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第27話 山賊討伐⑥ 覚醒
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「つーかなんなんだその包丁は!この身体になってからは聖騎士の大剣でも傷つけられたことがなかったんだぞ!? 意味分かんねーよ!」
そんなことを俺に言われても知らんな。
この包丁自体は、伸びたり縮んだりと多少マジカルな演出があったりするが、実際にはちょっと切れ味がいいだけのただの包丁だからな。
「だいたいだな! てめェ、自分の立場分かってんのかァ!? 俺はなァ! このペッコ様はなァ! 聞いて驚くなよ? 俺は神なんだよ! 『怠惰』の力を操る、この世で最強の存在なんだよォ!」
コイツの名前が判明した。
ペッコと言うらしい。
ちょっと前にそんな名前を聞いたような気がするが……
うん、判明したのは今だな。
異論は認めない。
しかしコイツが『神』?
ずいぶんと大きく出たな。
俺なんか『魔王』だぞ。
まあ、多少再生能力が高くて人間を魔物化する術を使えるだけの自称神のことはどうでもいい。
俺の目的は、この辺を荒らし回る山賊を討伐して交易ルートの安全を確保することだからな。
砦の山賊が全滅して魔物化してるならば、あとは掃討して終わりだ。
自称神のペッコはふん縛ってギルドに連行だな。
とりあえず魔術を使えないように、その手はいったん隔離させてもらおうか。
だが、俺の殺気を察知したのか、
「オ、オイ待てや! そのクソ包丁を振りかぶる前に、よーく周りを見てからにしろや!」
ペッコが慌てて俺を制止する。
「あ?」
森の方を見ると、隠れていた冒険者たちが全員茂みの外に出ていた
ピエールとジェラルドらの女神組に、マルコ組や他の冒険者も、全員だ。
んん?
あいつら逃げたんじゃなかったのか。
何か様子が変だな。
というか……その背後にいる鎧騎士は何?
「痛っ! ちょっと、離してよ!」
「すまん、捕まっちまった!」
ケリイが抗議の声を上げ、マルコがこっちに向かって謝ってくる。
よくよく見れば、完全武装した騎士が冒険者たちに武器を突きつけてたり、拘束したりしている。
その数は、冒険者たちよりも多い。
二、三十人はいそうだ。
あっというまに俺とパレルモも囲まれてしまう。
なんだこの状況。
というかあの鎧に描かれた紋章……聖騎士じゃないか。
寺院の僧兵どもが、なんでこんな場所に?
だが妙だ。
聖騎士は揃いも揃って皆、蔦まみれだ。
まるで何年も森の中に放置された鎧をそのまま着込んだようだ。
動きもギクシャクとしてるし、まるで操り人形みたいだな。
あれは、まるで……
「ククク。ただ黙ってやられてるわけじゃなかったってことだ。負けた? ほざけや。これからが本番だぜェ。やっと『本体』と接続も完了したしな」
ペッコがそんなことを言い出した。
というかコイツ、こんなに背デカかったっけ?
それに足下が地面と同化している……というか、足が木の根に変化している。
ペッコの背が、ぐんぐんと伸びる。
肌はささくれ立ち、ゴツゴツとした質感に変化した。
その姿はトレント……というより、樹木そのものだ。
しまいには地面を割って大木の根が姿を現す。
ペッコ自身も、さらに巨大化し、とうとう砦を侵食し始めた。
おおう……
砦もろともトレント化した山賊を喰ってやがる。
完全に共食いじゃねーか。
『ハハァッ! 見ろよッ! これが『怠惰』の力、神樹ペッコ様の真の姿だァ。もうてめェは終まいだ。プチッと叩きつぶして、そのままボリボリ喰らってやるぜ。そこのちんまい小娘もなァ!』
完全に砦を呑み込んだペッコは、今や見上げるような大きさだ。
砦とほとんど同じ太さの幹に、これまた巨大な眼球。
鋭い牙が覗く巨大な顎はワイバーン程度なら一口で呑み込んでしまえそうな大きさだ。
うん、禍々しい。
その姿で神樹はないだろ。
どう見ても、悪魔の樹だぞ。
『ひれ伏せや! この神樹ペッコ様になァッ!』
神樹ペッコが、その巨大な腕を俺に向かって振り下ろしてくる。
樹齢数千年を経た大樹のような腕だ。
巻き込まれれば、さすがの俺もどうなるか分からない。
「――《時間展延》!」
俺はスキルを発動しパレルモを抱きかかえると、聖騎士の間をすり抜けその場から離脱する。
ガゴン!
