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イレイザー最終決戦編
閑話 無駄遣い禁止!?
しおりを挟む「アトラス様、今年度のフォルン領の収益でございます」
執務室でセバスチャンから一枚の紙を受け取る。
その紙には今年のフォルン領の経営状況が大雑把に記載されていた。
「よし……ん?」
「どうされましたぞ?」
「ああいや……ちょっと待って。なんかすごいことに気づいてしまった感が……」
俺はワーカー農官侯から受け取っていたレスタンブルク国の年間収益用紙を見る。
そして比較したのだが……。
「……フォルン領抜いたレスタンブルク国の出費予算より、フォルン領単体の出費額多いぞこれ」
「なんと!? とうとうフォルン領がレスタンブルク国を超えたと!」
セバスチャンが歓喜の声を上げるが、そんな簡単な話ではない。
収益ではなくて出費が多いのである。そして収入のほうはレスタンブルク国のほうがだいぶ多い。
つまり……フォルン領は無駄遣いをしている!
「いや出費だけ本国超えても何も嬉しくないんだが!? 収入そこまで増えてないだろうが!」
「大丈夫でございます。フォルン領は大借金慣れしておりますので、赤字程度でガタガタ言う者はおりませぬ!」
「欠片たりとも大丈夫じゃねぇ!? もっと危機感を持て! 赤字だぞ赤字!」
収支が赤字ということは、借金が毎年積もりまくっていくということだ。
放っておいたらまたフォルン領は借金地獄になってしまう!
「……節約だ」
「はい?」
「フォルン領版享保の改革を行う! 無駄遣いは敵だ!」
そうしてフォルン領節約大作戦が開始された。
まずはフォルン領主要メンバーを執務室に集めて緊急会議が開かれている
「そういうわけで贅沢は敵だ! 節約だ節約! わかったか!?」
「わかったでござる。それとアトラス殿、酒が切れたので追加を頼むでござる」
「欠片たりともわかってねぇ!?」
俺は思わず机をバンと叩きつけた。
ダメだこの領地、節約どころか節制すらできてねぇ!?
ちなみに節約は無駄遣いをやめること、節制は度を越さない程度に我慢することである。
そんなわけで全員に節約を厳命して解散し、俺は見回りをしていたのだが……。
食堂に行くとカーマがいた。
「あなた、どうかしたの? 誰か無駄遣いしてる人いた?」
「主にカーマが食べてるアイスに答えがあるんじゃないかな?」
カップアイスを幸せそうに食べてるカーマ。
そういった無駄遣いが積もり積もってるのだ! 俺は知ってるんだぞ!
家計簿とかつけたら、「えっ!? こんなにこれに使ってたの!?」みたいなことが多いんだって!
「いやこのアイス、すごく安いってあなたが言ってたじゃない」
「確かにひとつひとつは安いだろう。だがそれを毎日食べまくっていれば、結果的にすごく高額になるんだ」
「そうかなぁ……たかが知れてると思うけど。ねえ姉さま」
「このケーキも安い」
いつの間にか現れたラーク。そんな彼女もしっかりとチーズケーキの載った皿を持ってきていた。
くっ! 二人ともお姫様だけあって財政感覚にとぼしい!
「……没収」
「「えっ?」」
「節約だ節約! 毎日のお菓子は許しません!」
そう告げて俺は二人のアイスとチーズケーキを奪い取って、一口で食べ切った。
「「ああっ!?」」
「無駄遣いダメ! お前たちもついてこい! 俺が本当の節約というものを教えてやる!」
カーマとラークをお供にして、更に見回りを続けることにした。
そうして今度はセサルハウスに向かうと、セサルは俺を出迎えてくれて実験室に入ったのだが。
「まあ無駄遣いをなくすという発想はわるくないサッ。それとアトラス君、ミーの研究予算の増額を頼むサッ!」
「節約しろって言ってるんだが!? ねえ誰一人取り合ってくれないんだけど、俺って理解不能な言語発してるの!?」
セサルまで平常運転のため思わず悲鳴をあげてしまう。
おかしい……うちに集まってるメンバーは変人揃いだが優秀なはず……。
「主様、節約とは具体的には何を?」
そんな中、部屋の奥からエフィルンが現れた。
彼女だけは俺の話にまともに掛け合ってくれている。
何だかんだで彼女はいつも俺の味方である。
「細かいところからだ。例えば普段の食事で高級品はやめたり、衣服を節約したり」
「なるほど……つまり服を着なければいいのですね」
そう言うや否や、エフィルンは自分の服に手をかけて脱ぎ始める。
俺は即座にカメラを【異世界ショップ】から購入して撮ろうとするが……。
「なにやってるの!?」
「ダメ。裸で生活なんて無理」
カーマとラークがエフィルンの手を止めてしまった……ええい! 絶好のシャッターチャンスを妨害するとは!
