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『第十二話・8(終章) : 氷の底の火、まだ消えず』
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沈黙が落ちる。
《創律の檻》の空気は、まだ薄く灰を帯びている。
けれど、胸の奥にある迷いはもう霧散していた。
(……やるべきことはひとつだ。)
(この世界を歪めている根を──丸ごとぶった斬るだけだ。魔王だろうと、神だろうが関係ない。)
空を見上げる。
夕陽の欠片が氷壁に反射し、胸の奥で小さな火が灯る。
「じゃあ……とりあえず、魔王でも倒しにいこうかな」
苦笑の奥で、瞳が確かに光った。
リリアは片手をゆっくりと掲げる。
掌に刻まれた紋章が淡く輝き、氷床の上に幾重もの魔法陣が展開した。
「──詠唱コード:転移式・界層跳躍《ゲート・オブ・リターン》起動。」
氷の床を走る光が、円環を描きながらリリアを包む。
「座標、現界層・第零環──固定。」
手のひらの紋章が白熱する。
「世界律の束縛を一時解除。……帰還先、現実界に再接続──発動!」
光が爆ぜ、視界が白く塗りつぶされる。
《創律の檻》が音もなく閉じ、無音の闇に還っていった。
──次の瞬間。
頬を撫でる風の温度が変わった。
胸の奥に“空気の重み”が戻ってくる。
焼きたてのパンのような香ばしい匂いが鼻をくすぐり、
灰に閉ざされた虚無とは対照的に、赤橙の夕暮れが、確かな「現実」として全身を包み込む。
(……やっと、帰ってこられた。)
その一瞬の安堵が、涙に似た温度で胸を満たした。
そして、夕暮れの色を抱いた街が、ゆっくりと目の前に広がっていく。
遠くで鐘の音が鳴り、誰かの笑い声が風に溶けた。
それは、もう“戦場”ではなく、“生の音”だった。
その空のどこかで──氷の底に灯ったあの小さな火が、確かに呼吸をしていた。
【第一部 完】
《創律の檻》の空気は、まだ薄く灰を帯びている。
けれど、胸の奥にある迷いはもう霧散していた。
(……やるべきことはひとつだ。)
(この世界を歪めている根を──丸ごとぶった斬るだけだ。魔王だろうと、神だろうが関係ない。)
空を見上げる。
夕陽の欠片が氷壁に反射し、胸の奥で小さな火が灯る。
「じゃあ……とりあえず、魔王でも倒しにいこうかな」
苦笑の奥で、瞳が確かに光った。
リリアは片手をゆっくりと掲げる。
掌に刻まれた紋章が淡く輝き、氷床の上に幾重もの魔法陣が展開した。
「──詠唱コード:転移式・界層跳躍《ゲート・オブ・リターン》起動。」
氷の床を走る光が、円環を描きながらリリアを包む。
「座標、現界層・第零環──固定。」
手のひらの紋章が白熱する。
「世界律の束縛を一時解除。……帰還先、現実界に再接続──発動!」
光が爆ぜ、視界が白く塗りつぶされる。
《創律の檻》が音もなく閉じ、無音の闇に還っていった。
──次の瞬間。
頬を撫でる風の温度が変わった。
胸の奥に“空気の重み”が戻ってくる。
焼きたてのパンのような香ばしい匂いが鼻をくすぐり、
灰に閉ざされた虚無とは対照的に、赤橙の夕暮れが、確かな「現実」として全身を包み込む。
(……やっと、帰ってこられた。)
その一瞬の安堵が、涙に似た温度で胸を満たした。
そして、夕暮れの色を抱いた街が、ゆっくりと目の前に広がっていく。
遠くで鐘の音が鳴り、誰かの笑い声が風に溶けた。
それは、もう“戦場”ではなく、“生の音”だった。
その空のどこかで──氷の底に灯ったあの小さな火が、確かに呼吸をしていた。
【第一部 完】
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