スキルを解除した瞬間、凄まじい衝撃が地面を揺らす。
腕を振り下ろした場所はクレーターができ、巻き添えを食った聖騎士の何人かがぺちゃんこになった。
おお、とんでもない威力だ。
あれは喰らいたくねーな……
「終わりだ……もう終わりだ……」
森の端でその一部始終を見ていた冒険者たちが絶望の声を上げる。
「なんなのアレ! 冗談じゃないわよ! 離して! 離してったら!」
ケリイだけは懸命に拘束から逃れようと、思いっきり聖騎士のスネを蹴ってるな。
この状況にも関わらず、意外と肝が据わっているらしい。
効は奏していないようだが……
『ククク。ちょいとすばしこいみたいだが、いつまで持つかなァ? それにてめェの相手はこの俺様だけじゃねーぞォ?』
さらに別の聖騎士が俺たちを取り囲む。
「ライノー。このオヤジたち、なんかへん」
たしかにパレルモが言う通り、この聖騎士ども、動きがおかしい。
なんというか、ギクシャクしているというか、動かされている、というか。
あと、聖騎士から漂ってくるこの臭いは……
神樹ペッコが揺るがぬ勝利を確信したのか、聞かれていないのに自慢げに語り出す。
『ククク。お前は強ェ。今まで食い殺してきた冒険者の中でも、とびっきりだァ。だが、俺様手ずから強化を施した聖騎士たちには勝てるかなァ!?』
鋭い牙を覗かせた顎を歪め、神樹ペッコが続ける。
『なにしろコイツらの体内にはトレントの根を張り巡らせ、人間をはるかに上回る身体能力を引き出した俺様の最高傑作だァ。
その戦闘力は、一体で十人の聖騎士を瞬時に屠ったことで実証済みだぜ?』
なにそれすごい。
聖騎士は冒険者のランクに当てはめると、一人一人がAランク相当の実力を持つ。
そんな連中を複数同時に相手取り、なおかつ無双できるとは。
完全に人外の領域だ。
だが、俺が知りたいのはそこじゃないな。
「おお、すげーなソレ。けど、身体中がトレントの根っこだらけになった人間って、無事なのか?」
『はあ? んなわけねーだろォ? 一応鎧を動かすのに必要だから原型は留めさせているが、トレントに身体中を冒されてるんだ。生きていられると思うかァ?』
何当たり前のことを言ってるんだ、とペッコがバカにしたような巨眼でこっちを見てくる。
「この外道が! 気高き聖騎士様になんてことを……ッ!」
その聖騎士に捕まったままのピエールが激昂して叫ぶ。
『はァ? お前にはこの素晴らしさが理解できねーのかァ? じゃあそこで這いつくばってな!』
「ぐわッ!?」
聖騎士トレントに腕をねじ上げられたまま組み伏せられ、苦悶の顔に歪むピエール。
そうか。
あいつら、すでに死体なのか。
なるほどなるほど。
「ライノー、またすっごく悪い顔してるよー?」
パレルモのまたもやドン引きした声が聞こえるが、知らんな。
「――《クリエイト・アンデッド》」
仄暗い光が、聖騎士トレントを包みこむ。
『……あァ?』
神樹ペッコが訝しげな声を上げたが、もう遅い。
糸を切られた操り人形のように、俺とパレルモを囲んでいた聖騎士トレントがガクン、と動きが止まる。
だが次の瞬間。
聖騎士が活動を再開した。
今度は、生きているのと変わらないほど滑らかに。
『お、おい……おいてめェ! 今、何をした!』
さすがにコレは予想外だったのか、慌てたような声を出す神樹ペッコ。
今や聖騎士は神樹ペッコに向けて武器を構えている。
「なにをって……ちょっとお前のオモチャを借りてみただけだよ。なかなかいい感じだろ?」
ふう。
さすがに聖騎士を複数ゾンビ化するのはキツいな。
コイツらは特殊な術式で限界まで魔力抵抗を高めているからな。
それを操るのは、魔物のゾンビ化とは段違いの魔力を消費する。
この場にいる全部に魔術の効力を及ぼしたつもりが、なんとか自由に操れるのは周辺の四、五人がやっとだ。
つーか、異常にキツい。
自分でもハッキリと自覚できるくらい、ガンガンと魔力を消費している。
いや、これおかしくね?
