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『第五話・3:止まった世界で、ただ一振りの剣 』
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敵は動かない。ただ、錫杖を地に突き立てたまま──
礼拝堂の空気が、ゆっくりと沈黙に満たされていった。
「……ナマリ・デア……トゥリエ……サクリフィス……インモルタリス……」
──詠唱が、始まった。
鎧の周囲に、かつての仲間の幻影が立ち昇る。声なき影たちは肩に手を置き、共に祈るように唇を動かす。十、二十……失われた兵たちの祈りが、この一撃に注ぎ込まれていた。
(あー……きたきたきた……! RPGで一番ヤバいやつ! 長い詠唱=死の予告!!)
その瞬間、空間全体が微かに震え始める。
まるで天井も床も、石壁すらも、ひとつの生き物になって呼吸しているような、気味の悪いうねり。
空気が啜るように凹み、見えない何かが“裏返って”いく。
天井の封印模様が淡く光り、その光が床へと滴り落ちるように広がっていく。
湿った石の匂い……そこに、焦げた金属がにじむ。さらに、古い血の鉄臭さが蘇ってきて──胸がきしむ。
(ちょっ……焦げた匂いって、絶対あれじゃん! 焼き切る系のやつじゃん!)
「っ……!」
リリアは大剣を抜いて、一気に駆け出す──が。
「きゃっ……!」
振り抜いた剣が鎧に当たった瞬間、耳の奥を震わせる重い衝撃音。
それは金属の響きではなく、“祈りが拒む音”だった。
衝撃は刃から腕、そして背骨までを突き抜ける。
手のひらが焼け付くような熱を帯び、皮膚の奥にまで鋭い痛みが突き刺さった。
全身が“跳ね返された”ようで、一瞬、視界がぐらつく。
鎧は──まるで“受け止めるために鍛えられた”壁。冷たく、容赦がない。
だがそれは鉄ではなく、祈りそのものに弾かれたのだ。刃の縁に淡い文字が浮かび、
「まだ祈りを妨げさせぬ」と告げるかのようにリリアを押し返した。
(……通らない……外殻すら割れない……これ、聖鎧系の上位種か……! チート防御やめろや!!)
「……ルミエ・ソラ・インベル……ファティス・エテルナ……」
低く、しかし確かな響きで続く詠唱。
そのたび、床や壁の模様が脈動し、空気が膨らんでは縮む。
まるで、この空間全体がカルミナと共鳴しているかのようだ。
音が、削がれていく。
外界とのつながりが、ひとつひとつ切り離されていくような孤立感。
「止めなきゃ……っ」
(止めるのはいいけど、その前に作戦タイムくれよ!?)
リリアの声は震えていた。
怖い──でも、それ以上に負けたくなかった。
(──もしここで負けたら、もう誰も守れない。だから……!)
世界が息を止めた。
ほんの一瞬、すべての音が遠のく。
「……わたし、やるっ……!」
剣を握り直し、踏み込む足に力を込める。
膝は笑っているのに、剣先だけは笑っていた。汗で滑る柄は、それでも熱を帯びて光を返す。
その瞬間、闇の奥で「カツン……」と石を蹴る音が響いた。
誰の足音でもない。ただ、ダンジョンの影が“這い寄った”ような感触。
風もないのに、小さな祈祷布が宙を舞い、リリアの肩に触れて落ちた。
その布には、擦り切れた祈りの文字が残っていて、まるで「おまえに託す」と言われたように、肩に温もりが残った。
杖が青白く輝いた瞬間──
「シュオン!」
閃光が、雷鳴のような速度で走り抜ける。
頬をかすめた熱に、肌が裂ける錯覚。
視界の端が白く塗り潰され、“痛い”よりも先に息が止まった。
「でも……わかる。詠唱の終わり際、鎧の継ぎ目が──開く!」
(まじで!? 見えてんの!? あそこ一瞬だぞ!?)
(てかこれ完全に“パリィ判定0.2秒”のやつだろ! 未来のプレイヤー泣くぞ!!)
リリアの胸の奥で何かが弾ける。
知らないはずの動きなのに、剣筋とタイミングが自然に浮かんでくる。
まるで、ずっと前にこの瞬間を経験したことがあるような感覚。
(……読んでる……? いや、こいつ……本能で……)
「お願いっ……!」
風の音が、祈りの声に溶けた。
──ほんの刹那、心がためらった。
けれど次の瞬間、“恐怖を抱えたままでも進む勇気”が、彼女を前へと押し出した。
渾身の突き。
時間が、止まった。空気が凍り……涙は宙で固まりかけ──そこで記憶が、ざらりと逆立つ。
ただ、動いていたのは剣先だけだった。未来に触れられるのは、その刃だけ──
(俺は!? ぬいぐるみは!? 時間停止の中で呼吸できなくて死ぬ未来しか見えねぇんだけど!?)
礼拝堂の空気が、ゆっくりと沈黙に満たされていった。
「……ナマリ・デア……トゥリエ……サクリフィス……インモルタリス……」
──詠唱が、始まった。
鎧の周囲に、かつての仲間の幻影が立ち昇る。声なき影たちは肩に手を置き、共に祈るように唇を動かす。十、二十……失われた兵たちの祈りが、この一撃に注ぎ込まれていた。
(あー……きたきたきた……! RPGで一番ヤバいやつ! 長い詠唱=死の予告!!)
その瞬間、空間全体が微かに震え始める。
まるで天井も床も、石壁すらも、ひとつの生き物になって呼吸しているような、気味の悪いうねり。
空気が啜るように凹み、見えない何かが“裏返って”いく。
天井の封印模様が淡く光り、その光が床へと滴り落ちるように広がっていく。
湿った石の匂い……そこに、焦げた金属がにじむ。さらに、古い血の鉄臭さが蘇ってきて──胸がきしむ。
(ちょっ……焦げた匂いって、絶対あれじゃん! 焼き切る系のやつじゃん!)
「っ……!」
リリアは大剣を抜いて、一気に駆け出す──が。
「きゃっ……!」
振り抜いた剣が鎧に当たった瞬間、耳の奥を震わせる重い衝撃音。
それは金属の響きではなく、“祈りが拒む音”だった。
衝撃は刃から腕、そして背骨までを突き抜ける。
手のひらが焼け付くような熱を帯び、皮膚の奥にまで鋭い痛みが突き刺さった。
全身が“跳ね返された”ようで、一瞬、視界がぐらつく。
鎧は──まるで“受け止めるために鍛えられた”壁。冷たく、容赦がない。
だがそれは鉄ではなく、祈りそのものに弾かれたのだ。刃の縁に淡い文字が浮かび、
「まだ祈りを妨げさせぬ」と告げるかのようにリリアを押し返した。
(……通らない……外殻すら割れない……これ、聖鎧系の上位種か……! チート防御やめろや!!)
「……ルミエ・ソラ・インベル……ファティス・エテルナ……」
低く、しかし確かな響きで続く詠唱。
そのたび、床や壁の模様が脈動し、空気が膨らんでは縮む。
まるで、この空間全体がカルミナと共鳴しているかのようだ。
音が、削がれていく。
外界とのつながりが、ひとつひとつ切り離されていくような孤立感。
「止めなきゃ……っ」
(止めるのはいいけど、その前に作戦タイムくれよ!?)
リリアの声は震えていた。
怖い──でも、それ以上に負けたくなかった。
(──もしここで負けたら、もう誰も守れない。だから……!)
世界が息を止めた。
ほんの一瞬、すべての音が遠のく。
「……わたし、やるっ……!」
剣を握り直し、踏み込む足に力を込める。
膝は笑っているのに、剣先だけは笑っていた。汗で滑る柄は、それでも熱を帯びて光を返す。
その瞬間、闇の奥で「カツン……」と石を蹴る音が響いた。
誰の足音でもない。ただ、ダンジョンの影が“這い寄った”ような感触。
風もないのに、小さな祈祷布が宙を舞い、リリアの肩に触れて落ちた。
その布には、擦り切れた祈りの文字が残っていて、まるで「おまえに託す」と言われたように、肩に温もりが残った。
杖が青白く輝いた瞬間──
「シュオン!」
閃光が、雷鳴のような速度で走り抜ける。
頬をかすめた熱に、肌が裂ける錯覚。
視界の端が白く塗り潰され、“痛い”よりも先に息が止まった。
「でも……わかる。詠唱の終わり際、鎧の継ぎ目が──開く!」
(まじで!? 見えてんの!? あそこ一瞬だぞ!?)
(てかこれ完全に“パリィ判定0.2秒”のやつだろ! 未来のプレイヤー泣くぞ!!)
リリアの胸の奥で何かが弾ける。
知らないはずの動きなのに、剣筋とタイミングが自然に浮かんでくる。
まるで、ずっと前にこの瞬間を経験したことがあるような感覚。
(……読んでる……? いや、こいつ……本能で……)
「お願いっ……!」
風の音が、祈りの声に溶けた。
──ほんの刹那、心がためらった。
けれど次の瞬間、“恐怖を抱えたままでも進む勇気”が、彼女を前へと押し出した。
渾身の突き。
時間が、止まった。空気が凍り……涙は宙で固まりかけ──そこで記憶が、ざらりと逆立つ。
ただ、動いていたのは剣先だけだった。未来に触れられるのは、その刃だけ──
(俺は!? ぬいぐるみは!? 時間停止の中で呼吸できなくて死ぬ未来しか見えねぇんだけど!?)
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