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第4話 労働の対価
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「よかった……これで、助かる……」
途切れ途切れに、男が声を出す。
もう一人の男は……すでに事切れているようだ。
「喋らなくていい」
抱き起こして、容態を確かめる。
白髪で初老の男だ。
男の顔は、紫色に醜く腫れ上がっていた。
手足に光を向ければ、やはり紫色に腫れ上がっており、無数の噛み傷が確認できた。
明らかに、メクラオニムカデとの戦闘でできた傷だ。
……ダメだ。助からない。
あの魔物は、牙に致死性の猛毒を持っている。
一度噛まれれば、数分以内に解毒剤を飲むか治癒魔術を掛けない限り、傷跡から身体が腐り始め、死んでしまう。
男は、全身がそれだった。
冒険者は、ダンジョンで遭難した他の冒険者を発見した場合は、自分の身に危険が及ばない限り助ける、という暗黙の了解がある。
いつ自分が同じ目に遭うか分からないからな。
だから、回復役や解毒剤は余分に持ってきている。
しかし、この状態では手の施しようがない。
「ケリイとマルコは……無事……でしょうか」
男が、かすれた声で話しかけてきた。
マルコというのは、そこで倒れている男か。
ケリイは……光をさらに奥に向けると、一人の少女がうつむいたまま座り込んでいるのが見えた。多分、その娘だ。
腕が、紫色に腫れ上がっている。動く様子はない。
発動したままの気配探知スキルには……反応は一つ。
「……ああ。二人とも無事だ。ゆっくり休め」
「そう、ですか。よかった……」
俺がそう言うと、男は安心したように身体の力を抜いた。
すでに、スキルによる反応は微弱だ。
もって、あと数分といったところだろう。
状況からして、男たちは背後の少女を護りながら戦っていたのだろう。
後ろの様子に気づかないほど必死だったとしても、それは仕方ないことだ。
ならば、あえて事実を話す必要はない。
俺だって、そのくらいの節度は持っている。
と、ああそうだ。
生きているうちに、これは聞いておかなければ。
「なああんた。お疲れのところ悪いんだが、金は持っているか?」
「金……ですか。金があれば……私たちは助かるのですか?」
「もちろんだ。俺は嘘は吐かない」
男は少しだけ間を置いてから、肩を震わせて笑い出した。
「く、くく……くくく。構いません、よ。さすがに冥府まで……金を持って行けるとは思っており……ません。全て、あなたへ差し上げましょう。荷物は、ケリイが……二人には……セバスがそう言ったと……その代わり……」
「ああ。分かっている」
「そう、ですか……ケリイ……マルコ……先……すまな……」
男が大きく息を吐き、動かなくなった。
俺はまぶたを閉じてやり、そっと横たえてやる。
さて。
これで、メクラオニムカデの群れがテリトリーにいなかった理由が分かったな。
この冒険者たちを襲っていたからだ。
三人の冒険者の様子を一応確認する。
さきほど息を引き取った白髪のじいさんが剣士。
そっちに倒れているマルコとかいうおっさんが戦士。
それぞれ剣と斧を持っているな。防具もそれに前衛に即したものだ。
ケリイとかいう十代前半くらいの女の子は、杖を持っているから魔術師だろうか。
三人とも装備はそれなりのものを揃えているが、まだ真新しい。
男二人は若くはないが、駆け出しのような雰囲気だ。
ということは、この魔物のことを知らずにテリトリーに足を踏み入れたのか。
この支洞に足を踏み入れたとたん、いきなり四方八方から気色悪い魔物が湧き出してきた。本来なら退却すべきところを、泡を食って奥に逃げ込んだ。
行き止まりだと知らずに。
おおかた、そんなところだろう。
もう少し早く俺が来ていれば結果は変わっていたのだろうが、こればかりは運だからな。
「こいつらも運がいいのか悪いのか、分からんな」
そう。
発見したのが普通の冒険者だったなら、彼らはここに埋葬され、遺品だけをギルドに持ち帰ることになる。
自分たちの仲間の死体ならともかく、パーティーを危険にさらしてまで死んだ他人を持ち帰ることはできないからだ。それも、三人分も。
だが、俺なら、それが可能だ。
以前アイラにそうしたように、死体自らの足でダンジョンを脱出してもらえばいい。
洞窟の近くに農村があるし、たしか小さいが寺院もあったはずだ。
そこまで歩いていってもらおう。
「村に入ったらすぐに術の効力が切れるように調節して、と。一応、魔物と間違えられないように一筆書いておくか」
俺はザックから羽ペンを取り出すと、三人の死体の顔にでかでかと『遭難しました。寺院に連れて行って下さい。謝礼は蘇生後に言い値で払います』と書いてやった。
「よーし。これでいいか――『クリエイト・アンデッド』」
『『『アアァ……』』』
術が発動し、三体のゾンビがよろよろと立ち上がった。
「と、その前に」
肝心なことを忘れていた。
俺への救助代がまだだったな。
こっちは、こいつらに身体で払って貰おうかね。
◇
「うーん、まだ少し足りないな」
手の平より一回りほど大きな革袋の中には、半分ほどのホタル苔が詰まっている。
四人(?)で手分けしたお陰で、かなり捗った。
が、依頼で頼まれた量は、この袋一杯分だ。
本来ならば地面や手の届く岩場に生えている分で十二分の量が採れるはずだったのだが、ムカデとこの冒険者たちとの死闘のお陰でほとんどがダメになっている。
残るは高所によじ登っての採取だが……それも、あまり量が採れたわけではない。
さて、どうしたものか。
そう思って、辺りを見回すと。
「おお? そういえば、地底湖の対岸はどうだったけかな」
いったん魔素灯の光を切り、暗闇になった対岸に目をこらす。
すると、ぼんやりとだが、薄緑色の燐光が確認できた。
わずかだが、湖岸に生えているみたいだ。
あそこにあるものを採取すれば、十分依頼の量を満たすことができるな。
そうと決まったら早速行動だ。
もちろん、深さも流れがあるかも分からない地底湖に、一人で入るのはあまりにも危険すぎる。
だが今は三体のものゾンビがいる。
縄でしっかりと繋いで泳がせれば大丈夫だろう。
俺はマルコと呼ばれていたおっさんゾンビに長めの縄を持たせ、さらに胴体には流されないように別の縄をくくりつけ、地底湖へと向かわせる。
おっさんゾンビはゆっくりとだが地底湖を泳いで渡り、対岸に取り付いた。
水中はひとまず危険な流れはなさそうだな。
対岸までの距離も、縄の長さを超えていない。
水は冷たそうだが、これなら俺自身が向かっても大丈夫そうだ。
良質なものかどうか、その場でより分ける必要もあるしな。
おっさんゾンビには、持っていった縄を近くの岩にくくりつけさせ、こちら側に戻ってこさせた。
それから近くの岩場に縄をくくりつけ、彼我の岸を縄で繋いだ。
「よし。お前らは、これでお役御免だな。近くの農村まで歩いて帰ってくれ」
『『『ウゥ』』』
単独で地底湖を渡るのは少々危険だが、こいつらが蘇生できる期限も考えなくてはならない。蘇生の限界は、おおよそ死亡してから半日以内だ。
初老の男はこの場で看取ったからいいとして、他の二人は死亡時期が不明だ。
あまり時間をかけると、蘇生できなくなる恐れがあるからな。
周囲には魔物の気配もないし、俺一人でも、あとはなんとかなるだろう。
◇
「……おお! これは上質な苔だ」
対岸に繁茂したホタル苔は、かなり上等なものだった。
「これも、これも、あっちのも! これは……もしかしたら依頼額よりもさらに高く買い取ってもらえるかもしれんな」
これは嬉しい誤算だった。
地底湖の対岸は、おそらくこの洞窟ができてから今までの間、冒険者が渡ったことはないはずだ。
行き止まりだし、陸に上がれる場所があるとは言えわずかだからな。
それに、探索のための明かりのせいで対岸の苔は視認しづらいし、そもそも湖を渡ってまでホタル苔を採取するメリットがない。
このため、いままで手つかずのまま残されていたというわけだ。
「おお、こっちのはさらに上等だ。あっちのは……希少な赤ホタル苔じゃないか! しばらくは豪華な晩飯が食えるな!」
夢中でホタル苔を採取することしばし。
突然、岩壁に手を置いたはずの手が、いきなり壁にめり込んだ。
「おわっ!?」
どうやらそこには、支洞があったらしい。
地下水の侵食を受けて薄く脆くなっていた岩壁を俺は突き抜いたようだった。
当然そこにしっかりした壁があるものと思っていた俺は、身体を支えきることができず、もんどりうって転んでしまう。
「ちょ、まっ、のわああああああーーーーーーーー!?」
支洞内は狭く急な下り坂のうえ、地底湖から少しずつ流れ込んでいた地下水のせいで滑りやすい。
思い切り転んだ俺は体勢を立て直すことができず、そのまま急坂を滑り落ちていくしかなかった。
ま、まずい。油断した。
どこかに捕まる場所はないか?