聖騎士がいくら操りにくいとはいえ、こんなに魔力を消費するのか?
いくらなんでもおかしい。
それに、この視界に映る文字は何だ。
《スキル『眷属化』が発動しました。活動限界まで:180秒》
いや、眷属ってなんぞ?
「お、おいケリイ。お前それ……一体なんだよ」
「ケリイ、その姿は……?」
「……え? え? ええーっ!? なにコレ!? どうなってんの?」
なんか後ろが騒がしいな。
この声は、マルコ組だ。
振り返る。慌てたような顔の三人組がいた。
それはいい。
問題は、三人のうちケリイが半人半魔の怪人になっている、ということだ。
え?
なにこれ?
ケリイの下半身から足が消えうせ、代わりに無数の触手がうねうねとのたくっている。
さらに彼女の着ていた服が何か名状しがたい形に変化し、さらに手に持った治癒術用の杖の頭が、巨大な眼球に変化している。
うん、あの触手はゲイザーのだな。吸盤があるし。
というか、そのやたら露出度高めの痴女い格好は何だ。
「うおおおぉぉッ!」
「……ふむ」
それを至近距離から目撃したマルコが歓喜の雄叫びを上げ、セバスはちらりと一瞥したあと、深く頷いた。
つーかセバス。貴様、『紳士』だな?
あのパーティーはもうダメだ。
ケリイ、早く逃げた方がいいぞ。
「おー。ケリイ、おいしそう。あの触手しゃぶりたい……」
パレルモ、生ゲイザーのゲソは猛毒だから喰ったらダメだからな。
《『眷属化』発動中……活動限界まで:158秒》
『クソ! てめェ! やはり『力』を隠してやがったな! オイ! 早くあの魔物女を殺せ! 何かヤバい! 最優先だ!』
神樹ペッコが慌てたような声で、残りの聖騎士たちに指示を飛ばす。
それを合図に何人もの聖騎士が、魔物化(?)したケリイに襲いかかった!
だが。
「きゃっ!? ちょっと! 危なっ! ひゃん!? ちょっと……どこ触ってんのよ!」
ゴガガン!
ケリイ怒りの形相で目玉の付いた杖と触手を振り回すと、一騎当千(ペッコ談)の聖騎士たちが吹き飛ばされた。
えっ。
なんだあの怪力。
「えっ。ええーっ? あ、ご、ごめんなさい?」
あまりに予想外だったのか、ケリイも自分の力に固まっている。
その様子をアゴが外れそうな顔で凝視するマルコとセバス。
さっきのフィーバーぶりからの落差が激しいな。
というか、あの触手はやっぱり毒持ちらしい。
トレント化しているはずの聖騎士は全員倒れたままビクビク痙攣して動けなくなっている。
すでに残る聖騎士は、俺がゾンビ化した連中だけだ。
「何なの、この力」
それは俺が聞きたい。
死霊術を使ったら、人間が魔物化して聖騎士相手に無双を始めました。
ワケがわかんねーよ……
『クソがァ! こうなったら、もう聖騎士もいらねェ! 全員まとめて押しつぶしてやる!』
神樹ペッコは完全にキレたようだ。
地響きをともなう咆吼と同時に、地を割って巨大な樹の根が次々と現れた。
その余波で土中に埋もれていた巨岩や大量の土砂が俺たちに向かって降り注ぐ。
「あぶねっ!?」
「はわわわー!?」
さすがにあの巨体から繰り出される攻撃は強力無比だ。
喰らえばタダじゃすまないのは明白だ。
だが、神樹ペッコの猛攻は終わらない。
『死にやがれえええぇぇェッ!』
巨大な樹の根が束になり、今度は遠くのケリイを押しつぶそうと迫る。
「ケリイ! 逃げろ!」
俺が叫ぶが、ここからじゃ《時間展延》でも間に合わない。
クソ、速い!
