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イレイザー最終決戦編
閑話 ミーレの感想
しおりを挟む「いらっしゃいませ、何が欲しいのかな?」
私は異世界ショップに来店してきたセバスチャンに、カウンター越しに愛想笑いを浮かべる。
この人はアトラスを除いて唯一ここに自力で来れる人だ。
「いえ、実は冥途の土産にミーレ様視点のアトラス様のお話を聞きたいのですぞ」
「あなたの冥途は後六十年くらい先だけど……」
「人間、何があるかわからないものですぞ。寿命があったとしても、ぽっくり死にかねませんから」
あなたがそうそうくたばるとは思えないけど、という言葉を必死に飲み込んだ。
そしてカウンターから出て近くに置かれた椅子へと座り、アトラスのことを思い出しながら話し始める。
私がアトラスをこの世界に転生させた。
それはこの世界の滅びの未来を防ぐには、決められた運命を壊す異物が必要だったためである。
本音を言うと異物を呼んでも滅びを防ぐのは難しいのではと思っていた。
特に彼とのファーストコンタクトで無理そうだなと。今でもそのやり取りは覚えている。
『こちとら文無しだ、試供品とかないのか?』
異世界ショップをそこらの店感覚で考えないで欲しい。
というか普通にそこらの店だとしても、文無しと言って来た相手に試供品なんて渡すかな!?
そんなわけでもう無理かなと諦めてたのだが、アトラスは思いのほか有能……いやその表現は著しく間違っている気がする……。
ただただ運がよかったというべきだろうか。
「運がよい? それはどういう意味ですかな?」
「人材に恵まれたんだよ。あなたを筆頭にみんな優秀だからね」
確かにカーマちゃんやラークちゃんは、うまくいけばアトラスのものにできるのではと予想していた。
彼女らは私の中で計算内のコマで、彼女らがレスタンブルク国にいたこともアトラスをフォルン領に転生させた要因。
隣国のエフィルンに関してもこの世界の歴史に関わる人物だったので把握していた。
そもそも本来の運命ではレスタンブルク国は、ひとつの領が独立するのを除いてベフォメット国に飲み込まれる。
カーマちゃんたちは決戦でエフィルンに負けるはずだった。なのでその三人は把握している。
ついでにクズ王子も認識していた。
だがセバスチャン、センダイ、セサルは完全に計算外だ。なんか変なのいっぱい出てきた……と言った記憶がある。
ようは私は全く認識していなかった。ゲームで言うなら完全なランダム作成キャラでしかない。
そんなキャラが抜群に優秀な能力だったのだ、豪運と言わざるを得ない。
「それは違いますぞ。アトラス様は運を引き寄せたのです」
「引き寄せた?」
「そもそもな話なのですが。防衛隊長を雇う面接で酔っぱらって来た者を、雇おうとする者などアトラス様くらいですぞ!」
「あぁ……そういえばあなたも超反対してたね……」
「今思えばあれはアトラス様の才覚だったのでしょう。人を見る慧眼があったと……私ならば間違いなく雇っていませんでした」
アトラスの謎の人的悪運を物凄く好意的に解釈すれば、慧眼と言えてしまうのかもしれない。
センダイ面接時のアトラスの思考回路は今でも気になっている。
「じゃあ話の続きをするね」
そうしてアトラスのことを思いだしていく。
ジャイランドをタンカー落としで倒して爆笑したことを話すと。
「ジャイランドは倒してよかったのですぞ? スズキ様曰く、ジャイランドがいればイレイザーは何とかなったと」
「よかったよ。あれはイレイザーを倒せなかった、前回できた封印も学習されて今回は通用しなかったからね」
「それはそれは。迂闊にジャイランドを残していれば、それに頼って危ういところでしたな。やはりアトラス様は天才でございますれば」
「幸運ステータス全振り人間の間違いじゃないかなぁ……」
本当にムダに悪運が強い人物だと思う。
ジャイランドについてはもう役立たずの認識があったので、私の頭の中からすっぽり抜けていたのだ。
