『勇者リリアとレベル999のモフモフぬいぐるみ』 Eden Force Stories I(第一部)

風間玲央

文字の大きさ
31 / 161

『第六話・4:再起動の聖域 ―999の接続―』

しおりを挟む
「……やるな。だが──これならどうだッ!!我の“三年分の修羅”を受け取れ!」

「《雷穿裂天・天絶槍》ッ!!!」

雷雲の幻影が天井を裂く。
稲妻の奔流を纏った魔槍が、真空ごとリリアを貫かんとする。

(ヤバいってヤバいってヤバいって!!!)

「え、あ、あの、まって──それ、ムリッ!」

──キィィン!!ドゥアー!!

蒼雷のごとき突きが放たれ、リリアは本能で剣を振る。
レーヴァテイン・ゼロが正面からそれを受け止めた。
火花が爆ぜ、魔力の圧が空気を焼き切る。

だが──

「っきゃあああっ──!!」
──ズドォン!!

リリアの身体は後方へ吹き飛び、背中から古びた石壁に叩きつけられる。
瓦礫が崩れ、聖域に土煙が舞い上がった。

静寂。
石板の鼓動も、光の糸の揺らぎも、全てが止まった。

(リリアーー!!)

「……やった、か……」
ゼル=ザカートの肩が上下する。
確信を宿しかけた瞳が──次の瞬間、あり得ぬ光景に見開かれた。

(……あ、これ……ヤバいやつ……)

ぬいぐるみの中の意識が沈んでいく。
音も、痛みも、色も、一枚の膜の向こうに遠ざかっていった。
世界が歪み、夢の底に引きずり込まれる感覚。

──《接続中:プレイヤーID WAN-TA999》
──《ログインユニット:レーヴァテイン・ゼロ》起動確認中。

艶やかなログイン・ボイスが響いた瞬間、風が止まり、世界が揺れた。
視界の端に黒いノイズが走り、床の紋章が崩れては再構築を繰り返す。
空間の重さそのものが、ゆっくりと反転していく。

瓦礫の奥で、光が爆ぜた。
割れた石片の隙間から金色の光条が滲み出し、聖域全体を染めていく。
やがて瓦礫を突き破り、リリアの身体がゆっくりと立ち上がる。

皮膚の下を、無数の金糸が走る。筋肉をなぞり、神経を繋ぎ、魂の縫合が完了していく。
背後に広がる光輪は天使の羽のようでありながら、神話の魔王を思わせる禍々しさを孕んでいた。

《……接続、問題なし。ステータス全開──完了》

かつて世界を熱狂させ、恐怖すら抱かせた“あのセリフ”。

「魂は“999”で縫われてる。……なら、続きを紡いで──♡」

声はリリアのもの、だがその奥底に宿っているのは──間違いなく颯太。
ぬいぐるみだった意識が、完全にリリアの肉体へ溶け込んでいた。

その呟きと同時に、魔力の波が全身を満たし、空間の色彩が歪む。
リリアの身体がふわりと浮かび、指先が空をなぞる。

黄金のコードが筆跡のように走り、空間そのものに刻まれていく。
背から十重二十重の光輪アウラが展開。
スキル構成、魔法陣、転送コードが浮かび、パッシブスキルの詩が周囲に響き渡った。

視界の端にノイズ混じりのウィンドウが点滅する。

――――

《……login 確認》
《魂 link──異常》
《識別名 [LILIA_999] ……旧約 code 該当》
《access 特例 slot=999 >> 一致》
《封印 条件……解除》
《……認証 ok》
《welcome…“Lilia”》

――――

ノイズのような声が、空間に重なって響いた。
音ではなく、脳の奥に直接落ちてくる──そんな錯覚。

《……接続、問題なし。ステータス全開──完了》

次の瞬間──世界が、バグった。

天井から文字化けした祈りが降り注ぎ、石畳がグリッチのように波打つ。
崩れる地形、強制書き換えられる存在スロット。
足元に広がるのは天使の羽ばたきを模した膨大な魔法陣。
指先に現れるのは、かつて伝説と呼ばれた全スキル選択画面。

瞳が金に染まる。
剣が背に重い。
髪の先だけが、ひと筋きらめいた。
……そして、なぜか靴の紐がほどけていた。

風が止まり、世界のコードが呼吸を忘れる。
その静寂の中心で、リリア──いや、颯太は微笑んでいた。

「再起動、完了。──儀式は始まった。さあ、世界よ。続きを見せて?」

艶やかで、冷たい。
そして──あまりにも決まりすぎた声。

(……うおっ、出た!完ッ全にキマってた!♡
 でも中身俺だからな!?バレたら一番ダサいやつだからな!?)
(てか最後に靴ひも……めっちゃ台無しじゃん!誰かこっそり直してくれ!!)

瓦礫を踏み越え立ち上がる。
もうそこにいるのは“少女”リリアではない。

ゆっくり顔を上げ、ゼル=ザカートを真正面から見据える。

「あら……まだ残ってたの? その命も、誇りも──とっくに終わってるのに」

(──よし、決まった……!セリフ噛まなかった!……いやでも今の、絶対どっかで痛いって笑われるやつ!!)

リリアの口角がゆるむ。
だが喋っているのは、間違いなく“颯太”だった。

その笑みは柔らかく──
氷のように澄み切っていた。

「馬鹿な……! この“圧”……三年前、あの夜に見た“死の光”を……超えている……!?

ゼル=ザカートの声が揺れる。
三年の修羅を越えてもなお、心の奥に刻まれた敗北の影が──再び蘇っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...