神崎蓮と佐倉梓の事件簿-Case1:月影荘の密室-

しるふ

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隠された通路の囁き

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神崎蓮は、容疑者たちの証言に耳を傾けながらも、彼の思考は常に月影荘の構造へと向けられていた。密室の謎を解く鍵は、この館そのものに隠されている。そう確信していたのだ。

「青木さん、もう一度お伺いしますが、この館に隠し通路や秘密の部屋は本当にありませんか?」

神崎は、再び青木健太に問いかけた。青木は、一瞬、視線を逸らしたが、すぐに平静を装って答えた。

「ですから、ございませんと申し上げました。私が長年管理しておりますので、この館のことは全て存じております」

しかし、その言葉は、以前にも増して歯切れが悪く、どこか焦りの色が滲んでいるように梓には感じられた。神崎もまた、青木の言葉の裏に隠された真実を見抜いているかのように、静かに彼を見つめていた。

神崎は、館の図面を広げ、それを丹念に調べ始めた。古い図面には、ところどころに修正の跡があり、現在の館の構造とは微妙に異なる部分があることに気づいた。特に、書斎の暖炉の周囲には、不自然な空白がある。まるで、何かを隠すかのように。

「佐倉さん、この暖炉ですが、長年使われていないにもかかわらず、内部が綺麗に清掃されていると思いませんか?」

神崎の言葉に、梓はハッとした。確かに、第三章で彼女も同じ違和感を抱いていた。使われていない暖炉を、なぜこれほどまでに綺麗に保つ必要があるのだろうか。

「そして、この暖炉の煙突。古い洋館では、煙突が隠し通路として使われることがあります。特に、この月影荘のように歴史のある建物であれば、その可能性は十分に考えられます」

神崎は、そう言って暖炉の内部を指差した。梓は、恐る恐る暖炉の奥を覗き込んだ。そこには、確かに、人が一人通れるほどの空間が続いているように見えた。しかし、その先は暗闇で、何も見えない。

「青木さん、この暖炉の煙突は、どこに通じているのですか?」

神崎が再び問い詰めると、青木は観念したように、重い口を開いた。

「……宗一郎先生が、生前、私に命じて、煙突の一部を改修させました。先生は、時折、誰にも知られずに書斎へ出入りすることを望んでおられたのです。その通路は、館の裏手にある物置小屋へと繋がっております」

青木の告白に、梓は息を呑んだ。やはり、この館には隠された通路があったのだ。そして、それを知っていたのは、青木健太だけ。密室の謎が、少しずつ解き明かされようとしていた。

「物置小屋……。そこから書斎へ、そして書斎から物置小屋へ。つまり、この通路を使えば、誰にも気づかれずに書斎へ出入りすることが可能だった、ということですね」

神崎は、青木の言葉を反芻するように呟いた。彼の表情には、確信の色が浮かんでいた。この隠された通路こそが、密室トリックの鍵。そして、それを知っていた青木健太が、最も有力な容疑者として浮上した瞬間だった。

しかし、神崎の思考は、さらにその先へと進んでいた。この通路だけでは、密室の謎は完全に解けない。窓の鍵は、内側からかかっていた。通路を使って侵入し、殺害後、通路から脱出したとしても、窓の鍵を内側からかけることはできない。まだ、何か別のトリックが隠されているはずだ。雪に閉ざされた月影荘は、その隠された通路の囁きと共に、さらなる謎を深めていく。
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