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2話
しおりを挟む現在、僕は22歳、カインは17歳に成長した。
その間、僕はカインに自分が知っている勉強を教えこみ、無事学校に入学させることができた。
この世界の歴史や、礼節、マナーや貴族社会の事については全く知識がない。学校に行ってちゃんとした礼儀を教えてもらわなくては、これから先が困ってしまう。
僕は貴族社会なんかに用事はないから、学校に行かなくても何とかなるが、カインは違う。これからこの国の王子と、重鎮と一緒にこの国を背負って行くのだから。
カインの子守りと、母の世話をしながら、日雇いの仕事をこなしつつ、貯金を貯めてきた。時には魔法を使ってズルをしつつ、カインの入学資金をなんとか用意出来た5年前。カインなら、実技、筆記ともに問題はないから、お金だけが問題だったのだ。ギリギリになってしまったが用意出来た時は安心して腰が抜けかけた。この学園入学が物語のスタートのスタートになるのだから。
しかし、入学試験も突破し、晴れて学園生となったカインを見た時は親心が出て、涙が出たほどだ。学園生活では貴族の子息子女も一緒の空間にいるから、時にはいびられもしたらしいが、カインの愛くるしい容姿とハッキリとした性格のおかげで、友達も出来たようだし、学園生活を楽しめているようだ。
学園ではカインと同い年の王子も入学している。しかし、方や国の王子、方や平民出のせいで、今まで関わりがなかった。今年17歳と学園生は卒業する年になるのだ。卒業に向けて、今後の就職先を見つけていかなくてはならない。職業先の希望と、実力の確認、適正度を見るため、この時期は色々と試験が本格化している。この試験の最中に王子に実力を認められ、性格も合い、側近への道が開かれる。
そして、同時期に物語の僕ニヴェンがいじめをエスカレートさせていく。根拠のない誹謗中傷を広め評判を落とし、悪漢をけしかけ傷物にさせたりと、思いつく限りのことをしていく。
物語の僕はスラム街の重役についており、ある程度の権力が使える。弟が学園に入学し、陽の当たる道を進んでいる事ですら癪に触るのに、王子の側近だなんて認めない、と言わんばかりである。同じ環境で過ごしたのに、差が開いていくことに対して焦りを感じ、嫉妬し、僻んでいく。
物語のニヴェンは長身のスレンダーな体つきをしている。多少腕に覚えもあるが、基本は不意打ち、できなければ逃走という、タチの悪い戦い方をする。魔力もあり、少し使えるが、それも生活魔法が少しだけ。子供だましのようなことしか出来ない。
そして、同じく物語のカインは身長があまりない。平均の少し下だ。しかし、雰囲気は変わらず、愛くるしく活発な感じだ。カインの方も栄養状態が悪かったことから、痩せている。そのため、身長も伸びなかったのではないかと思う。しかし、そのコンパクトさを生かした戦い方をする。すばやさは誰にも負けず、スピードにのってそれなりに思い一撃を急所に食らわす。先手必勝の戦い方をする。
ここで問題なのが、体つきの違いだ。リアルの僕達は身長差がまるで逆。カインは体が立派に成長し、この世界でも有数の長身保持者である。それに対して僕は身長が伸びなかった。物語の矯正力で少々ご飯を食べなくてもちゃんと成長すると思っていたんだ。まぁでもこれで、物語は絶対じゃないという事が証明できたし、結果オーライなはずだ!うん、強がりじゃないぞ!