だが、水の流れに浸食されてできたらしいこの支洞に、掴まれそうな場所はなかった。
とっさにダガーを引き抜き壁や地面に打ち付けるが、固くて刺さらない。
「くそ! やべえ!」
そのまま勢いよく滑り落ちる。
まずい。最悪だ。油断した。
考えろ。考えろ。考えろ。
こういう場合はどうするべきだ?
最悪の場合は、どうすべきか?
このままどことも知れない地下水脈に突っ込んでしまえば、永久に地底をさまようことになりかねない。
最悪の想像が頭を過ぎり、背筋がぞっと寒くなる。
……が、現実の方は、その最悪のさらに斜め上を行っていた。
いきなり、尻や背中に感じていた水の感触が消失した。
それと同時に、腹の奥に強烈な浮遊感を感じて俺は叫んだ。
「なんで滝いいいいいーーーーーー!?」
広大な空間に投げ出されたらしい。
耳元では、びゅうびゅうと風切り音が渦を巻く。
周囲は真っ暗闇で、どれだけの高さから放り出されたのかすら分からない。
すごい勢いで落下しているのだけは分かる。
これは助からんな。
諦念が心の中を支配し始める。
と、そのとき。
未だ握りしめたままの魔素灯の光が、一瞬だけ何かを照らし出した。
「なんだ、これは……」
俺は一瞬、自分が奈落へと落下していることを忘れてその光景に目を見張ってしまう。
意識を手放す直前に見たものは。
それは。
とてつもなく巨大な、魔物の顔だった。
途切れ途切れに、男が声を出す。
もう一人の男は……すでに事切れているようだ。
「喋らなくていい」
抱き起こして、容態を確かめる。
白髪で初老の男だ。
男の顔は、紫色に醜く腫れ上がっていた。
手足に光を向ければ、やはり紫色に腫れ上がっており、無数の噛み傷が確認できた。
明らかに、メクラオニムカデとの戦闘でできた傷だ。
……ダメだ。助からない。
あの魔物は、牙に致死性の猛毒を持っている。
一度噛まれれば、数分以内に解毒剤を飲むか治癒魔術を掛けない限り、傷跡から身体が腐り始め、死んでしまう。
男は、全身がそれだった。
冒険者は、ダンジョンで遭難した他の冒険者を発見した場合は、自分の身に危険が及ばない限り助ける、という暗黙の了解がある。
いつ自分が同じ目に遭うか分からないからな。
だから、回復役や解毒剤は余分に持ってきている。
しかし、この状態では手の施しようがない。
「ケリイとマルコは……無事……でしょうか」
男が、かすれた声で話しかけてきた。
マルコというのは、そこで倒れている男か。
ケリイは……光をさらに奥に向けると、一人の少女がうつむいたまま座り込んでいるのが見えた。多分、その娘だ。
腕が、紫色に腫れ上がっている。動く様子はない。
発動したままの気配探知スキルには……反応は一つ。
「……ああ。二人とも無事だ。ゆっくり休め」
「そう、ですか。よかった……」
俺がそう言うと、男は安心したように身体の力を抜いた。
すでに、スキルによる反応は微弱だ。
もって、あと数分といったところだろう。
状況からして、男たちは背後の少女を護りながら戦っていたのだろう。
後ろの様子に気づかないほど必死だったとしても、それは仕方ないことだ。
ならば、あえて事実を話す必要はない。
俺だって、そのくらいの節度は持っている。
と、ああそうだ。
生きているうちに、これは聞いておかなければ。
「なああんた。お疲れのところ悪いんだが、金は持っているか?」
「金……ですか。金があれば……私たちは助かるのですか?」
「もちろんだ。俺は嘘は吐かない」
男は少しだけ間を置いてから、肩を震わせて笑い出した。
「く、くく……くくく。構いません、よ。さすがに冥府まで……金を持って行けるとは思っており……ません。全て、あなたへ差し上げましょう。荷物は、ケリイが……二人には……セバスがそう言ったと……その代わり……」
「ああ。分かっている」
「そう、ですか……ケリイ……マルコ……先……すまな……」
男が大きく息を吐き、動かなくなった。
俺はまぶたを閉じてやり、そっと横たえてやる。
さて。
これで、メクラオニムカデの群れがテリトリーにいなかった理由が分かったな。
この冒険者たちを襲っていたからだ。
三人の冒険者の様子を一応確認する。
さきほど息を引き取った白髪のじいさんが剣士。
そっちに倒れているマルコとかいうおっさんが戦士。
それぞれ剣と斧を持っているな。防具もそれに前衛に即したものだ。
ケリイとかいう十代前半くらいの女の子は、杖を持っているから魔術師だろうか。
三人とも装備はそれなりのものを揃えているが、まだ真新しい。
男二人は若くはないが、駆け出しのような雰囲気だ。
ということは、この魔物のことを知らずにテリトリーに足を踏み入れたのか。
この支洞に足を踏み入れたとたん、いきなり四方八方から気色悪い魔物が湧き出してきた。本来なら退却すべきところを、泡を食って奥に逃げ込んだ。
行き止まりだと知らずに。
おおかた、そんなところだろう。
もう少し早く俺が来ていれば結果は変わっていたのだろうが、こればかりは運だからな。
「こいつらも運がいいのか悪いのか、分からんな」
そう。
発見したのが普通の冒険者だったなら、彼らはここに埋葬され、遺品だけをギルドに持ち帰ることになる。
自分たちの仲間の死体ならともかく、パーティーを危険にさらしてまで死んだ他人を持ち帰ることはできないからだ。それも、三人分も。
だが、俺なら、それが可能だ。
以前アイラにそうしたように、死体自らの足でダンジョンを脱出してもらえばいい。
洞窟の近くに農村があるし、たしか小さいが寺院もあったはずだ。
そこまで歩いていってもらおう。
「村に入ったらすぐに術の効力が切れるように調節して、と。一応、魔物と間違えられないように一筆書いておくか」
俺はザックから羽ペンを取り出すと、三人の死体の顔にでかでかと『遭難しました。寺院に連れて行って下さい。謝礼は蘇生後に言い値で払います』と書いてやった。
「よーし。これでいいか――『クリエイト・アンデッド』」
『『『アアァ……』』』
術が発動し、三体のゾンビがよろよろと立ち上がった。
「と、その前に」
肝心なことを忘れていた。
俺への救助代がまだだったな。
こっちは、こいつらに身体で払って貰おうかね。
◇
「うーん、まだ少し足りないな」
手の平より一回りほど大きな革袋の中には、半分ほどのホタル苔が詰まっている。
四人(?)で手分けしたお陰で、かなり捗った。
が、依頼で頼まれた量は、この袋一杯分だ。
本来ならば地面や手の届く岩場に生えている分で十二分の量が採れるはずだったのだが、ムカデとこの冒険者たちとの死闘のお陰でほとんどがダメになっている。
残るは高所によじ登っての採取だが……それも、あまり量が採れたわけではない。
さて、どうしたものか。
そう思って、辺りを見回すと。
「おお? そういえば、地底湖の対岸はどうだったけかな」
いったん魔素灯の光を切り、暗闇になった対岸に目をこらす。
すると、ぼんやりとだが、薄緑色の燐光が確認できた。
わずかだが、湖岸に生えているみたいだ。
あそこにあるものを採取すれば、十分依頼の量を満たすことができるな。
そうと決まったら早速行動だ。
もちろん、深さも流れがあるかも分からない地底湖に、一人で入るのはあまりにも危険すぎる。
だが今は三体のものゾンビがいる。
縄でしっかりと繋いで泳がせれば大丈夫だろう。
俺はマルコと呼ばれていたおっさんゾンビに長めの縄を持たせ、さらに胴体には流されないように別の縄をくくりつけ、地底湖へと向かわせる。
おっさんゾンビはゆっくりとだが地底湖を泳いで渡り、対岸に取り付いた。
水中はひとまず危険な流れはなさそうだな。
対岸までの距離も、縄の長さを超えていない。
水は冷たそうだが、これなら俺自身が向かっても大丈夫そうだ。
良質なものかどうか、その場でより分ける必要もあるしな。
おっさんゾンビには、持っていった縄を近くの岩にくくりつけさせ、こちら側に戻ってこさせた。
それから近くの岩場に縄をくくりつけ、彼我の岸を縄で繋いだ。
「よし。お前らは、これでお役御免だな。近くの農村まで歩いて帰ってくれ」
『『『ウゥ』』』
単独で地底湖を渡るのは少々危険だが、こいつらが蘇生できる期限も考えなくてはならない。蘇生の限界は、おおよそ死亡してから半日以内だ。
初老の男はこの場で看取ったからいいとして、他の二人は死亡時期が不明だ。
あまり時間をかけると、蘇生できなくなる恐れがあるからな。
周囲には魔物の気配もないし、俺一人でも、あとはなんとかなるだろう。
◇
「……おお! これは上質な苔だ」
対岸に繁茂したホタル苔は、かなり上等なものだった。
「これも、これも、あっちのも! これは……もしかしたら依頼額よりもさらに高く買い取ってもらえるかもしれんな」
これは嬉しい誤算だった。
地底湖の対岸は、おそらくこの洞窟ができてから今までの間、冒険者が渡ったことはないはずだ。
行き止まりだし、陸に上がれる場所があるとは言えわずかだからな。
それに、探索のための明かりのせいで対岸の苔は視認しづらいし、そもそも湖を渡ってまでホタル苔を採取するメリットがない。
このため、いままで手つかずのまま残されていたというわけだ。
「おお、こっちのはさらに上等だ。あっちのは……希少な赤ホタル苔じゃないか! しばらくは豪華な晩飯が食えるな!」
夢中でホタル苔を採取することしばし。
突然、岩壁に手を置いたはずの手が、いきなり壁にめり込んだ。
「おわっ!?」
どうやらそこには、支洞があったらしい。
地下水の侵食を受けて薄く脆くなっていた岩壁を俺は突き抜いたようだった。
当然そこにしっかりした壁があるものと思っていた俺は、身体を支えきることができず、もんどりうって転んでしまう。
「ちょ、まっ、のわああああああーーーーーーーー!?」
支洞内は狭く急な下り坂のうえ、地底湖から少しずつ流れ込んでいた地下水のせいで滑りやすい。
思い切り転んだ俺は体勢を立て直すことができず、そのまま急坂を滑り落ちていくしかなかった。
ま、まずい。油断した。
どこかに捕まる場所はないか?
だが、水の流れに浸食されてできたらしいこの支洞に、掴まれそうな場所はなかった。
とっさにダガーを引き抜き壁や地面に打ち付けるが、固くて刺さらない。
「くそ! やべえ!」
そのまま勢いよく滑り落ちる。
まずい。最悪だ。油断した。
考えろ。考えろ。考えろ。
こういう場合はどうするべきだ?
最悪の場合は、どうすべきか?
このままどことも知れない地下水脈に突っ込んでしまえば、永久に地底をさまようことになりかねない。
最悪の想像が頭を過ぎり、背筋がぞっと寒くなる。
……が、現実の方は、その最悪のさらに斜め上を行っていた。
いきなり、尻や背中に感じていた水の感触が消失した。
それと同時に、腹の奥に強烈な浮遊感を感じて俺は叫んだ。
「なんで滝いいいいいーーーーーー!?」
広大な空間に投げ出されたらしい。
耳元では、びゅうびゅうと風切り音が渦を巻く。
周囲は真っ暗闇で、どれだけの高さから放り出されたのかすら分からない。
すごい勢いで落下しているのだけは分かる。
これは助からんな。
諦念が心の中を支配し始める。
と、そのとき。
未だ握りしめたままの魔素灯の光が、一瞬だけ何かを照らし出した。
「なんだ、これは……」
俺は一瞬、自分が奈落へと落下していることを忘れてその光景に目を見張ってしまう。
意識を手放す直前に見たものは。
それは。
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