「ちょっ、うそうそうそ、こんなこんな恥ずかしい格好で死にたくないーっ! いやああああぁぁぁ!!」
ケリイが涙目で叫び、自分の身体をかばうようにゲイザー杖を手前に突きだした。
と、そのとき。
《眷属による極大魔術の行使を確認》
《魔術名:ゲイザー・キャノン》
《眷属の魔力量不足による消滅を防ぐため、強制的に余剰魔力を譲渡します》
えっ。
例のごとくあの光る文字が視界に浮かび上がる。
「ぐああああああっ!?」
とんでもない勢いで魔力が消費されているのを感じ、思わず叫んでしまう。
な、なんだコレ。
まるで酒をバカみたいに呑んだ後のような気持ちが悪さだ。
視界がグニャグニャする。
魔力を吸われた経験はこれが初めてだが、キツい……!
だがその甲斐があったのか、ケリイが持つ杖の前方に巨大な魔法陣が展開されてゆき、さらに目玉部分から強烈な閃光が迸った。
「……え?」
杖を持ったまま、唖然とするケリイ。
閃光は魔法陣に吸い込まれると同時に収束し、極太の光線となって神樹ペッコに突き刺さる。
『があああああああああァ!? なんだ、この力はァ! 俺の、この神の身体がァ……』
白色の光線が、神樹ペッコの身体を無慈悲に灼き尽くしていく。
いやいやいや。
何だそのぶっ壊れた威力の魔術は。
――バシュウウゥゥゥゥ……
そして。
俺の見ている前で、神樹ペッコは跡形もなく消え去った。
そんなことを俺に言われても知らんな。
この包丁自体は、伸びたり縮んだりと多少マジカルな演出があったりするが、実際にはちょっと切れ味がいいだけのただの包丁だからな。
「だいたいだな! てめェ、自分の立場分かってんのかァ!? 俺はなァ! このペッコ様はなァ! 聞いて驚くなよ? 俺は神なんだよ! 『怠惰』の力を操る、この世で最強の存在なんだよォ!」
コイツの名前が判明した。
ペッコと言うらしい。
ちょっと前にそんな名前を聞いたような気がするが……
うん、判明したのは今だな。
異論は認めない。
しかしコイツが『神』?
ずいぶんと大きく出たな。
俺なんか『魔王』だぞ。
まあ、多少再生能力が高くて人間を魔物化する術を使えるだけの自称神のことはどうでもいい。
俺の目的は、この辺を荒らし回る山賊を討伐して交易ルートの安全を確保することだからな。
砦の山賊が全滅して魔物化してるならば、あとは掃討して終わりだ。
自称神のペッコはふん縛ってギルドに連行だな。
とりあえず魔術を使えないように、その手はいったん隔離させてもらおうか。
だが、俺の殺気を察知したのか、
「オ、オイ待てや! そのクソ包丁を振りかぶる前に、よーく周りを見てからにしろや!」
ペッコが慌てて俺を制止する。
「あ?」
森の方を見ると、隠れていた冒険者たちが全員茂みの外に出ていた
ピエールとジェラルドらの女神組に、マルコ組や他の冒険者も、全員だ。
んん?
あいつら逃げたんじゃなかったのか。
何か様子が変だな。
というか……その背後にいる鎧騎士は何?
「痛っ! ちょっと、離してよ!」
「すまん、捕まっちまった!」
ケリイが抗議の声を上げ、マルコがこっちに向かって謝ってくる。
よくよく見れば、完全武装した騎士が冒険者たちに武器を突きつけてたり、拘束したりしている。
その数は、冒険者たちよりも多い。
二、三十人はいそうだ。
あっというまに俺とパレルモも囲まれてしまう。
なんだこの状況。
というかあの鎧に描かれた紋章……聖騎士じゃないか。
寺院の僧兵どもが、なんでこんな場所に?
だが妙だ。
聖騎士は揃いも揃って皆、蔦まみれだ。
まるで何年も森の中に放置された鎧をそのまま着込んだようだ。
動きもギクシャクとしてるし、まるで操り人形みたいだな。
あれは、まるで……
「ククク。ただ黙ってやられてるわけじゃなかったってことだ。負けた? ほざけや。これからが本番だぜェ。やっと『本体』と接続も完了したしな」
ペッコがそんなことを言い出した。
というかコイツ、こんなに背デカかったっけ?
それに足下が地面と同化している……というか、足が木の根に変化している。
ペッコの背が、ぐんぐんと伸びる。
肌はささくれ立ち、ゴツゴツとした質感に変化した。
その姿はトレント……というより、樹木そのものだ。
しまいには地面を割って大木の根が姿を現す。
ペッコ自身も、さらに巨大化し、とうとう砦を侵食し始めた。
おおう……
砦もろともトレント化した山賊を喰ってやがる。
完全に共食いじゃねーか。
『ハハァッ! 見ろよッ! これが『怠惰』の力、神樹ペッコ様の真の姿だァ。もうてめェは終まいだ。プチッと叩きつぶして、そのままボリボリ喰らってやるぜ。そこのちんまい小娘もなァ!』
完全に砦を呑み込んだペッコは、今や見上げるような大きさだ。
砦とほとんど同じ太さの幹に、これまた巨大な眼球。
鋭い牙が覗く巨大な顎はワイバーン程度なら一口で呑み込んでしまえそうな大きさだ。
うん、禍々しい。
その姿で神樹はないだろ。
どう見ても、悪魔の樹だぞ。
『ひれ伏せや! この神樹ペッコ様になァッ!』
神樹ペッコが、その巨大な腕を俺に向かって振り下ろしてくる。
樹齢数千年を経た大樹のような腕だ。
巻き込まれれば、さすがの俺もどうなるか分からない。
「――《時間展延》!」
俺はスキルを発動しパレルモを抱きかかえると、聖騎士の間をすり抜けその場から離脱する。
ガゴン!
スキルを解除した瞬間、凄まじい衝撃が地面を揺らす。
腕を振り下ろした場所はクレーターができ、巻き添えを食った聖騎士の何人かがぺちゃんこになった。
おお、とんでもない威力だ。
あれは喰らいたくねーな……
「終わりだ……もう終わりだ……」
森の端でその一部始終を見ていた冒険者たちが絶望の声を上げる。
「なんなのアレ! 冗談じゃないわよ! 離して! 離してったら!」
ケリイだけは懸命に拘束から逃れようと、思いっきり聖騎士のスネを蹴ってるな。
この状況にも関わらず、意外と肝が据わっているらしい。
効は奏していないようだが……
『ククク。ちょいとすばしこいみたいだが、いつまで持つかなァ? それにてめェの相手はこの俺様だけじゃねーぞォ?』
さらに別の聖騎士が俺たちを取り囲む。
「ライノー。このオヤジたち、なんかへん」
たしかにパレルモが言う通り、この聖騎士ども、動きがおかしい。
なんというか、ギクシャクしているというか、動かされている、というか。
あと、聖騎士から漂ってくるこの臭いは……
神樹ペッコが揺るがぬ勝利を確信したのか、聞かれていないのに自慢げに語り出す。
『ククク。お前は強ェ。今まで食い殺してきた冒険者の中でも、とびっきりだァ。だが、俺様手ずから強化を施した聖騎士たちには勝てるかなァ!?』
鋭い牙を覗かせた顎を歪め、神樹ペッコが続ける。
『なにしろコイツらの体内にはトレントの根を張り巡らせ、人間をはるかに上回る身体能力を引き出した俺様の最高傑作だァ。
その戦闘力は、一体で十人の聖騎士を瞬時に屠ったことで実証済みだぜ?』
なにそれすごい。
聖騎士は冒険者のランクに当てはめると、一人一人がAランク相当の実力を持つ。
そんな連中を複数同時に相手取り、なおかつ無双できるとは。
完全に人外の領域だ。
だが、俺が知りたいのはそこじゃないな。
「おお、すげーなソレ。けど、身体中がトレントの根っこだらけになった人間って、無事なのか?」
『はあ? んなわけねーだろォ? 一応鎧を動かすのに必要だから原型は留めさせているが、トレントに身体中を冒されてるんだ。生きていられると思うかァ?』
何当たり前のことを言ってるんだ、とペッコがバカにしたような巨眼でこっちを見てくる。
「この外道が! 気高き聖騎士様になんてことを……ッ!」
その聖騎士に捕まったままのピエールが激昂して叫ぶ。
『はァ? お前にはこの素晴らしさが理解できねーのかァ? じゃあそこで這いつくばってな!』
「ぐわッ!?」
聖騎士トレントに腕をねじ上げられたまま組み伏せられ、苦悶の顔に歪むピエール。
そうか。
あいつら、すでに死体なのか。
なるほどなるほど。
「ライノー、またすっごく悪い顔してるよー?」
パレルモのまたもやドン引きした声が聞こえるが、知らんな。
「――《クリエイト・アンデッド》」
仄暗い光が、聖騎士トレントを包みこむ。
『……あァ?』
神樹ペッコが訝しげな声を上げたが、もう遅い。
糸を切られた操り人形のように、俺とパレルモを囲んでいた聖騎士トレントがガクン、と動きが止まる。
だが次の瞬間。
聖騎士が活動を再開した。
今度は、生きているのと変わらないほど滑らかに。
『お、おい……おいてめェ! 今、何をした!』
さすがにコレは予想外だったのか、慌てたような声を出す神樹ペッコ。
今や聖騎士は神樹ペッコに向けて武器を構えている。
「なにをって……ちょっとお前のオモチャを借りてみただけだよ。なかなかいい感じだろ?」
ふう。
さすがに聖騎士を複数ゾンビ化するのはキツいな。
コイツらは特殊な術式で限界まで魔力抵抗を高めているからな。
それを操るのは、魔物のゾンビ化とは段違いの魔力を消費する。
この場にいる全部に魔術の効力を及ぼしたつもりが、なんとか自由に操れるのは周辺の四、五人がやっとだ。
つーか、異常にキツい。
自分でもハッキリと自覚できるくらい、ガンガンと魔力を消費している。
いや、これおかしくね?
聖騎士がいくら操りにくいとはいえ、こんなに魔力を消費するのか?
いくらなんでもおかしい。
それに、この視界に映る文字は何だ。
《スキル『眷属化』が発動しました。活動限界まで:180秒》
いや、眷属ってなんぞ?
「お、おいケリイ。お前それ……一体なんだよ」
「ケリイ、その姿は……?」
「……え? え? ええーっ!? なにコレ!? どうなってんの?」
なんか後ろが騒がしいな。
この声は、マルコ組だ。
振り返る。慌てたような顔の三人組がいた。
それはいい。
問題は、三人のうちケリイが半人半魔の怪人になっている、ということだ。
え?
なにこれ?
ケリイの下半身から足が消えうせ、代わりに無数の触手がうねうねとのたくっている。
さらに彼女の着ていた服が何か名状しがたい形に変化し、さらに手に持った治癒術用の杖の頭が、巨大な眼球に変化している。
うん、あの触手はゲイザーのだな。吸盤があるし。
というか、そのやたら露出度高めの痴女い格好は何だ。
「うおおおぉぉッ!」
「……ふむ」
それを至近距離から目撃したマルコが歓喜の雄叫びを上げ、セバスはちらりと一瞥したあと、深く頷いた。
つーかセバス。貴様、『紳士』だな?
あのパーティーはもうダメだ。
ケリイ、早く逃げた方がいいぞ。
「おー。ケリイ、おいしそう。あの触手しゃぶりたい……」
パレルモ、生ゲイザーのゲソは猛毒だから喰ったらダメだからな。
《『眷属化』発動中……活動限界まで:158秒》
『クソ! てめェ! やはり『力』を隠してやがったな! オイ! 早くあの魔物女を殺せ! 何かヤバい! 最優先だ!』
神樹ペッコが慌てたような声で、残りの聖騎士たちに指示を飛ばす。
それを合図に何人もの聖騎士が、魔物化(?)したケリイに襲いかかった!
