新任チート魔王のうまうま魔物メシ~勇者パーティーを追放された死霊術師、魔王の力『貪食』と死霊術でらくらく無双&快適メシライフを満喫する~

だいたいねむい

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第55話 遺跡攻略① 裏門

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「にいさま、おはよう。遅いわよ」

 ダンジョン探索の支度を整え館を出ると、すでにアイラが待っていた。
 足元には、すでに荷物が置いてある。

「おう、おはよう。もう元気そうだな」

 まだ街の建物の天辺にすら陽光が届いていない、肌寒い早朝だ。
 ベッドがもぬけの殻だと思ったら、トイレにでも行ったのだと思っていた。

「ふ、ふん。にいさまたちが寝ぼすけなだけよ。冒険者の朝は早いわ!」

 体調はすこぶる良好に見える。
 まあ、昨日はぐっすり寝れたみたいだしな。
 よかったよかった。

 だがなぜか俺と目が合うと、スッと目をそらした。
 顔が熱でもあるのかというほど赤い。
 特にふわふわの金髪に見え隠れする耳が真っ赤だ。


 ……ふむ。


 心身共に弱っていたとはいえ、あんな態度をさらけ出してしまったのだ。

 昨日のことは……さすがにからかうのは野暮ってもんか。

 『騎士の情け』というやつだ。
 とりあえず今は、普通に接しておこう。
 俺は空気の読める男だからな。

 ……もっとも、イリナらを救出したあとはその限りではないがな!


「おはよー……」

「む。おはよう。アイラは早起き」

 俺の後ろから、目を擦りながら巫女様たちが出てきた。

 早寝遅起きのパレルモはともかくとして、いつもはクールな表情のビトラも、さすがに昨日の今日では寝不足気味だったようだ。
 なんだかんだで、数時間しか眠れてないはずだからな。

 俺やアイラは過酷な冒険者生活で慣れているから、一日や二日程度なら眠らずとも行動できるが、惰眠大好き巫女二人には少々キツかったかも知れない。

 まあ、魔王の巫女という特性上、体力的に問題になることはないだろうが。

「よし。全員揃ったな。二人とも準備は大丈夫か?」

「あーい。大丈夫だよー」

「む。寝る前に準備をしておいた。問題ない」

 二人が持っていた鞄や装備品を見せてくる。
 うん、特に忘れ物などもなさそうだ。

「アイラは……聞くまでもないか」

「当たり前よ。にいさまがよだれを垂らして眠りこけている間に、私はさっさと準備を整え終えていたわ!」

「お、おう」

 薄い胸をこれでもかと張りながら、ドヤ顔をするアイラ。

 これで他の冒険者の前ではあまり喋らないから、ちんまりした見た目もあいまって『治癒天使』とか持て囃されてんだよなあ。

 まあ、俺としてもクヨクヨしたアイラを見るよりも、元気な今の姿の方がいいが……

「で、にいさま、これからどうするの? 駅馬車を使えばヘケリス地方の入り口までは三日ほどで到着できるわ。始発はもうすぐだし、急ぎましょう」

 アイラがいてもたってもいられない、といった様子だ。

「ああそうだな。すぐに出発しよう」

 俺たちは館に背をむけ、歩き出す。


 ただし、駅馬車の発着所とは真逆の方向に。



 ◇



「ちょっと待ってにいさま。なぜ私たちは今、裏門にいるのかしら」

 街の外に出たあたりで、アイラのツッコミが入った。

 結構大きな声だったせいか、門の側に立つ衛兵がこちらをじろりと見てくる。

「なぜって……裏門から出た方がヘケリス地方は近いからな。それなら、わざわざ正門から外に出る必要はないだろ」

 俺は裏門から続く道を指さす。
 その先には、鬱蒼と生い茂った森だ。
 さらにその奥には、雪で白く染まった山々が見える。

「?? でも、駅馬車の発着所は正門にしかないわよ。もう始発、出ちゃうわよ?」

 アイラが正門の方角を指さして言う。
 頭の上に疑問符が浮かんでいるのが幻視できるな。

 たしかに正門から出る駅馬車を使えば、三日ほどで遺跡近くまで到達できるだろう。

 だが、それではいくらなんでも遅すぎる。
 すでにアイラが遺跡を脱出してから、三日以上経過している計算になるからな。
 六日以上のロスはさすがに致命的だ。

 だから、俺は街の裏門から続く道をゆくことにした。
 この道の先に見える山々はヘケリス地方を取り巻く山脈だ。
 つまり、このまままっすぐ行けば、山々を迂回するルートを走る駅馬車を使うよりもはるかに早い。

