常闇市逢魔町の日常怪奇譚

坂神ユキ

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1章:水鏡の向こうから呼ぶ声

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一瞬、恐怖と驚きで息をするのを忘れていた気がする。
男性は、とても綺麗な顔立ちだったけど、どこか人外的な雰囲気があった。
でも、私が最初に感じたのは綺麗という感想じゃなくて恐怖の感情だった。

怖い! 目の前にいるこの人が怖い!

私は無我夢中で腕を振り男性の腕を振り払うと、震える足に鞭を打ってその場から走り出した。
後ろから男性が何かを叫んでいるのか、声が聞こえてくる。

何を言っているのかはわからなかった。今の私には、何を言っているのかを聞くほど余裕がなかったから。
ただ、とにかく男性から逃げたかった。
この空間から逃げたかった。
いつも、私を支えてくれた両親に会いたかった。
幼馴染に__ヒロに会いたかった。
森の木々の横をすり抜けて走る。
足がズキズキと痛む。
何度も、足がもつれそうになる。
何度も転びそうになる。

それでも、暗い森の中で恐怖に押しつぶされそうになりながら必死に走る。
足の痛みに耐えながら、スローモーションのように前から後ろへと流れていく木々の先を見ながら走る。
しばらく暗い森の中を走っていれば、木々の間から小さな光がもれていた。

もしかしたら、この森から抜けられるかも!!

そう思っていると、ガクンとバランスを崩す。それと同時に、フワフワと体が浮いているような感覚に陥った。
気付くと、私は水の中にいた。

なんで、どうして?
どうして、水の中にいるのかわからない。ただ、とても息苦しかった。
ゴポゴポと、目の前で空気が水泡となって水面に向かって上がっていく。
誰か、助けて!!

そう思いながら、水面であろう上へと手を伸ばす。
痛む足を必死に動かして水面にあがろうとするのに、全く進まない。足が、まるで重りをつけられたように重い。
光る上へと必死で手を伸ばせば、ユラユラと揺れる黒い影が視界に入る。
逆光で顔は見えない。

息が苦しい。

どんどん、目の前がかすんでくる。

もう無理だと思った瞬間、目の前は完全に黒で塗りつぶされた。
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