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神隠しの森編

(178)視線

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~紗彩目線~


「なんで、サーヤが挨拶してるのに無視してるわけ?」
「…………無視なんてしていない」


 イアンさんを睨んだまま普段の十倍は低い声で言うジャック君。
 そんなジャック君に、首をかしげながらも不思議そうな声で言うイアンさん。

 ただイアンさんの反応が、ジャック君の怒りの火に油を注いだ結果になったのは側から見て彼の雰囲気で理解できた。

 というかジャック君はジャック君で、なんでこんな話題になったんだろう?

 別に彼の反応からして、私の挨拶を無視しているようには見えない。
 まあ彼の目を見ていても全然合わないから、彼の視線が私から外れているのには気づいたけど。
 でもこれは無視というよりは、もしかしたら人見知りが激しい人なのかもしれないし。

 だというのに、どうして『イアンさんが私を無視している』ということになったのだろう?

 そして、ものすごく刺々しい物言いのようにも思える。

 …………もしかしてジャック君が言っていた嫌いな竜人って、イアンさんのことなのだろうか?


「は? 無視だろ。言葉を交わす時は、相手の目を見ながらするのが礼儀だろ。それともなんだよ。遠回しに、サーヤと話したくないとでも言いたいわけ?」
「…………そう言う意味ではない」


 ジャック君の刺々しい言葉に、イアンさんはどこか落ち着かなさげに視線をうろうろとさせている。

 …………ああ、なるほど。
 確かに、話す時は相手の目を見ながら話すのが礼儀だ。

 私はあんまり気にしなかったけど、彼にとってはそう見えてしまったのだろうか?


「じゃあ、どういう意味なんだよ? 目を見て話さないし、他の竜人騎士団の方の騎士もサーヤの事ジロジロ見てるし。サーヤは、騎士団の仲間であって見世物じゃないんだけど」


 ジャック君の言葉に、何名かの竜人の騎士たちが居心地悪そうに肩を揺らしている。

 …………さっきから感じていた視線って、竜人の騎士たちの視線だったのか。

 いや、たしかに人のことをジロジロと見るのは失礼なことだ。
 でも、こんなに物理的に大きな集団の中で一人だけ小さいのがいれば気になるだろう。
 私も、失礼にならないようにしながら見る。

 そう思っていると、目の前でしゃがんでいたキキョウさんがため息を吐いた。


「…………どうやら、うちの騎士たちが君に失礼なことをしたようだね。すまない」
「いえ……」


 申し訳なさそうに言うキキョウさん。

 正直に言えば、確かに礼儀的に考えれば失礼なことになる。

 でも、糞上司のパワハラ・セクハラを思い出せば全然気にならない。
 というか、糞上司には彼らを見習ってほしいぐらいだわ。


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