蛇の香は藤

羽純朱夏

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番外編

※雷雨の中のひととき※

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※この話は壱幕からしばらくしての話です※

***

出会ってから二度目の季節を迎えた。
春から夏へと季節が移ろいでいく中、空模様も大きく変化していた。
琥珀と鈴は互いの心を通わせ暮らしていた。
少しずつだが、琥珀の顕現できる時間も増えてきている。

電車の中で鈴は窓の情景を眺めている。
今日は晴れだと言っていたのに、今は大雨だーー。
天気予報は時には当てにならない。
駅からずぶ濡れになることを覚悟した。

目的の駅に着くと足早に家へと歩き出す。
雷も鳴り始めた。稲妻が走る空に恐怖を感じながら、更に家路へと急いだ。

玄関のドアを開け彼がいるか確認をする。

「………ただいま、琥珀さん」

玄関を開けた鈴は、羽織っていたジャケットを脱ぎながら、ふぅとため息を吐いた。湿った髪に、雨で湿気の匂いが纏わりついている。

そんな彼女を迎えるように、部屋をすべる気配が一つ。

『おかえり、鈴。今日もお疲れ様』

「はい。びしょ濡れです」

『雨が降り出したもんな、風邪引くからシャワー浴びてこい』

「はい」

今日は人の姿で出迎えてくれないのかーーと鈴は少し残念な気持ちになった。
だが、我儘をいうなど彼に迷惑をかけると思い、鈴は言葉を飲み込んだ。

『?どうした鈴』

「あ、いえ、シャワー浴びてきますね」

シャワーを浴びながらいると、突然窓が光ると同時に強い雷鳴が響いた。どうやら近くに落ちたようだ。鈴は怖くなり、シャワーの栓を閉めると慌てて部屋を出た。

「怖い………」

ドアを開けると、すぐそばに人影が浮かんでいた。微かに藤の香がする。
「近くに落ちたみたいだな。怖かったな?」

「琥珀さん……」

人に顕現した琥珀の姿を見て鈴は驚き目を見開いた。琥珀の手が鈴の背をそっとなぞると、琥珀は何か気になったように鈴に話しかけた。

「お前……慌てて出たな。泡がついてる。まったくちゃんと流さないと駄目だろ?」

「ご、ごめんなさい」

身体が雷の恐怖で萎縮してしまう。そして、再び雷鳴が轟くと咄嗟に鈴は琥珀に抱きついた。

「琥珀さん!怖い」

「仕方ないな……側にいてやるからしっかり流せ」

琥珀に背を押され、再び浴室に入ると、瞬時に変化したのか、白蛇の姿の彼がそっと側に這っていた。

「琥珀さん、ありがとうございます」

『あぁ……』


急いで身体を流し浴室を出る。
琥珀は気を遣っているのか、何も言わないままこちらを向くこともなく、居間へと床を這っていた。
素早く身支度をして、居間へと向かう。用意されていた食事を温め、食べる。
今日は筍の炊き込みご飯と筍の味噌汁。筍三昧である。
琥珀の作る料理はどれも美味で、何を食べるかによりその時の季節の感じられるほど素晴らしい。
鈴は毎度感心してしまう。

『美味いか?」

「はい、おかわりしたくなります。琥珀さんの料理できっと私何キロか太ってます……」

『そうか?まぁ、健康的になったほうがいいだろ?』

琥珀は楽しそうにソファーの上で鈴を見つめている。こうして自分が作った料理を毎日食べ、側で微笑んでくれる存在が今ではすごく心強く感じていた。

また、愛しすぎて閉じ込めてしまいたいほどにーー
「贄」という存在を超えて一人の女として彼女に惚れている。

「ごちそうさまでした」

食事を済ませた彼女の食器を洗う様子を見つめながら、眠りの準備を始める。
やがて豪雨になったのか、外で雨が窓を打ちつける音が聞こえ出す。

「早く、寝よう……琥珀さん、側にいてください」

『わかった』

鈴の伸ばされた手に絡みつきそのまま寝室へと移動した。
部屋に仄暗い灯りが灯り鈴はそのままベットに横たわる。
まだ恐怖があるのか、身が少し震えているのがわかる。その恐怖を鎮めるように琥珀は鈴の顔へ身を寄せる。

『大丈夫だ。俺がいるから……安心して寝ろ』

「迷惑ばかりかけてますね」

『迷惑なんて、思ってないよ……』

鈴の手が琥珀の身を撫で唇を寄せる。咄嗟の行動に琥珀は動揺し一瞬身が跳ねた。

『ちょっ、鈴っ!』

「……私琥珀さんが好きですよ。どんな姿でも」

『……今日はこのままでいようと思ったけど……』

笑みを溢しながら白い巳の姿から男の姿になると、そのまま鈴を抱きしめた。
柔らかな藤の香が鈴の心を癒す。

「琥珀さんっ……」

この腕の中にいられることが、今となっては一番の癒しのひとときになっている。気持ちが高揚しながら鈴はそっと琥珀の胸元に顔を埋めた。

「甘えん坊め……」

琥珀の呟きに、鈴は笑みを浮かべながら、静かに呟いた。

「私すっかり琥珀さんに甘えてますね……あ、また光った」

胸元へと再び顔を伏せる、肌着から覗く彼の厚い胸板の感触に男らしさと艶やかさを感じる、恋仲になってから何度か肌を重ねているその肌に不意に唇を寄せた。
雨の音が未だ激しく窓を打ちつけている。琥珀の手が鈴の背を優しく撫でながら、額に口付けを落とす。
次第に琥珀の指先が、鈴の頬をなぞりながら甘く囁き出す。

「あまり可愛く煽るな。お前をめちゃくちゃにしたくなる……お前の身体の負担になりたくないから
結構我慢しているんだ」

「えっ……」

「蛇の姿のが戒めになるし、表情が見えないだろ?本当は俺が何を考えているか……」

瞳が重なると同時に、軽く彼の唇が重なり離れる。

「琥珀さ……」

「帰ったきたお前の顔を毎日見るたびに安心して、心配して、愛しく思えてこの一年少しが目まぐるしく変わって。いつ終わりが来るのかという恐怖を感じる時もある」

このひと時がやがて夢だったのではないかという日が来るかもしれない。「贄」という存在を、心を通わせられる存在を得られることがなかった永年の悲しみが、未だに心の奥底で染みのように残っている。

「今の言葉は失言だな。忘れてくれ……」

顔を背けると彼女の掌が左の鱗の痣を撫でるように触れる。

「琥珀さんの優しさに私は救われてます。「贄」としては役に立ててるかなんてわかりません。ただ少しでも元気になれるならずっと祈ります。今ではその……この姿の方が好きです……よ」

「……温かい言葉をいつもありがとな……鈴。絶対幸せにしてやる」

「琥珀……さ、んっ」

甘く深い口付けが落とされ、唇が離れてはまた引き寄せられる。雨の音などもう聞こえない。
鈴の口から甘い吐息が零れ、身体の熱が高揚していく。陶酔するかのように虚な目を目の前にいる彼に向けると、琥珀色の瞳が目を細め笑みを浮かべている。

どうして、過去の贄たちは彼を恐れたのだろうかーー?確かに異形の姿であるがこんなにも優しさをくれるというのに。初めて付き合った男が神であるというのは贅沢な上に尊い。
鈴は勇気を出して彼の浴衣に手をかけ肌に手を添わせた。

「っ、鈴?何だ……」

「今夜は琥珀さんに触れたい……触れて欲しいです」

顔を赤らめながら呟く彼女に愛しさが込み上げ、衣を器用に脱ぎ捨て裸体を晒し彼女の身を引き寄せた。

「お前の望みなら断れないな。だが、明日も仕事だし、今日は最後までしないぞ。いいな……?」

「はい……」

寝巻と下着を脱がされると、静かに二人の肌が重なる。琥珀は鈴の様子を見ながら手を握りしめ愛を囁く。包み込む大きな手が心地よく鈴の心を撫でていく。藤の香りが包む空間で二人は静かにお互いを求め合っていく。琥珀が貪るように深い深い口付けと落とすと共に、鈴の意識がふわりと浮く。

「っ、鈴っ……離さない。愛してる」

「っ、あ…琥珀っ…さん」

離れた舌と舌から透明な糸が引く。荒ぶる息を上げながら、琥珀は鈴の白い乳房へと喰らいつくように刺激
を始める。吸い付くような音と熱い吐息が耳元に届き身体がくすぐったさで身悶える。
胸の先端が舌で刺激され、甘い声が漏れてしまう。

「やぁ、ダメっ……んっ」

「柔らかい、鈴の肌ずっと触れていたい……もっと」

胸元から唇が離れると琥珀の上に抱き寄せられ、彼の足の上に跨る体制になった。
彼の楔がすでに主張をしており張り詰めているのがわかる。

「琥珀さ……」

「……お前が悪い。俺をその気にさせるから」

腕の中で優しく抱き寄せられると、足の間の楔と自身の花弁が擦り寄せられる感覚がした。

「あっ……」

「鈴の熱あったかい……挿れないように気をつけるが……どうかな」

ゆっくりと互いの性器同士が擦れ合い、卑猥な水音を奏でる。

「っ、琥珀さん…これ、っ……」

「鈴っ、好きだ……っくっ」


体制が変わり覆い被さると、鈴の腰を抑えながら、琥珀は激しく腰を動かし出す。獣のように余裕をなくした表情に鈴の気分も高揚し快楽が湧き出てくる。
粘着を帯びた水音と蒸せ返るほどの藤の香、そして、荒々しい吐息を漏らしながら、やがて低い呻き声が溢れる。

「っ…鈴っ、くっ……もうっ、うっ、あぁっ!」

肌が幾度か擦れた刹那、熱い飛沫が鈴の腹や足元へ零れ落ちていった。琥珀は息を乱しながら、鈴の上に静かに倒れ込んだ。
藤の匂いに紛れ、雄の匂いが辺りを満たす。また身体を洗うことになってしまった。自分がその気にさせてしまったのだから仕方ないと鈴は心の中で思った。

「……悪い。抑えられなかった。洗い直さないとな、一緒に入ろう」

「お風呂沸かさないとです……」

「あぁ、力を使えば風呂なんてすぐに沸かせる。それにベットも綺麗にしないとな……」

琥珀は起き上がり鈴を抱き起こし浴室へと歩き出す。力をもう使ったのか。風呂が沸く音が流れ出した。

「早い……」

浴室に入ると琥珀によって、鈴は優しく丁寧に身体を洗われた。その後湯船に浸かり、鈴を背後から抱く形で寄り添うと、琥珀は鈴の耳元で甘い言葉を囁き続けた。

「次の休みの前は……覚悟しろ」

「っ……」 

鈴は静かに頷き、琥珀の身に身を任せた。先ほどの豪雨の音はだいぶ落ち着いたようだ。
湯船の温かさと、お互いの体温に包まれて静かに夜は過ぎていった。



ー立夏ー竹笋生(たけのこしょうず)「雷雨の中のひととき」~了
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