『勇者リリアとレベル999のモフモフぬいぐるみ』 Eden Force Stories I(第一部)

風間玲央

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『第六話・3:否定の誇り、再起の槍』

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ゼル=ザカートの足音が、聖域の静寂をじわりと切り裂いていく。
黒い礼装が揺れる。その背にある槍は、歩むたびにかすかに風を鳴らす。
一歩ごとに床の紋章が低く唸り、空間の温度がじわりと歪んでいった。

やがて、黒き影が光の祭壇の前で止まる。
その瞬間、空気の層がわずかに震えた。呼吸ひとつすら、音になる。

「……久しいな、勇者リリアよ。」

(ヤバい。これは絶対ヤバい。
この圧、完全に“プレイヤー視点”で言うところのイベント突入だ……!)

男は静かに槍を構え、わずかに唇を噛みしめる。
黄金の眼に宿るのは怒りではなく、燃え残った誇りの炎だった。

「そうだ。三年前の“あの夜”を忘れたとは言わせない……!」
「その魔法大剣、“レーヴァテイン・ゼロ”で──お前は、俺の心臓を──ッ!」

瞳が閃き、黒雷が槍先から滴る。
焦げた匂いが聖域を満たした。

「貴様に敗れ、全てを否定され、失ったあの夜……
 あれから俺は、貴様を倒すためだけに生きてきた!」

「砕かれたのは肉体でも命でもない……“魔族の誇り”だ!
 だからこそ俺は──誇りを取り戻すために鍛え続けてきたのだッ!」

「……貴様を、否定するために、俺は生き延びたのだ……!」

聖域の空気が止まった。
槍先が微かに鳴り、風が逃げ場を失う。
ゼルの呼吸だけが、空間の底を這うように響いた。

(やばい!これ、完全に因縁系ラスボスフラグ……!!
 しかもリリア本人の記憶まったくないのに、相手のドラマだけ超完成されてるやつ!!)

その声は怒りに震えていたが、私怨の濁りはなかった。
純粋すぎるまでに純粋な、砕かれた誇りを取り戻す執念。

──砕かれた存在を、剣でしか証明できない意志。

(……くそ、ちょっとだけわかっちまうじゃねぇか。
 これが男のロマンだよ! うん、うん……でも今はそれどころじゃねぇ!!)

聖域の床が淡く光り、空気が微かに唸りを上げた。
世界そのものが「決戦の合図」を鳴らしているようだった。

黒槍が掲げられる。
儀式のように緩やかで、だが逃れられない覚悟を帯びた動き。

「……ならば、この刃で“否定の否定”を成すまで。」

黄金の眼がリリアを射抜く。
その瞬間、空気が震えた──まるで“宣告”そのものが神託のように響く。

「これは復讐ではない……決戦だ、リリア・ノクターン──!」

轟く怒声。
だがリリアはぽかんと口を開けて──

「……え? ごめん、ちょっと、何の話してるの……? 長くて頭こんがらがった……」

(わかるかッ!!ゼル!! お前のシリアス百点満点演説、全部空振りだぞ!!
 こっちは今、ぬいぐるみなんだよ!?
 村娘モードのリリアに、そんな重厚な台詞ぶつけても響くわけねぇだろ!!)

聖域に、しん……とした沈黙が落ちた。
その静けさの中で、雷の匂いだけがまだ生きている。

ゼルの拳が震えた。唇がきつく結ばれ、歯の間から熱い息が漏れる。
胸の奥で何かが弾け、理性より先に体が動いた。

「ふざけるなァアアア!!」

雷鳴の一歩。
空気が裂け、床石が鳴った。

瞬きの間に黒槍が迫る。

「きゃっ──!」

──その瞬間、剣が勝手に抜けた。

レーヴァテイン・ゼロがしなやかに角度を変え、
迫る槍を軽やかに受け流す。
火花が散り、攻撃は床石を裂いて通り過ぎた。

鍔が鳴り、柄が震える。
まるで「次はここだ」とでも言うように。
刃が一瞬、心臓の鼓動と同じリズムで脈打った。

「えっ、なに、これ……!? 手が……!
 剣が、私を守ってくれたみたいに……!」

(すげぇ……完全オート防御!? 初心者のリリアが!?
 やるじゃねぇか、さすがレーヴァテイン・ゼロ!
 しかも剣が“過去を覚えてる”系!? これ、確実に物語の根幹アイテムだろ!!)

そして、視界の端に、情報ウィンドウが浮かびあがった。

――――

《対象:ゼル=ザカート》
Lv:65(体感もっと上)
HP      :???/???(桁バグってる?)
攻撃力:7,800+(雷バフ中?)
防御力:???(硬すぎ。物理効かないタイプ)

装備:黒槍“神穿き”、雷鎧
外殻障壁:Ⅰ層展開(雷補強っぽい)
弱点:突撃後のスキ(1秒ちょい?)
備考:記憶トリガーで奥義解放……とか書いてある。※このへんWiki待ち

――――

(おおおおおぉぉ……やべぇ!! フル装備の強キャラ設定じゃん!!)
(しかも奥義解放フラグまでついてるとか、RPGのボス攻略Wiki必読案件!!)
(いや数値おかしいだろ!? ラスボス枠でももうちょい優しめに調整しとけよ!!)

ゼル=ザカートの黄金の眼が光を放つ。
リリアの手は震えていた。
怖い、怖い──でも足が逃げない。
心臓が破裂しそうなのに、視線を逸らせなかった。

そして、聖域は静かに変わる。

──ここはもう、“決戦の舞台”。

運命に縫い付けられた二つの影が、今、再び交差しようとしていた。

白い閃光が空を裂き、影と影が一瞬だけ重なる──。

光が、世界の息を奪った。

次の瞬間、空気が破裂する。
耳を劈く轟音が天井を裂き、床を走る光が世界を白く塗り潰した。
石すら砕ける雷撃が、開始の鐘の音のように鳴り響く。

雷鳴が裂いた。
……っていうか、鼓膜も裂けた。

戦いはもう、始まっていた。
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