新任チート魔王のうまうま魔物メシ~勇者パーティーを追放された死霊術師、魔王の力『貪食』と死霊術でらくらく無双&快適メシライフを満喫する~

だいたいねむい

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第97話 格が違う

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「ググ……何が、起きやがっタ……?」

 どうやらオーガのヤツは攻撃が浅かったようだ。
 生まれたての子鹿のように膝が震えているものの、起き上がろうとしている。

 普通の人間なら一週間は起き上がれない程度には力を込めたはずだが……さすがに魔物化していると肉体も強化されるらしい。

「クソがァッ! ただの人間の分際で俺様に刃向かいやがっテ……もう許さねエゾ?」

 腰に帯びた長剣ロングソードをすらりと抜き、構える。

 ……ん?

 なんだあの長剣は。

 刃は何の変哲もない鍛鉄だ。
 だが、柄と鍔が妙にジューシーというか、肉々しいのだ。
 というかドクドクと脈動しているし、なにか眼球のような物体までついている。

 あれは……ひょっとして魔剣なのか?

「クソ、痛テテ……」

「グ……速エ……」

 他の二人も起き上がり、武器を構えた。
 蜥蜴人リザードマンの重戦士は戦斧、人狼の狩人職ハンターはショートボウ。
 よく見れば、オーガと同じように持ち手の部分が脈動しており、その部分から魔物たちの身体へドクドクと瘴気を送り込んでいるのが見て取れた。

 コウガイの持つ妖刀とは仕様が違うように見えるが、状況から察するに魔物化の原因はあれが元凶のようだ。

 だが……不可解だな。
 そもそも呪いを帯びた武具なんぞ、レア中のレアだ。
 本来ならばその手の蒐集家が人生を掛けていくつもの高難度ダンジョンに挑み、死ぬまでに一本手に入れられれば上等、そういうシロモノだからな。

 それをあんなクサレ冒険者どもが?
 ありえない。

「……ライノ殿、すまぬが、ここは吾輩に任せてもらえぬか」

 と、コウガイに肩をポンと叩かれた。
 ザッと足を並べ、コウガイが隣に立つ。
 見れば、鋭い目つきで魔物たちを睨み付けている。

「心当たりが?」

「うむ」

 コウガイはギリッと歯を軋ませ、続ける。

「彼奴らの持つ武具から漏れ出る瘴気の質、色、臭い……忘れることなどできるものか。……あの里の恥さらしめ」

 なるほど。
 なんとなく状況が飲み込めてきた。
 どうやら、アイツらの武器には魔王ナンタイが関わっているらしい。
 確かに、ただの冒険者がたまたま三つも発見するよりは、そっちの方がよっぽど説得力がある。

「それに、吾輩はお主の力になると申したはずだ。魔武具持ち三人が相手ならば、実力を証明するに申し分なかろう」

 要するに、コウガイは自分でケジメを付けたいのだ。
 それに関しては、俺も異論はない。

「分かった。コウガイ、あとは任せた」

「心遣い、痛み入る」

 コウガイは静かに頭を下げたあと、スッと音もなく魔物たちの前に出た。
 地に足を付けたままの、独特の歩法だ。
 腰に帯びた小太刀――妖刀『ネネ』を、鞘からスルリと抜き放つ。
 黒く光る刀身が一瞬だけ、りん、と鳴った。

 俺には、それがなぜだが妖刀が喜悦に打ち震えたかのように思えた。

「あア? なんダてめーハ」

 オーガの前に立ちはだかるコウガイ。
 彼は比較的小柄な男だ。
 オーガとの身長差は、頭二つ分以上もある。
 横幅と厚みは比べるべくもない。

 普通に考えれば、勝ち目のない戦いだろう。

 だがコウガイの背中からは、微塵も焦りも恐怖も感じられない。

「このような紛い物が世に出回るなど、許せぬ。『ネネ』もそう思うであろう?」

 コウガイは独りちながら半身を引き、腰を低く落とした。
 右手に持った『ネネ』を身体の後ろ側に隠すように構える。
 オーガからはちょうど武器が隠れて見えない、独特の体勢だ。

「ガハハッ。なんダそりゃ。剣を隠したッテ、持っているのはバレバレだろーガ。もしかして、その小っせエ頭を叩き割っテ欲しいってことカ?」

 オーガがその様子をみて嘲り笑う。

 確かに相対する側から見れば、防御を捨てた隙だらけの構えに見えなくもないだろう。

 だが少し考えれば、それがどれほど恐ろしい構えなのか分かるはずだ。
 なにしろ武器が隠れているせいで彼我の間合いが測りづらいうえ、どこから武器が繰り出されるか分からないのだから。
 もっとも、そこの脳筋オーガはまったく気づいていないようだが。

「やっちまエ、ゼッド! こんなチビに負けんじゃねーゾ!」

「ギャハハ! さっさと三枚におろしてやレ!」

 もう二体も復活したのか、後ろから囃し立ててくる。
 その様子に気をよくしたのか、オーガがニヤリと顔を歪めると、長剣をぬらりと上段に構えた。上背のある剣士がよく使う、攻撃型の構えだ。

 端的に言って、この構えは強い。
 すでに大きく振りかぶった状態であるから、攻撃の出が圧倒的に速く、高い位置から振り下ろされる剣は、充分に体重が載っているからな。

 おまけにヤツにはオーガの強靱な膂力が備わっているはずだ。
 振り下ろしたあと、タイムラグなしの切り返しが可能だろう。

 つまりヤツの余裕綽々な態度には、それなりの理由があるということだ。

「ハッ、剣ってのはなア、こうやって振るうモンなんだヨォッ!」

 先に動いたのはオーガだ。
 剣を振りかぶったまま一瞬で距離を詰め、コウガイを間合いに捉える。
 さすがは魔物の身体。凄まじいバネだ。

「死ねやアッ!」

 轟風を纏わり付かせた剣が、圧倒的な速度で振り下ろされる。

 ゴゥッ!

 ただの長剣だというの、まるで超重量の戦槌を叩きつけたかのような圧力だ。
 かすっただけでも、致命傷になりかねない。

 だが……それも当たれば、の話だ。

「……ふむ。踏み込みも剣圧も、悪くはない。だがその程度では、吾輩には到底届かぬよ」

 コウガイはわずかに身体を反らしただけだった。
 たったそれだけなのに、オーガの剣はかすりすらしていない。

「……アア?」

 一瞬何が起こったのか分からなかったらしく、オーガが呆けた顔をした。

「その程度か? お主の剣は」

「グッ……クソがァッ! マグレだッ! マグレに決まってル! るアアッ!!」

 焦りを滲ませ、しかしオーガが全身のバネを使い斜めから斬り上げる。
 これまた凄まじい剣圧だ。
 だが、やはり当たらなければなんの意味もない。

「オラァッ! ドラァッ! クソッ! ちょこまか逃げやがッテ!」

 上段からの斬り下ろし。胴抜きの中段から派生した回転斬り。
 コウガイはこれを涼しい顔で受け流す。

 続けて眉間、胸、鳩尾への怒濤の三連突き、斬り払い、斜め斬り上げ。
 一瞬のディレイをかけてからの飛び込み斬り、着地後の足刈り下段……と見せかけての、疾風の如き喉への刺突。

 その一連の剣戟が、瞬きをする刹那の間に繰り出される。

 常人では視認することすら困難な、凄まじい攻防だ。
 《時間展延》のスキルを持つ俺や高速戦闘が得意なイリナならば対処可能だろうが、もはやAランク程度の剣士では、その全てを躱しきることは難しいだろう。

「ふむ。魔剣の力を借りたとはいえ、所詮はこの程度か。お主の剣では、そこな食事処の店主の、その足元にすら及ばぬ」

 だが、コウガイはその全てを危なげなく躱したうえ、失望したようにそう言ってのけたのだ。

「なッ……んだとォ!?」

 当然、オーガは激昂する。
 はち切れんばかりに隆起した筋肉に、無数の血管が浮き上がった。

「いーだろウ、んなら全員でテメーをぶっ潰してヤるぜ! おいゲイル、イゴール!」

「オウ、待ってたゼ! 俺は側面からダッ!」

 オーガの声を合図に、蜥蜴人がズシンと足を踏みならし、戦斧を構えた。

「ギャハハ! 俺は怖いからナ。遠くからチクチク打たせてもらうゼ」

 人狼は路地の奥へと下がった。
 コイツは後衛か。
 前衛、後衛に別れ、質の異なる攻撃方法で戦うのは冒険者における集団戦闘の基本だ。三体は魔物の姿をしているものの、一応人間らしい行動は取れるようだ。

 さて、この状況にコウガイはどう出る?

「いかようにも攻めるがよい。もっとも吾輩と『ネネ』の前には、それも無意味だがな」

 コウガイが静かに『ネネ』を構えた。

「「死ねやアアッ!」」

 二体の魔物が咆吼し、コウガイの左右から襲いかかった。
 わずかにタイミングをずらしている。
 存外に高度な連携だ。

「ギャハッ! 近くに気を取られていちゃ、すぐ死ぬゼ?」

 同時に、人狼の放った矢が不規則な軌道を描きながらコウガイへ迫る。
 あれは魔弓の力か。厄介だな。あれを、どう避ける?

 三方向からの異なるタイミング、速度の攻撃。
 それは、コウガイを確実に捉えたように見えた。

 ……だが。

「――『舞』」

 一言、コウガイがぼそりと呟く。
 そして――消えた。

「「「はあっ!?」」」

 三つの素っ頓狂な声が路地に響く。

 だが、今さら攻撃の勢いを殺すことはできない。
 オーガの剣が、蜥蜴人の戦斧が、轟音とともに路地の石畳に陥没穴を穿つが、そこには誰もいない。
 蛇のごとき軌道で迫っていた矢が獲物を見失い、地面にぽとりと落ちた。

「お主らでは役不足だ。魔武具の、な・・・・・・

 声は、俺のすぐ側から聞こえた。

「「「なっ……?」」」

 三体の魔物は何が起こったのか分からないようだ。
 あっけにとられた顔で、俺の隣に立つ・・・・・・コウガイを見る。


 ほう。
 コイツ、なかなかやる。

 あれはヤツの独特の歩法と《隠密》スキルの複合技だ。
 スキルを不規則に発動・解除を繰り返し、あたかもその場に本人がいるように見せかけているが、その実、本体はすでに別の場所に移動している。

 さらにはその不安定で知覚しづらい気配を保ったまま、コウガイはそれぞれ離れた場所にいる三体を一瞬で斬り刻み、そして俺の隣へと戻ったのだ。

 妖刀の力を借りずとも、凄まじい技量と剣速だ。
 昨夜の攻防ではその実力の一端すら見せていなかったということか。

「ライノ殿。賊の始末、完了した」

 コウガイが『ネネ』を腰の鞘に納める。

 ――バギン!

 一瞬遅れて、魔剣が、魔斧が、魔弓が――粉々に砕け散った。

「「「――――ッッ!!??」」」

 それと同時に魔物たちの身体に無数の刀傷が生まれ、血が迸る。
 断末魔の叫びを上げる間もなく、三体の魔物は血の海に沈んだ。

「ふむ。弱き者を斬ったところで、虚しいだけだな」

 その様子を眺めながら、コウガイがつまらなさそうにそう呟いた。
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