神崎蓮と佐倉梓の事件簿-Case1:月影荘の密室-

疑惑の交錯

神崎蓮と佐倉梓は、容疑者たちへの聞き込みを開始した。雪に閉ざされた月影荘の中で、彼らの言葉の一つ一つが、事件の真相へと繋がる糸口となるはずだった。

最初に話を聞いたのは、白石恵だった。彼女は、黒崎雅人の遺産相続を巡る問題で、雅人と対立していた。梓が、事件当夜のアリバイを尋ねると、恵は淡々と答えた。

「昨夜は、自室で書類の整理をしていました。雅人さんとは、夕食の際に少し言葉を交わしただけです。その後は、誰とも会っていません」

その言葉には、一切の感情が込められていないように見えた。しかし、神崎は、彼女の言葉の端々に、微かな違和感を覚えた。書類の整理。それは、彼女が弁護士であるという職業柄、不自然ではない。だが、そのあまりにも完璧な答えが、かえって不自然に感じられたのだ。

次に、青木健太。彼は、長年、月影荘の管理人を務めており、黒崎宗一郎への深い敬愛の念を抱いていた。雅人が館の美術品を売却しようとしていたことに、彼は強い憤りを感じていた。梓が、事件当夜のアリバイを尋ねると、青木は俯きがちに答えた。

「私は、いつものように、館の見回りをしておりました。その後は、自室で休んでおりましたので、雅人様とはお会いしておりません」

青木の言葉は、どこか曖昧だった。館の見回り。それは、彼が管理人である以上、当然の行動だ。然而，その見回りの具体的な時間や経路については、はっきりと答えようとしなかった。神崎は、青木の態度に、何かを隠しているのではないかという疑念を抱いた。

赤井涼子は、黒崎雅人の元恋人であり、金銭トラブルを抱えていた。彼女は、雅人への恨みを隠そうともしなかった。梓が、事件当夜のアリバイを尋ねると、涼子は感情的に答えた。

「私は、雅人とはもう関係ないわ！ 昨夜は、自室で一人で飲んでいたのよ。あの男が死んだところで、私には何の得もないわ！」

涼子の言葉は、感情的で、どこか芝居がかっているようにも聞こえた。しかし、その言葉の裏には、雅人への深い憎しみが隠されているようだった。神崎は、彼女の言葉と態度から、強い動機を感じ取った。だが、それが犯行に繋がる決定的な証拠となるかは、まだ分からなかった。

最後に、緑川徹。黒崎雅人の事業パートナーだった彼は、共同事業の失敗で多額の負債を抱えていた。梓が、事件当夜のアリバイを尋ねると、緑川は怯えたように答えた。

「私は、昨夜は、自室で今後のことを考えていました。黒崎さんとは、夕食の時に少し話しただけです。まさか、こんなことになるなんて……」

緑川の言葉は、どこか頼りなく、自信がないように聞こえた。彼は、雅人からの資金援助を強く求めていた。雅人が死んだことで、彼の窮状はさらに深まるだろう。しかし、その一方で、雅人がいなくなったことで、彼が抱えていた問題が解決する可能性もゼロではない。神崎は、緑川の言葉の裏に隠された、複雑な感情を読み取ろうとしていた。

容疑者たちの言葉は、それぞれが雅人に対する不満や恨みを抱いていることを示していた。しかし、決定的な証拠は見つからない。神崎は、彼らの証言の矛盾点や、不自然な点を一つ一つ拾い上げ、事件の真相へと繋がる糸口を探し続けた。雪は、相変わらず降り続いていた。月影荘は、深い雪に閉ざされたまま、疑惑の交錯する密室と化していた。