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44、お母様という名の人間
しおりを挟む朝食を作りながら、最近ようやく口調に貴族っぽさが抜けて来た気がするなぁ~と喜んでいたら、リビングからジト目で、マリーさんに『慣れすぎです』なんて言われてしまった。
昨日、このひと月貴族令嬢の護衛でモックを留守にしていたマリーさんが帰ってきた。
さっき少しだけ、私がいなくなってからの王都の様子を聞いたら、色々と大変なことになっていたようだ。
そして、城の使用人のあいだでは、第二王子がクーデタを起こそうとしていたとか、色々なうわさ話が飛び交っているそうだ。
「本当のとこは?なんて聞いても分からない……のかな?」
おずおずと聞くと、護衛で王城に行った際に聞いたくらいの情報しかないらしく、根掘り葉掘り聞くわけにもいかないので、あくまでも井戸端会議的な話ばかりだそうだ。
けれど、はっきり分かっていることもあるそうで、ノートル公爵が王宮にて服毒自殺したこと、第二王子は王位継承権剥奪の末、今は幽閉されているということ。
そして母は……ジュリエッタの母はノートル公爵との共謀罪の為、沙汰が出るまでシュタイン侯爵領にて幽閉中だそうだ。
「お父様とお兄様……は?」
妻が罪を犯したとなれば、貴族であればその罪は家にも及ぶ。
けれど、シュタイン侯爵家自体には罰が与えられることはなかったらしい。
しかし、お父様はお母様の監督責任をとり文官長の任を辞したとのことだった。
そしてお兄様は……。
「ウワサの域を出ていませんが、王命が下り、実の母親に沙汰を下さなければいけないようです。それが罰だと……」
実の母親に罪を犯した罰を下す。
多分恐らく、普通であれば醜聞であり、一方ではお涙頂戴のドラマにでもなりそうだけど、お兄様がお母様に掛ける情はきっと、私が思うよりずっと少ないであろうと思う。
普通の貴族であれば、王城に出仕する夫の代わりに妻が領地に残り領地経営を行う。
直接差配しなかったとしても当主代理になりえる存在なのだから、貴族家のご婦人方の多くは領地にいるのが普通だ。けどお母様はそれさえもせず、私が生まれた翌年には領地を出た。
「もうね……一緒にいた記憶がないから私にとっては ” お母様 ” という名前の人なの。薄情なようだけど……」
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