 もちろん、山岳地帯を走る道だ。
 急峻な道や、場合によっては道なき道を進む必要がある。
 普通に進めば、駅馬車を使うよりも時間がかかるだろうし、ヘタをすれば遭難しかねない。

 だが、俺にはそれらの困難をクリアする方法がある。
 それには、少なくともこの先の森に入っておく必要があるのだ。

「ともかく、こっちでいいんだ。さすがに俺も、ここらでアイツらを出すほど目立ちたがり屋じゃないからな」

「目立ち……何? にいさまはさっきから何を言っているのかしら?」

「まあ、今は黙ってついてこい。説明が面倒だ」

「……ちょっとにいさま!」

 アイラが呼び止めるが、俺は構わず歩き出す。

「なんなの、もう!」

 しぶしぶ、といった様子で、歩き出す俺のあとをついてくるアイラ。
 まあ、すぐに分かるさ。



 ◇



 裏門から少し歩くと、森の中に入った。
 さらに進めば、完全に山岳地帯だ。

 この先は、険しい峠道になる。
 だがそこを越えてしまえば、一気にヘケリス地方に裏側から入ることができる。
 このまま不眠不休で歩けば、遅くとも丸二日ほどで目的の遺跡まで到着できるだろう。

 ……もちろん、そんなバカなマネをするつもりはないが。

「で、にいさま。森に入ったけど……どうするの?」

 さらに奥に進み、街道がほとんど獣道と化したあたりで、アイラが言った。
 すでに困惑を通り越して、胡乱な目つきだ。

 道の両脇は鬱蒼とした森だ。
 たしかに、アイラの言わんとしていることは分かる。

「そうだな。このへんでいいだろ。パレルモ、このスペースでも、別に《ひきだし》を使っても問題ないよな?」

「うん、大丈夫だよー。どの子を出すのー?」

 パレルモは俺の意図を察して、すでに《ひきだし》の用意をしてくれている。
 薄く開かれた亜空間の奥に、大量の魔物しょくざいが見える。
 一応保存の魔術を施しているから、鮮度コンディションは仕留めた直後とほとんど変わらないはずだ。

「ああ。ワイバーンを出してくれ。二体で十分だ」

「わかったー。ほーい!」

 ズズン! ズン!

 地響きをたてて、ワイバーンの死骸が二体、《ひきだし》から出現した。

「ちょっ……!? ギャアアアアァァァ!? 魔物っ! にいさま、逃げて……って、死んでる?」

 アイラには、いきなりワイバーンが出現したように見えたのだろう。
 悲鳴を上げて俺にすがりついてきた。

 おお、ワイバーンを指す指がプルプル震えているな。

 ま、説明してなけりゃ、こーいう反応になるか。
 首なしだし。

 だが、これも仕方がないのだ。

 裏門のところで説明しようにも、近くに衛兵が立っているからな。
 そこでアイラに説明して、連中にイチイチ反応されるのは面倒だ。

 まあ、出す前に彼女に説明しなかったのはさすがに悪かったか。
 次回は気を付けよう。

 それに、見せ場はここからだ。

「――《クリエイト・アンデッド》」

 仄暗い光が二体のワイバーンゾンビ包み込む。

『『――、――――、』』

 二体の首なしワイバーンが、ゆっくりと身体を起こした。

「ほわあああああッ!? え? ちょ、待って? えぇっ?」

 その様子を、あんぐりと口を開けたまま見つめるアイラ。
 目はこれ以上ないかというぐらいに見開かれている。

 ものすごい仰天振りだな。
 確かにちょっとばかりイタズラ心があったのは事実だ。
 だが、声が出ないほどビックリされるとは思ってなかったぞ。

「アイラ、何をびっくりしてんだ。俺が盗賊職シーフ兼死霊術師だってこと、お前が一番よく知ってるだろ?」

「いや知ってるけれども! でもこれ絶対おかしいわ!」

 アイラが首なしワイバーンを指さして絶叫する。

 ん?
 一体何がおかしいんだ。
 アレは姿がワイバーンだというだけの、ただのゾンビだぞ。
 なんの問題もないはずだが?

