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126 ~二人の想い~
しおりを挟むお父様にお願いしてお披露目を延期してもらい、今日は本を読んだり刺繍をしたりして過ごすことにした。
刺繍と言っても難しいものはまだできないので、ハンカチに縁取りの模様を刺すくらいだ。
自分ではそんなに不器用ではないと思っているのだけれど、世間のご令嬢方の刺繍の腕はかなり良いと聞いたことがある。貴族でなければ、お針子として働く子女が多いことを考えれば、最低でも『たしなんでいる』位の腕は欲しいのかもしれない。
けど…けど……である。
前世も今世も、好きな男の子に送る為必死に練習する女の子を見ていると、微笑ましいと思うこともあったけれど、かなりドン引きしたこともある。
何事も程々がいい……負け惜しみでなく、本当にそう思う。
「はぁ……。できたのは良いのだけれど、誰に渡そう。どう見ても、私が使える感じじゃない物を作っちゃった」
出来上がったハンカチをみてため息をつく。
集中して無心で刺していたつもりだったけれど、無意識にカール殿下……真純を想っていたようで…未練たらしい自分に少しうんざりもした。
今日で終わりにしよう。鏡を見てもう一度気合を入れ直す。
●○●○
夢から覚めてまだ数日。
みのりが王宮を出たという報告はないのに、みのりの気配が感じられない。
恐らく、今この王宮にいるミーリアはみのりではないのだろう。
あの空間で真咲に色々とお叱りを受けた。ホントに色々。
なので、目が覚めてすぐにみのりと話がしたかった。
けれど……。
「呆れて帰ってしまったのか……」
そう思うも、気になる報告も受けている。
ミーリア嬢は、父と妹との謁見の際にベールを被っていたと。
いつから被っていたのかは不明なのだけれども、少なくともあの魔力暴走の後からだということは確かだろうと思う。
今朝、自領へ帰る挨拶をしたいと、真咲………いやオネエサマから謁見の申し込みが来た。
本物が来るのか…はたまたミーリアに成りすました誰かがくるのか、全然見当が付かないが…もしかしたらこれが最後のチャンスかもしれない…そう思うと少し怖くなった。
「二度と会えなくなるのだけは嫌だな……っていうか、みのりの傍に兄貴が付きっ切りでいるのも嫌なんだけど」
誰もいない事を良いことに、好き勝手言ってみた。
前世も今世も、みのりの隣にいるのは自分でありたい。
自分勝手な言い分なのは十分承知した上で思う。
これから会う事で、その望みに少しでも近づければ…。
ただそれだけだった。
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