そうして、血飛沫のようなものを浴びながら地獄のような時が流れた。
「………はぁ……はぁ……」
毎日訓練はしていたが、体はボロボロだし、体力は限界を迎えていた。
「お前は何体倒した?」
息を切らしながら、背中合わせにそう問う。
「俺は936匹だな」
「……じゃ、今のところは俺の勝ちだな。俺は1002匹。」
「キャーー!!」
軽口を叩いていると、悲鳴が聞こえてきた。
何匹かが馬車の方へと行っていたのだった。
「ちっ!逃したか!マルク!あっちは頼む!俺はお前の分もこっちでやっててやる!」
「……大丈夫か?」
「……お前に負けるわけにはいかないからな」
「死ぬなよ?」
「当たり前だろ?」
そう言って彼は笑って見せた。
「出来るだけ早く戻るからそれまで絶対だからな……」
俺も笑ってそう返すと、そこまで駆けた。馬車、とは言えども馬が奴らに切り離されているので動くことはない。
そして、馬車に着いた。だが、中には誰もいなかった。
「マルク!!」
大声で俺を呼ぶ声が聞こえた。そして、声のする方向をみると、怯えて動けなくなった子供達とバニラ。その前に母さんがかばうように立っていた。そして、敵はゆっくりと母に近づいていく。
「とどけぇ!!」
俺は無我夢中でそこへと突っ込む。
グサリと、肉が抉れるような鈍い音がした。
「倒した……やったよ!母さんっ!」
呼びかけるが、返事は帰ってこない。
敵の死体を退かすと、母の腹を鋭利な魔物の爪が抉っていた。
「うわぁぁぁぁ!!!」
声にならない声を上げ、付近全部を叩ききった後、母に駆け寄る。
「母さん!母さん!」
血まみれになった母さんの体を揺さぶってみても、返事はない。
「嘘だろ………」
でも、泣いている訳には行かない。溢れそうになる涙を堪えながら生き残った子供たちに目をやる。
みんなは「怖いよぅ……」なんて言って震えていた。母が必死に守ってくれた命。これはしっかり守らないとな。
とりあえず、この子達の避難だ。子供らに近くにあった洞窟に行けと指示を出すと、バニラが率先して皆を連れていった。それを見送って、一人になると目から溢れそうになる涙。
「男は泣かないんだ……」
それを堪えてマーリンの方へと走り、戻るとそこにはマーリンの姿はなく、強烈な臭いがした。
「これは……血の匂い?なぜ?魔物からはしないはずだろ?」
数匹の敵が口のようなもののあたりに赤いものを付けていた。
「……お前がぁ!!お前がァァァァァ!!!」
そこからはあまり覚えていない。
気がつくと魔物達全てを倒し、子供たちを救った勇者がいると、応援にやってきた知らない人達に賞賛されている所だった。
そんなの何も嬉しくない。俺は大切な人達を誰一人守ることが出来なかった。
*****
もうあれから十年近くが経つが、これを忘れたことなんて一度もなかった。
「……マルク?ご飯できたよ?……どうしたの?難しい顔して」
「あぁ……いや、なんでもない」
バニラが訝しげな視線をこちらに送るが、こいつにも辛い思いはさせたのだ。思い出させない方がいい。
そして、食事だ。
シチューを皿に盛り、口に入れる。野菜や肉の味がしっかり出ていて、クリーミーでうまい。……なんでか懐かしい味だ。
途端に俺の目頭が熱くなった。
続く……
六話
あれは、俺がまだ十二歳頃の話。
バニラとは血は繋がってないが兄妹のようなものだった。
……というものの腹違いとかそういう訳ではなく、両親を亡くした彼女を可哀想に思った俺の両親が彼女を引き取ったのだ。
そして、もう一人俺の幼馴染はいた。それはもう一人の勇者候補であるマーリンだ。彼は俺の良い友人でありながら、良きライバルでもあった。
俺の故郷であるモカ村は小さく、栄えているとは言えない町であったが、海が隣接する美しい町だった。
___________そう、あの日までは。
「このぉ!!」
その日、俺とマーリンはいつものように浜辺で木刀を振るっていた。
コンコンっ!と、鈍い音が砂浜に響く。
「やったなー!」
淡い青髪の女の子にも見えるほどの可愛げな少年が、マーリンだ。