「こんな巨大な魔物の死骸を操る魔術なんて聞いたことないわよ! どれだけ魔力を注ぎ込めばいいのよ!……って、ふわあああああぁぁぁっ!?」

 バサリ、バサリと皮翼をはためかせるたびに、周囲の木々から木の葉がちぎれ飛ぶ。
 首なしのせいで咆吼こそ上げることはできないが、ドラゴンに次ぐ空の覇者たるワイバーンだ。威圧感はたっぷりだ。

 だがそのおかげで、矮躯のアイラは巻き起こる強風にもみくちゃにされている。

「おおー。ライノー、これに乗るのー?」

「む。私も空の旅は初めて。楽しみ」

 一方、魔王の巫女二人はさすがの余裕だ。
 首なしワイバーンを興味深そう眺めている。

「ああ。コイツで飛んで山を越えれば、ここから半日もせずに遺跡まで到達できるぞ。さあ、乗った乗った」

「わーい! わたしは一番前だからねっ! ビトラ、一緒に乗ろうよっ!」

「む。了解。私は少し寝たいから先頭はパレルモに譲る」

 初体験の空の旅にテンションマックスなパレルモに、まだまだ眠そうなビトラ。
 二人はいそいそと首なしワイバーンの背中にまたがった。

「さて、俺たちはこっちだ。少し揺れるから、ちゃんと俺の身体を掴んでおけよ」

「待ってにいさま。 まさか本当に、コレ……に乗るの? 本当に?」

 俺が手招きすると、アイラが引きつった顔で後ずさった。

「何を言っているんだ。そのために出したんだからな」

「…………」

 アイラのドン引き具合がハンパないな。 
 が、すぐに考えるのを放棄したようだ。

「仕方ないわ。ええ仕方ないわ。早くねえさまのもとに行くのが先決だわ。たとえ恐ろしい魔物の力を借りようとも、こんなところで立ち止まるわけにはいかないわ」

 とかゾンビのような目でブツブツ呟きつつ、俺の後ろに乗ってきた。

「よし、出発だ。アイラ、しっかりつかまっておけよ」

『『――――、――』』

 バサリ、と首なしワイバーンが巨大な皮翼をはためかせる。
 すぐに地面が足元から遠ざかり、鬱蒼と生い茂った木々が眼下に広がるようになった。

 十分に高度を上げたところで、後ろを振り返る。
 目をぎゅっと瞑り俺に思い切りしがみついたアイラの先に、ヘズヴィンの街が見えた。
 もう手で摘まめそうなくらいに小さい。
 
 前方に向き直る、うっすらと雪かぶった山々の頂が見える。
 あれを飛び越えれば、すぐだ。

「ひゃあああぁぁっ! に――ま! もうち――や――飛ん――ッ!!」

 後ろでアイラが何か叫んでいる。
 風が耳元でゴウゴウと唸るせいで、よく聞こえんな。
 きっと早く遺跡にたどり着きたいのだろう。

 ならば、俺もその期待に応えなくては、だな。

「よし、いくぞ! 全力だ! ――《リインフォース・アンデッド》!!」

 俺は首なしワイバーン二体に強化魔術を掛ける。

『『――! ――――っ!!』』

 首なしワイバーンの身体に力が漲り、凄まじい勢いで加速が始まる。
 ぐんぐんと、景色が過ぎ去ってゆく。

「いやああああああぁぁああぁぁあーーーー!」

 感極まったのか、アイラの絶叫が背中越しに聞こえる。
 うん、分かるぞ、その気持ち。

 目に映るその全てが絶景だからな!






 数時間の空の旅ののち。

 俺たちは目的の遺跡に到着した。
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