67 / 141
第67話 遺跡攻略⑬ 死霊術の効果
しおりを挟む
「ようイリナ! クラウス! しばらく見ないうちにずいぶんと面白い見た目になったじゃねーか!」
俺はクラウスに向かって駆け出そうとするパレルモに「待て」と手で制してから、戦い続ける二人に声を投げかけた。
もちろん一心不乱に戦い続ける二人に俺の声が届いているとは思っていないし、これから鎮圧するつもりなのだから挨拶も何もあったものではないが、そこはそれ、親しき仲にも礼儀あり、というやつだ。
別に、もしかしたら俺の声が届いたりしないかなーとか淡い期待があったからじゃない。
『イアアアァァッ!』
下半身がドラゴンゾンビになったイリナは咆吼をあげると、肉のゴーレムと化したクラウスに突進していく。
こちらには目もくれない。
まあ当然といえば当然だが、つれないな。
イリナの魔法剣が一閃、二閃、虚空に蒼白い軌跡を描く。
次の瞬間、業火がクラウスの上半身を喰らい尽くした。
『グウウゥゥ……』
が、さきほど同様、攻撃はほぼ効いていない。
頭部を消し炭にされたにもかかわらず、クラウスの炭化した肉があっという間に再生した。
『ウガアァァッ!』
獣のごとき咆吼とともに、手に掴んだ石柱を一振り。
鈍い音とともに、イリナのドラゴンの胴体部分がひしゃげた。
だが、こちらもすぐさま再生を始め、あっというまに元通りになる。
それを、幾度となく繰り返す。
まったくもって、キリがない。
強化トレントに侵食された二人は、再生のための魔力を遺跡から直接吸い上げているらしい。
あの巨体を一瞬で再生させるほどの莫大な魔力量だ。
それくらいしか考えられない。
第一階層で遺跡の魔力が薄いと感じたことも、その事実を裏付けている。
さて、このまま邪魔が入らなければ永遠に二人で戦い続けるだろうが、俺はこの二人をなんとかして連れて帰らなければならない。
熾烈な戦いを繰り広げる二人の間に無理矢理武力介入してもいいんだが……
もうちょっと簡単に鎮圧するための手札を試そうと思う。
それは、死霊術だ。
正直なところ、イリナとクラウスの生存はかなり厳しいと思っている。
今も元気に戦い続けているとはいえ、二人がこの状態になってからおそらく数日は経っているだろうし、なによりトレントに侵食されすぎている。
もちろんまだ二人が生きている可能性だってないとは言えないし、俺もその可能性を信じたい。だが普通に考えれば、あんな状態で生きていると思う方がおかしいのだ。
……その断定を、どこか心の中で避けていた俺が言うのもなんだが。
ともかく、ものは試しだ。
死霊術が掛かればそこで戦闘終了、掛からなければ二人とも生存の目があるということになる。
どちらに転んでも、デメリットはない。
だがまあ、アイラに一言断りを入れておくべきか。
死霊術が掛かるということは、それはつまり姉の死をこれ以上ない形で突きつけてしまうわけだからな。
俺は振り返ると、後方で座り込んだままの彼女に声を掛けた。
「……アイラ。今から俺は、イリナとクラウスに死霊術を使う。構わんな?」
「なっ!? おいライノ! お前自分が何を言っているのか分かっているのか!」
アイラの隣にいたサムリが、驚愕と怒りの混じった声を上げた。
まあ、サムリの言いたいことは分かる。
アイラを思ってのことだろう。
だが今この状況では、サムリの意見は求めていない。
こんな場で、感情論なんてクソの役にも立たんからな。
「…………」
アイラを見ると、彼女は無言で俯いていた。
どんな表情をしているかは、ここからでは分からない。
が、それも一瞬のことだった。
彼女は一度だけ袖で顔を拭うような仕草をしてから、さっと顔を上げる。
「……にいさまがそうすべきと判断したなら、私に口を挟む権利なんて、ないわ」
彼女の碧眼は、しっかりと俺を見据えていた。
迷いのない眼だった。
実のところ、アイラも分かっているのだ。
「……そうか」
俺はそれだけ、言った。
今の彼女に俺から掛けてやれる言葉なんて、そう多くない。
救える者かそうでない者かの区別を、情に流されることなく冷静に判断できるのは一流の治癒術師の条件だ。
俺は彼女の選択に、敬意を表する。
俺は片手を前方に突き出し、唱える。
「――《クリエイト・アンデッド》」
仄暗い光が、前方で戦い続ける二体の魔物を包み込んだ。
イリナとクラウスが、ピタリと動きを止める。
静寂が訪れた。
そして――
『アアアアアァァァッ!!』
『ガアアアアァァッ!!』
イリナとクラウスが、再び戦い出した。
――死霊術《クリエイト・アンデッド》は、死体にしか効力を及ぼさない。
それは、どんな強力な魔物でも同じだ。
たとえ、屍龍だろうが、屍肉でできたゴーレムだろうが変わらない。
さきほど二人が動きを止めたのは、死霊術が放つ魔力光に一瞬気を取られたからだったらしい。
ということは……
振り返ってみると、アイラはぎゅっと眼を瞑っていた。
まあ、いくら覚悟していたとしても、自分の姉がゾンビになる瞬間なんて見たくないだろうからな。
「アイラ」
声を掛けると、彼女の肩がびくんと震えた。
「にい、さま? 術は、どうなったの?」
それから、おそるおそるといった様子で、眼を開いて俺を見る。
その様子に俺は肩をすくめて、苦笑してみせる。
「喜べ。術は失敗だ」
「え……?」
最初アイラは、俺が何を言ったのか理解しかねたようだ。
呆けたような顔のまま、しばし固まり……
そのままの顔で、大粒の涙が彼女の双眸からぽろぽろとこぼれ始めた。
「ねえ……さまは……ヒック、生きてる……のね?」
「な……ライノ、それは本当か!? 二人は、生きているんだな?」
「まあ、そういうことになるな」
現状を見るに『死んではいない』というのが適切な表現だと思うが、今ここでそれを二人に告げるのは野暮というものだ。
「ああ、ねえさま……ねえさま……っ! わああああっ」
「そ、そう……か。ああ、クラウス……ッ!」
感極まったアイラの涙声がついに号泣に変わり、サムリの安堵してその場にへたり込むが、本当の山場はこれからだ。
死霊術が効かないのなら、武力で鎮圧する必要があるからな。
とはいえ、イリナとクラウスの生命力には素直に頭が下がる。
これは……頑張らないとだな。
「それじゃあパレルモ、今度こそ行くぞ。クラウスの本体は傷つけるなよ」
「うん、わかってるよー」
こういうとき、いつもなら美少女顔で敬礼しつつ、「へい! ガッテン承知の助!」とか謎の合いの手を入れてくるパレルモだが、さすがに空気を読んだらしい。
至極まともな返事が返ってきた。
俺はそんな彼女のマジメ具合に苦笑しつつ、イリナとクラウスに向き直る。
二体の魔物は、ちょうどぶつかり合いが終わり再生のために距離を取っている最中だった。
「よし……今だ! イリナ、クラウス! 二人で遊んでないで俺たちも混ぜてくれよ! ――《時間展延》《解体》!」
「オヤジゴーレムさん、いっくよー! へあっ! ほいやっ!」
――ザンッ!
――バシュッ! バシュン!