今ではカインの方が大きい。もう学園入学するときには同じ身長だったから追い抜かされるのは目に見えていた。わかっていても今更ご飯の量を変えようとは思わなかった。だってひもじい思いさせるのは可哀想ではないか。僕だって、少食のせいで胃が小さいのか少量でお腹一杯になってしまうんだから。それならカインがたくさん食べて笑顔でいてくれる方が何倍も価値のあることだ。カインの笑顔は日々の活力です。
そういうわけで、身長は大人と子供。僕の目線の先にはカインの逞しいシックスパックが見えるのである。甘いフェイスでありながら、この逞しい体つきは羨ましい。カインは物語と変わらず、素早さを武器にしているようである。それに加えて、筋力もついたから一撃が重くもなり、敵を屠る能力を持っている。
そして劣悪な環境のお陰か危機管理能力は僕並みだ。僕はトラップや魔法を使い、セキュリティを整えて来た。前世の科学力と魔法のハイブリットである。カインには僕の知っていることを何でも教えて来たお陰で、魔法にも僕以上に使えるようになり、今では魔法剣士である。智・技・体をバランスよく、極めて来た。
学園では智謀策略が渦巻くため、下手な貴族に弱みを握られたり、政略の駒にされないように過ごすことができたようだ。
まだ、入学当初のカインは幼さを含んでいたため、可愛らしさ全開だった。カインの可愛さに頭をやられ、変態さんになる人が続出した時にはこまったものだった。学園があそこまで腐界にのまれていたなんて……罪深い……
その変態さんにも遅れを取らずに対処できたようで安心した。一緒に学園の膿を全て出して綺麗サッパリしてもらった。僕はちょっとしたツテをつたって、手助けしただけだよ。
ほとんどカインの力で問題解決した。正直僕も過保護すぎて、手出ししなくても大丈夫だったかな、なんて思っちゃったりもしたけど、早く平和になることには構わないよね!
話が脱線しまくってしまったが、カインと王子たちの出会いだ。
カインはその才能溢れる能力を出し惜しみすることなく十全に発揮でき、王子のお眼鏡に無事叶うことができたのだ。
その出会いは王子が学園の外に課外授業に出た際に行われる暗殺計画である。カインはグループは違えど、同じ時期に同じ場所で王子たちと同じ空間で過ごす。暗殺では、授業場所の森の中での魔物の凶暴化、魔物が王子たちグループを襲い、パニックになって防衛陣形が崩れたところに奇襲作戦で背後から矢で射られる。魔法は追跡魔法が使えるため、誰が使用したか、調べようとしたらできるため、足がつかないように物理的に暗殺計画を立てたようだ。
カインにはこの混乱が起きることをそれとなく伝え、近くに見回りするように進言しておく。魔物が凶暴化するのは魔法道具を使って匂いでおびき出す。この匂いは熟成の進んだ桃のように粘つくような重い甘い香りがする。この匂いを嗅いだ魔物たちが普段以上に凶暴化し、見境なく手当たり次第に暴れ、生き物に襲いかかるようになるのだ。
理性がない分、直進的にしか襲ってこれなくなるが、恐怖心もなくなるため自分の命が絶たれるまで暴れ続ける。課外授業のある森は浅瀬では危険性の少ない弱い魔物しかいないが奥に行けば行くほどに危険性が増えていく。その森の中層から深層の魔物までが匂いにつられて暴れだす。
引率兼試験管の教員の一人にリーベルト・シュルツがいる。彼はそれなりに腕のたつ人物だったはずだが、この騒動に巻き込まれて亡くなってしまう予定である。また、魔物の危険性、予測不可能さも知っているためリーベルトに魔物凶暴化の匂いを深層部に送ることを防ぐために匂いだけを遮る結界を張ることの重要性を進言すれば了承してくれるはず。カインにはその結界を生成してもらうためだけに結界魔法まで使えるようにしてもらった。本当に持つべきものは優秀な弟である。
課外授業は二泊三日で行われる。その場で行われるサバイバル能力もテスト内容である。この二泊三日で過ごす間の生存能力、臨機応変さを試験されていることである。
サバイバル能力はカインは僕からのお墨付きであり、カインなら、王子暗殺の騒動も乗り越えられる。しかしできる限り出てしまう被害は少ない方がいい。王子だけが助かればいいなんてことはない。みんなを救えるだけの力をカインはつけている。だったら、出し惜しみをせず、今まで物語には活躍できなかった人物には生き延びてもらい、物語の改変に付き合ってもらったらいいじゃない!
