緋色の蛇は宵に咲く

羽純朱夏

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二章

※玖話※★

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去り際、琥珀が紬に声を掛けた。自分の知る祖父ではない神秘的な姿を、紬はそっと見つめた。よく見ると、顔には微かに鱗のような模様が浮かんでいた。

『おじいちゃん、やっぱり蛇の神様だったんだね』
『あぁ、瀕死の俺をお前のおばあちゃんが助けてくれて……ま、色々あったもんだ』
『……そっか。でも、二人とっても仲いいなって思ってたよ』
『鈴は、俺を長い孤独から救ってくれた。ずっと、感謝してる。紬、瑪瑙一人で、あの柘榴たちに立ち向かうのは正直難しい……』
『……そんな』

瑪瑙一人で、柘榴たちに立ち向かうことができないとは。琥珀の言葉に、紬の気持ちは不安になった。だが、沈む紬の肩を掴み、琥珀は耳元でそっと囁いた。

『番であるお前が、あいつを助けるんだ。の力で……』
『祈りの力……?』
『あぁ、きっと、近々……主がお前に告げにくる。それまで待ってろ』

祈りの力とはなんだろうかーー?紬は不思議に思いながら、琥珀の顔を見て頷いた。

『さて、用も済んだし、鈴の元に帰るか。瑪瑙、俺の孫また泣かせたら……ただじゃおかねぇからな』
『はい。もう絶対に悲しませないと、誓います』
『さぁ、元の場所に戻れ。じゃぁな』

琥珀に見守られる中、光の筋に包まれると視界が白く霞んだ。紬が一瞬振り返ると、祖父の隣に一人の女性の影が見えた。きっと祖母に違いないと紬は思いながら、目を閉じた。

***

境内の木々がざわめく中、瑪瑙は目を覚ました。隣を見ると紬の姿が映った。戻ってくることができたことに、安堵の息をこぼした。そっと、自身の尾を彼女の手首に巻き、彼女の体温を感じ取る。

『ありがとう……紬』

疲れたのか、彼女は眠ったまま動かない。すると、空から声が届く。その声は知っている大神の声だった。

『戻ったか……まったく、我に手間をかけさせるとは』
『申し訳ございません、主……』
『番に感謝するんだな。あのまま瘴気に蝕まれ、お前は消えるところだった。無事に魂を連れ戻した……番の想いの力というべきか』
『……』
『お前から柘榴達の呪いは消え去った。もう遅い……彼女は疲れきっているだろう。休ませてやれ』

声はそこで消え、一筋の風が瑪瑙の顔を掠めていった。瑪瑙は人に顕現し、紬を抱えると自らの家に向かった。
部屋に入ると変わらず白檀の香りが、室内に漂っていた。明かりを灯し、寝室へ向かいベッドへ紬を寝かせると、瑪瑙はそっと額に唇を寄せた。



自分を探すために、精神だけで危険を顧みず、自らを助けに来てくれたことへの感謝と情を込めながら。

「紬……起きてください」

僅かな神気を込めながら、彼女の唇に口づけ、気を流しこむ。唇を離し、しばらくすると彼女の瞳が微かに動くのがわかった。

「……ん?」
「大丈夫ですか?」

ゆっくり開かれた双眸が、自らの姿を捉えた。そして、微かに笑みが零れた。

「瑪瑙さん……よかった。元に戻ったんですね」
「心配をかけました……申し訳ありません」
「いえ、あの……あの時、嫌いって……酷いことを言ってすみません」
「……もういいんです。僕の方こそ、貴女を傷つけて……危険な目に合わせて」

自分のしたことに負い目を感じながら、言葉に詰まっていると、彼女の手が頬に触れた。

「瑪瑙さん、もう消えないでくださいね」
「えぇ、絶対に消えたりしません」

瑪瑙は紬の身を抱き寄せた。抱きしめられると変わらない花の香りがし、紬はそっと胸元に顔を寄せた。

「瑪瑙さんの香り……やっぱり安心します」
「そうですか?」
「はい……瑪瑙さんの魂を辿ってた時、小さい時からずっと、頑張ってたんだなって思いました」
「……幼い頃も見たのですか?僕はもう、あまり覚えてませんが……きっと、必死だったのだと思います」

