新任チート魔王のうまうま魔物メシ~勇者パーティーを追放された死霊術師、魔王の力『貪食』と死霊術でらくらく無双&快適メシライフを満喫する~

だいたいねむい

文字の大きさ
37 / 141

第37話 魔術検証

しおりを挟む
「む。――《繁茂》」

 ビトラの抑揚のない声が祭壇の広間に響く。
 彼女の足元がほのかに光り、丈の短い草に覆われてゆく。

 みるみるうちに、ビトラの足下に草むらが出現した。

 範囲は……彼女が両手を広げたより少し広め、といったところか。
 よく見ると、ビトラの足下に生える草は、床から直接生えているようだ。

「おお。地味にスゲーな、その魔術」

 俺は彼女から少し離れた場所に座り、その様子を見守る。

「む。魔王の巫女ならこのくらい当然。遺跡の中は魔素が濃いからよく育つ」

 腰に手を当て、得意げに蔦髪をわさっとするビトラ。
 無表情な顔の方も傾けつつ、ちょっと流し目になっている。

 あ、それドヤ顔なのね。
 分かりづらいけど。

 まあ、確かにスゲーとは思う。
 無から有を生み出す魔術は、そうそうないからな。

 生えてきた草は、地上の草原などでよく見かけるものだ。
 シロツメクサやタンポポなど、何種類かの植物で構成されているようだが……

 となると、気になる点があるな。

「なあビトラ。この前は細い植物を生やして服を編み上げていたし、昨日は何かの植物のツルでハンモックを作っていたろ? 生やす植物の種類は決められるのか?」

「む。肯定する。でも生み出せる植物は、草の類いだけ。木は生み出せない。それに、私が知っているものだけ」

「なるほど」

 つまり、生み出せる植物は草に関するものに限定されるが、知っている植物なら自在に生み出せるということか。

 これは……もう少し検証してみる価値がありそうだな。

「次は――《植物操作》」

 ビトラが小さな手を前に突き出して魔術を行使。

 すると足下の草むらがまるで生き物のようにワサワサとさざめいた。
 風にそよぐのとは違った動きだな。

 この動きは……

「おお。こっちに手を振ってくれているのか?」

 草の動きの例えに『手を振る』という表現も変だが。

「む。肯定する。他にも、こんなこともできる」

 俺の反応に気をよくしたのか、ビトラが再び魔術《植物操作》を行使する。
 すると彼女の足下の草花がするすると伸びてゆき、彼女の頭にくるくると巻き付いた。

 これはシロツメクサの草冠だな。

「いいじゃないか、似合ってるぞ、ビトラ」

 彼女の着るドレスのような服装と相まって、まるで妖精のような可憐さだ。

「む。……ありがとう」

 お、ちょっと頬と耳が赤くなったな。
 表情自体は変化ないから分かりづらいが、彼女なりに照れているようだ。

 この魔術はビトラが今着ている服や部屋のハンモックを作った術だな。
 それだけでも、かなり精密に植物を操作できることが分かる。

「む。それでは、この草冠を残してあとは片付ける。――《枯死》」

 ビトラが魔術を行使した途端、彼女の足下の草花が一瞬で枯れる。
 そしてすぐに崩れ去り、宙に消えてしまった。

 魔術の名前からしてただ枯れさせるだけかと思ったが、完全に消滅させるようだ。

「ビトラ、この《枯死》って魔術は自分で生み出した植物じゃなくても効力があるのか?」

「む。もちろん自然の植物にも効果を及ぼすことができる。でも、大きな樹や植物の魔物を完全に枯らすには時間がかかる」

「まあ、それは仕方ないだろ」

 とはいえ、植物系の魔物には絶大な威力を発揮できそうな魔術だ。
 今度植物系の魔物と戦うときは頑張ってもらうことにしよう。
  
 で、最後の魔術だが……

「魔力核生成は私の制御を離れた途端に魔物化する。この広間では難しい」

「ああ、それについては大体大体分かるからいいぞ」

 そいつは散々戦ってきたからな。
 ペッコの生み出したトレントもそうだし、この広間の五階層上のフロアボスが、まさに植物系の魔物だし。
 触手を絞ると爽やかな酸味のある汁が取れる、鍋に欠かせないアイツだな。

