新任チート魔王のうまうま魔物メシ~勇者パーティーを追放された死霊術師、魔王の力『貪食』と死霊術でらくらく無双&快適メシライフを満喫する~

だいたいねむい

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第115話 ルーキーズ 中編

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 『グレン商会地下遺跡』第十五階層――通称『無限の草原』。

 ミリナはその広大な草原の一角に身を潜め、息を殺す。

 なるべく音を立てないようそっと草をかき分けると、その先のひらけた場所で大きな影が佇んでいるのが見えた。

 ワイルドボアだ。

 この猪型の魔物は草食に近い雑食だが、気性は荒い。
 攻撃手段は主に巨体を生かした突進攻撃と、下あごから突き出した鋭い牙による突き上げ。
 シンプルではあるが、巨体ゆえ攻撃力は非常に高い。
 うっかり見つかれば、ただでは済まない。

 ちなみに危険度ランクはD。
 つまりDランクパーティーならば安全に討伐できる程度の強さである。
 Fランク冒険者には少々……いや、かなり厳しい相手だ。

 ミリナたちとしては、できることならばやり過ごしたいところだったが……
 残念なことに、この魔物の縄張りの中に下層に向かう階段がある。
 倒さず進むことはできない。

『ブルル……ブル……』

 ワイルドボアは小屋ほどもある巨体を揺すりながら、なにやら地面を掘り返している。どうやら餌を漁っているらしい。

 定石セオリー通りきちんと風下から接近したおかげで、今のところワイルドボアがこちらに気付いている様子はない。

 数は一体だけ。
 スキル《気配探知》で周囲に敵影がないことも事前に確認済み。

 魔物を隔てて反対側の茂みには、剣士ルカと戦士ライナーが回り込んでいる。

 魔術師のアリサは少し離れた場所でいつでも魔術を撃てるように待機しているし、仮に誰かが怪我をしたとしても今は・・治癒魔術が使えるターシャが、ある程度はフォローしてくれる。

 ミリナの役目は周囲の索敵もだが、前衛職のルカとライナー、そして攻撃魔術を操るアリサの三人でかかっても魔物を仕留めきれなかった場合に、魔物の気を引きつつ全員の退路を確保する役目だ。
 責任重大である。

(……大丈夫。僕たちならやれるはず)

 ミリナはごくりと唾を飲み込んだ。
 そっと胸のポケット手をやる。

 中には、ギルドで配られた『護符』が忍ばせてある。
 これは今回の依頼を受託するにあたりCランク以下の冒険者に対してもれなく配られたものだ。

 もちろんただのお守りではない。
 これは万が一ダンジョン内部で遭難した場合に、位置を知らせてくれる魔道具の一種らしいのだ。

『なので、絶対なくさないようにしてくださいね』

 受付のお姉さんが『護符』を渡すときにそう念押ししていたのを、ミリナは覚えている。

 とはいえ、ミリナにとって重要なのはそこではない。
 これは、あの元勇者パーティーの盗賊職シーフ、ライノ・トゥーリが今回のダンジョン探索依頼にあたり自ら発案したものなのだという。

(やっぱり勇者様の仲間だっただけあって、ライノさんって凄い人格者なんだなぁ。こんな風に冒険者の身の安全を心配してくれているんだから……うん、僕も頑張らないと!)

 ポケット越しに『護符』に触れていると、ほんの少しだが気分が落ち着いてきた。


 そして――張り詰める空気を打ち破り、その時がやってくる。


「しゃおらああぁぁっ!」

「うおおおおっ」

 茂みを割って、ルカとライナーが躍り出た。

『グルッ……!?』

 ワイルドボアがすぐに気付き顔を上げるが、遅い。

「一太刀めもーらいっ! ――『断ち斬り』ッ!」

 ザシュッ!

 スキルを載せたルカの剣が閃き、血しぶきが舞う。

『ブルァッ!』

「おわっ!?」

 が、傷は浅かったようだ。
 怒り狂ったワイルドボアが太い首を振り回し牙を突き立てようとするが、ルカは間一髪でこれを躱す。

「あ、危ねえ……っ」

「これで……どうだ!」

 ルカと入れ替わるようにライナーがワイルドボアに突撃。
 上段に構えた戦斧を力任せに頭部に叩きつける。

 ――ガシュン!

『ブヒィッ!?』

 これにはさしものワイルドボアも堪えたようだ。
 巨体がぐらりとよろめく。

「……やったか?」

 が、倒れない。

「くそっ。ライナーの『剛力』でもダメか」

『ブルアアアァァッ……!』

 むしろ、さらに怒らせてしまっただけのようだ。
 ワイルドボアはすぐに反撃に転じず、鼻息荒く身をかがめ後ろ足で地面を蹴りつけている。
 あれは突進の予備動作だ。

 ワイルドボアの突進は後方に魔術的な力場の形成してそれを踏み台にすることで、凄まじい速度を誇る。
 見てから躱すことは、Fランク冒険者のルカやライナーには到底不可能だ。

