緋色の蛇は宵に咲く

羽純朱夏

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一章

※弐拾話※

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ひやりとした指先が、やがて肌の熱に馴染むようにゆっくりと動いていく。
深い口付けが解かれ、酸素を取り入れるように呼吸をする紬に対して、瑪瑙は囁く。

「安心してください。何もかも急ぎません……」

蛇神の本能は、肌に宿る微かな震えや、指先の躊躇いすら感じ取る。紬の緊張を解くように、瑪瑙は彼女の髪を撫で、肩を抱き、温かな体温を包み込むように注ぎ込んでいく。
ゆっくりと、何度も口づけを落としながら、紬の吐息が少しずつ熱を帯びていく様を、彼は愛おしそうに見つめていた。

「僕は……知識だけならたくさん持っているんです。書物で、人の営みや情というものを……でも、本当に誰かをこうして抱くのは貴女だけなので、上手く貴女を導けるかわかりません。でも…」

紬の乳房に瑪瑙の手が這われ、包み込むように触れていく。少しの刺激に紬は声を零した。

「ん、瑪瑙さ……」

「蛇の本能のせいか……感覚に優れ、肌の震え一つで……貴女の心の奥までわかる気がします」

指先は決して乱暴ではなく、けれど迷いもない。
香りに導かれ、熱に惹かれーー。ゆっくりと、丹念に、まるで宝物を慈しむように、瑪瑙の舌先が胸の頂を弧を描くようになぞる。

「あ、っ、んんんっ」
「ずっと、こうしてみたかった……触れたいと思っていた」

彼女の声が次第に甘さを帯びていく、熱の渦へと導くように自身の持つ香も濃度を増し、彼女を酔わせていくように捕らえていく。

「貴女の匂いが教えてくれる。どこを撫でれば心地良いか……どんな風に囁やけば、貴女が甘く揺れるか」
「嫌、めの、さんっ…」
「番を捉えるこの香りに、酔ってきましたか……?」
「な、何が……っ」

金木犀の甘い香りを吸い込むと、余計に身体が熱を持っていく。それはまるで媚薬のように。彼の指先が這う箇所が妙に擽ったく、感度が少しずつ上がっていく気がした。
乳房に口づけが降り、かかる彼の吐息と唇が咲かせていく赤い華に、変な声が漏れてしまう。

「ん、っ、んっ!」
「っ、唇を噛んでは、いけません」
「ふぁっ、んんっ」

声を出さぬよう噛み締めた唇を塞がれ、温かい舌が何度か絡め取られ、彼の丁寧で情熱的な欲に落とされていく。眼差しが重なり、本当に食べられてしまうのではという感覚になる。香りに酔ったのだろうか、紬は瑪瑙に手を伸ばし、懇願するように声を発する。

「瑪瑙さ……この香り、変っ、いつものじゃ……」
「そうですか……どうやら、この香りは相当、君を酔わせる効果があるようですね……。大人しく身を任せていてください。さて、こちらも……」
「え、待っ……!!」

瑪瑙の指先が、静かに紬の秘所へと忍び込み、指先が上下に数回撫でられると、紬は不思議な感覚に声を抑えた。

「少しだけ……濡れていますね。でも、これではまだ痛い……」
「瑪瑙さ、そんなこと、言わないで……」
「本当のことです、この状態で僕を受け入れるのはまだ……できる限り、痛みがないようにしないと」

平然と言葉を発しながら、体制を変えられる。瑪瑙は自身の赤い髪を縛ると、紬の両膝を左右へ開かされていく。紬は咄嗟に閉じようとしたが、男の力には叶わず、見られたくない箇所を彼に晒す形になってしまった。羞恥のあまり顔を背ける。

「だめっ、、見ないで……」
「それは、できません……辛かったら、声を上げてください……」

花の蜜に誘われた蛇のように、感覚と本能のままに、彼女の花弁の割れ目に指を這わせながら、潤んでいる花の入口へと舌を潜りこませた。
独特の香りと味を感じながら、これが、番の味なのかと執拗に貪りたくなるーー。

「あっ、やめぇ……汚いからっ、んんっ!」

(そんなことはありません……ここは震えながら、もっとって言ってます)

「頭にっ、話かけ…ないで……っ」

(今は、話せないので……紬さん、僕の指が、君の中にいるのがわかりますか?)