幼い頃から、周りから置いていかれることへの劣等感を感じていたのは確かだ。周りが羨ましかった。自分は神であるが、神とはいえないほど弱く、不完全な者だったのだからーー。
どれだけ長い時の中、虚しさを抱えていても、こうして今、自分の番を得た。人の世に紛れて、自分の生きる場所を見つけられた。

「こうしてまた顕現ができ、本当によかった……今が一番、僕にとっては幸せな時です」
「そうですか」
「はい。瘴気に蝕まれ、自身の弱い心に呑まれそうになってましたが、君が連れ戻してくれて、嬉しかった」

瑪瑙の声が、静かに紬の心に染み渡った。過去の神域にいる時よりも、音を奏でている今の方が、彼にとっては生き生きしているように思える。彼の掌をそっと握り、指先を見つめた。今まで気づくことはなかったが、彼の音に対する努力の結晶がわかるような微かな傷跡が見えた。

「瑪瑙さんは、やっぱり音を奏でるために生まれたんだと思います。きっと、この時のために……」
「今なら、そう思えます。番である貴女にも会えた。僕はこの時のために、長い時を耐えていたと思えたら、辛い気持ちなど忘れられます」

彼女の優しさと強さに、離れらないほど惹かれている。自分の弱さも欲も、全てを曝け出しても共にいたい。

「紬……僕は、君をもう離したくありません。共にいてくれますか?」
「……はい」
「なら、少しだけ……いいですか?」

瑪瑙は軽く笑みを零すと、紬をベッドへと組み敷いた。赤褐色の瞳に見下ろされ、突然の動きに紬は目を丸くして、軽く瑪瑙を見上げた。
花の香りが仄かに香り出す。二人を繋ぐ特別な香りは次第に部屋に満ちていく。
細い指先が紬の頬を撫でると、微かに紬は身を震わせた。あの時の恐ろしい交わりのものではなく、初めて交わった時の甘い感覚だ。

「今夜は貴女を清めます……」
「え……?」
「前回は酷い抱き方をしたから……その償いを……癒しを与えます」

清め、癒しという言葉に、不思議に思いながらじっとしていると、彼の唇がそっと塞がれ離れた。額や首筋へと触れながらも、口付けが落とされる。
衣服の中に彼の指先が忍び寄ると、紬は身を強張らせた。その時、彼の香りが緊張を和らげるように香り、身体が気が抜けるように緊張が解けていく。

「ここが、まだ赤いですね……あの時すごく締め付けてしまいましたから……」
「っ……あ」
「脱がしますよ」

抵抗する気力もないまま、香りにより思考が混濁する。下着だけの姿になり、ただ彼の腕を握っていた。瑪瑙は自分の纏うものを脱ぎ捨てることなく、紬を抱きしめ、背を撫でた。

「怖くないですか?」
「……だ、大丈夫です……」
「君に出会わなければと言ったけど、本心じゃなかった。でもどこか、人ではない僕とこの先いて……君を幸せにできる自信がなかった。共に過ごせる時間も限られるし、僕がこの先、生きる保証もない……」

翡翠達に敵わなかった自分が、再び対峙することになれば、自分の命がどうなるかもわからない。彼女と過ごせる時間を持つのは限られている。自分の執着が、彼女を手放したくないと思っても、彼女を寂しい思いをさせてしまう。
琥珀のように毎日愛する者と顔を合わせ、穏やかな生活を過ごすのは難しい。

「僕は、死ぬまで君を縛ります……寂しい思いをさせても、それでも傍にいてほしい」

微かに引いていない肌の赤い部分をなぞり、口付ける。痛みを癒すようにーー。
ブラのホックが外されると、露わになった乳房に手を滑らせ、胸の輪郭をなぞるように舌を這わせた。彼女の甘い吐息を聞きながら、執拗に自らの熱を刻むように、手を這わせながら、足先へと唇を滑らせていく。

「や……んっ」

あの意識の中、垣間見た女性に縋られても身を許さなかった彼が、今自分の身体に触れていることに、嬉しさを感じる。香りにより、思考がうまく働かない。気持ちがふわふわとして、ただ彼に甘く溶かされていく感覚が残る。