俺は軽口を叩きつつ瞬時に距離を詰め、イリナの尻尾部分を斬り飛ばす。
横目でみれば、パレルモの放った不可視の刃がクラウスの左腕を斬り落としたところだった。
『アアアアァァァッ!?』
『ガアアアァァァッ!?』
二体の魔物から驚愕の叫びが上がる。
よし。
先制攻撃は成功だ。
実のところ腐肉は食材とは言いがたいから、スキルが通るか少し不安だったのだが……一応腐肉も食材扱いらしい。
『イアアアアァァァッ!』
イリナドラゴンが激昂したように甲高い咆吼を上げ、こちらを向いた。
彼女は俺を敵と認めたようだった。
よしよし。
これからが本番だな。
『シイィッ!』
イリナの魔法剣が凄まじい速度と剣圧を伴い、迫る。
自在にうねるドラゴンの首とその先に繋がっているイリナが繰り出す魔法剣特有の剣筋のせいで、攻撃のタイミングを読むのはほとんど不可能だ。
「――《時間展延》。よっと」
だが時間を引き延ばすことができるならば、それは特に問題とならない。
俺はイリナが振るう剣からたなびく蒼白い魔力光に見とれつつも、それを難なく躱す。
「――《解体》! ――《解体!》、《時間展延》! もいっちょ《解体》!」
そしてイリナの魔法剣を躱しつつ、ドラゴンの部分を斬り刻んでいく。
……だが。
「クソ。埒が明かんな」
さっき斬り落とした尻尾もだが、脚部を斬り離そうがドラゴン部分の首を落とそうが、斬ったそのすぐそばから再生を始めるのだ。
とくに首付近はイリナを侵食しているトレントの支配力が強いのか、斬った瞬間に再生してしまう。
もちろん効いていないわけではない。
ドラゴンの手足を斬り落とせば、数秒ほど彼女の行動力を奪うことができる。
だが、それだけではイリナを救うことはできない。
「もうー! いくら切ってもくっついちゃうよー」
隣でもパレルモが魔術を連打しつつも、困ったような声を上げている。
あっちはクラウスの行動を封じることは成功しているようだが、クラウスとゴーレム部分とを分離するまでには至っていない。
さて、どうしたものか。
分かっていたことだが、この超再生力はかなり厄介だ。
二人を制圧するにはまず、この能力をどうにかして阻害する必要がある。
一番いいのは遺跡からの魔力供給を止めることだが、それはほぼ不可能だ。
丸ごと遺跡を破壊する必要があるからな。
パレルモの空間断裂魔術を最大出力で連打すればできないことはないだろうが、その代わりに俺たち全員が生き埋めになってしまう。
それでは本末転倒にもほどがある。
そんなことを考えていると……
「おい、ライノ! 何をやっているんだ! 全然効いていないぞ! もっと攻めていけ! 踏み込みが足らないんじゃないか!?」
サムリのヤジが飛んできた。
イリナの攻撃の合間を見て振り返ると、サムリはアイラの隣であぐらをかいて、こちらを観戦してるのが見える。
イリナとクラウスが生きていると分かった途端、安心したらしい。
あまつさえ、のんきに行動食をパクついてやがる。
アイラが「ちょっとサムリ!」とたしなめているが、サムリはどこ吹く風だ。
……あのクソ勇者め!
俺は頭に血が上るのを感じながら、しかし迫ってきたイリナの剣閃を身体をひねって軽く躱す。
完全に自分が戦力外なのを自覚しているのは、まあいいだろう。
一応病み上がりだしな。
だが、それでもこっちが必死に頭を絞って解決策を考えている最中にヤジを飛ばしてくるのは我慢ならん。
戦力が劣るならば劣るなりに俺やパレルモの肉壁にでもなって、防御や回避で消費する魔力を節約してくれればちょっとはマシなんだが…
うん?
ちょっとまてよ。魔力を、消費……?
そういえばアイツ、錯乱しているときに妙な技を使ってきたな?