彼から与えられる指と舌の刺激、纏わりつく金木犀の香りに脳内が溶けていくように熱い。いつもの冷静な彼が、快楽の波へとそそのかす淫靡な蛇神に見えた。声を出したくないのに、彼の甘い刺激に抑えられないほど声が出てしまう。

(……ここが、いいですか?)

内側を探るように指先がゆっくりと動くのがわかり、腹の奥から熱が押し寄せるような感覚になる。指の動きと、花芯への舌の刺激が同時に施され、軽く花芯を吸われる感覚に、快楽の波が一気に溢れそうになる。腹の奥がじんと熱くなる感じがし、身体全身が悦びを覚えるように震える。花弁からはじわりと愛液が溢れ出し、紬は更に甘く高い声を上げる。

「だめっ!!そこっ、あアッ、あ」

(僕の指が締め付けられてます……感じてるんですね。我慢せずに、気をやってください)

「瑪瑙さんっ、んっ、あぁぁ!!」

花弁が痙攣し、紬は甘い嬌声きょうせいをあげながら乱れた息を落とす。呆然とした意識の中、溢れ出る蜜を舐め取るように、瑪瑙の唇の温かな感触だけが残った。

「ん、紬……さ、大丈夫ですか?」
「っ、瑪瑙さん……も、駄目っ……」

紬の懇願に、瑪瑙は蜜で濡れた唇を拭い、抱き寄せた。

「まだ、ですよ。ここからが本番ですから……」
「そんな……だって、あ」

紬は瑪瑙の昂った熱塊を初めて目の当たりにした。あの時感じた蛇のものとは違い、完全に人間のそれだった。恥ずかしくなり瞬時に目を逸らすと、そのまま彼の胸元に顔を埋めた。

「二つあると思いましたかーー?」
「そっ、そんな事、ないです……もう、恥ずかしいこと平気で言わないでください……さっきから」
「……この痣は蛇の名残があるというのに……不思議なものですね、紬さん」

ふっと軽く笑みを零しながら、優しくベッドに組み敷かれると同時に、熱を持つ陰茎が、紬の花弁の割れ目に当てられる。先程の愛撫で濡れそぼっているせいか、軽く陰茎を擦り付けると同時に粘着した音が響く。

「んっ、めの⋯…う、さん。あっ……」
「そろそろ……いいですか?最初より大丈夫だと思いますが、ゆっくり一つになりましょう」
「……っ」
「力を抜いていてください……」

瑪瑙の陰茎の先端が、ゆっくりと押し入るのがわかった。緊張で力が入ってしまったのか、少しの痛みが走る。痛みの中、紬は瑪瑙の腕を握り耐えた。少しだけ進んだ後、瑪瑙の指先が紬の手に絡まりきつく結ぶ。

「少しだけ入りました、馴染むまでこのままで……」
「ん、瑪瑙さ、、ん……」
「瞳が潤んでいます、辛いですか?」

気遣いながらも、離さぬように捉える彼に首を降る。心の中で相手に伝わるよう、紬は声を伝えた。

(好きです……)

「っ……僕はそれ以上に好きですっ、動き…⋯ますね」

紬の腰を持ち上げると、緩い律動から、最奥を目掛け、楔がねじ込むように瑪瑙は身を沈めていく。
息ができないほどの圧迫感が襲い、紬ははふはふと息をする。
薄っすらと目を開けて見た彼の姿は、額に汗が滲み、辛そうに眉を寄せている。結っていた髪が解け、汗で顔に張り付き余裕のない表情を浮かべているのがわかった。
そして、熱塊が全て埋め込まれると、荒い息をしながら、瑪瑙は熱を孕んだ視線を向け呟いた。

「全部、入りました……僕がいるのがわかりますか?」

優しく抱きたいと思うのに、本能が激しく彼女を求めるように欲しくなる。契とはこんなにも貪欲に欲するものなのだろうかーー?彼女の声を聞く度に、触れる感触を探る度に、蛇の交尾のように強く絡まっていたくなる。