「いえ、植物で服を作ろうと思いまして。そうすれば無料ですし……カーマさまたちもいかがですか?」
「「絶対に嫌」」
植物の衣服……すごくよいと思います!
「ところでアトラス君、そのカメラは無駄遣いでは?」
「……これは必要経費だから」
セサルの言葉に対して、俺はカメラを隠すように自分の背に持っていった。
「「じーーーっ」」
カーマとラークがこちらにジト目を向けてくる。あえて擬音を言葉にするあたり、俺を責める気マンマンだ。
なるほど……【異世界ショップ】で簡単に物が買えるので、俺自身も無駄遣いしてしまっているのか!?
あれか!? クレジットカードはボタン一押しで買えちゃうから、気が付いたらすごく買い物してるってなるやつか!?
「くっ……異世界ショップにこんな弱点があるとは……! 脊髄反射で買い物してしまうっ……!」
「そもそも発想が間違ってるのでは? 現状のフォルン領は発展中なので節約するよりも、色々な物に投資してより多く稼いだほうがよいサッ!」
セサルが珍しくまともなことを言い出して困る。
すると実験室に何故か魔法瓶片手にセンダイもやってきた。
「拙者もそう思うでござる。少しの赤字は今後の飛躍のための必要経費! 使うべきところで使わなければ結局大損をする。セサル殿の様々な研究もいつかどこかで必ず役に立つ。この瓶の中の液体は以前に作った媚薬から生まれたセサル殿力作の魔法酒でござる」
「むむむ……」
センダイがまともなことを言いながら酒瓶に口つけてぐびぐび飲み続ける。
でもお前の酒は節制すべきだと思う。
「ねえねえ、そもそも本当に無駄遣いが赤字の原因なの? 正直、ボクたちの出費がゼロになったとしても誤差の範囲のような……」
カーマが口に手をあてながら考えている。
いや正直俺もそう思うんだけど……千里の道も一歩からというか、わかりやすいところから改善していくしかないかなって……。
「こんなこともあろうかと。収支詳細書を作っておきましたぞ!」
そんなことを考えていると、セバスチャンが何枚かの紙を束にして持ってきた。
なんでセサルハウスにセンダイやセバスチャンが集まって来るんだ……そんなことを考えながら書類に目を通すと。
凄まじく出費が多くて、欠片たりとも利益を出してないものがあった。
「収入ゼロなのに出費が金貨二万枚以上!? バカかこれ!?」
「な、なにそれ!? 横領!? それにしても額がおかしいよ!」
「原因それ」
「いったい何の事業でござるか?」
なんて意味不明な事業だ! こんなものすぐ解体だ解体!
そう思いながら出費名に目を通すと。
「…………」
俺は全てやってられなくなって紙を投げ捨てた。
「ど、どうしたの? 死んだ目をしてるけど……」
「もう疲れた……帰って寝るよ……」
俺は近くの椅子に腰かけて大きく息を吐く。
絶望とはこれこのことだろう。自分の無力さを思い知らされてしまう。
「いやそんなのダメでしょ!? ちゃんと改革しないと!」
「放置ダメ」
そう告げながらカーマとラークが投げ捨てた紙を拾って目を通した。
「……ボク、アイス食べてくるね」
「ケーキ欲しい」
そう言い残して去っていった。
もうこればかりはどうしようもない。
そして何度も投げ捨てられた紙をセサルが拾い上げると。
「ふむふむ……すごいな、見事なまでにこの関係は収益がない」
「赤字額金貨二万枚とは凄まじいでござるな」
「逆に考えましょうぞ。ここまでの金食い虫がいてなお、フォルン領は多少の赤字ですんでいると」
セバスチャンたちもうんうんと頷いている。
そうして彼らは口を揃えて。
「「「レザイ領関係の出費が酷すぎる」」」
忘れていたよ、フォルン領には最強最悪の貧乏神がいたことを。
そりゃこいつら何も生みだしてないんだし、出費しかないわな……。
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