確かあれは、魔力を吸い取る魔術だかスキルだったような。
……なるほど。
いいことを思いついた。
「あーっ!? ライノ、また悪い顔で笑ってるー!」
こっちに気づいたパレルモがちょっと引き気味な声を上げているが、知ったことか。
そこでのんびりくつろいでいるアホ勇者にも、見せ場を作ってやるとしよう。
俺はクラウスに向かって駆け出そうとするパレルモに「待て」と手で制してから、戦い続ける二人に声を投げかけた。
もちろん一心不乱に戦い続ける二人に俺の声が届いているとは思っていないし、これから鎮圧するつもりなのだから挨拶も何もあったものではないが、そこはそれ、親しき仲にも礼儀あり、というやつだ。
別に、もしかしたら俺の声が届いたりしないかなーとか淡い期待があったからじゃない。
『イアアアァァッ!』
下半身がドラゴンゾンビになったイリナは咆吼をあげると、肉のゴーレムと化したクラウスに突進していく。
こちらには目もくれない。
まあ当然といえば当然だが、つれないな。
イリナの魔法剣が一閃、二閃、虚空に蒼白い軌跡を描く。
次の瞬間、業火がクラウスの上半身を喰らい尽くした。
『グウウゥゥ……』
が、さきほど同様、攻撃はほぼ効いていない。
頭部を消し炭にされたにもかかわらず、クラウスの炭化した肉があっという間に再生した。
『ウガアァァッ!』
獣のごとき咆吼とともに、手に掴んだ石柱を一振り。
鈍い音とともに、イリナのドラゴンの胴体部分がひしゃげた。
だが、こちらもすぐさま再生を始め、あっというまに元通りになる。
それを、幾度となく繰り返す。
まったくもって、キリがない。
強化トレントに侵食された二人は、再生のための魔力を遺跡から直接吸い上げているらしい。
あの巨体を一瞬で再生させるほどの莫大な魔力量だ。
それくらいしか考えられない。
第一階層で遺跡の魔力が薄いと感じたことも、その事実を裏付けている。
さて、このまま邪魔が入らなければ永遠に二人で戦い続けるだろうが、俺はこの二人をなんとかして連れて帰らなければならない。
熾烈な戦いを繰り広げる二人の間に無理矢理武力介入してもいいんだが……
もうちょっと簡単に鎮圧するための手札を試そうと思う。
それは、死霊術だ。
正直なところ、イリナとクラウスの生存はかなり厳しいと思っている。
今も元気に戦い続けているとはいえ、二人がこの状態になってからおそらく数日は経っているだろうし、なによりトレントに侵食されすぎている。
もちろんまだ二人が生きている可能性だってないとは言えないし、俺もその可能性を信じたい。だが普通に考えれば、あんな状態で生きていると思う方がおかしいのだ。
……その断定を、どこか心の中で避けていた俺が言うのもなんだが。
ともかく、ものは試しだ。
死霊術が掛かればそこで戦闘終了、掛からなければ二人とも生存の目があるということになる。
どちらに転んでも、デメリットはない。
だがまあ、アイラに一言断りを入れておくべきか。
死霊術が掛かるということは、それはつまり姉の死をこれ以上ない形で突きつけてしまうわけだからな。
俺は振り返ると、後方で座り込んだままの彼女に声を掛けた。
「……アイラ。今から俺は、イリナとクラウスに死霊術を使う。構わんな?」
「なっ!? おいライノ! お前自分が何を言っているのか分かっているのか!」
アイラの隣にいたサムリが、驚愕と怒りの混じった声を上げた。
まあ、サムリの言いたいことは分かる。
アイラを思ってのことだろう。
だが今この状況では、サムリの意見は求めていない。
こんな場で、感情論なんてクソの役にも立たんからな。
