『勇者リリアとレベル999のモフモフぬいぐるみ』 Eden Force Stories I(第一部)

風間玲央

文字の大きさ
33 / 161

『第七話・2:9999時間目のラストステージ』

しおりを挟む
ゼルは笑っていた。
血に濡れた口元が、かすかに歪む。

「ふ……ふはは……これで、終わりだと……思うなよ」

ずぶずぶと──黒い瘴気が、地面から噴き出した。
それは生き物のようにゼルの身体へ絡みつき、肉を侵食し始める。
息が焼ける。骨まで振動が響く。
血の味まで、鉄じゃなく甘ったるく変わった。

重力さえ歪むかのように、膝が勝手に沈み込む。
視界はノイズに覆われ、色の全てが濁った。
耳鳴りは音じゃない。鼓膜の内側そのものから呻き声が這い出してくる。
空間そのものが泣き叫んでいる──そう錯覚させる異常。

「貴様ごときに……“敗北”など、俺が許すはずがないッ!!」

「なに……?」

ゼルの肉体が崩れ、骨が軋み、皮膚が焼ける。
耳障りなひび割れ音が、空間の全方向から鳴り響いた。

「我が魂よ……我が呪いよ……今ここに、“神の外殻”を捨て、魔性の核を曝け出せェェ!!」

瘴気が噴き上がり、雷鳴と共に天井を染め上げる。
呼吸ひとつが鉛のように重い。吐き出す息すら黒い霧となり、喉を裂いた。

匂いは血でも鉄でもない──金属を焼き潰した匂いと、熟れすぎた果実の甘ったるさが混じる、不快すぎる“腐臭の蜜”。

「俺の魂は、神の加護ではなく──魔に焼かれたッ!!」

「……まさか」

(え、ちょっと待て! やばくないか!? なんだそのフラグ──! 逃げた方がいいんじゃねーか!?)

「肉体など、もう要らぬ!!」

──ズズズズズ……!!

大地が裂け、黒雷が天を真っ二つに割いた。
ゼルの身体は崩壊し、血肉が潰れ、骨が砕け、ついに“禍々しい核”が露わになる。
鼓膜を爪で引き裂かれるような悲鳴が、時間そのものを逆撫でするかのように響いた。

「……神にも、魔にもなれず……」
「俺は、いったい……何を……護ろうとしていた……?」「……笑うなよ、リリア。俺はただ、“あの日の誓い”を果たしたかっただけなんだ……」

「……笑うなよ、リリア。俺はただ、“あの日の誓い”を果たしたかっただけなんだ……」
「……それでも、守りたかったものが、確かにあったんだ……」

──そして、“魔神ゼル=ザカート”、現界。

かつての騎士の面影など微塵もない。
触手を混じえた漆黒の巨躯。
右腕は邪悪な結晶で覆われた“瘴核の腕”。
背には瘴気を燻らせる“焼け落ちた翼”の残骸。

全身を締め上げる鎖の呪印は、裂け目から赤黒い炎を滲ませる。
顔の半分は崩れ、眼窩から溢れる瘴気は黒い涙となって頬を伝う。

鎖の隙間からは、低い呻き声のような魔力のノイズが途切れなく漏れ、ただ見ているだけで胃の奥が冷たくなる。

──それは絶望を喰らい、なお進化を選んだ呪いそのものだった。

「これが……貴様が斬り捨てた、“俺の覚悟”だッ!!」

「ふふ……忘れるな。俺は、“魔王軍最強の剣士”だ。
 敗北しても、誇りは死なねぇ。俺の剣が折れるのは──この魂が尽きる時だけだッ!」

(……は、ははっ……おもしれーじゃねぇか……!)
(上等だ、ゼル──! 俺はこの世界で、“レベル999を手動で叩き出した”最強プレイヤーだッ!!)
(舐めんなよ、NPC上がりのザコがァッ!!)

その瞬間、再び視界にふわりとウィンドウが立ち上がった。

《対象エネミー》
名称:魔神ゼル=ザカート
レベル:BOSS/EXランク
種別    :堕天型魔神種(災厄憑依型)
HP      :?????/?????
攻撃力:?????/?????
防御力:?????/?????

外殻障壁:六層同調型(呪鎖干渉)
武装       :瘴核の右腕+崩壊槍の残骸
弱点       :心核周辺(※発熱時に顕現)
備考       :旧型ナイトボーンAIの断片を保持
※特定ワード(「誓い」「未練」)に強反応

《……一部情報は破損しています》
《警告:データ表示を継続すると“逆侵食”の危険あり》

(?????だらけじゃねーか!! 桁だけは合ってんのかよ!? ……フルスペック、出やがったな……!)

空気が、一拍、沈黙した。
その沈黙は、決戦前の吸気のように重く、長く、鋭かった。

──そして次の瞬間、リリアの心から、迷いが消えた。

「……そう。なら──私も、全部を出すだけ」

周囲の魔力が、一瞬、静止した。

「ただ、運命を断つ者として──私はここに立つ」

ステータスウィンドウが微かに震え、光を落とす。

「……もう迷わない。終わらせる、あなたと──この世界を」

(セリフ、噛まなくてよかった──!)

(……てか今の完全にラスボス前ムービーの主人公セリフじゃね!? これ死亡フラグじゃねぇだろな!!)

(おい頼むぞ、脚本! 俺まだ死ぬ気ないからな!?)

──空気が震えた。

(……いくぞ!
“9999時間”の俺──ラストステージだ!)
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...