 ということで、おおまかにだがビトラの魔術が分かった。

 まあ、予想していたとおりだが、植物にまつわることだけに特化した魔術だ。
 正直魔術と言うよりは、魔物の持つスキルに近いが。

 彼女はアルラウネだから、魔物に近い魔術体系なのかも知れない。

「ライノ。私の魔術、どう」

 ずずいっと身を乗り出して感想を求めてくるビトラ。

 うん。
 顔は無表情でも、髪を見ずともこれは分かる。

 なんせ目がキラキラしてるからな。
 これは期待に満ちた目、というやつだ。

「そ、そうだな」

 うーん、どうしよう。
 確かにビトラの魔術はどれもスゴイものだ。

 だが、正直……パレルモの時空断裂魔術などと比べると地味だ。

 現実的に実戦で使えそうなのは《枯死》くらいか?
 《枯死》は間違いなく植物系魔物に対する有効な攻撃手段だからな。

 派手さというならば《繁茂》だが、これは明らかに攻撃手段としては使えそうにないからな。

 と、そうだ。

 この魔術についてはビトラに確認すべきことがあったな。

 そう思って、そこに立っているビトラに――

「ライノ、ライノ。私の魔術、どう」

「おわっ!?」

 気がついたら、鼻と鼻がくっつきそうな距離にビトラがいた。
 座り込んだままの俺と目線を合わせるように四つん這いになり、俺の顔を覗き込んでいる。

 考え事をしていた間に距離を詰められていたらしい。

「わ、わり。ちょっと考え事してた」

「む。ライノ、ちゃんと私の魔術を見て」

 さらにずずいっと顔を近づけてくるビトラに、俺はのけぞりながら答える。
 こんどは唇と唇が触れそうになる。

「だ、大丈夫だ。そっちはちゃんと見てたから」

「む。そっち、とは?」

「い、いや」

 思わず顔をそむけつつ、そう答える。

 いやね、ドレス姿の女の子が、四つん這いになっているわけですよ。
 しかも彼女の服は肩出しのヤツで。
 正直目のやり場に困る。

 と、そんなことはどうでもいい。
 話を戻さねば。

「そ、そうだビトラ! さっき《繁茂》でなら、お前の知ってる植物ならなんでも出せるっていったよな」

「む。肯定する。草に分類されるものなら、私の知っている限り出すことが可能」

「つまり、これから知れば・・・・・・・、それも新たに出すことができるということか?」

 こくり、とビトラが頷く。

 よし。
 それならば。

「いったん、部屋に戻ろうか」

「む。もう魔術はいいの」

 まだちょっと物足りなさそうなビトラ。
 というかこの子、なかなか距離を取ってくれないんだが。

「あ、ああ。これからビトラにはたくさん活躍してもらうことになりそうだからな」

「む。ライノがそう言うならば、仕方ない」

 言って、ビトラがようやく俺から離れた。

 ふう。

 根が真面目でやる気があるのはいいんだが、ビトラはちょっと人と人との距離感がおかしい気がするな。
 言って聞かせるような類いのことじゃないし、パレルモも似たようなところがあるし、どうしたもんかな。



 ◇



「これを《繁茂》で再現できるか?」

 ダイニングに戻った俺は、買い付けてきた荷物を開けると、例のモノを取り出した。
 包みの中に入った黒い粒をいくつか取り出すと、手の平で転がしてみせた。

「む。これは何の実。いい匂いがする」

 ビトラは俺の手から、一粒だけつまみ上げる。
 彼女はしげしげと種子を眺めたあと、くんくんと匂いを嗅いだ。

「これは黒胡椒の実だ」

 そう言うと、「……む」とビトラは不思議そうに首をかしげた。

「黒胡椒とは、あの容器に入ったもの。確かに匂いは似ているが、形が違う」

 ビトラがテーブルの上に置いたミルを指さす。

「当然だろ。あっちは、黒胡椒こいつを挽いたものだからな」

「む。それは初耳」

 驚いたふうな口調のビトラ。

 まあ、そうか。
 普段料理なんてしない彼女にとって、黒胡椒とはすでに挽いたあとの粉末のことだ。

「で、どうだ? やっぱり、実物を見ないとダメか?」

 実を言うと、俺も黒胡椒自体は見たことはあるが、実際に草木に付いているところは見たことがない。
 だから、この黒胡椒という香辛料が本当のところ草になっているのか、木になっているのかは分からない。

 ま、ダメ元だな。

「む。問題ない。でも、もしこの種子が木の実ならば、私が《繁茂》で生やすことはできない」

「分かってる。やってみて、ダメなら別のを試すまでだからな」

「了解した。では、やってみる」

 ビトラはそう言うと、両手で黒胡椒の実を包み、目を閉じた。
 すぐに彼女の両手から燐光が溢れはじめ、それが小さな魔法陣を形作る。

 そして。

「む。これが黒胡椒。覚えた」

「おお。早いな」

「覚えるのは、すぐ。――《繁茂》」

 ビトラが魔術を行使すると同時に、ダイニングの床からにょきにょきと蔦状の植物が伸びてきた。

 最初は小さな芽、それからすぐに蔦が伸び始め、やがて青々とした胡椒の実が鈴なりに実った。

「おお! ビトラ、でかしたぞ! 黒胡椒は草だったみたいだ」

「む。では、もっと増やす――《繁茂》」

「え? あ、おい、ちょっ待――」

 俺の制止を待たず、ビトラがさらに魔術を行使する。

 にょきにょきと、大量の胡椒のツルが部屋中を埋め尽くしてゆく。
 気がつけば、ダイニング全体が胡椒畑になってしまった。

「ねーねーライノーなんか騒がし……ってなにこれ!!」

 隣でゴロ寝していたパレルモがダイニングのドアを開け、素っ頓狂な声を上げた。

「ライノ。私を褒めて」

 ふんす、とドヤ顔で鼻息を荒くするビトラ。

 つーか、これどうすんだよ……

 百年間ひたすら胡椒まみれの料理を作り続けても使い切れない量があるぞ。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位 転生者のブルーノは絶大な力を持っていたが、その力を隠してダンジョンの荷役として暮らしていた。だが、教会の力で勇者を騙る卑怯下劣な連中に、レットドラゴンから逃げるための生贄として、ボス部屋に放置された。腐敗した教会と冒険者ギルドが結託て偽の勇者パーティーを作り、ぼろ儲けしているのだ。ブルーノは誰が何をしていても気にしないし、自分で狩った美味しいドラゴンを食べて暮らせればよかったのだが、殺されたブルーノの為に教会や冒険者ギルドのマスターを敵対した受付嬢が殺されるのを見過ごせなくて・・・・・・

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...