だが。
「きゃっ!? ちょっと! 危なっ! ひゃん!? ちょっと……どこ触ってんのよ!」
ゴガガン!
ケリイ怒りの形相で目玉の付いた杖と触手を振り回すと、一騎当千(ペッコ談)の聖騎士たちが吹き飛ばされた。
えっ。
なんだあの怪力。
「えっ。ええーっ? あ、ご、ごめんなさい?」
あまりに予想外だったのか、ケリイも自分の力に固まっている。
その様子をアゴが外れそうな顔で凝視するマルコとセバス。
さっきのフィーバーぶりからの落差が激しいな。
というか、あの触手はやっぱり毒持ちらしい。
トレント化しているはずの聖騎士は全員倒れたままビクビク痙攣して動けなくなっている。
すでに残る聖騎士は、俺がゾンビ化した連中だけだ。
「何なの、この力」
それは俺が聞きたい。
死霊術を使ったら、人間が魔物化して聖騎士相手に無双を始めました。
ワケがわかんねーよ……
『クソがァ! こうなったら、もう聖騎士もいらねェ! 全員まとめて押しつぶしてやる!』
神樹ペッコは完全にキレたようだ。
地響きをともなう咆吼と同時に、地を割って巨大な樹の根が次々と現れた。
その余波で土中に埋もれていた巨岩や大量の土砂が俺たちに向かって降り注ぐ。
「あぶねっ!?」
「はわわわー!?」
さすがにあの巨体から繰り出される攻撃は強力無比だ。
喰らえばタダじゃすまないのは明白だ。
だが、神樹ペッコの猛攻は終わらない。
『死にやがれえええぇぇェッ!』
巨大な樹の根が束になり、今度は遠くのケリイを押しつぶそうと迫る。
「ケリイ! 逃げろ!」
俺が叫ぶが、ここからじゃ《時間展延》でも間に合わない。
クソ、速い!
「ちょっ、うそうそうそ、こんなこんな恥ずかしい格好で死にたくないーっ! いやああああぁぁぁ!!」
ケリイが涙目で叫び、自分の身体をかばうようにゲイザー杖を手前に突きだした。
と、そのとき。
《眷属による極大魔術の行使を確認》
《魔術名:ゲイザー・キャノン》
《眷属の魔力量不足による消滅を防ぐため、強制的に余剰魔力を譲渡します》
えっ。
例のごとくあの光る文字が視界に浮かび上がる。
「ぐああああああっ!?」
とんでもない勢いで魔力が消費されているのを感じ、思わず叫んでしまう。
な、なんだコレ。
まるで酒をバカみたいに呑んだ後のような気持ちが悪さだ。
視界がグニャグニャする。
魔力を吸われた経験はこれが初めてだが、キツい……!
だがその甲斐があったのか、ケリイが持つ杖の前方に巨大な魔法陣が展開されてゆき、さらに目玉部分から強烈な閃光が迸った。
「……え?」
杖を持ったまま、唖然とするケリイ。
閃光は魔法陣に吸い込まれると同時に収束し、極太の光線となって神樹ペッコに突き刺さる。
『があああああああああァ!? なんだ、この力はァ! 俺の、この神の身体がァ……』
白色の光線が、神樹ペッコの身体を無慈悲に灼き尽くしていく。
いやいやいや。
何だそのぶっ壊れた威力の魔術は。
――バシュウウゥゥゥゥ……
そして。
俺の見ている前で、神樹ペッコは跡形もなく消え去った。
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2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
転生者のブルーノは絶大な力を持っていたが、その力を隠してダンジョンの荷役として暮らしていた。だが、教会の力で勇者を騙る卑怯下劣な連中に、レットドラゴンから逃げるための生贄として、ボス部屋に放置された。腐敗した教会と冒険者ギルドが結託て偽の勇者パーティーを作り、ぼろ儲けしているのだ。ブルーノは誰が何をしていても気にしないし、自分で狩った美味しいドラゴンを食べて暮らせればよかったのだが、殺されたブルーノの為に教会や冒険者ギルドのマスターを敵対した受付嬢が殺されるのを見過ごせなくて・・・・・・
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
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「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
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魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
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【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
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