「ん、瑪瑙さんーーあっ、は…っ…⋯んっ」

腹の部分を軽く抑えるように触れると、内側にいる彼の熱塊の感触が当たった。ゆっくりと腰を揺さぶられ、声が漏れる。ぐちゅりと、秘部からは卑猥な音がした。下半身を押し付けられるたびに、彼の太腿が尻の部分に辺り、ぱんっと軽やかな音が交じる。
瑪瑙の荒々しい吐息が、耳に響き淫靡に感じられた。

「ん、あっ、あ……」

紬の上にのしかかり、身を揺らす瑪瑙は、低く呻く声を漏らした。

「は、っ、……紬さ…ん」

徐々に腰の動きが早くなり、肌のぶつかる音が激しくなっていった。低く艶めかしい吐息が耳朶にかかり、瑪瑙の息遣いが段々と切羽詰まったものに変わっていく。

「はぁっ、はっ…紬っ……」
「め、のう…さ、んんっ……」

濃度のある花の香りが汗と混ざり合い、幾度かの律動の後、繋がっている最奥で熱が弾ける。

「あぁっ、あ……!!」

瑪瑙に抱き寄せられたまま、緩やかに腰が揺れ奥に生温かい精が注がれた。熱の余韻を感じたまま、紬が気をやると、瑪瑙の口が紬の口を塞ぐように口付けられる。
まだ繋がったままの結合部からは、先程吐精したものが、隙間から零れるように流れ落ちている。
乱れる呼吸をあげる紬の額や頬に唇を落としながら、瑪瑙は軽く笑みを浮かべ囁く。

「大丈夫ですか?紬さん……」
「瑪瑙さん、もぅ、駄目……」
「ふっ、言いましたよね……蛇は誓いを交わした者と長時間交わると……」
「そ……そんな」

未だ衰えない、ねじ込まれたままの熱塊を、瑪瑙は再び緩く腰を動かす。気をやったばかりの紬の身体は、多少の刺激にも反応するように身を震わせる。

「僕はまだ足りません、貴女の味と熱を知ったから、もっと欲しくなります」
「そんなっ、恥ずかしい発言……しないでください……んんっ」
「そうですか?本当のことを言ってるだけですが……」

無自覚に話す瑪瑙の言葉に、紬は、もし世間に彼がこんな一面を持つと知ったらどうなるのだろうと思った。お互い対面になるような座位の体制になると、抱き寄せられる。
瑪瑙の手が紬の腰元から臀部をなぞりながら、内側にある自身の熱を感じるように目を閉じ呟いた。

「温かい、番とこうして結ばれるのは心地が良いものですね……」
「ん、……瑪瑙さんが、こんな激しい、人だったなんて……」
「幻滅させてしまいましたか、すみません。……でも、この僕は貴女しか知りません。そして、貴女のこんな姿も僕しか知らない……そうでしょう?」
「ずるい……」

身体を休めていたのも束の間、下から突き上げるように腰が動き出す。太腿に臀部が当たると、ぱんっぱんっと音を刻むように響き出す。
熱塊が花弁の入り口を出入りするたびに、先程の精が垂れ瑪瑙の太腿やシーツへと伝っていく。甘い紬の嬌声と恍惚な表情を見つめながら、更に彼女の内側に精を注ぐように熱をぶつけていく。

「あっ、んっ、はっ…あ」
「っ、締め付けが……もっと、声を聞かせてください。貴女の声をっ……」

口付けをしながら舌を絡ませ、幾度かの律動の果てに、紬の最奥に再び熱い飛沫が注がれた。

「ああっ…!!あっ」
「く……っ!」

瑪瑙の胸にもたれ掛かれ、紬は乱れた呼吸を整える。瑪瑙の荒い吐息が耳を掠め、熱の余韻に浸る。
異形である証の赤い鱗に指を這わせると、瑪瑙の身が一瞬震えた。彼の心臓に耳を当てると、激しく脈打つ鼓動が聞こえる。

「大丈夫……ですか?」
「……はい」

紬はただその鼓動の音を聞きながら、少しの間微睡んだ。この人に、この神に捧げた交わりは怖いながらも、甘く優しいものだったーー。
ずるりと陰茎が抜け落ちる感覚がし、声を上げる。精と蜜が混ざり合った液が溢れ出し、お互いの身体に伝わり落ちていく。瑪瑙は伝う雫を指の腹で掬い、紬の太腿へと擦り付けた。

「あ……っ」
「随分と、卑猥な光景ですね……本当はまだ繋がっていたいですが」
「……」
「これ以上君を、僕の欲望で縛るのもいけない。君の負担にならないよう、今日はここまでにしましょう…」
「今日……は?」
「えぇ、今日は……です」

脱力した紬の身体を抱きかかえ、瑪瑙は浴室へと向かう。紬自分は疲れきっているというのに、彼は全然余裕の表情を浮かべていた。浴室に入ると瑪瑙は紬を膝の上に乗せたまま椅子に座り、シャワーで身体を洗っていく。

「あ、自分で洗います……」
「いえ、こうさせてください。初めてなのに無理をさせましたから……」
「っ……ちょっ、瑪瑙さん!」
「貴女の肌は柔らかいですね、どこもかしこも……。ありがとう、僕を受け入れてくれて」
「いえ、こちらこそ……」
「幸せです……すごく」

瑪瑙は丁寧に、紬の身を清めていく。彼の甘い囁きに、優しく触れる温もりに溶かされるように、紬は瑪瑙の愛に包まれながら身を任せた。
先に浴室から上がると、まだ気怠い身体を引きずりながら、パジャマに着替え、肌を整えた。濡れている髪を乾かしている間に、彼が浴室から上がりタオルに身を包んだ。
身体を拭いた後、浴衣へと着替え終わると紬の髪に触れ、ドライヤーを奪われる。

「後ろまだ、濡れてます。乾かしますよ」
「っ、ありがとうございます」

紬の髪を乾かした後、今度は紬が瑪瑙からドライヤーを受け取り、風をあてる。少し硬めな彼の赤い髪に、指を通しながら、紬は彼の髪を乾かしていった。 お互いの身を整えた後、瑪瑙は紬を再び抱え寝室へと向かった。ベットの上は先程の契りの名残が残っており、シーツの上には赤い華が咲いていた。一度床の上に彼女を下ろすと、部屋の押入れを開け、布団を取り出しその場に敷いた。

「さすがにベットは使えないので、この布団に横になってください」
「あの、ごめんなさい……汚して」
「僕の準備不足なんで気にしないでください……さ、寝ましょう」

布団の中に二人横になる。一人分のせいか若干窮屈に感じる。背中を撫でるように抱きしめられ、額に口づけを落とした後、瑪瑙は本来の蛇の姿へと姿を変え、紬の顔の近くに身を寄せた。

『この姿でなら、しっかり寝れそうですか?』
「あ……」
『この姿は、嫌ですか?』
「ううん、平気です……ありがとうございます。瑪瑙さん」

紬はふと、祖父のおとぎ話を思い浮かんだ。疲れからか、睡魔が少しずつ降りてきながらも、傍にいる瑪瑙に向けて言葉を発した。

「昔祖父に、蛇が人になって幸せに暮らしたという話を聞いたんです……」
『蛇が人に……?』
「ありえないって思ってたけど、瑪瑙さんに会って本当にいたんだって思いました」
『……その話をした貴女の、お祖父さんは?』
「おじいちゃんは、瑪瑙さんみたいに温かい花の香がしたようなーーおばあちゃんとずっと仲良くて…」

瑪瑙はその話を聞いていたが、紬は話の途中で眠ってしまっていた。
自分と同じ花の香りがした。そして、祖母と仲良く暮らしていたーー?まるで、自分が知っているあの二人のようだ。

『紬さん、貴女はもしかして……あの方の?』

寝息を立てる彼女の頬に顔を寄せ、擦り寄せた。この大事な番が、かつての仲間である者と繋がりがあるのだとしたら、尚更、傷つけさせるわけにはいかない。未だ息を潜めている翡翠達が、どのように動き出すのかもわからない。きっと人間達に、そして彼女に牙を向いてくるだろう。

『あの方のように、いずれ僕は命をかけて戦うことになる。その時自分がどうなるかはわからない。だけど、叶うならずっと…番である貴女の温もりに触れていたい……』

瑪瑙は紬の手に尾を巻き付けながら、静かに眠りについた。淡い花の香に包まれた二人の空間は、静寂の中静かに更けていった。
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