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プロポーズ大作戦 3 side:夏樹
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津村夏樹。
戸籍上は前の夏に20歳になったばかり。
20年前、今の勤務先の孤児院の入口に捨てられていたらしい。
身元を表す物は当然身につけておらず、肌触りが良いけど、あちこち汚れ擦り切れたおくるみに包まれ、首には黒い石がはまったシンプルな指輪が掛けられていただけだと、拾ってくれたばあちゃんに聞いた。
孤児院には…私みたいに親がいない子がいっぱいいたけど、私みたいに記憶もおぼつかない年齢の頃に捨てられた子はいなかった。
事故で家族が亡くなって身寄りがなかったり、大人からの暴力から逃げてきた子。
時々、置き去りにされたりして、児童相談所から来る子もいる。
ここに来る子はみんな同じなのよ…と周りの大人は言うけれど、違う。同じじゃない。
だってみんな名字がある。
名字があるって事は、今はいなくても、家族がいたっていう印だ。
私にも「津村」って名字があるけれど…
これはばあちゃんの名字だ。
戸籍も何もない...無い無い尽くしの私に"便宜上必要だから"つけただけだって、孤児院で働く大人に、小さい頃言われた。
大人になると社会の仕組みや制度上、必要な物だし、便宜上っていうのも解る。
けど、あの当時は傷ついたのだ。
まだ小学校にも行っていない子供だったけれど…"便宜上"という難しい言葉の意味は理解できなくても、なんとなく「しょうがないから」という意味に聞こえる。
泣きたくて、でも人のいる所では泣きたくなくて、孤児院の隣のばあちゃんの家、誰もいない縁側で泣いていたら、金髪の女の人が来た。
「あなた、津村さんのとこの子?」
用事があって来たのだけれど、誰もいないから帰ろうかと思ったのだけど、泣き声が聞こえたから来てみたのだそうだ。
金髪の女の人は、まだ小さい男の子をベビーカーに乗せていた。
お母さんは金の髪なのに、この子の髪の毛は綺麗な銀色だった。
「ねえ、どうして泣いていたの?」
暇なおばちゃんの話相手になって欲しいと言われ...泣いてた理由をポツポツと話した。
こんな子供の言うことを、真面目に聞いてくれた彼女は、一言ポツリと言った。
「私と一緒ねぇ~」
この人も孤児だったのだろうか?
そんな事を思っていると、自分の名字も津村なんだと...記憶が無くて、ばあちゃんに身元引受人って言うのになってもらって生活してるって教えてくれた。
でも、結婚って言うのをして、家族ができたんじゃないかと聞いたら、寂しそうに呟いていた。
「どこにいるんだろうね…その人は」
あとであの女の人の事を、おばあちゃんに聞いた。
あの子の事も。
だから決めたのだ。
同じ津村なら、家族になれば良いんだ。
あの子のお姉ちゃんになって、守ってあげるんだと。
それから数年...
あの時決心した"お姉ちゃん"は旅に出てしまったかの如く、見る影もない。
人見知りで友達がなかなかできない自分。
年下だけどしっかりした、女の子にモテるあの子。銀色の髪のカイト。
高校卒業したあと、孤児院を出なくてはいけない私に、孤児院の仕事をやればいいんじゃないかとアドバイスをくれた。
分かっているのだろうか?
ここを離れたくない、もうひとつの理由が。
●〇●〇●
「夏樹?今までの話を聞いた上でもう一度言うよ。オレと結婚してくれないか?」
昨日、色々あった。
ホント色々。
嫌われているわけじゃないけど、きっと家族ぐらいにしか思われていないんじゃないかと思っていたカイトにプロポーズされた。
いきなり。
"彼女"をすっ飛ばし、"恋人"をすっ飛ばし"結婚"って...。
マリさんの記憶が戻って...なんだかファンタジーな話があって、プロポーズ。
私が天涯孤独だから、異世界に連れて行っても支障がないと思ったのか、それとも...家族がいない私に同情して...だと思ったら、ちょっと胸が痛かった。
それでも良いかも...と思いながら…でもやっぱり確認したくて聞いてみた。
そしたら...
好きだって...ずっと好きだったって。
戸籍上は前の夏に20歳になったばかり。
20年前、今の勤務先の孤児院の入口に捨てられていたらしい。
身元を表す物は当然身につけておらず、肌触りが良いけど、あちこち汚れ擦り切れたおくるみに包まれ、首には黒い石がはまったシンプルな指輪が掛けられていただけだと、拾ってくれたばあちゃんに聞いた。
孤児院には…私みたいに親がいない子がいっぱいいたけど、私みたいに記憶もおぼつかない年齢の頃に捨てられた子はいなかった。
事故で家族が亡くなって身寄りがなかったり、大人からの暴力から逃げてきた子。
時々、置き去りにされたりして、児童相談所から来る子もいる。
ここに来る子はみんな同じなのよ…と周りの大人は言うけれど、違う。同じじゃない。
だってみんな名字がある。
名字があるって事は、今はいなくても、家族がいたっていう印だ。
私にも「津村」って名字があるけれど…
これはばあちゃんの名字だ。
戸籍も何もない...無い無い尽くしの私に"便宜上必要だから"つけただけだって、孤児院で働く大人に、小さい頃言われた。
大人になると社会の仕組みや制度上、必要な物だし、便宜上っていうのも解る。
けど、あの当時は傷ついたのだ。
まだ小学校にも行っていない子供だったけれど…"便宜上"という難しい言葉の意味は理解できなくても、なんとなく「しょうがないから」という意味に聞こえる。
泣きたくて、でも人のいる所では泣きたくなくて、孤児院の隣のばあちゃんの家、誰もいない縁側で泣いていたら、金髪の女の人が来た。
「あなた、津村さんのとこの子?」
用事があって来たのだけれど、誰もいないから帰ろうかと思ったのだけど、泣き声が聞こえたから来てみたのだそうだ。
金髪の女の人は、まだ小さい男の子をベビーカーに乗せていた。
お母さんは金の髪なのに、この子の髪の毛は綺麗な銀色だった。
「ねえ、どうして泣いていたの?」
暇なおばちゃんの話相手になって欲しいと言われ...泣いてた理由をポツポツと話した。
こんな子供の言うことを、真面目に聞いてくれた彼女は、一言ポツリと言った。
「私と一緒ねぇ~」
この人も孤児だったのだろうか?
そんな事を思っていると、自分の名字も津村なんだと...記憶が無くて、ばあちゃんに身元引受人って言うのになってもらって生活してるって教えてくれた。
でも、結婚って言うのをして、家族ができたんじゃないかと聞いたら、寂しそうに呟いていた。
「どこにいるんだろうね…その人は」
あとであの女の人の事を、おばあちゃんに聞いた。
あの子の事も。
だから決めたのだ。
同じ津村なら、家族になれば良いんだ。
あの子のお姉ちゃんになって、守ってあげるんだと。
それから数年...
あの時決心した"お姉ちゃん"は旅に出てしまったかの如く、見る影もない。
人見知りで友達がなかなかできない自分。
年下だけどしっかりした、女の子にモテるあの子。銀色の髪のカイト。
高校卒業したあと、孤児院を出なくてはいけない私に、孤児院の仕事をやればいいんじゃないかとアドバイスをくれた。
分かっているのだろうか?
ここを離れたくない、もうひとつの理由が。
●〇●〇●
「夏樹?今までの話を聞いた上でもう一度言うよ。オレと結婚してくれないか?」
昨日、色々あった。
ホント色々。
嫌われているわけじゃないけど、きっと家族ぐらいにしか思われていないんじゃないかと思っていたカイトにプロポーズされた。
いきなり。
"彼女"をすっ飛ばし、"恋人"をすっ飛ばし"結婚"って...。
マリさんの記憶が戻って...なんだかファンタジーな話があって、プロポーズ。
私が天涯孤独だから、異世界に連れて行っても支障がないと思ったのか、それとも...家族がいない私に同情して...だと思ったら、ちょっと胸が痛かった。
それでも良いかも...と思いながら…でもやっぱり確認したくて聞いてみた。
そしたら...
好きだって...ずっと好きだったって。
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