「ねねっ!遊ぼーよ!!」
そんな時、俺の後ろからひょっこりとバニラが現れて、一時休戦する。そんなことはしょっちゅうだった。
「少し休もうよ。ね?お母さん」
彼女は甘えるような声でそう言う。
「そうね……少し気晴らししてきなさい?お母さんは町に戻ってるわね」
近くで俺らの稽古を見ていた母さんはそう言うと、街に戻っていった。母さんはいつも俺らの稽古を見ていてくれた。母は優しく、俺らには甘かった。
俺らの稽古の後には必ず美味しい料理を作って暖かい笑顔で待ってくれた。
その中でも、特に俺らが頑張って稽古をした日は、シチューを作ってくれた。人参やブロッコリーなんかの野菜や、肉なんかがふんだんに使われているとびきり美味しいシチューで、俺らはそれが大好きだった。
そしてある時、いつものように三人でかくれんぼで遊んでいると…………それは不意にやってきた。
突如、魔物達の大軍が空を覆ったのだ。
「おい!!」
俺が大声を出しバニラとマーリンを呼んだ。
バニラは鬼だったのですぐに見つかったが、マーリンの姿は見えなかった。
「マーリン!」
すると、すぐ近くの茂みから彼は現れたので少しほっとしたが、今はそれどころじゃない。みんなが危ないんだ。
「マーリン!やれるか?」
「ああ。特訓の成果みせてやろうぜ!」
俺は……俺らは初めて鉄製の剣を握った。それは木刀よりずっしりと重く、幼い俺は恐怖していた。
だが、そんなこと言ってられない。老夫婦ばかりのこの町で剣を取れるのはあまり居ないのだ。だから!勇者候補である俺らがどうにかしないと!
そんな思いを胸に抱きながら、町の中心まで駆け戻るとお父さんや隣のおじさんなんかも剣を振るっていた。
「父さん!僕もやるよ!」
そう言って勇気を振り絞って魔物達に剣を向けるが、やはりまだ少し怖いのか足が震えていた。
「ダメだ!お前らは逃げろ!」
「どうしてだよ!?俺らはそのためにいるんだろ!?」
「違う。……剣は大切なものを守るために振るうものだ。殺すためだけに振るう剣はそれは剣ではない。だから、父さんはな。剣を振るうんだ。お前も大切なもんを守るために振るえ」
「俺もみんな大切だよ!」
「……それはわかってる。でも、父さんは母さんを近くで守ってやることは出来ない。だから、守ってやってくれ」
そう言う父親の目は優しかった。
俺は父さんとの言いつけを守るべく、女、子供の逃げた地下へと急ぐ。当然バニラはそっちにいるし母さんもいる。
俺は父さんにさよならは言わないで「またね」と、言って去った。俺はそのくらいしかできなかった。でも、父さんも笑って「またな」と言ってくれた。
「あ、マルク!」
父さんと別れた後、マーリンと合流した。彼も父親に同じようなことを言われたらしく、俺らは二人で避難した人達が逃げた方へと駆けた。
「……俺らが弱いから邪魔なのかな?」
走ってる途中、ぼそっとマーリンは力なく呟いた。
「……そうなのかな?」
俺らが弱くて足を引っ張っるし邪魔だから、あっちに行ってろってことか?ということは父さんは俺を信用してないのか?……でも、もう分からない。引き返すことは出来ない。
考えれば考える程、父さんに信用されてないかもしれない。そんな憎悪にも近い気持ちを持ったまま道を走っていくと、いつの間にか俺らは追いついていた。
「あっ!マルクにマーリン!」
バニラが馬車の中から飛び降り、無邪気に笑ってこちらに近寄ってくる。
「危ないからお前はその中にいろよ」
マーリンが溜息をつきながらもそう言う。
だが、バニラは戻る気配はない。俺とマーリンの間を歩く。
「なぁ……」
「別にいいじゃない!この辺は魔物もいないんだし!」
俺もマーリンの意見には賛成だったので説得しようとすると、彼女は睨んでそう言う。
「まあ、そうなんだけどな……危ないだろ?な?」
結局、この問題児は戻らずに俺らの横を歩く。
そんな時、ゴゴゴゴゴゴゴ!と、地面が鳴った。
「……なんだ?」
ふと、来た道を振り返ると魔物達が追ってきていた。
そして、空からも無数の群れがやってきていた。
