83 / 141
第83話 パレルモはつよつよ
しおりを挟む「さて、ライノ殿。私たちはそろそろお暇しようと思う」
俺が眠りこけるパレルモとビトラから飯代を徴収しようと四苦八苦していると、近くに来たイリナとアイラが声を掛けてきた。
「……いいのか? まだ何も解決していないだろ」
「いや、そうでもない」
イリナはそう言って、隣のアイラに目を向けた。
「食事を取ったおかげか、動転していた気持ちが大分落ち着いた。アイラの姿はまだ元に戻らないが、考えてみれば、今のところ日常生活を送るのに支障はないようだ。それにこのまま安静にしていれば、変化が解けるかも知れない。これまでの冒険者生活で稼いだ蓄えもある。もう数日ほど様子を見ることにするよ」
アイラもイリナと顔を見合わせるとこくりと頷き、
「今日はありがとう、にいさま。『カリー』、美味しかったわ」
にっこりと笑顔を見せた。
彼女も食事を取ったことで、平静さを取り戻したようだった。
「それはよかった。また来いよ」
「ええ。ダンジョンじみた複雑怪奇な道順は辟易するものがあるけど……今度はこの姿が元に戻ってから来るわ!」
「私も、この料理が気に入ったからな。またアイラと一緒に来るとしよう。……それで、勘定はいかほどか?」
「二人で銅貨六枚だ」
「……存外に安いのだな」
「それほど特別な食材を使っている訳ではないからな」
俺はそんな会話を交わしつつ、手早く二人の勘定を済ませる。
「さてアイラ、そろそろ行こうか」
「はい、ねえさま」
二人が満足げにうなずき合い、連れだって店を出ようとした……そのとき。
「う~ん……もう、食べら……ライノ~、おかわり~……」
――がしっ。
部屋の隅っこ――出入り口付近で眠りこけていたパレルモが、突然アイラのローブの裾を掴んだ。
「ちょっ……パレルモちゃん!?」
「ライノ~……次……ワイ……骨付きステーキ……食べ……る」
どうやら夢の中で俺に料理のおかわりをせがんでいるらしい。
今に始まった事ではないが、まったくこいつはどんだけ食い意地が張っているんだ……
だが、パレルモ。
お前が掴んでいるのはワイバーンの骨付きステーキじゃない。
それは半魔化してドラゴン娘に変化してしまっただけのアイラだ。
「ちょっ、パレルモちゃん? 私たち、もう帰るから……あっ、ちょっ、ローブ引っ張らないで!?」
ぐいぐいと自分のもとへたぐり寄せようとするパレルモ。
アイラが慌てて抵抗するが、彼女の力は存外に強いようだ。
まったく手を解くことができていない。
「アイラ、すまんな。ちょっと待ってろ。いま何とかする……くっ、固え! こいつ、どんだけ思い切り握りこんでいるんだ!」
俺もアイラに加勢するが、パレルモがローブを握り込む力がやたらと強く、全く引きはがすことができない。
「骨付きステーキ……逃がさないよ……じゅるり……」
「ちょっと!? この子、半魔化した状態の私より力が強いわよ!? 一体どうなってるの!?」
「知らん! うぬぬ……全然取れん」
「わ、私も手伝おう! ……くっ、この細腕のどこにこんな力が……っ! うわっ!?」
「うえへへへ……ごはん……いっぱい……しあ……わせ……」
そうこうしているうちに、パレルモがとうとう二人をその両腕で捕まえてしまった。
「あっ、やめっ! 私はご飯じゃないわよ!? んあっ!? ちょっ、耳たぶをハミハミしないでっ……っ!」
「パ、パレルモ殿っ!? 何をするっ!? このような無体はさすがの私も……んんっ!?」
パレルモはやたら幸せそうな寝顔をしているが、その両腕の中でジタバタと抵抗するイリナとアイラはかなり必死な形相だ。
い、いかん。
このままだと、二人がパレルモに捕食されてしまう。
もちろん文字通りの『捕食』ではなさそうだが……
このまま放っておくのは、何かとても危険な気がする。
……なんか二人から聞いたことない変な声出てるし。
くっ……仕方ない。
正直、これはなるべくやりたくなかったが……最終手段だ。
「イリナ、アイラ。待っていろ、もう少しの辛抱だ」
俺は断腸の思いで厨房に引き返し、貯蔵庫の中に保管していた皿を手に取った。
仕事上がりの楽しみにとっておいた、まかないカリーである。
「ほーらパレルモー。お前の大好きな『カリー』だぞー」
涙目になったアイラの拗くれた竜角をもごもごとしゃぶっているパレルモの鼻先に、カリーの皿をちらつかせてやる。
「……んん……この匂い……! カリー!!!!! ……あ、あれっつ?」
カッ!!
パレルモが目を見開いた。
と同時に、目も覚めたようだ。
左右に侍らせているイリナとアイラをきょときょとと見比べ……
「あれ……ごはんと……ごはんが……イリナさんとアイラちゃんになっちゃった……」
心底悲しそうな顔で、そう呟く。
「ごはんと比較されてそんな顔をされるのはすごく複雑な気分だけど……とりあえず離してもらえるかしら?」
「あっ、ごめんね!」
慌てて二人を解放するパレルモ。
「ま、まさかパレルモちゃんに食べられそうになるとは思わなかったわ……」
「ふむ……。しばらくの養生で、身体が鈍ってしまったようだ。パレルモ嬢の力がが存外に強かったとはいえ、不覚だ。少し、鍛錬の量を増やさねばなるまいな……」
イリナとアイラが疲れた顔でよろよろと立ち上がった。
「す、すまんな。次来たときは、二人とも俺のおごりにしておく。……パレルモ、お前はそっちでこのカリーを食べて待っていてくれ」
「やたっ! いただきまーす! おいしー!」
シュバッ! と電光石火の早業で俺の皿を奪うと、パレルモはその場でカリーを頬張り始めた。
……なぜか胸元からスプーンが出てきたが、突っ込んだら負けだ。
……ふう。
とりあえず仕切り直しだな。
俺はイリナとアイラに向き直る。
「……いろいろあったが、またな」
「え、ええ。また来るわ!」
「ライノ殿、また来るぞ」
改めて二人を見送ろうとした、そのとき。
「あの、ライノさん? そちらのお客様は……」
背後から、遠慮がちな声が聞こえた。
今度はなんだよ……
ゲンナリした気持ちで振り返ると、ペトラさんが口に手を当てたまま、アイラを凝視していた。
「……あっ」
アイラが自分の頭を両手でバッ! と押さえる。
……しまった。
そういえば、さっきの騒動でアイラのフードは脱げたままだった。
今や彼女のふわふわの金髪の間からは威風堂々な感じで竜の角が突き出ているし、ローブの裾からは竜鱗に覆われた太い尻尾が完全に露出している。
だれがどう見ても、アイラは尋常な人間の姿ではなかった。
「こ、ここ、これはその、ち、違うのっ!」
アイラが慌ててフードを被り直し、ローブの裾に尻尾を隠すが、時すでに遅し。
……これはうかつだったな。
二人をパレルモから救け出すのに忙しくて、ペトラさんの存在を完全に失念していた。
だが、見られてしまったものは仕方がない。
「す、すまんがペトラさん、実は彼女はダンジョンに潜った際にトラップに掛かり、『半魔化の呪い』を受けてしまってな。それがまだ解けていないんだ。別に害はないから、このことは内密に――」
冒険者ではないペトラさんならば上手く誤魔化せるだろう。
そう思っての、口からの出任せだったが……
「まさか、そんな……お客様も『半魔化の呪い』を?」
「…………は?」
この人、今なんて言った?
ペトラさんの言葉に覚えた違和感の正体を理解するのに、しばらくの時間を要する。
……『お客様も』?
「おいペトラさん、それはどういう……」
「ああ、申し訳ありません。驚きのあまり、少し取り乱してしまいました。この『呪い』、日常生活が不便ですもんねえ……全然治らないし、気を抜くと元に戻っちゃうし。私の場合は、たくさん毛が散らかるのですごく大変なんですよ……んにゃっ」
ペトラさんが目をぎゅっと瞑り、なにやら力を込めた瞬間。
彼女の身体を淡い光が包み込み――すぐに収まった。
それはほとんど一瞬のことだったのだが……
「おいペトラさん、まさかその見た目は……」
「にいさま、この人って……」
「隠しているつもりはにゃかったのですが……実は私、幼い頃にダンジョンに迷い込んでしまったことがありにゃして……その当時の記憶は曖昧にゃんですが、どうやら呪い系のトラップにかかってしまったにゃしくて……気がついたら『半魔化』していたんです……にゃ」
顔を赤らめ、照れくさそうに笑みを浮かべるペトラさん。
その口元には鋭い犬歯がきらめいている。
彼女の手はふわふわとした黒い猫毛に覆われており、艶やかな黒髪が流れる頭部には、尖った猫耳がピンと立っている。
さらには、彼女の穿いた丈が短めのスカートからはちょろりと猫尻尾がのぞいていた。
うん。
これは猫……の半魔だろうな。
イントネーションとか語尾とかが何かそれっぽくおかしくなっているし。
「どうしよう、にいさまっ! この店員さんの耳に尻尾、それにあの手足……ものすごーくもふもふだわっ!」
今までの慌てようはどこへやら。
アイラが瞳をキラキラと輝かせ、一瞬でテンションが爆上げ状態になった。
アイラ、お前本当に……どんなときでもブレないな!
0
あなたにおすすめの小説
レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
転生者のブルーノは絶大な力を持っていたが、その力を隠してダンジョンの荷役として暮らしていた。だが、教会の力で勇者を騙る卑怯下劣な連中に、レットドラゴンから逃げるための生贄として、ボス部屋に放置された。腐敗した教会と冒険者ギルドが結託て偽の勇者パーティーを作り、ぼろ儲けしているのだ。ブルーノは誰が何をしていても気にしないし、自分で狩った美味しいドラゴンを食べて暮らせればよかったのだが、殺されたブルーノの為に教会や冒険者ギルドのマスターを敵対した受付嬢が殺されるのを見過ごせなくて・・・・・・
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる