ちょっと嫌な話 ~奇妙短篇集~

黒猫文二

文字の大きさ
14 / 15

事故物件のバイト

しおりを挟む
 夏休みが始まってすぐに遊びすぎて金欠になった俺は、サークルの先輩から紹介されたアルバイトをすることにした。

 俺の入っているサークルというのはオカルトサークルで、そのオカルトサークルの先輩の親戚が雇い主だ。
 アルバイトの内容は雇い主から指定された家に一週間住むというもので、その家というのが過去に自殺や殺人事件があったと言われる「事故物件」というやつだ。

 普通は、不動産屋やオーナーが所有する事故物件に雇った人間をしばらく住まわせることで、賃貸や売却する時に事故物件であるという報告義務がなくなるからとかで行うものらしい。
 だが、今回はちょっと事情が違った。

 先輩の親戚はかなり変わったお金持ちの人で、実際に幽霊が出てくるのかを確かめようとわざわざ事故物件を購入したそうだ。
 それで元々は、その親戚の人と先輩の二人で一週間住んでみて何かが起こるのかを確かめようとしていたらしい。
 そこに俺が、良いバイトがないか相談にやって来たので「その子一人にやらせてみようか」となったそうだ。
 なんでも、あまりそういう現場に慣れていない俺みたいな奴のほうが霊も出てきやすいんじゃないかという理屈らしい。


 と、言うわけで俺は今、その事故物件の前にいる。

「うっわ~、いかにもそれっぽいな……」

 俺は古びた一軒家を見てそう言った。
 ここに来て少しびびってきたが勇気を出して家の中に入った。
 中は住めるように軽く掃除をしてあるからか、思ってたよりも綺麗だ。
 荷物をおいて見て回っていると、ひとつの部屋に「現場はここ」という張り紙が貼ってあった。
 先輩たちが目印に貼ったもののようだ。
 なんでも、前に住んでいた男性が首吊り自殺をしたそうだ。
 この部屋にはあまり近づかないでおこう。

 ガサガサ

 まだ見ていない部屋から物音がした。
 気になって確かめようとした所で、

ドンドン

と玄関のドアを叩く音がした。
 先輩だろうか?
 先輩がカメラを設置しにやって来るのは明日だと聞いていたので、今日は荷物を置いてのんびり過ごすつもりだったのだが。
 そう思ってドアを開けたが誰もいなかった。
 聞き間違いだったのかと思って家の中に戻ると、またもやさっき音がした部屋から音がする。
 ふすまを開けて部屋の中を見ると、大きな押し入れがあるくらいで他には何もない。
 すると、今度は天井からバタバタと物音がした。

(あー、ネズミだな)

 古い家だし、ネズミの一匹や二匹いてもおかしくはない。
 田舎の実家も古い家で、天井裏をネズミがよく走っていたんだよな。
 と、懐かしい気持ちになった所で時間を見るともう夕方だ。
 明日に備えて今日早めに寝よう。
 それから俺は、買っておいたビールやジュースを冷蔵庫に入れてからシャワーを浴びて、冷えたビールを飲んでからコンビニ弁当を食べて、先輩に軽い報告をしてからスマホゲーをやったりYouTubeを観てから寝た。


 ――翌朝。
 起きてからなにか妙にくさい。
 顔もベタベタしていて気持ち悪い。
 あまりにも気持ち悪いので顔を洗ってからエナジードリンクを飲んで、シャワーを浴びた。


 先輩は昼前にやって来た。

「なんかにおうな、ここ」

 そう言いながら先輩は慣れた手つきでカメラを設置していく。
 まずは、予め目星をつけていた首つりの部屋。
 それからは、俺がネズミがいると言った押し入れのある部屋。
 最後に俺が布団を敷いて寝ている部屋。
 寝顔を撮られるのは恥ずかしいが仕方ない。

 それからしばらくは先輩と談笑して過ごして、先輩が帰った後は昨日と同じくダラダラと飲んで遊んで寝た。


 ――翌朝は昨日起きた時よりもひどかった。
 くさいだけじゃなく、口の中にも苦い味が広がっていた。
 とりあえず、顔を洗ってから念入りに歯磨きをした。

 今日も昼前に先輩がやって来た。
 設置していたカメラの映像を確かめるためだ。

 そこには、昨日の俺が寝る前から起きるまでの間の出来事が記録されている。

 まずは本命である首つりの部屋の映像から観ていく。
 しばらくは何も起こっていないいつも通りの風景が続いていたが、途中で先輩が声を上げた。

「なんだこいつ!?」

 映像の中では、中年のようでいて老人のようにも見えるが部屋の間を行き来していた。

「幽霊! いや、でも……」

 そのおばさんは、幽霊にしては実在感があった。

 次に俺が寝ていた部屋の映像を観てみると、最初は寝床に入った俺が酒が入っているのもあってグッスリ眠り始めている様子が映し出されている。
 しばらくすると、おばさんが俺の近くにやってきた。
 そして、自分の顔を俺の顔に近づけて舐めたりキスをしたりしていた。
 朝、起きた時の不快感の正体がわかって吐き気がしてきた。

 というかあのおばさん、そもそも一体全体どこから入ってきたのだろうか?

 その答えは、次に押し入れの部屋のカメラの映像を確かめた時にわかった。
 おばさんは押し入れから出てきていた。
 恐らく普段は押し入れの天井から天井裏に入って過ごしているのだろう。
 俺がネズミだと思っていた物音は見知らぬおばさんのものだった。
 先輩と顔を合わせてから押し入れの部屋の方を見ると

ドンドン

と玄関のドアを叩く音がした。
 先輩と二人でドアを開けてみたが誰もいない。
 すると、押入れの部屋の方から

ドスドスドス

とこちらに向かってくる音がした。
 その瞬間、先輩と俺は急いで外へ逃げて警察に通報をした。
 警察官が家の中を確かめてみると、包丁を持ったおばさんがウロウロしていたらしい。
 おばさんが何者なのかはわからない。
 ただ、警察が言うには天井裏の様子からしてそれほど前から住んでいたわけではなかったらしい。
 多分、俺が住み始める少し前くらいに忍び込んで住みついたようだ。
 そこにタイミング悪く俺がやって来たので天井裏から様子をうかがっていたのだろう。

 幽霊は映らなかったが、それより恐ろしい人間の姿が映し出されたのであった。
 なんて思っていたら先輩がこんなことを言った。

「そういえばあの時、玄関のドアを叩いたのは誰だったんだろうな」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/25:『がんじつのおおあめ』の章を追加。2026/1/1の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/24:『おおみそか』の章を追加。2025/12/31の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/23:『みこし』の章を追加。2025/12/30の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

残酷喜劇 短編集

ドルドレオン
ホラー
残酷喜劇、開幕。 短編集。人間の闇。 おぞましさ。 笑いが見えるか、悲惨さが見えるか。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...