「めの……さ、、やだ」
「さぁ、後ろも……」

背後から抱くように体制を変えられると、耳元に軽く吐息がかかる。先程と変わらず唇が移動していくだけで、抑えている声が漏れてしまう。

「だ、めっ……」
「ここも、まだ少し赤い……」

背中に口付けを落とされ、舌が這う。擽ったさと、軽く歯が当たる痺れに、身体の奥に疼きが湧き上がるのを感じる。だが、彼は下着に手をかけることはなく、太腿の辺りをなぞるだけで、触れようとはしない。
その様子が焦ったく感じ、紬はもどかしく感じた。

「っ……んんっ」
「腰が揺れてます……可愛い」
「な、そんなこと……」
「触りますよ……」

ショーツの合間から指が忍び込むのがわかった。そこはすでに湿りがあり、微かに水音が響く。だが、指が膣内に進むと痛みが走り、紬は思わず声を漏らした。あの時の痛烈な交わりにより、未だ内側に炎症が残っていた。

「っ、痛っ……」
「まだ、ここは癒えてないか……すみません、すぐに治します⋯⋯。これ、脱がしますよ」

ゆっくりとショーツを脱がされ、何も身に纏わない姿になると、瑪瑙は体制を変え、ベッドから降りた。棚の上にある紐を取り、髪を縛ると彼女の足に手をかけ間に身を忍び込ませた。

「瑪瑙さん、まさか……だ、駄目」
「治すだけです……そうしないと、君を抱けませんから」

足を開かせ、花弁にそっと唇を寄せる。割れ目にゆっくりと舌を這わせ、溢れる泉の奥へと舌を忍ばせた。内側に温かな気が流れ込む気がし、唇が花芯を緩く吸うと、びくりと身が震える。

「やぁ⋯めの、、さん⋯吸わないで⋯んんっ」

与えられる快楽に足先に力が入る。涙目混じりに見下ろせば、不意に彼と視線が交わる。恥ずかしさに身を捩りながらも、彼の頭に触れる指にも力が籠る。

(⋯⋯もう、痛くないですか?)

「⋯⋯また頭に話かけて⋯⋯嫌」

気づけば、指が忍び込んでいたが、先程の痛みは無くなっていた。ただ甘い痺れだけが、身体を走っている。花の香りと、舌の動きにさらに身が熱くなる。

「んん、もう⋯⋯いいです⋯⋯から、あっ!」

(貴女が僕で乱れる度⋯⋯この身体中、僕の熱を刻んで、愛でたくなる)

「あ、んんっ…⋯!!」

(気をやってください⋯⋯)

指の動きが速くなり、花芯に這う唇が強く吸い上げた途端紬は甘く甲高い声を上げ、身を震わせながら気を放った。
痙攣した膣内から溢れる蜜を、瑪瑙は絡め取るように唇を含み舐めていく。
紬は胸を上下に動かしながら、乱れた呼吸を整えていた。眠らなければ、明日の仕事に支障がでてしまう。だが、何かが物足りなく感じた。

「⋯⋯明日もありますし、今日はこの辺で」
「⋯⋯あ、はい⋯⋯」

あっさりと身を引く彼に、どこか名残惜しさを感じた。明日の為、休まなければならないが、身体の熱が収まらない。その先を期待してしまった自分が、はしたなく思える。堪えなければいけないのに、無意識に彼の裾を掴んでいた。

「どうしました?」
「あ、あの……えと」
「……してほしいですか?」
「っ……」
「君の望みなら、断れないな……」

穏やかな笑みを浮かべながら、帯を緩めるとそのまま裸体を晒す。そのまま抱き寄せられ、胸元に映える赤い鱗に顔を埋めた。

「瑪瑙さん……好き……です」
「紬、あまり僕を煽らないでください……今夜は、我慢しようとしていたのに」
「そんな⋯⋯ことっ」

すでに彼自身も欲情していたのか、花弁の割れ目に熱い熱が当たるのがわかった。そのまま、熱が内側へと侵入し、紬の身をゆっくりと貫いていった。以前の時の痛みはなく、香りのせいだろうか、むしろ心地よさを感じる。
瑪瑙は静かに紬の上に身を重ね、彼女の額や唇に自身の唇を寄せた。

「ん……瑪瑙、、さ……」
「愛しています……君だけをずっと。君は僕の生涯の番……二度と離しません」

穏やかな抱擁の中で、二人はただ静かに熱い交わりを交わしたのだった。


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