【完結】異世界召喚されたのはこの俺で間違いない?

苔原りゐ

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突然の来訪者

「……誰かしら?」

エリザが眉をひそめて立ち上がる。リリはスプーンを握ったまま動きを止め、不安げに母親を見上げた。

エリザが扉に向かおうとした瞬間、俺は思わず声をかけた。

「誰か訪れる予定でも?」

「いいえ、こんな時間に来るなんて珍しいわね。もしかしたら、近所の人が何か急ぎの用事かもしれないけど……。」

エリザは言いながら、慎重に扉の方へ向かった。ノックの音は相変わらず規則的で、しかしどこか緊迫感がある。

俺は胸騒ぎを覚えながらも立ち上がり、エリザの背後に回る。エリザが扉を開けると、そこにはフードを深く被った見知らぬ男が立っていた。顔は影に隠れて見えないが、光の無い瞳だけがこちらを鋭く見据えているのが分かる。

「こんな夜分にすみません。少しだけ時間をいただけますか?」

その低く落ち着いた声にはどこか冷たさがあり、俺の警戒心を一層高めた。エリザも緊張した様子で応える。

「どういったご用件でしょうか?」

男は少し沈黙してから、静かに口を開いた。

「ここ最近、この辺りで珍しい旅人を見かけたと聞きました。その人について何かご存知ないでしょうか?」

エリザはちらりと俺に視線を送るが、すぐに冷静な表情を取り戻して答えた。

「旅人は珍しくありませんよ。何か問題でもあるのですか?」

「ただ、確認したいだけです。」

男は短くそう言うと、少しだけ身を乗り出し、俺を睨みつけるように見た。その瞬間、背筋に冷たいものが走る。

「彼がそうですか?」

エリザは一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに穏やかな声で答えた。

「彼は薬草を届けに来てくれた人です。あなたの探している人とは関係ないと思いますが。」

男はしばらく黙って俺を見つめた後、フードの中で小さく頷いた。

「そうですか……。それなら良いのですが、念のため気をつけてください。最近この辺りはですから。」

そう言い残して、男は再び静かに夜の闇へと消えていった。扉を閉めたエリザが深いため息をつきへたり込む。

「こういうの苦手なの......。」

その光景を見て、俺は何も言えなかった。ただ、男が残していった一言がどうしても頭から離れない。

「物騒」という言葉の裏には、何か大きな問題が隠されている気がしてならなかった。

扉が閉まる音が家中に響いた後も、部屋の中には静寂が続いていた。リリは不安そうにエリザに近づき、袖を軽く引っ張る。

「お母さん、あの人怖かった……。」

エリザはぎゅっとリリを抱きしめ、優しく背中を撫でながら言った。

「大丈夫よ、リリ。お母さんがいるからね。」

その言葉に、リリは少し安心したようだが、俺の方を見てぽつりと言った。

「おじさんも怖かった?」

突然の問いに、俺は苦笑しながら答えた。

「そうだな……ちょっとだけな。でも、リリが作ったパンを食べたら、そんな気持ちも吹き飛んだよ。」

その答えにリリは小さく笑い、エリザもほっとしたように微笑んだ。

しかし、エリザの顔にはまだどこか緊張が残っているように見える。俺はリリが再び席に戻るのを確認してから、声を潜めてエリザに尋ねた。

「さっきの男、何者なんだ?」

エリザは一瞬言葉を飲み込んだようだったが、小さな声で答えた。

「わからないわ。でも、最近村の外れで奇妙な噂を聞くの。何かがうろついているとか、誰かが行方不明になったとか……。」

「何かって?」

「それがはっきりしないのよ。ただ、町の人たちも怯えているわ。」

エリザの声には確かな不安が混じっていた。それを聞き、俺の胸の中にも不穏なものが広がっていく。

「最近この辺りは物騒ですから――そう言ってたな。」

俺が呟くと、エリザは静かに頷いた。

「ええ。でも、あの人たちが何を考えているのか、私にはわからない。」

「他にもああいう奴がいるのか?」

「そうね……複数人で動いているらしいという話は聞いたわ。」

話が途切れたその時、リリの元気な声が響いた。

「おじさん、もう怖い話はおしまい!リリが守ってあげるから!」

リリは腕を大きく広げ、まるで自分がヒーローであるかのようにポーズをとった。その姿に、エリザも思わず吹き出し、俺も肩の力が抜けた。

「頼もしいな、リリ。じゃあ、おじさんのことよろしく頼むよ。」

「うん、まかせて!」

しかし、胸の奥底ではまださっきの男の影がこびりついて離れない。

俺は一つの決意を固めた。この町に何が起きているのか、確かめる必要がある。俺自身も何者かに追われている可能性を否定できない以上、ここに居続けるわけにはいかないのだから――。
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