レード山林地帯であれが目覚めたのを見た時は、「そんなのいたなぁ!?」って叫んでしまった。
「じゃあ次ね。エフィルン相手に……」
「バフォール領のことをお忘れではないですぞ?」
「あいつら論ずるに値しないから……」
バフォール領の記憶はカーマちゃんとラークちゃんが、エッチな服装してたことしか記憶にない。
なんか酷い領主と息子と再利用悪役いた気がするくらい……大した敵でもなかったし、世界の大勢には欠片も影響及ぼさない。
「エフィルンにネズミ花火とかの戦い方は、なんというか色んな意味でアトラスらしかったね。最後に胸揉んだのも含めて」
「揉んだのですか」
「揉んだんです」
洗脳薬飲まされた後のエフィルンが、もだえながらここに送られてきたのでよく覚えている。
あ、洗脳解除薬だったっけ……いや洗脳上書き薬? まあいいや。
「それでラスペラス国と戦って、同じくチートを与えた女王に勝ってたね」
「やはりあの力もミーレ様が与えていたのですな」
「うん。物理チートがアトラス、魔法チートが女王。二人いないとイレイザーには勝てないから」
実は女王に関してはアトラスより後で転生させた。
正確に言うとアトラスより後で、アトラスよりも前の時間帯にだけど。
女王の本当の年齢? ダメだよ、女性のトップシークレットだからね。
「そしてセバスチャンさんも知っての通り。アトラスは核を使わずにイレイザーを倒したのでした」
「ミーレ様は核を使う計算だったのですぞ?」
「うん。むしろ核だけのためにアトラス呼んだようなものだよ。以前にも話した記憶があるけど、異世界ショップの兵器関係だけ安かったのはそのため。彼が人を殺す感覚を麻痺らせるためだった」
「結果としては誰も殺しませんでしたな」
「それが一番驚きかな。タンカー落としとかの異世界ショップの使い道の悪用というか……私もまったく計算してなかったもの」
個人的には想定してない使い道の、バグ技で無双された感が否めない。
まだタンカーは許そう、だがフォルン領専用通貨は本当に卑怯卑劣の極み!
あれズルくない!? あれで戦艦とか大量に買われた後、力使いすぎてしばらく私弱ってたからね!?
どれだけ必死に夜なべしてこさえたか! アトラスは少しは私の苦労を知るべきだと思う!
だがアトラスはそれを利用というか悪用して、彼にとって最良の未来をつかみ取った。
……ごめん、やっぱり最良の未来ではないかも。主にレザイ領関係が……。
「なるほど、やはりアトラス様は素晴らしいお方ですな!」
「……まあ結果だけ見れば不本意ながら……評価はするよ」
「結果が全てですぞ!」
「そうですね……これでアトラスのお話はおしまい。他に何かあるかい?」
「いえ、今までありがとうございましたぞ。これからは私たちがこの世界を守っていきますぞ」
そう言ってセバスチャンは、私に対して深々と頭を下げた。
彼の言うことは正しい。もう私はこの世界の先を知らないし介入する予定もない。
後は完全に異世界ショップの中で、傍観者として楽しませてもらうつもりだ。
アトラスが生きている間は異世界ショップは閉店しない。
「それとですな。アトラス様の王位継承の儀がもうすぐあります」
「知ってるよ。あのアトラスが本当に王になるんだと思うと」
「感慨深いですぞ?」
「レスタンブルク国の将来が心配になる」
大丈夫かなぁ……アトラスって基本行き当たりばったりだから……。
でも何だかんだで何とかなるんだろうなぁ。
異世界ショップでポップコーン片手にでも、彼が玉座に座るところを見るとしよう。
そう思っているとセバスチャンが私の手を掴んだ。
「そういうわけで、ミーレ様にも継承の儀にご出席をと思いまして」
「……は?」
「ささっ、行きますぞ!」
「待って!? どういうわけ!? ちょっ、力強すぎっ……!? やめてぇ!?」
私はセバスチャンに誘拐まがいに連れていかれていった……。
忘れていた、この人が一番無茶苦茶だったことに……。
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