課外授業中に拠点となる場所を確保し、野営準備を整えたら王子暗殺計画の対策をしていく。誰が黒幕かはわかっていても、実行犯は誰かわからない。また、まだ起きてもいないことで捉えたとしても、証拠がなく、解決しない。計画が実行されるのは授業二日目、宿泊の最後の夜となる。
夜の闇に乗じ計画を実行する。生徒たちも最後の夜、これが終わり朝を迎えたら家に帰られると思って気が緩んでいる所を魔物たちに襲われるのだ。王子の近くには先生たちも野営しており、王子と同じグループには将来近衛騎士になる人物や、宮廷魔術師、筆頭将軍指揮官など、実力派が勢揃いしている。
それぞれが抜きん出た実力があっても、連携プレーはまだ拙い。ましてや、成長途中の少年、子供達だ。警戒はしていても不意打ちや奇襲にはまだ弱く、凶暴化した魔物たちの数の暴力から王子を守りながら敵をさばいていくことなんてまだ出来はしない。
しかし、予備知識があり必ず起こりうる出来事に備えさえあれば、王子たちの強さは大人顔負けとなる。カインから王子たちにことの次第を話すわけにはいかないにしても、教師を通じ、警戒しておくように促すことはできる。今回は結界のおかげで中層以上の強い魔物は匂いも届かず、普段通りに過ごすため浅層にくることはないだろう。
浅層にいる魔物が凶暴化しても、課外授業に参加できるだけの技量のある生徒たちならば遅れを取ることは少ないだろう。
僕もこっそりと森の中で動向を見守るつもりである。サバイバル能力は学生たちに負けないからね。気配察知の上手いカインにも見つからない自信あるし。浅層の魔物にも負けない程度の力ある。大好きだった物語のストーリーが生で見られるのに、ほっとくことなんて最初からできないんだよ!
本音が漏れてしまった。カインが活躍してかっこよくポーズを取る所を生でみたいじゃないか!物語では小さくても活躍するところではかっこよかったのに、現在のカインは高身長のイケメンに成長しているんだ!
王子の危機に颯爽と現れて、側近たちと力を合わせて魔物を撃退していき、悪の放つ矢に倒れる王子、矢の軌道から敵を察知し、仲間達を守る結界を張り、一人単身で敵の元へ向かうカイン、敵に追いついたカインが鮮やかな手際で敵を一網打尽にする。すぐに王子たちの元にとって返し、王子に応急処置を施し、回復魔法を使う。一命を取り留めている王子を側近たちに任せて、カインはまだまだ湧き出してくる魔物の相手をする。
あたりは魔物の残骸、血の海になり、カイン自身も満身創痍、魔力、体力共につきかけた時、騎士団が駆けつけ、王子と一緒に助けられる。
この事件で沢山の命が失われたが、カインが正しい判断をしたおかげで王子も重傷を負うが命に別状はない。カインも怪我を負っているが後遺症の心配もない。
捕まえていた悪人たちは魔物に食われ全員命を落としていた。ここでカインは敵のことまで頭が回らなかったと悔いているが、あの場にいた王子の側近たちは皆王子に駆け寄るのが先で、敵のことなんて思いついてもいなかった。敵を捉えたことに賞賛こそすれ、あの場に敵をかばう余裕はない。下手をすれば自分たちの命が危ないのだから。
犯人の持ち物には一つだけ首謀者につながるための手掛かりが残されていた。
数々の手柄を立てたこと、何より王子たちの命を救ったことにより、王からも、王子たちからも感謝され、物語がスタートしていく。
ここからカインの兄ニヴェンの悪堕ち物語も始まっていく。
つまりはこの出来事を境に僕もカインに冷たく当たらなければならないということである。カインを追い詰め、いじめ抜き、人間の業と悪を全て詰め込んで見せつけて、絶望の淵に立たせて、この国の、世界の英雄に成長させるのだ。
と、物語のシナリオはこのようなものであるが、果たして僕たちの作戦はうまくいくだろうか。
僕は直接手を出せない。下手をすれば僕が犯人扱いされてしまう。カインたちの手だけで、イベントをこなしていく必要があるのだ。この世界は物語の中と同じであるが、僕たちからすれば、この世界が全てであり、リアルである。
病気もすれば、怪我もする。人は笑い涙を流し、少し先の未来では簡単に命を落としていく。
カインが魔物に傷つけられるのを黙って見ていなくてはならない。そうなってほしくないために、カインに怪我をしてほしくないために、ここまで成長できるように手助けをしてきた。
ここはリアルである。物語の主人公でも安全は保障されていない。下手をすれば死んでしまう世の中だ。
どうか無事にカインが乗り越えられますように。こう祈るほか、今の僕にできることはなかった。
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