25 / 141
第25話 山賊討伐④ 食材ならざるもの
しおりを挟む
『ィイ゛イ゛ィィィイイ゛ィ――』
俺を敵だと認識しただろう。
トレントの巨大な眼球がぎょろりとこちらを向き、甲高い耳障りな叫び声を上げた。
「ひいいいぃぃぃッ!?」
「ピエール殿、ここは一度退避だ! 我々の手に負える相手ではない! おいそこの冒険者! お前も早く下がれ! クソ、なぜこんな場所に、ダンジョン深層の魔物が……」
背後をちらりと見やると、腰を抜かしたままあとずさるピエールが見えた。
おい、さっきの威勢はどうした。
整った顔が恐怖でグシャグシャだぞ。
とはいえ、さすがにBランク冒険者に昇格したばかりだと、トレントの実物を見るのはこれが初めてだろう。
ただの山賊をボコにするのとは話が違う。
冷静に対処しろというのは酷だな。
一方、重戦士ジェラルドは比較的落ち着いている。
こちらにも退避を促してくるが、ここはスルーだ。
コイツを倒さないとアジトに侵入できないからな。
背後の二人が退く気配を感じつつ、俺は腰に差していた包丁を抜き構える。
『イ゛ィッ!』
しばらくこちらの様子を伺っていたトレントが動いた。
太く強靱な腕部がしなり、横凪ぎに振るわれる。
俺は半身を傾け、難なくコレを躱す。
紙一重だったせいか、太く重い風切り音が耳朶を打った。
ゴウ! ゴウ! ゴウ!
さらに立て続けの三連撃。
左右の腕部を交互に、まるでムチのようにしならせ振るってくる。
一撃でもかすれば、そのゴツゴツとした樹皮が目の粗いヤスリのように皮膚を削り取っていくだろう。
それだけでも、かなりのダメージだ。
おまけに、それで皮下に種子を埋め込まれる危険性もある。
そうなれば戦闘どころじゃない。
触れるのは危険だな。
とはいえ、トレントの動き自体は単調だ。
速度も、視界に捉えられないほどじゃない。
これなら常時《時間展延》を発動する必要はなさそうだ。
なんだかんだでアレは魔力を消費するからな。
「――《解体》」
ダメもとでスキルを発動し、トレントに一撃を加えてみる。
ガッ
……やはりダメか。
包丁は特に長さが変化するでもなく、トレントの樹皮にちょっと傷が付いただけだ。
これじゃ攻撃力が足らなすぎるな。
まあ、例の光の筋が浮かび上がってないから、そうなると思ったが……
やはり食材に対してのみ、このスキルは発動するようだ。
代わりに、未だトレントの上に乗っかったままのお頭のお頭がぽやんっ、と光ったのが視界に入った気がしたが、俺は何も見ていない。見ていないったら見ていない。
さて、そうなるとだ……
「パレルモ!」
「あーい!」
呼びかけとともに、茂みから飛び出て俺の隣に並ぶパレルモ。
俺とトレントを交互に見比べ、
「ねーライノー、あの木、美味しい果物とか取れないのー?」
「……残念だが、アレはただの枯木だな。せいぜい薪にしかならん」
「そっかー。じゃあ薪割りして、おいしーご飯作らないとだねー」
なかなかプラス思考だな、パレルモは。
というかお前の判断基準はメシしかないのか。
まあ誰も食べたくない奇妙な果実ならその枯木の上に乗っかっているがな!
「いずれにせよ、とっととこの枯木野郎を薪に変えなきゃならん。パレルモ、例のアレでヤツの身体のど真ん中を狙え」
「あいさっさー」
ビシ! と俺に向かって敬礼するパレルモ。
だから美少女顔でその海賊の手下その一みたいな返事はやめろ。
「んんー……そおいっ!」
バツン!
『ィイ゛アア゛ァァア゛――ッ』
不可視の刃で胴体を袈裟斬りにされ、断末魔のような叫びを上げるトレント。
おお、包丁で傷つけるのがやっとだったのが、真っ二つだ。
やっぱ空間断裂魔術《ばーん! てなるやつ》の威力はスゴイな。
あとで、魔術の名前を考えてやろう。
さすがに言いづらい。
「あーっ! アイツずるいー」
が、喜んだのもつかの間、トレントの二つに分かれた胴体から根のようなものが伸び、再び結合してしまった。
えっ。
トレントって、こんな再生能力あったっけ?
『ィイ゛ッ!』
元通りの身体になり、「今、何かしたのか?」というように大きく裂けた口を歪めるトレント。
コイツらに以前遭遇したときは、種子感染の危険があるからだいたい火焔魔術で消し炭にしてたからな。あれは女騎士イリナの魔法剣だったかな?
基本的に植物系の魔物は生命力が異常に高い。
倒すには、全身を炎で燃やし尽くすか、体内にある魔力核を破壊する必要がある。
だが、完全に真っ二つにしたヤツが一瞬で元通りになるのはちょっと見たことがないぞ。
しかし、そうなると炎で焼き尽くすのが最善手に思えるが……今この場で火焔魔術が使えるヤツは、あのシモンとかいう魔術師だ。
だが、さすがにここに呼んでこれるほどの隙はない。
「そいっ、へあっ、とやーっ! ああーもう! アイツずるいよ! すぐに元にもどっちゃう!」
パレルモが何度か時空断裂魔術を叩き込むんでいるが、そのたびにすぐ再生してしまう。
これじゃラチが明かないな。
「とりあえず、他の倒し方を考えよう。パレルモ、とりあえず下がってくれ」
「むうー。しかたない……」
さて、どうしたものか。
ラッキーパンチ狙いで魔力核に当たるまで打ち続けるということもできなくはないが、パレルモの魔力も無限じゃない。
それに山賊の頭がこれじゃ、手下の数だけトレントが存在すると考えた方がいいだろう。
正直、頭が痛くなるような数だな。
うーむ。
トレントの暴風のような攻撃をひたすら躱しながら、考える。
俺の手持ちのカードは、パレルモの空間断裂魔術をのぞけばかなり少ない。
スキル《解体》の効力は発揮できないのは実証済みだ。
では、身体能力に任せてトレントを引き裂き、魔力核を破壊する?
それは種子感染の危険性を冒してまで取るべき手段じゃない。
火焔魔術は使えないしなあ。
一つ可能性があるとすれば保管してあるワイバーンの肉を食うことだが、それで火焔ブレスを使えるようになる可能性は低い。
今のところ、魔物肉による取得スキルは基本的に能力向上系や補助系スキルばかりだったからな。
今使える氷雪魔術も、結局はモノを冷却できる程度にとどまる。
見方によっては、それも補助系スキルの延長線上なのだろう。
となるとあとは、まだ未処理のまま《ひきだし》に保管している魔物の死骸を死霊術で操り食わせてしまうか。
だが、あれらは食材だからな。
ヒトから育ったトレントを食った魔物を食材にしたくはない。
ん?
そういえば。
トレントを食わせても、問題ないヤツがあったな。
食材とは見なせない、名状しがたきアレが。
うん。
これはアレを完全に廃棄するまたとないチャンスだ。
かなりの間保管していたからまともに動くかどうかわからんが、試してみる価値はありそうだ。
「パレルモ、ちょっといいか」
背後のパレルモに声をかける。
「なにー?」
「《ひきだし》から『蟲型』を出せ。あるだけ全部だ」
「ええー!? もったいないよー。せっかく取っておいてるのにー」
うるさい。
アレを食材とは認めんぞ俺は。
「反論禁止! 全部だぞ全部、一体でも隠したら今日の昼飯抜きだぞ」
「そんな……ライノ酷い! ライノのオーガ! トロル! 挑戦者ーっ!」
パレルモが涙目で思いつく限りの悪口を俺にぶつけてくるが、知らんな。
というか、オーガもトロルも挑戦者も、多分お前よりはるかに弱いよね?
「もうー! はいっ! はいやっ、えーい!」
とはいえ昼飯抜きは絶対にイヤらしい。
パレルモは両手を突き上げ、亜空間への扉を開く。
ざざざざざざざざざ……
そこから、まるで土石流のごとく流れ出る、蟲、蟲、蟲の死骸。
みるみるうちに身の丈を越える黒い山ができる。
これだけで、おそらく万を超える死骸があるな。
うう、見るにもおぞましい光景だ。
だが、今からさらにおぞましい光景を俺自身がこの場に顕現させなければならない。
「よくやったパレルモ、今日の昼飯は大蛇肉と石化トカゲ肉のローストだ。好きなだけ食わせてやる」
「ふ、ふん。それで手をうとうじゃないか」
腕を組んで、ぷいっと顔を背けながらパレルモがぼそっと呟く。
じゅるりっと何かを啜る音がした気がするが、聞こえなかったことにしておこう。
まあいい。
「――《クリエイト・アンデッド》」
仄暗い光が蟲型魔物の死骸でできた黒い山を覆う。
キシキシキシキシキシ――
次の瞬間、山が蠢いた。
ふう、小さな蟲型魔物とはいえ、さすがに万単位で操るのはキツいな。
だが、出すべき命令は単純だ。
「よし。お前ら、あの枯木野郎を『食い尽くせ』」
ざざざざざざ――
命令を発した途端、蟲型魔物が凄まじい勢いでトレントに群がり、その身体を貪り始める。
あっというまにトレントの姿が覆われ見えなくなった。
『ィイ゛ア゛ァ――……』
今度こそ、本当の断末魔を上げるトレント。
硬貨大の紅い魔力核が露出するまで、そう時間はかからなかった。
◇
「ふんっ」
ブーツで思い切り魔力核を踏みつけると、バキンと砕ける音が聞こえた。
同時に、食い散らかされたトレントの残骸の再生が止まる。
ふう。
ひとまずこれで終わりだ。
しかしまさかトレントのヤツ、蟲型魔物の腹を食い破って再生しようとするとは思わなかった。
おかげでかなりの蟲型魔物が戦闘不能になった。
在庫処分の方法としてはまずまずの効率だが、戦術としては、さすがに損耗率が無視できない。
やはり火焔魔術を使えるヤツをこの場に連れてくる必要があるな。
ああ、ちなみにバラバラになった山賊のお頭は食わせていない。
山賊とはいえ、一応人間だからな。
で、だ。
ひととおり蟲の片付けが済んだら、次は砦の攻略なのだが……
もちろん魔物を一体倒しておわり、というわけにはいかない。
この調子じゃ、今度は交易路で魔物に襲われる商隊が出るだろうからな。
それはさすがに山賊の襲撃以上にマズい。
最悪、その道が封鎖されてしまう。
だがピエールたちは逃げてしまったし、山賊のお頭のことを考慮に入れると、多分子分どももトレントに寄生されている可能性が高い。
都合四十体分の、やたら再生力の高いトレント。
さすがにE、Dクラスの冒険者連中には荷が重すぎる。
結論としては、俺とパレルモで砦に殴り込みをかけるしかなさそうだった。
そう思って、半開きのまま止まった砦の門をくぐろうとした、そのとき。
「おいおいウソだろォ? 防衛網にネズミが引っかかったから出てきてみりゃァ……まさか俺のオモチャをぶっ壊すヤツがいるなんてなァ」
門の向こうから、男が現れた。
顔色の悪い、痩せた男だ。
年齢は、二十代後半程度だろうか。
山賊というよりも冒険者の出で立ちで、首輪をしている。
というか、首輪??
一応、そういったファッションがあるのは知ってる。
だが、チョーカーにしては太すぎるし、なによりボロボロだ。
なんだコイツ?
「ねーライノ、あのオヤジ、だーれー? なんかーライノみたいな匂いがするよー?」
だから、老いも若いも知らないヒトをオヤジ呼ばわりするのはやめようね、パレルモさん?
あと俺は臭くない。
俺を敵だと認識しただろう。
トレントの巨大な眼球がぎょろりとこちらを向き、甲高い耳障りな叫び声を上げた。
「ひいいいぃぃぃッ!?」
「ピエール殿、ここは一度退避だ! 我々の手に負える相手ではない! おいそこの冒険者! お前も早く下がれ! クソ、なぜこんな場所に、ダンジョン深層の魔物が……」
背後をちらりと見やると、腰を抜かしたままあとずさるピエールが見えた。
おい、さっきの威勢はどうした。
整った顔が恐怖でグシャグシャだぞ。
とはいえ、さすがにBランク冒険者に昇格したばかりだと、トレントの実物を見るのはこれが初めてだろう。
ただの山賊をボコにするのとは話が違う。
冷静に対処しろというのは酷だな。
一方、重戦士ジェラルドは比較的落ち着いている。
こちらにも退避を促してくるが、ここはスルーだ。
コイツを倒さないとアジトに侵入できないからな。
背後の二人が退く気配を感じつつ、俺は腰に差していた包丁を抜き構える。
『イ゛ィッ!』
しばらくこちらの様子を伺っていたトレントが動いた。
太く強靱な腕部がしなり、横凪ぎに振るわれる。
俺は半身を傾け、難なくコレを躱す。
紙一重だったせいか、太く重い風切り音が耳朶を打った。
ゴウ! ゴウ! ゴウ!
さらに立て続けの三連撃。
左右の腕部を交互に、まるでムチのようにしならせ振るってくる。
一撃でもかすれば、そのゴツゴツとした樹皮が目の粗いヤスリのように皮膚を削り取っていくだろう。
それだけでも、かなりのダメージだ。
おまけに、それで皮下に種子を埋め込まれる危険性もある。
そうなれば戦闘どころじゃない。
触れるのは危険だな。
とはいえ、トレントの動き自体は単調だ。
速度も、視界に捉えられないほどじゃない。
これなら常時《時間展延》を発動する必要はなさそうだ。
なんだかんだでアレは魔力を消費するからな。
「――《解体》」
ダメもとでスキルを発動し、トレントに一撃を加えてみる。
ガッ
……やはりダメか。
包丁は特に長さが変化するでもなく、トレントの樹皮にちょっと傷が付いただけだ。
これじゃ攻撃力が足らなすぎるな。
まあ、例の光の筋が浮かび上がってないから、そうなると思ったが……
やはり食材に対してのみ、このスキルは発動するようだ。
代わりに、未だトレントの上に乗っかったままのお頭のお頭がぽやんっ、と光ったのが視界に入った気がしたが、俺は何も見ていない。見ていないったら見ていない。
さて、そうなるとだ……
「パレルモ!」
「あーい!」
呼びかけとともに、茂みから飛び出て俺の隣に並ぶパレルモ。
俺とトレントを交互に見比べ、
「ねーライノー、あの木、美味しい果物とか取れないのー?」
「……残念だが、アレはただの枯木だな。せいぜい薪にしかならん」
「そっかー。じゃあ薪割りして、おいしーご飯作らないとだねー」
なかなかプラス思考だな、パレルモは。
というかお前の判断基準はメシしかないのか。
まあ誰も食べたくない奇妙な果実ならその枯木の上に乗っかっているがな!
「いずれにせよ、とっととこの枯木野郎を薪に変えなきゃならん。パレルモ、例のアレでヤツの身体のど真ん中を狙え」
「あいさっさー」
ビシ! と俺に向かって敬礼するパレルモ。
だから美少女顔でその海賊の手下その一みたいな返事はやめろ。
「んんー……そおいっ!」
バツン!
『ィイ゛アア゛ァァア゛――ッ』
不可視の刃で胴体を袈裟斬りにされ、断末魔のような叫びを上げるトレント。
おお、包丁で傷つけるのがやっとだったのが、真っ二つだ。
やっぱ空間断裂魔術《ばーん! てなるやつ》の威力はスゴイな。
あとで、魔術の名前を考えてやろう。
さすがに言いづらい。
「あーっ! アイツずるいー」
が、喜んだのもつかの間、トレントの二つに分かれた胴体から根のようなものが伸び、再び結合してしまった。
えっ。
トレントって、こんな再生能力あったっけ?
『ィイ゛ッ!』
元通りの身体になり、「今、何かしたのか?」というように大きく裂けた口を歪めるトレント。
コイツらに以前遭遇したときは、種子感染の危険があるからだいたい火焔魔術で消し炭にしてたからな。あれは女騎士イリナの魔法剣だったかな?
基本的に植物系の魔物は生命力が異常に高い。
倒すには、全身を炎で燃やし尽くすか、体内にある魔力核を破壊する必要がある。
だが、完全に真っ二つにしたヤツが一瞬で元通りになるのはちょっと見たことがないぞ。
しかし、そうなると炎で焼き尽くすのが最善手に思えるが……今この場で火焔魔術が使えるヤツは、あのシモンとかいう魔術師だ。
だが、さすがにここに呼んでこれるほどの隙はない。
「そいっ、へあっ、とやーっ! ああーもう! アイツずるいよ! すぐに元にもどっちゃう!」
パレルモが何度か時空断裂魔術を叩き込むんでいるが、そのたびにすぐ再生してしまう。
これじゃラチが明かないな。
「とりあえず、他の倒し方を考えよう。パレルモ、とりあえず下がってくれ」
「むうー。しかたない……」
さて、どうしたものか。
ラッキーパンチ狙いで魔力核に当たるまで打ち続けるということもできなくはないが、パレルモの魔力も無限じゃない。
それに山賊の頭がこれじゃ、手下の数だけトレントが存在すると考えた方がいいだろう。
正直、頭が痛くなるような数だな。
うーむ。
トレントの暴風のような攻撃をひたすら躱しながら、考える。
俺の手持ちのカードは、パレルモの空間断裂魔術をのぞけばかなり少ない。
スキル《解体》の効力は発揮できないのは実証済みだ。
では、身体能力に任せてトレントを引き裂き、魔力核を破壊する?
それは種子感染の危険性を冒してまで取るべき手段じゃない。
火焔魔術は使えないしなあ。
一つ可能性があるとすれば保管してあるワイバーンの肉を食うことだが、それで火焔ブレスを使えるようになる可能性は低い。
今のところ、魔物肉による取得スキルは基本的に能力向上系や補助系スキルばかりだったからな。
今使える氷雪魔術も、結局はモノを冷却できる程度にとどまる。
見方によっては、それも補助系スキルの延長線上なのだろう。
となるとあとは、まだ未処理のまま《ひきだし》に保管している魔物の死骸を死霊術で操り食わせてしまうか。
だが、あれらは食材だからな。
ヒトから育ったトレントを食った魔物を食材にしたくはない。
ん?
そういえば。
トレントを食わせても、問題ないヤツがあったな。
食材とは見なせない、名状しがたきアレが。
うん。
これはアレを完全に廃棄するまたとないチャンスだ。
かなりの間保管していたからまともに動くかどうかわからんが、試してみる価値はありそうだ。
「パレルモ、ちょっといいか」
背後のパレルモに声をかける。
「なにー?」
「《ひきだし》から『蟲型』を出せ。あるだけ全部だ」
「ええー!? もったいないよー。せっかく取っておいてるのにー」
うるさい。
アレを食材とは認めんぞ俺は。
「反論禁止! 全部だぞ全部、一体でも隠したら今日の昼飯抜きだぞ」
「そんな……ライノ酷い! ライノのオーガ! トロル! 挑戦者ーっ!」
パレルモが涙目で思いつく限りの悪口を俺にぶつけてくるが、知らんな。
というか、オーガもトロルも挑戦者も、多分お前よりはるかに弱いよね?
「もうー! はいっ! はいやっ、えーい!」
とはいえ昼飯抜きは絶対にイヤらしい。
パレルモは両手を突き上げ、亜空間への扉を開く。
ざざざざざざざざざ……
そこから、まるで土石流のごとく流れ出る、蟲、蟲、蟲の死骸。
みるみるうちに身の丈を越える黒い山ができる。
これだけで、おそらく万を超える死骸があるな。
うう、見るにもおぞましい光景だ。
だが、今からさらにおぞましい光景を俺自身がこの場に顕現させなければならない。
「よくやったパレルモ、今日の昼飯は大蛇肉と石化トカゲ肉のローストだ。好きなだけ食わせてやる」
「ふ、ふん。それで手をうとうじゃないか」
腕を組んで、ぷいっと顔を背けながらパレルモがぼそっと呟く。
じゅるりっと何かを啜る音がした気がするが、聞こえなかったことにしておこう。
まあいい。
「――《クリエイト・アンデッド》」
仄暗い光が蟲型魔物の死骸でできた黒い山を覆う。
キシキシキシキシキシ――
次の瞬間、山が蠢いた。
ふう、小さな蟲型魔物とはいえ、さすがに万単位で操るのはキツいな。
だが、出すべき命令は単純だ。
「よし。お前ら、あの枯木野郎を『食い尽くせ』」
ざざざざざざ――
命令を発した途端、蟲型魔物が凄まじい勢いでトレントに群がり、その身体を貪り始める。
あっというまにトレントの姿が覆われ見えなくなった。
『ィイ゛ア゛ァ――……』
今度こそ、本当の断末魔を上げるトレント。
硬貨大の紅い魔力核が露出するまで、そう時間はかからなかった。
◇
「ふんっ」
ブーツで思い切り魔力核を踏みつけると、バキンと砕ける音が聞こえた。
同時に、食い散らかされたトレントの残骸の再生が止まる。
ふう。
ひとまずこれで終わりだ。
しかしまさかトレントのヤツ、蟲型魔物の腹を食い破って再生しようとするとは思わなかった。
おかげでかなりの蟲型魔物が戦闘不能になった。
在庫処分の方法としてはまずまずの効率だが、戦術としては、さすがに損耗率が無視できない。
やはり火焔魔術を使えるヤツをこの場に連れてくる必要があるな。
ああ、ちなみにバラバラになった山賊のお頭は食わせていない。
山賊とはいえ、一応人間だからな。
で、だ。
ひととおり蟲の片付けが済んだら、次は砦の攻略なのだが……
もちろん魔物を一体倒しておわり、というわけにはいかない。
この調子じゃ、今度は交易路で魔物に襲われる商隊が出るだろうからな。
それはさすがに山賊の襲撃以上にマズい。
最悪、その道が封鎖されてしまう。
だがピエールたちは逃げてしまったし、山賊のお頭のことを考慮に入れると、多分子分どももトレントに寄生されている可能性が高い。
都合四十体分の、やたら再生力の高いトレント。
さすがにE、Dクラスの冒険者連中には荷が重すぎる。
結論としては、俺とパレルモで砦に殴り込みをかけるしかなさそうだった。
そう思って、半開きのまま止まった砦の門をくぐろうとした、そのとき。
「おいおいウソだろォ? 防衛網にネズミが引っかかったから出てきてみりゃァ……まさか俺のオモチャをぶっ壊すヤツがいるなんてなァ」
門の向こうから、男が現れた。
顔色の悪い、痩せた男だ。
年齢は、二十代後半程度だろうか。
山賊というよりも冒険者の出で立ちで、首輪をしている。
というか、首輪??
一応、そういったファッションがあるのは知ってる。
だが、チョーカーにしては太すぎるし、なによりボロボロだ。
なんだコイツ?
「ねーライノ、あのオヤジ、だーれー? なんかーライノみたいな匂いがするよー?」
だから、老いも若いも知らないヒトをオヤジ呼ばわりするのはやめようね、パレルモさん?
あと俺は臭くない。
0
あなたにおすすめの小説
レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
転生者のブルーノは絶大な力を持っていたが、その力を隠してダンジョンの荷役として暮らしていた。だが、教会の力で勇者を騙る卑怯下劣な連中に、レットドラゴンから逃げるための生贄として、ボス部屋に放置された。腐敗した教会と冒険者ギルドが結託て偽の勇者パーティーを作り、ぼろ儲けしているのだ。ブルーノは誰が何をしていても気にしないし、自分で狩った美味しいドラゴンを食べて暮らせればよかったのだが、殺されたブルーノの為に教会や冒険者ギルドのマスターを敵対した受付嬢が殺されるのを見過ごせなくて・・・・・・
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる