8 / 31
逃げ延びた先のレーム村
第8話 デュラハンとヤドカリは瓜二つ
しおりを挟むバルガスとの決闘に対して受けると返事をしてから三日後。
俺達は都市エルダの広場に、とある甲冑騎士とサーニャを連れてやって来ていた。
ここが決闘の場所に指示されたためである。
ここには都市エルダとレーム村の住人が全て揃っていて、固唾をのんでこの結果を見守っていた。
「やれやれ……どちらが勝とうがこの街は滅びゆくというのに。本当にくだらん……せめて最期くらい仲良くすればよいものを」
「酒がうめぇ! 飲まなきゃやってられねぇ!」
「畜生……昔ならこの広場にゃ大道芸人がいて、いっぱい魚屋が並んでいて……ひっく……おおーん!」
……かたずじゃなくて酒を飲んでいた。しかも泣き上戸ばかりで涙までのんでいて忙しい奴らだ。
決闘は庶民にとって娯楽だから仕方ない。
出来れば見物料を取りたいのだが……あいつらの金はもうほぼ俺の懐にあるからなぁ。
サキュバスの色香に惑わされた愚かな民と思えば、少しくらいはサービスしてやってもよいだろう。
「よく逃げずに決闘を受けたなぁ。それだけは褒めてやるよ、エルダ家のお嬢ちゃん」
ロングソードを肩にかつぎながら、全身鎧姿のバルガスが俺を挑発してくる。
くだらないな、お前程度の言葉など効果はない。
何故ならこないだサキュバスから、遥かに酷いこと言われたからな!?
分かるか!? 性の専門家に男性ホルモンが足りないと言われた俺の気持ちが!?
「ふん。言っておくが決闘に出るのは俺ではない。この俺の騎士だ」
俺の宣言と共に甲冑騎士が前に出た。
「おいおい。俺から無様に逃げたお前が騎士を雇ってる!? 面白い冗談だなぁ! どうせその鎧の中身はレーム村のザコAだろうが!」
「…………」
バルガスは剣の切っ先を向けて甲冑騎士を煽る。
だが甲冑騎士は黙り込んだままだ。
「……チッ。面白みのないやつだ、さっさとやろうぜ。決闘はどちらかが戦闘不能になったら終了。俺が勝ったらこの領地は全て俺の物。そしてお前らは俺の所有物だ」
「お前が負けたら?」
「この領地は全部お前のものだ」
「舐めてるのか? お前が負けたらお前の人権も命も全て奪う」
どうなってもよい人間の頭数が足りなかったんだ。
魔物への支払いのために人的資源は確保しておきたい。
「かまわねぇよ。俺が負けるわけないからな! さっさと始めようぜ! 審判!」
バルガスの叫びに反応して、タキシードを着た老人が手をあげた。
「王都より招かれましたバーティンと申します。この決闘の見届け人となりますのでお見知りおきを。私がここにいることが決闘の証明となり、この戦いの結果は王の知るところとなります」
バーティンは恭しく礼をする。その仕草は非常に綺麗であった。
決闘において中立の見届け人は必須である。そうでないと後から、互いに自分が勝ったと言いかねない。
ちなみにこの老人が中立、バルガスの手の者でないのはすでに調べがついている。
サキュバスがバルガスと寝て確認したらしいからな! 最後によい思い出作れただろ?
「では互いの代表者は前に出てください」
「はっ!」
「…………」
バルガスと甲冑騎士が前に出て、互いにロングソードを構える。
「決闘のルールを説明いたします。一騎討ちでどちらかが死ぬ、もしくは気絶するまでとします。では……はじめ!」
審判の開始宣言と共に、バルガスが甲冑騎士に襲い掛かる。
縦に横にと剣を振るうが、その全てを甲冑騎士が簡単にさばいた。
「これならどうよ!」
バルガスは更に縦横無尽に剣戟を放つが。
「…………」
甲冑騎士は全く怯えのない様子であっさりと剣で防いだ。
それもそのはず、彼に恐怖心などというものは存在しない。
「ちいっ! 薄気味悪いやつだ! くたばりやがれぇ!」
バルガスは甲冑騎士の兜めがけて、剣を大きく振るった。
だがそれに対して、甲冑騎士は何の防御もしない。
勢いある斬りつけが兜に直撃して地面に跳ねとんだ。
「へっ! 兜ごと首が飛んじまったか! 悪いな、俺が強すぎてな! 約束通りお前は俺の奴隷だ。公爵家に渡す前に調教して……」
勝利を確信して笑い、俺に顔を向けてくるバルガス。
その背後では首の飛んだ甲冑騎士が、ゆっくりと剣を振りかざして……。
「がっ!?」
甲冑騎士がロングソードの腹部分で、バルガスのみぞうちを思いっきり叩きつけた。
無様に地面に倒れて泡をふくバルガス。
「……そこまで! この決闘、ライジュール・エルダ・ブラウン様の勝利とする! ……しかしまさかデュラハンとは」
審判の宣言と共に決闘は終わった。
さてここで種明かしをしよう。この甲冑騎士は人間ではなく魔物だ。
デュラハン――騎士甲冑に取りつく幽霊が、俺の代わりに決闘を行ったのである。
「決闘は人間以外でも可能でしょう? 過去にも例がありますし」
「ええはい。それ自体は問題ありません。しかしデュラハンとは……決闘では最適な魔物ですな」
バーティンはデュラハンを感心しながら見つめている。
何故デュラハンが決闘において最適か。それは一騎打ちで戦闘不能にするのが極めて難しいからだ。
全身鎧姿な上に本体は霊体の上級魔物。斬っても血も流さないし本体は殺せない、鉄の鎧を壊せば無力化できるが……それも難しい。
仮にこいつを討伐するならば、優秀な剣士と神官のペアが必要だ。
剣士がデュラハンを押さえる間に神官が呪文を詠唱して浄化するしかない。
だが一騎打ちにおいてはそれもできない。
剣士だけで鉄鎧を倒すのは至難の業だし、神官だけでは呪文を唱える前にやられてしまう。
なので決闘においてデュラハンは最適なのだ。
「いやはや非常に珍しいものを見させて頂きました。では私は王都に戻りこの結果を知らせますので」
バーティンはそう言い残して去っていった。
……ところであの人、最初からデュラハンであること見破ってたよな?
わかってなかったら首が落ちた時点で、バルガスの勝利宣告をしてただろうし。
いったい何者なんだろ……まあいいか。
「よし! これで都市アルダは取り戻したぞ!」
「ーーーー!」
俺の叫びに合わせてサーニャがガッツポーズをとる。
さあここから魔物によるチート内政タイムだ!
まずは死の港を復活させて……そう考えていると、デュラハンが俺の服のすそをちょいちょいと手で引っ張って来た。
忘れてはならない、魔物たちを使役するには生活の面倒を見なければならないことを。
「……少々お待ちください。今用意させております」
「…………?」
サーニャが首をかしげてこちらを見ている。
デュラハンって生活に必要なものあるの? ということだ。
確かに甲冑騎士に取りついた幽霊に何かが必要とは思えないだろう。
だがそれは偏見である。端的に言うなら……デュラハンはヤドカリだ。
「坊ちゃま! お待たせいたしやした! お求めの甲冑です!」
「よしすぐに脱げ!」
買い物に行かせていた村人が、新品の甲冑を着て戻って来た。
デュラハンの要求を予想してすでに指示を出していたのだ。
――ペガサス様に乗って甲冑を買ってこいと。帰ってくる時に装備するのは許した。
流石にペガサスに乗った状態で、鎧を箱とかにいれて運ぶのはかさばるからな。
村人はせっせと鎧を脱いで、地面に揃えて置いた。
「…………」
甲冑騎士はサムズアップをした後、ガシャリと音を立てて鎧や小手や兜が崩れ落ちた。
そして村人が着てきた置いていた鎧や小手などが、宙に浮き始めて……合体して人間が騎士甲冑を着たような状態になった。
デュラハンの生活の面倒を見るとは衣食住の衣をさすのだ。いや鎧が家感覚なら住でもあるか?
デュラハンは鎧の手をニギニギしたり、腰の鞘から剣を抜いてうんうんと頷いている。
……フルアーマープレートってわりと高いので、できれば三月に一度くらいにしてもらいたいなぁ。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる