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43、母と息子と父の長い一日
しおりを挟む「いつまで私はこんなところに閉じ込められていなくてはいけないのかしら?」
ヒステリックに怒鳴り散らす母。
魔法の才も美貌も持つというのに野心が強く、あの優しい父を裏切り可愛い娘まで利用しようと企んでいた。
「母上、何を怒鳴り散らしているのですか?あまり騒ぐとお身体に障りますよ?今はただでさえ魔力を封されているのに……」
魔力を抑える拘束具に重ねて魔力封印結界の張られた部屋。
いくら侯爵夫人であっても、今は当主から沙汰を待つ身。
我が母ながら、もう少し大人しくならないものかと思う。
「早く私を王都へ帰しなさい!こんな……こんな所になどいられませんっ!」
先ほどより更にヒステリックに喚きだした母。
不慮の事故にて父母を亡くし、後ろ盾のない母を父が娶ったという。
父が娶らなければ平民に身を落としていたかもしれない身で、私と妹を産んだ後は役目を果たしたとばかりに王都にて好き放題。亡き祖父母に恨み言は言いたくないが、だいぶ甘やかしていたことだけは分かる。
そして父上……だいぶ放置し過ぎです。
今すぐにでもクチを塞いでしまいたくなる気持ちを抑えて、母に…この女に真実を伝える。
「母上……。母上が王都に戻ったとしても、もう母上の居場所はございませんよ。母上の愛しの方……で、よろしいかったでしょうか?ノートル公爵様は、先日急な病にて、王宮で身罷られました。残念ですが、母上が住んでおられた屋敷も人手に渡ったと聞きました。ですので……ここでゆっくり沙汰をお待ちください」
●〇●〇●
「もう少しだな……」
誰もいない執務室。
王宮の闇を司るこの場所は、扉一つ向こうに行けばなんてことはない王宮の文官が働く場所だだったりする。
長年、文官と諜報部を兼ねていたけれど、ここ最近のノートル公爵絡みの処理が終われば、表向きの文官長の職はやめることが決まっている。
「公爵と我が妻は、いったい何をしたかったのだろうな……」
整合性のない二人の行動。考え。
第二王子を継承争いから下ろしたかっただけであれば、王子が公爵令嬢と婚約破棄した時点で目的は果たしているのだが……公爵が自ら毒を呷った今となっては、真相は闇の中。
妻は、ただただいいように使われていただけなのだろう。
そして、娘のジュリエッタも危うく……。
「まぁ、あの子には貴族社会は向いていないようだし……」
先日モックの街で冒険者になった娘を見たけれど、元令嬢とは思えない馴染みかただった。
案外冒険者に向いているのかもしれない。
文官を辞めたらこっそり会いに行ってみよう。
楽しみを鼻先にぶら下げて、文字通り馬車馬の如く働くのももうすぐ終わる。
後味の悪い…シュタイン侯爵家にとっては世間体の悪いことばかりだけれど、あの息子なら大丈夫だろうと思い、残っていた書類に手を伸ばす。
(あぁ…………早く帰りたい………)
シュタイン侯爵の長い夜はまだ始まったばかりであった。
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