常闇市逢魔町の日常怪奇譚

坂神ユキ

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1章:水鏡の向こうから呼ぶ声

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 高校の授業が終わり、私は課題を出しに行ったヒロを待っていた。
 最近、夢見が悪いせいか無性に眠たい。

 眠気を感じ、少しの間と思いながらテーブルの上に置いてあるにもつに顔をうずめる。

 軽く睡眠をとるだけ。
 そうすれば、あの不気味な夢も見ないはず。
 そう思いながら、目をつぶった。


「…………ミユ」


 真っ暗な視界の中で、誰かに呼ばれた気がした。

 慌てて顔をあげて周りを見ても、ガランとした教室の中には誰もいない。
 窓の外からは、部活動をしているであろう運動部の生徒の声が聞こえてくる。
 遠くからチャイムの音が聞こえてくる。
 時計を見れば、針は午後の四時を指していた。
 時計を見ながらも、さっき聞こえてきた声について考える。

 どこかで聞き覚えのある声だったはず。
 でもどんなに考えても、それが誰かがわからない。
 男の人にしては高くて、女の人にしては低い声。
 家族の声でも、幼馴染のヒロでも、同じ学部の生徒でもない。
 いったい、どこで聞いた声なんだろう?

 そう思っていれば、ガラリとドアを開ける音が教室の中に響いた。


「悪い、待ったか!?」
「…………大丈夫だよ、ヒロ」


 ドアの方を見れば、うなじまでの黒髪につり目の男子生徒__『ヒロ』こと『神坂 智弘(かんざか ともひろ)』が立っていた。
 全力で走ってきたのか、ハーハーと息をあげながらヒロが入ってくる。
 早歩きで私の席までやって来るヒロの額には、少しだけ汗がにじんでいた。

 ヒロが課題を出しに行ったのは、30分前。
 別に遅い時間でもないし、待たされたとも思わない時間帯だ。


「別にそんなに待ってないから、走って来なくてもよかったのに」
「俺と一緒に帰るとはいえ、さすがに女子を遅くまで出歩かせるわけにもいかねぇだろ。それに、今日って美優が夕飯担当だろ?」


 私の言葉に苦笑しながら、ヒロは隣の席に置いてあった自分のリュックを背負った。

 彼は、私__『烏間 美優(からすま みゆ)』と同じく高校入学を期に上京してきた私の幼馴染だ。
 同じ病院に同じ時期に生まれたからか、私達は家族ぐるみで仲が良い。
 小さい頃は家が隣同士だったのもあってかよくお互いの家に泊まりに行ったりした。
 中学時代は少し気まずくなった時もあったけど、いろいろとあって、今でも付き合いが続いている唯一の幼馴染だ。


「そういえば、渡したい物ってなんだ?」


 ヒロが首を傾げながら言った言葉に、私は今朝自分が言った言葉を思い出した。
 私は座っていた椅子から立ち上がり、机の横にかけてある通学カバンを机上に置いて開ける。
 カバンの中にあった目的のものを見つけると、それを取り出してヒロに差し出す。


「…………あげる」
「ん?」


 私が、ヒロに差し出したのは青い袋でラッピングしたプレゼント。
 中身は、私達の地元ではお守りとして使われている天然石のブレスレットだ。
 私が差し出せば、ヒロは驚いたのか目を見開いて袋を凝視した。

 彼の反応から、今日が彼の誕生日であることを忘れているのがわかる。
 人のことは本人よりも早く気付くくせに、自分のことは普通に忘れる。
 ヒロは、なんというか少し不思議なところがある幼馴染だ。


「誕生日でしょ、今日?」
「そういえば、そうだったな。すっかり、忘れてた」


 私がそう言えば、彼は私が思った通り自分の誕生日のことを忘れていたようだった。
 もう少し、自分の事にも目を向ければいいのに。

 私は、昔から彼にいろいろと助けられてきた。
 だから、彼と一緒にいるのが当たり前だったけど、上京してからはそれが普通ではないと言うことをなんとなく理解した。
 地元では、女子も男子も関係なく基本みんな仲が良いが当たり前だったから。
 異性で一緒にいれば、付き合っているのかとからかわれる事がある。
 私もヒロもからかわれる事が何よりも嫌いだったから、大学に入学してからはあまり学校内では一緒にいないようにした。
 でも、休日とか放課後には一緒にいるけど。
 それでも、やっぱり大学に入ってからできた友達よりも一緒にいるせいか、たまに友達から異性として好きなのかと聞かれる。
 実際にヒロのことを異性として好きかと聞かれれば、それはよくわからない。
 今までヒロと一緒にいるのが当たり前のようなものだったから。


「ありがとな、美優」
「別に…………いろいろとお世話になっているし…………」


 私が考えこんでいると、嬉しそうな表情を浮かべたヒロにお礼を言われた。
 左隣にいるヒロの方を向けば、不思議な笑顔を浮かべて私の方を見ている。
 優しげな笑顔だけれど、頬が薄く赤くなっていてどこか恥ずかしそうだった。

 今までもよくお互いの誕生日は祝っていたから、今更どうして恥ずかしがっているのかわからないけど喜んでくれたのであれば頑張って作った身としては嬉しい。

 胸がポカポカと暖かくなるのを感じながら、机の上に置いた肩掛けカバンを持ち上げる。
 ヒロの方を見れば、彼はリュックの中にプレゼントを入れた後にまた背負い直しているところだった。


「帰ろう、ヒロ」
「そうだな」


 ヒロに声をかければ、ヒロは返事をして私のことを一瞬見た後廊下に向かって行った。
 私はカバンを肩にかけ、ヒロの後を追う。



 廊下を渡り、階段を下りて学校を出れば空は夕焼けで赤く染まっていた。

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