俺らが来た道から来たってことは父さんたちは……いや、きっと大丈夫だ。
俺はそう思い込み、バニラを無理くり馬車の中に放り込むと剣を取った。
勝ち目は当然皆無だ。
でも、やるしかねえ。二人を守らないといけないのは変わらないのだから。
「マーリン……やれるか?」
「どうした?震えてるじゃねえか。怖気付いたか?」
「ふっ。お前こそ。俺は武者震いってやつだがな……背中は頼んだぜ。」
「倒した数で勝負な!」
そう言ってマーリンは勢いよく魔物の大群に突っ込んでいく。
出遅れてしまったが俺もそれに続き突っ込む。
「いち……に……さん……」
全力を尽くし、二人して狩る。
そうして、血飛沫のようなものを浴びながら地獄のような時が流れた。
「………はぁ……はぁ……」
毎日訓練はしていたが、体はボロボロだし、体力は限界を迎えていた。
「お前は何体倒した?」
息を切らしながら、背中合わせにそう問う。
「俺は936匹だな」
「……じゃ、今のところは俺の勝ちだな。俺は1002匹。」
「キャーー!!」
軽口を叩いていると、悲鳴が聞こえてきた。
何匹かが馬車の方へと行っていたのだった。
「ちっ!逃したか!マルク!あっちは頼む!俺はお前の分もこっちでやっててやる!」
「……大丈夫か?」
「……お前に負けるわけにはいかないからな」
「死ぬなよ?」
「当たり前だろ?」
そう言って彼は笑って見せた。
「出来るだけ早く戻るからそれまで絶対だからな……」
俺も笑ってそう返すと、そこまで駆けた。馬車、とは言えども馬が奴らに切り離されているので動くことはない。
そして、馬車に着いた。だが、中には誰もいなかった。
「マルク!!」
大声で俺を呼ぶ声が聞こえた。そして、声のする方向をみると、怯えて動けなくなった子供達とバニラ。その前に母さんがかばうように立っていた。そして、敵はゆっくりと母に近づいていく。
「とどけぇ!!」
俺は無我夢中でそこへと突っ込む。
グサリと、肉が抉れるような鈍い音がした。
「倒した……やったよ!母さんっ!」
呼びかけるが、返事は帰ってこない。
敵の死体を退かすと、母の腹を鋭利な魔物の爪が抉っていた。
「うわぁぁぁぁ!!!」
声にならない声を上げ、付近全部を叩ききった後、母に駆け寄る。
「母さん!母さん!」
血まみれになった母さんの体を揺さぶってみても、返事はない。
「嘘だろ………」
でも、泣いている訳には行かない。溢れそうになる涙を堪えながら生き残った子供たちに目をやる。
みんなは「怖いよぅ……」なんて言って震えていた。母が必死に守ってくれた命。これはしっかり守らないとな。
とりあえず、この子達の避難だ。子供らに近くにあった洞窟に行けと指示を出すと、バニラが率先して皆を連れていった。それを見送って、一人になると目から溢れそうになる涙。
「男は泣かないんだ……」
それを堪えてマーリンの方へと走り、戻るとそこにはマーリンの姿はなく、強烈な臭いがした。
「これは……血の匂い?なぜ?魔物からはしないはずだろ?」
数匹の敵が口のようなもののあたりに赤いものを付けていた。
「……お前がぁ!!お前がァァァァァ!!!」
そこからはあまり覚えていない。
気がつくと魔物達全てを倒し、子供たちを救った勇者がいると、応援にやってきた知らない人達に賞賛されている所だった。
そんなの何も嬉しくない。俺は大切な人達を誰一人守ることが出来なかった。
*****
もうあれから十年近くが経つが、これを忘れたことなんて一度もなかった。
「……マルク?ご飯できたよ?……どうしたの?難しい顔して」
「あぁ……いや、なんでもない」
バニラが訝しげな視線をこちらに送るが、こいつにも辛い思いはさせたのだ。思い出させない方がいい。
そして、食事だ。
シチューを皿に盛り、口に入れる。野菜や肉の味がしっかり出ていて、クリーミーでうまい。……なんでか懐かしい味だ。
途端に俺の目頭が熱くなった。
続く……
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