『勇者リリアとレベル999のモフモフぬいぐるみ』 Eden Force Stories I(第一部)

風間玲央

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『第五話・2:僧兵カルミナとの初衝突』

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ギィ……ギギギィ……!

錫杖を引きずる音。
そして、鎧の奥の青白い瞳が、確かにリリアを捉えた。

その動きは、戦いでありながらも“礼拝の所作”をなぞるように静かで端正だった。
一歩進むごとに、足音が祈祷のリズムのように響き、錫杖の軌跡が空中に十字を描く。

その姿は、戦場に立つ兵士であるよりも、滅びの祭壇に舞い降りた司祭のようだった。
杖を掲げるたび、古びた聖句が崩れた口から洩れ、祈りの声と共に光が集束していく。
床の石板までもが共鳴するように淡く震え、崩れた聖句の断片が宙に浮かび、鎧の周囲で光の輪を描いていた。

それは攻撃であると同時に、失われた祈りを取り戻そうとする“儀式”でもあった。

(……来たな。絶対ボス戦。しかも一撃じゃ終わらないやつ)

視界に、半透明のウィンドウが開く。

《対象エネミー》
名称:祈祷兵カルミナ
レベル:46
種別:残魂体(聖属性)
HP:???/???
外殻障壁:Ⅱ層展開型
武装:神聖詠唱杖+聖鎧(硬化処理済)
弱点:腹部継ぎ目/詠唱中の頭部(※防御力低下)
危険度:Sランク(推奨討伐人数:6~8)
備考:過去の挑戦者データなし/討伐記録:ゼロ

(おい!HPが???って、初見殺し仕様じゃねぇか! 未来の攻略Wikiに「まず全滅しろ」って書かれるやつだぞ!)
(しかも“Ⅱ層障壁”とか……二枚抜き必須って、ソシャゲ高難易度イベかよ!?)
(絶対これ、後日追加される「イベント特効武器」がないと勝てないやつだ!!)

鎧の気配は確かにアンデッドに似ている。
だがそこに漂うのは、闇ではなく、聖域を守り続けた意志の残り香だった。

『……我らの……祈り……まだ……果たせぬ……』
その声は、風に消えかけた讃美歌のように脆く、しかし確かに“人の心”を帯びていた。
一度は死に、なお信仰の形だけがこの世に取り残された――そんな声だった。

リリアは剣の柄を握る手に力を込めた。
汗がにじみ、滑りそうになる柄を必死で握り直す。呼吸は浅く、胸の奥が焼けつくように熱い。
足は震えていた。怖くて仕方なかった。

胸の奥で、「逃げたい」「戦えない」という声が、一瞬だけ本能のように芽を出す。
けれど──その震えごと、前へ進むと決めた。

(足が震えてる……でも、逃げたくない……!)

胸の奥の震えが、恐怖からではなく、祈りのような熱に変わっていく。
それがまだ拙くても、彼女なりの祈りだった。
背後でワン太もまた、小さな身体の中で臓腑のような魂を震わせていた。

(ちょ、待て! これ未来の演劇で「勇者と高潔なる僧兵カルミナ」とか題して感動巨編にされんのだけはやめろよ!?)
(どうせ俺の役、“脇で転がるぬいぐるみ”だろ!? しかも壁画オチで観光地化とかマジ勘弁!!)

その瞬間、カルミナの杖先から、光の粒が零れ落ちる。
空気が一段と張りつめ、微かな鐘の音が耳の奥で鳴った。

割れた鐘の残響が石壁を震わせ、空気そのものがひび割れたガラスのように歪む。
床に散らばる崩れた聖句の石板が、共鳴するように淡く光り、礼拝堂全体が“聖域であり同時に墓標”へと変わっていった。
……いや、“墓標にしか見えなくなった”って言ったほうが正直しっくりくる。

杖の一振りは剣戟のように鋭く、それでいて、なぜか祈りをなぞる所作のように見える。

それは彼自身のためではなく、すでに滅びた仲間たちの魂へ捧げられた祈りだった。

(……来る!)

(……逃げない。どんな相手でも、こいつと一緒なら──)

リリアの瞳に、迷いを越えた光が宿る。

「──わ、わたしの祈りで……絶望、ひっくり返してやる!」

そして──空気が爆ぜる。
その刹那、音が消え、光が止まり、呼吸すらも世界から削ぎ落とされた。

世界が息を止めた。
すべての音が凍り、ただ祈りだけが、時間の隙間を滑り落ちていく。

衝突の瞬間、世界がページになった。
光が文字に変わり、空気の一片までもが祈りに書き換えられていくようで……
“……なんか、物語に無理やり引きずり込まれた”って感覚しかなかった。

最初の衝突が、いままさに始まろうとしていた。
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