「…………」
アイラを見ると、彼女は無言で俯いていた。
どんな表情をしているかは、ここからでは分からない。
が、それも一瞬のことだった。
彼女は一度だけ袖で顔を拭うような仕草をしてから、さっと顔を上げる。
「……にいさまがそうすべきと判断したなら、私に口を挟む権利なんて、ないわ」
彼女の碧眼は、しっかりと俺を見据えていた。
迷いのない眼だった。
実のところ、アイラも分かっているのだ。
「……そうか」
俺はそれだけ、言った。
今の彼女に俺から掛けてやれる言葉なんて、そう多くない。
救える者かそうでない者かの区別を、情に流されることなく冷静に判断できるのは一流の治癒術師の条件だ。
俺は彼女の選択に、敬意を表する。
俺は片手を前方に突き出し、唱える。
「――《クリエイト・アンデッド》」
仄暗い光が、前方で戦い続ける二体の魔物を包み込んだ。
イリナとクラウスが、ピタリと動きを止める。
静寂が訪れた。
そして――
『アアアアアァァァッ!!』
『ガアアアアァァッ!!』
イリナとクラウスが、再び戦い出した。
――死霊術《クリエイト・アンデッド》は、死体にしか効力を及ぼさない。
それは、どんな強力な魔物でも同じだ。
たとえ、屍龍だろうが、屍肉でできたゴーレムだろうが変わらない。
さきほど二人が動きを止めたのは、死霊術が放つ魔力光に一瞬気を取られたからだったらしい。
ということは……
振り返ってみると、アイラはぎゅっと眼を瞑っていた。
まあ、いくら覚悟していたとしても、自分の姉がゾンビになる瞬間なんて見たくないだろうからな。
「アイラ」
声を掛けると、彼女の肩がびくんと震えた。
「にい、さま? 術は、どうなったの?」
それから、おそるおそるといった様子で、眼を開いて俺を見る。
その様子に俺は肩をすくめて、苦笑してみせる。
「喜べ。術は失敗だ」
「え……?」
最初アイラは、俺が何を言ったのか理解しかねたようだ。
呆けたような顔のまま、しばし固まり……
そのままの顔で、大粒の涙が彼女の双眸からぽろぽろとこぼれ始めた。
「ねえ……さまは……ヒック、生きてる……のね?」
「な……ライノ、それは本当か!? 二人は、生きているんだな?」
「まあ、そういうことになるな」
現状を見るに『死んではいない』というのが適切な表現だと思うが、今ここでそれを二人に告げるのは野暮というものだ。
「ああ、ねえさま……ねえさま……っ! わああああっ」
「そ、そう……か。ああ、クラウス……ッ!」
感極まったアイラの涙声がついに号泣に変わり、サムリの安堵してその場にへたり込むが、本当の山場はこれからだ。
死霊術が効かないのなら、武力で鎮圧する必要があるからな。
とはいえ、イリナとクラウスの生命力には素直に頭が下がる。
これは……頑張らないとだな。
「それじゃあパレルモ、今度こそ行くぞ。クラウスの本体は傷つけるなよ」
「うん、わかってるよー」
こういうとき、いつもなら美少女顔で敬礼しつつ、「へい! ガッテン承知の助!」とか謎の合いの手を入れてくるパレルモだが、さすがに空気を読んだらしい。
至極まともな返事が返ってきた。
俺はそんな彼女のマジメ具合に苦笑しつつ、イリナとクラウスに向き直る。
二体の魔物は、ちょうどぶつかり合いが終わり再生のために距離を取っている最中だった。
「よし……今だ! イリナ、クラウス! 二人で遊んでないで俺たちも混ぜてくれよ! ――《時間展延》《解体》!」
「オヤジゴーレムさん、いっくよー! へあっ! ほいやっ!」
――ザンッ!
――バシュッ! バシュン!
俺は軽口を叩きつつ瞬時に距離を詰め、イリナの尻尾部分を斬り飛ばす。
横目でみれば、パレルモの放った不可視の刃がクラウスの左腕を斬り落としたところだった。
『アアアアァァァッ!?』
『ガアアアァァァッ!?』
二体の魔物から驚愕の叫びが上がる。
よし。
先制攻撃は成功だ。
実のところ腐肉は食材とは言いがたいから、スキルが通るか少し不安だったのだが……一応腐肉も食材扱いらしい。
『イアアアアァァァッ!』
イリナドラゴンが激昂したように甲高い咆吼を上げ、こちらを向いた。
彼女は俺を敵と認めたようだった。
よしよし。
これからが本番だな。
『シイィッ!』
イリナの魔法剣が凄まじい速度と剣圧を伴い、迫る。
自在にうねるドラゴンの首とその先に繋がっているイリナが繰り出す魔法剣特有の剣筋のせいで、攻撃のタイミングを読むのはほとんど不可能だ。
「――《時間展延》。よっと」
だが時間を引き延ばすことができるならば、それは特に問題とならない。
俺はイリナが振るう剣からたなびく蒼白い魔力光に見とれつつも、それを難なく躱す。
「――《解体》! ――《解体!》、《時間展延》! もいっちょ《解体》!」
そしてイリナの魔法剣を躱しつつ、ドラゴンの部分を斬り刻んでいく。
……だが。
「クソ。埒が明かんな」
さっき斬り落とした尻尾もだが、脚部を斬り離そうがドラゴン部分の首を落とそうが、斬ったそのすぐそばから再生を始めるのだ。
とくに首付近はイリナを侵食しているトレントの支配力が強いのか、斬った瞬間に再生してしまう。
もちろん効いていないわけではない。
ドラゴンの手足を斬り落とせば、数秒ほど彼女の行動力を奪うことができる。
だが、それだけではイリナを救うことはできない。
「もうー! いくら切ってもくっついちゃうよー」
隣でもパレルモが魔術を連打しつつも、困ったような声を上げている。
あっちはクラウスの行動を封じることは成功しているようだが、クラウスとゴーレム部分とを分離するまでには至っていない。
さて、どうしたものか。
分かっていたことだが、この超再生力はかなり厄介だ。
二人を制圧するにはまず、この能力をどうにかして阻害する必要がある。
一番いいのは遺跡からの魔力供給を止めることだが、それはほぼ不可能だ。
丸ごと遺跡を破壊する必要があるからな。
パレルモの空間断裂魔術を最大出力で連打すればできないことはないだろうが、その代わりに俺たち全員が生き埋めになってしまう。
それでは本末転倒にもほどがある。
そんなことを考えていると……
「おい、ライノ! 何をやっているんだ! 全然効いていないぞ! もっと攻めていけ! 踏み込みが足らないんじゃないか!?」
サムリのヤジが飛んできた。
イリナの攻撃の合間を見て振り返ると、サムリはアイラの隣であぐらをかいて、こちらを観戦してるのが見える。
イリナとクラウスが生きていると分かった途端、安心したらしい。
あまつさえ、のんきに行動食をパクついてやがる。
アイラが「ちょっとサムリ!」とたしなめているが、サムリはどこ吹く風だ。
……あのクソ勇者め!
俺は頭に血が上るのを感じながら、しかし迫ってきたイリナの剣閃を身体をひねって軽く躱す。
完全に自分が戦力外なのを自覚しているのは、まあいいだろう。
一応病み上がりだしな。
だが、それでもこっちが必死に頭を絞って解決策を考えている最中にヤジを飛ばしてくるのは我慢ならん。
戦力が劣るならば劣るなりに俺やパレルモの肉壁にでもなって、防御や回避で消費する魔力を節約してくれればちょっとはマシなんだが…
うん?
ちょっとまてよ。魔力を、消費……?
そういえばアイツ、錯乱しているときに妙な技を使ってきたな?
確かあれは、魔力を吸い取る魔術だかスキルだったような。
……なるほど。
いいことを思いついた。
「あーっ!? ライノ、また悪い顔で笑ってるー!」
こっちに気づいたパレルモがちょっと引き気味な声を上げているが、知ったことか。
そこでのんびりくつろいでいるアホ勇者にも、見せ場を作ってやるとしよう。
0
あなたにおすすめの小説
レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
転生者のブルーノは絶大な力を持っていたが、その力を隠してダンジョンの荷役として暮らしていた。だが、教会の力で勇者を騙る卑怯下劣な連中に、レットドラゴンから逃げるための生贄として、ボス部屋に放置された。腐敗した教会と冒険者ギルドが結託て偽の勇者パーティーを作り、ぼろ儲けしているのだ。ブルーノは誰が何をしていても気にしないし、自分で狩った美味しいドラゴンを食べて暮らせればよかったのだが、殺されたブルーノの為に教会や冒険者ギルドのマスターを敵対した受付嬢が殺されるのを見過ごせなくて・・・・・・
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる