突然、天才令嬢に転生してしまった ③ 【南の国編】【西の国編】

ぷりりん

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好機逸すべからず

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*******【エバン・ユジン・チャールズ】

 理不尽な父上に雑務を押し付けられ、俺は不承不承この国にやってきた。

 体面を重んじて俺の価値を見逃す父上を見返すため、こんな仕事でも必ず手柄を立ててやろうと俺は誓った。

 それで次期国王となるジョセフ王子の有益な情報をかぎ出そうと、昨日から王都の酒場をまわった。

 酒の代金を多めに払い、俺はジョセフ王子の悪いうわさが聞きたいのに、どいつもこいつもジョセフ王子を褒めたててやがる。

 博学多識で温厚。乱れた生活もなく、ジョセフ王子が庶子である事実以外これといった怪聞はなかった。

 長年の戦争の末、新国教となった聖女教を真摯に信仰しているふりもそうだ。この国の民は不平不満を口にしない。

 なにが『聖女様の加護があれば未来はある』だ? 戦争が終わったばかりで生活が困窮しているのに、みんながみんな、そんな希望を持てるはずがないだろ? 

 恐らくだが、下手して王家の不興を買わないように振る舞うのが、この街の暗黙の了解なのだろう。

 小さな国だから、情報源の特定もすぐにできそうだからな。それでみんなが気を張っているのだろう。

 とはいえ、完璧な王族など存在するはずがない。
 浪費癖、賭け事。なんでもいいから悪い情報が欲しい。

 いくら発言に気をつけても、安いエールで気分が舞い上がれば、いずれ本音が出てくる。そう思い、酒場の常連らしき飲んだくれを捕まえて、夜中まで酒を注いだ。
 
 そうして、ぐでんぐでんになった男に王子の歳費さいひの使い方を訊ねれば、『全部孤児院に費やしたよ~!』と陽気に答え、そのままテーブルに突っ伏して寝やがった。

 くそっ、俺の時間を無駄にしやがって……!

 思っていた以上に人々の口が堅かった。
 巷から情報を得られないなら、自ら張り込みをして調べるしかない。

 時間がかかってしまうが、ひと月はこの国に滞在するよう父上に言われたため、じっくりと調査する余裕があるのだ。

 明日の即位式に合わせて、フェーリネシアと呼ばれる聖女が王都に足を運ぶ。その聖女の顔を見ようと、王城の前が人であふれている。
 
 こんなにも人がたくさん集まれば、聖女も王城に近づかないだろう。

 張り込むなら公爵の屋敷。そしてこの国で一番権力を持っている公爵といえば、それはクニヒト宰相だ。

 三日前、聖女が宰相の島にいたという情報を把握している。だから、聖女とジョセフ王子が王都についたら、必ずこの屋敷にくるだろう。

 そうして、陽が出る前から俺は宰相の屋敷の見張りをつづけた。





「ヒヒーンッ!」
「──はっ!」

 突然の馬のいななきに俺はビクッと飛び起きた。

「……なんだ、外国人? 酔っ払ってここで寝たんっすか? 危ないっすよ? これから馬車がくるから、ここを退いて……って、おれの言葉、分かるかな?」

「あ、ああ。大丈夫、すぐに移動する」

 屋敷の衛兵らしき少年にそう伝えると、俺はおもむろに起き上がった。

 まさか、張り込み中に路上で眠ってしまうとは。すべてあの酔っ払いジジイのせいだ。あれで俺は一睡もできなかったからな。くそっ、俺にこんな失敗をさせやがって!

 苛つきながら周囲を見渡せば、衛兵にとりまかれた貴族の馬車が列をなして、公爵邸の中へと入っていった。

 まだ太陽も登ってないのに、貴族らが公爵の屋敷に集まってきた。
 つまり、今日中に聖女とジョセフ王子がここへやってくるってわけだ。

 そう確信して、俺は公爵邸の裏側にまわり、待機した。人目を避けて、裏道を使うだろうからな。

 そのまま昼近くまで待っていれば、予想どおり地味な馬車が二つ、大通りの角を曲がり裏路地に入ってきた。その周りに数人の護衛がついている。

 あれ、白い肌に黄色い髪? 遠くから馬に乗っている護衛の姿に違和感を覚えた。青色の髪をもつ、もう1人の護衛に目を向けると、彼も白い肌をしているのではないか。

 2人とも外国人?

 海外の妾から生まれたジョセフ王子以外、この国の人々は黒髪と小麦色の肌をしている。青藍の瞳に黒髪。聖女の容姿を耳にした時、てっきり、彼女も混血児だと思っていた。

 護衛が海外の人なら、つまり聖女も海外の出身……どういうことだ? 

 新しい国教を受け入れるだけでなく、ここの民は外国人を神の子として拝んでいるってことか……? 

 なんだそれ、どう考えても可笑しいだろって……やばいっ!

 馬車が目の前にきたのを見て、俺は間一髪で身をひねり、姿を隠した。花に飾られた石像と植栽が附近にあったから助かった。

 そうして馬車が大きな石門をくぐり中へと入っていくのを、葉っぱの隙間から覗いた。

 ……ん? この顔……どこかで見た……。

 先ほど俺の目を引いた護衛の顔に見覚えがあるような気がして、俺はじっと眼を凝らした。すると、横を向いた男の目が光を反射して白く光った。

 ……銀色の瞳?

 濃い蜂蜜のような髪色。きりっとした端正な顔立ち。
 え、嘘だろっ、この男……ニロ殿下じゃねぇか!
 
 そう気づいた刹那、慌てて自分の口を塞ぎ、驚いて声が出そうなのを必死に圧し殺した。

 王国が催した 饗宴きょうえんで何度か挨拶をしたことがある。
 いつもと違う格好だから、すぐに気づかなかったが間違いない。この男はブルック王の嫡男、王国のニロ殿下だ……!

 あれ、なんでニロ殿下がここにいるんだ? 

 王国唯一の王子が聖女の護衛らしい振る舞いをしている……なんだこれ、いったいなんの冗談だ⁇

 もしかして、聖女も王国の貴族……? いや、それでもニロ殿下が護衛するはずがないだろって……ちょっと待った。

  そもそも、2国間の条約で王国は我が国としか外交関係を有してはならないはず。それでニロ殿下が変装のつもりで護衛のふりをしてんのか?

 ……すなわち、王国はテワダプドルと密通してるってわけだ!

 まさかと思うが、前国王に妾を送り込んだのも実は王国で、ジョセフ王子に王国の血が流れている……。

 この急な宗教交代。もしやこれも策略の一環……。

 ここの民を洗脳して海外の聖女と王を受け入れさせるための手立て。間違いない、王国はテワダプドルを乗っ取ろうとしているんだ……! 領土を拡張して力をつける。それで我が国と戦争するつもりかっ!

 完璧な裏切り。ここまで手を回していたとは。王国め……この俺に見られたのが運の尽き。このまま無事にすむと思うなよ……!

 はやく国へもどり、国王陛下にこのことを伝えないと……って、あっ、これだッ! 

 我が国と王国の運命がかかわる貴重な情報。
 こんなクソのような仕事で、こんな素晴らしい情報を手に入れられるのはどう考えてもこの俺くらいだろ!

 これならダメな父上を見返せる。そしてあの憎ったらしいフィンも俺に頭が上がらなくなるっ!

 この俺が王国の陰謀を暴いた英雄と称される……いや、待ってよ。これは千載一遇の機会。

 王国の陰謀を暴くだけでなく、裏切り者のニロ殿下、いや、ニロ王子の首を俺が討ち取れば、根もとで陰謀を断ち切ることができる。

 たった1人で戦争を止めた男……歴史は俺の名を覚える。

 これをやり遂げば、戦士長の座も俺のものだ……ああ、そうだ。この出会いは神のめぐみ。神に感謝しねぇと……っ!

 思いもよらぬ転機に、全身の血がさあっと頭に上り、俺は興奮に身震いした。

 そうと決まったら、あと実行するだけだ。
 恐らくだが、ニロ王子は聖女の護衛として明日の即位式を見届けるつもりだろう。

 そんなニロ王子を確実にやるなら明日、即位式最後のパレードを狙うしかない。

 理由は単純だ。パレードの目玉はジョセフ王子と聖女。熱狂する群衆が騒ぎたてたら、衛兵たちはひとまずジョセフ王子と聖女を取りまくだろう。

 つまり、誰もニロ王子を守らない。混乱の中でニロ王子を殺し、それから人々に紛れて逃げればいい。実に簡単なことだ。

 王都の建物の多くは木造で道幅が狭い。俺が持っている火口箱ほくちばこを使えば、すぐに火を起こせる。
 
 火事で群衆を混乱させる。完璧な作戦だ。

 この数日間で手に入れた情報だと、聖女のパレードは新しい神殿を一周するものだ。おあつらえ向きの状況。神殿の近くで火を起こす用意をして待っていれば大丈夫。

 ニロ王子の首を取り、俺は英雄になる。それで人々は俺の讃歌を歌い継がれていくんだ。ふふっ、ふははははッ! 

 戦士長の地位を楽しむのも今のうちだよ、フィン。次に会うときが楽しみだ!

 そうして、俺はさっそく準備にいそしんだ。
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