観測禁止区域―亡者が見える少女は境界を越える―

むーんしゃいん

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境界を歩く日常

001 危険域管理ギルドでの朝

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 外の春の陽気が、帝国の危険域管理ギルドに差し込み、
ダイニングテーブルのグラスを鮮やかに照らしていた。

 肩まで伸ばした白髪、濃い光の無い白い瞳。
客のいない席で座るクロエは、行き交う案内人の装具を無言で観察していた。

――痛い。頭の奥が鈍く脈打つ。

視線は確かに捉えているが、誰も彼女の世界には入れないような距離感があった。

 クロエは、革袋から蒼い金平糖のようなものを取り出し、
慣れた手つきで口に入れる。
 味はない。体内の魔力を保つための、いつもの薬だ。

 じわりと頭痛が引いていく。
代わりに重たい眠気が残る。クロエはあくびを漏らした。

 袋の中身は、もう三つしか残っていない。
――また魔導ギルドに行く羽目か。

 受付には、王国側へ向かう列がゆっくりと伸びていく。

 受付嬢リオがこちらに来い、と手招きして呼んでいる。

「リオさん。何か用ですか?」
「クロエさん。冒険者ギルドからのパーティーを案内したことは?」
「ないです」
 リオが整った眉をひそめる。
「あそこに座っているパーティーが王国に行きたがっているんです」
「それなら、何人かで小隊組めばいいのでは?」
「案内人一人だけを所望しています」
 クロエはL字席に浅く座って談笑している四人を一瞥する。
 
 彼らの装備は清潔で傷一つない。 

――新米の世話か。また面倒な…。

「埋め合わせはしてもらいますよ…」
 
「分かってるって。いつも、ありがとうね」
 リオの返事は軽い。

 リオは、クロエに書類を差し出す。
クロエは書類を見つつ、書類の縁をなぞる。

――外縁帝国ルートの巡視をたった三日間?
 クロエに違和感が生まれる。

 リオは席を離れ、パーティーに近づき、クロエも追随する。
四人へ事情を説明し、クロエも書類を手に持ち、その後ろで話を聞いていた。

 リーダーの剣士レオンがクロエに深々とお辞儀をする。
「クロエさん、よろしくお願いします」
クロエも深々とお辞儀を返す。

 盾戦士ガルドは、椅子の背にもたれ、短く息を吐いた。
「…あーあ、手間ばかり増える」
 クロエをじっくり見ようとすらしなかった。

 回復術師ミリナが盾戦士ガルドとクロエに目配せをした。
「まあまあ、ガルドさん。案内人さんがいれば心強いですよ…あはは…」
 ミリナの顔は困ったように少し眉をひそめる。

 魔導士シオンがクロエの顔を見つめている。
「…どこかで見た顔だな?」

 クロエは肩をすくめた。
「どうでしょうか?」
そう言い切る声だけが、わずかに硬い。

「運ぶのは三回分の食料でいいのですか?」
 クロエは確認するように言った。
「そうですがなにか?」
 リーダーの声は軽い。
「帝国ルートでは最短で三日です。ですが――」
 言葉を選ぶ。
「通常は十日を見ます」
 一瞬だけ、空気が止まった。
 だが、
「安い乾パンでいい。それだけあれば十分だ」
 あっさりと返された。

――経験のない者ほど、あの地を軽く見積もる。

「そうですか」

クロエはそれ以上は言わなかった。
届かない確信は、何度も見てきた。
帰らなかった者も。

「では、一緒に買い出しに行きましょうか」

クロエが感じる、魔力の流れはわずかに濁っている。
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