「ふたりとも、すぐに『突進』が来るよっ!」

 ミリナは慌てて茂みから立ち上がり、二人に声を送る。

「分かっている! ……あれを喰らうと死ぬな」

「ああ、死ぬな。だが、足止めは完了だ」

 ルカがニヤリと不敵に笑い、叫ぶ。

『ブルルルル……』

 ワイルドボアの後方で力場が形成された――その瞬間。

「今だ、アリサッ! 派手にいけっ!」

「任せてっ! ……座標固定、よし。魔力障壁展開!」

 少し離れた茂みからアリサが躍り出た手に持った杖を突き出した。

 間を置かず、ワイルドボアの足元に魔法陣が出現する。

『ブルァッ!?』

 周囲の異常に気付いたワイルドボアが慌ててその場を退こうと激しく暴れ回るが、すでに魔法陣の外周を境界として魔力障壁が形成されており、逃れることができない。

「よーし、魔力充填完了! 焼き尽くせ――《業火の柱インフェルノ》!」

 ゴオオオォ――――

 凄まじい熱量があっという間にワイルドボアを呑み込んでゆく。

『――――』

 断末魔は逆巻く業火にかき消され、ミリナたちに届くことはなかった。







「これがグレン商会謹製の魔術杖か……とんでもない威力だな」

 若干引きつり顔のルカが、足元の焼け焦げた地面を見て言った。

 ちょうど魔法陣があった範囲が、綺麗に焼け消えて丸い空き地を形成している。
 真ん中あたりにひとつまみほどの消し炭が残っているが、あれはワイルドボアの残骸だろうか。

「ふっふっふーん。これが魔術師の真価なのよ。ルカ、私のこともっと褒めていいんだからね?」

「いや、マジで凄いぞ、この魔術杖。ちょっと貸してくれよ! すぐ返すから」

「杖じゃなくて、私……」

 悲しげな顔で自分を指さすアリサだったが、ルカは魔術杖を彼女から受け取るとまるでオモチャを与えられた子供のようにキラキラした目で杖を眺めている。
 だが、こんなやりとりはいつものことだ。

(ルカってば、アリサがライノさんと喋ってたときはあんなにヤキモキしてたのに……)

 端から見れば、どう見てもアリサがルカを憎からず思っているのは明らかだ。
 だが、当の本人はまったく気付いていないらしい。

 おそらくルカも、アリサに大してただの幼なじみ以上の感情を抱いているのは間違いないのだが……

 ミリナとしても、ルカにその気があるならば応援の一つでもしてやりたいのだ。
 けれども本人がこうも鈍感だと、どう取り持ってやればいいのか皆目見当も付かない。

(まったく、昔っから肝心なところでこうなんだよねぇ)

 ライナーとターシャに目をやると、二人は苦笑して肩をすくめた。
 ミリナも二人をマネして肩をすくめて見せた。
 それが、三人ができる精一杯だった。

「おおー、この珠か、コイツが魔力を貯め込んでいるんだな! すげーな、最近の武具は」

 ルカはというと、まだ魔術杖に夢中のようだ。

「…………」

「ルカの剣はいつものやつだっけ?」

 アリサが黄昏れたままで使い物にならないのでミリナが彼女に代わり話に乗ってやる。

「ん? ああ、まあ俺も新作の剣を勧められたんだけど、やっぱコイツに愛着があってな」

 するとルカはニッと歯を見せ、腰のロングソードを軽く手で叩いてみせた。

「俺もだ。やはり、使いこんだ得物じゃないと戦いづらいからな」

 ライナーもらしい。
 確かに彼が持っているのも、使い慣れた戦斧だ。

「僕も、二人の気持ちはちょっと分かるかな」

 ミリナは自分の腰に差した短剣に触れる。
 ヘズヴィンに来る前に買った安物の鋳造品だが、いつも使っている武器というのはそれだけで安心感を与えてくれる。

 とはいえ、ミリナは彼らとは違い一応『風刃』という短剣をグレン商会傘下の工房より貸し出して貰っており、自前のものとは別に装備している。

 盗賊職シーフの上位スキルである《投擲》はまだ覚えていないが、それでも短刀を振るだけで飛び出す魔力の刃というのは、あまりに便利だからだ。
 もっとも、回数制限があるからほとんど使っていないが。

「私は貸してもらった杖だわねー。使う機会がないといいけどー」

 補助魔術が得意なターシャの持つ魔術杖は、中位治癒魔術が付与されている。
 回数は十回と少ないが、身体の傷だけでなく毒や麻痺も治せる優れものだそうだ。

 もちろんミリナとしてはこの魔術杖にお世話になる状況は御免被りたいが、心強いことには変わりはない。

「しかし……俺たち、実は結構やれるんじゃね? ワイルドボアなんて、普通Fランクで倒せる魔物じゃない。大金星だろ」

 ルカが、皆を見回してそう言った。

「ああ、そうだな。魔術杖の力を借りたとはいえ、それも各々の連携あってのことだ。皆、強くなっていると思うぞ」

 ライナーが頷く。

「ああ、そうだよな! この調子なら、もしかしたら最終階層まで到達できちゃうかもな。うおおっ、こうしちゃいられねー! さっさと次の階層に移動しようぜ!」

「ああ、行こうか」

「はーい」

「はぁい……」

 この五人ならば、きっとどこまでだって行ける。
 そういう確信が、彼女にはあった。

「……うん!」

 ミリナは弾むような感情を胸に抱きながら、下層へと足を踏み出した。
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