『勇者リリアと迫り来る魔王の軍団』 Eden Force Stories II(第二部)

風間玲央

文字の大きさ
29 / 36

『第六話・3 : 共鳴の代償(レゾナンス・ペナルティ)』

しおりを挟む

「――《ネクロコード》、起動詠唱!」

「我、虚ろの境より呼ぶ。魂なき器よ、名を持たぬ空洞よ。
生の鎖を断ち、死の座標を繋げ。
夢を穿ち、現を貫け――
虚界と現界の狭間にて、我が意を媒とせよ。
命なきものに命の形を、息なきものに律の声を。
いま、境を越え、幻想を焼き払え!」

「――《ネクロコード》、発動ッ!!轟!!」

詠唱が終わった瞬間、リリアの胸を内側から焼くような衝撃が走った。  
血の気が引き、視界が一瞬かすむ。  
その痛みはまるで心臓に“焼き印”を押されたかのようで、息を吸うたびに胸の奥が軋んだ。  

同時に――空気が“符号”を帯びて震える。
見えない鎖のような線がリリアの胸から伸び、空間のひび割れへと滲み出していく。  
光でも影でもない黒白の文字列が宙を走り、世界の層を一枚ずつ剥がすように蠢いた。  

(……繋がった……!?)  

胸の奥で鼓動と符号が同期し、現実と幻想が擦れ合う音が響く。  
空気が歪み、匂いが二重に重なり、時間が一瞬だけ“逆流”した。  

「くっ……ぐ……!」  
リリアは胸を押さえ、膝をついた。  

「リリア!? やめなさい!! 幻界と現実世界の魂を結びつけるなんて、そんなの命を削ってるだけよ!!」  
セラフィーが悲鳴に近い声を上げる。  

「ぬいぐるみと心臓繋いで死ぬとか、狂った神話でも聞かないわよ!!」  

(……胸が……焼けてる……! 
でも……やめたら、ここで終わりだ……!)  

ワン太の得意技“ぱたぱた”が、痛みに合わせて不思議とリズムを刻み始める。  
それはまるで「一緒に戦う」と告げているかのようで、震える心臓に共鳴する鼓動のように響いていた。  

その瞬間、空気が反転した。  
リリアの胸から迸った符号が、光でも影でもない線となって宙を奔る。  
ワン太の瞳が金に染まり、その中で無数の魔法陣が裏返しに展開した。  

黒と白の符号が互いを求め合い、絡み合い、鎖のようにひとつへと収束していく。  
世界の層がわずかに軋み、音も匂いも歪む。  

魂と器が――つながった。
二つの鼓動が、同じリズムで打ち始める。

(うまく行った! 次行くぞ!)
そして、一人と一匹の声なき詠唱が二つの世界で重なる。

「――《レゾナンス・ブレイク》!起動詠唱!」

リリアが一歩踏み出し、胸に右手を当てる。
同じ瞬間、バッグの中のワン太も、まったく同じ姿勢を取った。
ふたりの動きが鏡合わせになり、光の線で繋がる。

 「響き合う幻よ、欺きの環を断ち切れ。
 虚ろなる鎖よ、世界を縛る枷を砕け!
 夢と現の共鳴よ、ここに絶て――」

「《レゾナンス・ブレイク》──幻を縛る鎖よ、砕け散れ!!」
その刹那、世界の膜が振動し、光の奔流が破裂した。

眩い光が、ワン太の胸から放たれる。
幻界の膜が軋み、空気が悲鳴を上げる。
その共鳴は空間そのものを裂き、
“甘美な幻想”を支えていた鎖を、音もなく解き放っていった。

その瞬間、甘味都市そのものが震撼した。
街路のショーケースが次々と砕け、タルトもプリンもミルフィーユも、砂糖煙のように崩れ落ちていく。
ケーキゴーレムも例外ではなかった。
チョコの鎧は溶け、スポンジの層は砂糖片となり、最後に残った黒い瞳もかき消された。

光が弾け、匂いが反転し、時間がひと呼吸ぶんだけ止まった。
そして――夢が終わるみたいに、すべてが溶けていった。

静寂が降りた。
世界が、まるで“現実”という長い眠りから目を覚ますように呼吸を取り戻していく。

気づけば、古書店の埃っぽい匂いが戻っていた。
積まれた本も、木の梁も、すべて元通り。
ただ一冊の古書だけが、まだリリアの掌に貼りついたまま、小さく震えていた。

「ぬ、ぬいぐるみが……魔法を……? そんなはず……」
セラフィーは信じられないものを見たかのように呟いた。

ワン太は何事もなかったようにバッグの中に座り、コトンと首を傾げて“ぱたぱた”と手を振った。
その仕草はいつもの愛らしさそのままに、どこか――ほんの少しだけ“人間くさかった”。

――けれどその胸の奥には、符号の疼きとともに、確かに“代償”の影が残っていた。
それは黒い痣のような印となって、じわじわと広がり続けていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...