『勇者リリアと魔王のフィアンセ』Eden Force StoriesⅣ(第四部)

風間玲央

文字の大きさ
32 / 32

『第五話・7 軽く直しただけなのに、王都が浮いた件』

しおりを挟む
「よし……じゃあ“軽く”修復してみるね。あくまで“軽く”ね。」

リリアは掌を掲げ、静かに息を吸い込んだ。

瞳が淡く輝き、足元に魔法陣の輪がゆっくりと展開する。
空気が変わる。砂埃が止まり、世界の音が一瞬だけ消えた。
冷たい静寂が頬を撫でる。
風も砂も息を潜め、世界そのものが耳を澄ませる。
静寂の底で、リリアの鼓動だけが、かすかに響いた。
……それに応じるように、世界のどこかが、微かに脈打つ。

そして、リリアの唇が動き出した。

「――灰より生まれし礎よ。
時を超えて再び形をなせ。
崩壊の記憶を赦し、在りし日の調和を繋げ。
大地の脈動よ、我が指先の図面となれ……!」

風が巻き、魔力の線が走る。

「再構築魔法──リフォーム・インパルス!!」

地面が低く唸り、光が奔った。
瓦礫が宙へ舞い上がり、崩れた壁が逆再生のように組み上がる。
魔力の糸が空を縫い、世界の設計図が線を描き始めた。

「……あれ? なんか……思ったより反応が……」

足元の魔法陣が、ほんの一瞬だけ、脈を打つように明滅した。
……空気の密度が、わずかに狂う。
リリアの背に六枚の光翼が展いた。
それは祝福でも奇跡でもなく――創世神が目を覚ます前触れのようだった。

――その瞬間、世界が一拍だけ呼吸を止めた。

ドゴゴゴゴゴォォォン!!!!!

轟音と共に、天地が揺れた。
空気が熱を帯び、風が渦巻き、
光の柱が天へ突き抜けていく。

「り、リリア!? 何やったのよ!?」

セラフィーが悲鳴を上げる。

(わかるわけないだろ!! 俺は“軽く修復”って言っただけだぞ!?)

ブッくんが肩の上でばっさばっさ暴れながら叫ぶ。

「“軽く”って言ったやん!? どこが軽いねん!!
建設音、地鳴りクラスやでぇぇぇ!!!」

空気が一変した。
王都の上空に、理解不能な巨大魔法陣が展開し、
地脈がうねり、重力そのものが軋みを上げる。
街の影が裏返り、空気が光に変わった。
建物の輪郭が溶け、まるで“世界を編み直す”音が骨の奥に響く。

「ちょ、ちょっと待てぇぇぇ!!!」

ブッくんがリリアの肩でばっさばっさ暴れ回る。

「六翼出たら軽くちゃう!! 創世モード入っとる!!UIウィンドウに“地殻操作:ON”とか出とる!! 嫌な予感しかしないやつや!!」

ブッくんの声が一瞬だけ裏返った。

(いや待て、それ建築どころか地形レベルじゃねぇか!?)

「え!? OFFボタンどこ!? OFFボタン!!」

「無い!! “神界リンク中”や!! これ一度走ったらもう惑星設計フェーズや!!!」

「Ctrl+Z!?」
「効かん!!」
「Alt+F4!?」
「逆に俺らの命が閉じる!!」
「え、じゃあ……“神様ログアウト”ボタン!?」
「存在せん! ここログアウト不可ゾーンや!!」

光が閃き、次の瞬間――。
再び凄まじい轟音と共に、地面が浮き上がる。
瓦礫どころか、区画ごと、街並みごと──王都西区が丸ごと持ち上がった。

建物の残骸が光の帯に包まれ、
石畳がねじれながら空へとせり上がる。
遠くで鐘の音が反転し、鳥が空を下向きに飛んでいく。
空の色が銀に反転し、王都全体が“ひとつの魔導回路”として輝き始めた。
大地は脈打ち、雲が焦げる。
音すら追いつけない速度で、世界が浮上していく。

「うわあああああ!? 街ごと浮いてる!? え、これ浮遊都市!? っていうか“浮き過ぎ”!!」

「リリアぁぁぁ!! “軽く”の意味を辞書で引き直せぇぇぇ!!!」

「違う違う! 想定外の魔力共鳴が──わ、待って、制御がっ……!!」

光が爆ぜた。
空を突き抜け、雲が円状に吹き飛ぶ。
大地の鳴動が止み、ただひとつの音――キィィィン……と塔の骨組みを鳴らす余韻だけが残った。
その音が夜空の奥へ吸い込まれていく。

見上げたセラフィーが、呆れたように髪を押さえながらぽつりと言った。
余韻をなぞるように、風が一筋だけ抜けた。

「……まあ、空に家を建てるなら風通しは最高ね」

沈黙。
風が静かに流れ、塔の影が夜空をなぞる。
瓦礫がひとつ、からん、と落ちた音が、まるで“ツッコミの鐘”みたいに響く。

(いやいやいやいやいや!!
そういう“軽く”じゃない!!
軽く直すって言ったの!!
重力から解放しろとは言ってねぇぇぇ!!)

リリアの心の悲鳴が、王都全体にこだまして消えた。

翌朝。王都の空に、浮かぶ大陸の影。
子どもたちはそれを見上げて「また勇者様だ!」と歓声を上げ、
商人たちは「日照税、上がるな……」と肩を落とした。

翌朝、城下の広報板にはこう刻まれていた。

《速報:王都上空に“新大陸”出現──原因不明。担当者コメント「軽く直しただけ」》

……そしてその報告書の提出先が、“神界管理局・創世課”になっていることに、
この時のリリアはまだ気づいていなかった。

――どこかで、誰かが静かに書類をめくった。

……六枚の翼の記録欄に、黒い印がひとつだけ増えた。
それは、誰の許可もなく記された印だった。

――音もなく。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる―― ※他サイトでも掲載しています ※ちょいちょい手直ししていってます 2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

レベル1の地図士は、世界の裏側を知ってしまった

あめとおと
ファンタジー
異世界に転移した主人公が得たスキルは【地図作成】。 戦闘能力ゼロ、初期レベル1。 冒険者ギルドでは「外れスキル」と笑われ、 新人向けの雑用クエストしか回ってこない。 しかしそのスキルは、 ダンジョンの隠し通路、未踏破エリア、消えた古代文明の痕跡まで“地図に表示する” という、とんでもない能力だった。 生き残るために始めた地味な探索が、 やがて世界の秘密と、国家すら動かす大冒険へ――。 これは、 戦えない主人公が“冒険そのもの”で成り上がる物語。 同作品を「小説家になろう」で先行配信してます。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

処理中です...