観測禁止区域―亡者が見える少女は境界を越える―

むーんしゃいん

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境界を歩く日常

002 偶然の再開

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 五人は前線都市エルガストの露店街を歩き、食材を選んでいた。

 ――五人分三日。足りるか。足りない。

「クロエさん、安い店はないのか?」

 リーダーのレオンが、財布と商品を交互に見ている。
困惑が、わずかに肩の緊張として現れていた。

「大量注文なら値は下がるのですが」
 クロエが最安値の露店で足を止める。

 一日一人の目安で、魔導乾パン二枚。肉ジャーキー三枚。干し果物一握り。
漬物瓶詰一瓶。
 乾燥パンが二枚で五銀貨iC。肉ジャーキー三枚が十五銀貨iC
値段はすでに頭に入っている。

店主のリドがクロエ一瞥し、他の客と会話を続けている。

「ちなみに予算はいくらほどですか?」
 クロエはレオンにこっそり尋ねた。

「五金貨でどうだろ」
 五百銀貨iC。三日なら十三金貨iGが相場だ。
――足りない。計算の中でクロエの頭が軽く警告する。

――なんで、この人たち。ここまでお金がないんだ…。

 肩をすくめるだけで、言葉はいらない。目に見えぬ計算と経験が、クロエの内側で瞬時に回る。

「今回だけですよ」

 自身の財布から五銀貨を出す。

「リドさん。これで五人分十金貨でお願いできませんか?」

「三日分を十金貨か。んーん…出来ない事はないが、厳しいぞ?」
 クロエは店主リドの耳元に口を近づけた。

「彼らには良い経験になるのではないでしょうか」
 クロエは少し口角を上げる。リドは目頭を押さえ、苦笑した。

「クロエちゃんはいい子だな」

 だがその瞬間、隣の客が同じ乾燥パンを奪い取ろうと手を伸ばす。  
 クロエは軽く咳払いし、視線を送るだけでその手を止めさせる。  
 店主は微かに顔をしかめる。  

――経験と威圧は、金よりも強い。

 背後の人々は気にせず談笑しているが、クロエはほんのわずかに、空気の重さを感じていた。

 その時、なじみの声が耳に届く。

「クロエ!」

 声の方を見ると、露店の間をすり抜けて、小柄なシェルパ仲間の少女が手を振っていた。金髪に濃い緑色の瞳。背負子には薬草と乾物が小分けに詰められている。

「エリナ…?」
――偶然か、それとも必然か。  
クロエは胸の奥で微かに、懐かしい感覚を覚えた。

「偶然だね。前線巡回?」

 エリナは荷物のバランスを軽く調整しながら、クロエに視線を送る。

「そうだよ。三日分の補給を用意していてね」
 言葉は短く、事務的だ。
 だが、目は微かに柔らかい。

 エリナは小さく笑った。
「そっか…じゃあ、私も手伝おうか?」

 クロエは首を横に振る。
「大丈夫だよ。すぐ終わるよ」

「エリナさんは、もう上がりですよね?」

「そうだよ。危険域の天候は良かったし。ただ、悪化する予想は出てるよ」
 だが、心のどこかで、この出会いが後に何かを帰るかもしれない。と
わずかに意識した。
「でも、大丈夫!明けない夜はないんだよ」
 エリナは、自信満々に胸を張る。

「じゃあ、またね。気を付けてね」
 エリナは背負子を軽く揺らし、露店街の人混みに消えていった。

 リドを待っている間、しびれを切らせた四人は各々露店を見ている。
クロエも、新しいハチェットに視線を送る。
「これ可愛い」
 ミリナが土産物店の銀細工のイヤリングを見ている。
 シオンも華奢な指先でイヤリングをいじる。

 レオンがミリナたちの様子を見て近づく。

「おれが買ってやるよ」

 クロエの瞳孔がわずかに開く。

「いいのですか?」
 レオンは胸を張って、財布から二金貨を払った。

――士気高揚のためとは理解はしている。

「クロエちゃん。用意できたぜ」

 店主のリドがクロエを呼び、背負子に荷物を積み込む
クロエはさほど力を込めず、背負子を担ぐ。

「それとこれ持っていきな」
 店主リドがクロエに蜂蜜漬け果実の小瓶を手渡す。

「リドさん。悪いよ」
 
「いいんだ。ただ約束してくれ」

「あいつらに食わせてやるなよ」
 クロエは、息を吐き苦笑する。
――このままでは全部持っていかれる。そういう意図なのだろう。

「約束します」

――三日で収まるか。通常の十日分の補給を考えると、何かが狂う気配がする。
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