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都市アルダを復活せよ!
第12話 さあ宣伝だ! 蘇った都市アルダ!
しおりを挟む「これから毎日、お前たちには遠くの街から街に交易に行ってもらう! ペガサスに乗ってな!」
俺はレーム村の人間を広場に集めていた。
彼らはこの都市ではやることがほとんどない。農民だし。
だが今は猫の手……否! 誰でもいいから手を借りたい状況だ!
純粋に人手が足りないんだよ!
「お、俺達がペガサス様に……でも俺ら商人じゃないし……交易なんてできるだか?」
「大丈夫だ。ここの魚や他の港の魚を買って、内陸地に運んで売るだけだ! 内陸地で魚は物凄く貴重だしてきとうに露店出してれば売れるっ!」
大丈夫だ、商人でもないお前たちに大した期待はしてないから。
もう最低最悪儲けなしでもいい。他に目的があるのだから。
「それで店で売る時に都市アルダの魚だと超アピールしろ! 露骨なくらい宣伝しろ! アルダの海は蘇ったと! そうすりゃ信じられるだろ! ペガサス様を店の横に置いて、毎日通ってるとでも言えよ!」
この行商の最大の目的は都市アルダが復活したと、大体的に広めることにある。
中世ファンタジーの世界では情報の伝達が死ぬほど遅い。
この海が蘇ったと国中に伝わるのに、下手したら年単位で時間がかかってしまう。
そんなの待てるほど俺は気が長くないので、自分から積極的に広めようというわけだ。
ペガサスの機動力は物だけでなく、情報の伝達でも強力なアドバンテージを誇る。
都市アルダが蘇ったと聞けば出て行った猟師たちも戻って来るかもしれない。
彼らは他の港などに向かったのだろうが、新天地でうまく生活できているとは限らないからだ。
むしろ家という財産を捨てて出て行ったのだから、うまくいってない可能性も高い。
そんな彼らを温かく回収……出迎えてあげるのが都市アルダだ。
それと……目ざとい商人ならばペガサスの価値に気づくだろう。
そういった有能な商人をこの都市に誘致して、この都市の交易を一気に加速させるっ!
本当はペガサスのことばらさないほうが安全なんだけど、背に腹は代えられない!
教会がなんぼのもんじゃい! うちにはペガサス様がいらっしゃるんだぞ!
「さあ行けっ! それと儲けた金のネコババは許さんぞ! ペガサス様が見張ってるからな! 天罰降るぞ!」
「ライ、ばっきん銀貨いちまい」
「はい……」
サーニャが持ってきた罰金箱に銀貨一枚をチャリンといれた。
誰だよこの制度考えた奴……俺だけど。
指を鳴らして六頭ほどペガサスを追加召喚した。これで都市アルダのペガサスは七頭になる。
だ、大丈夫だ。馬小屋にはまだ余裕があるし、食料もこの交易の儲けでよい牧草とか買えるし……。
「さあ行け! たんまりと金を稼ぐとともに、都市エルダの復活を宣伝してこい! 同じ街の行き来ばかりはやめろよ!」
「「「はい!」」」
そうしてペガサス交易が本格的にスタートした。
交易のスタイルとしてはふたつだ。
ひとつめは都市アルダの魚を売ること。
早朝に漁に出た船が戻ってきたら、その魚をペガサスで運んで王都などの内陸地へと運ぶ。
ふたつめは転売だ。と言っても害悪じゃないぞ。
他の港に買い出しに行ってから、内陸地へと運ぶ交易だ。
そもそも中世文明では転売は悪く言われない、立派な商人の交易になる。
商品を買い占めても運送コストの関係で運ぶの無理だし……。
「ねえ。なんで他の港からおさかな買うの? うちのじゃダメなの?」
「それだと内陸地にしか、うちの港が蘇ったのが広まらないからだ。それとまあ、まだ人手不足であまり魚取れないのもある」
「なるほど」
都市アルダから出て行った猟師たちは、他の港街に向かった可能性も高いからな。
「ところで馬車は使わないの?」
サーニャが舌足らずで疑問を口にしてくる。
彼女の言う通り、ペガサス行商に馬車は使っていない。
ペガサスの背に乗せられるだけの分を運ぶことにしている。
「現状は使う意味がないんだよ。まず馬車があるとペガサスの利点である空を飛ぶことができない」
サンタクロースのトナカイソリなら不思議な力で飛ばすのだが、ペガサスはそれができないらしい。
ペガサスって赤鼻のトナカイ以下なの? とか思ってはいけない。いいね?
「でもペガサスさん速い、よ。飛べなくても普通の馬よりはやく、馬車ひけない?」
「それも無理だ。試しにペガサスに馬車を引かせてみたが車輪がぶっ壊れた。御者台に乗ってたせいで死にそうになった」
「……ライって、けっこう自分の身体はるよね」
ペガサスが全力で走ると馬車がもたないのだ。
それも当然で普通の馬車は精々時速十キロくらいでしか走らない。
なら造りもその速度で耐えられる強度なわけで、ペガサスが三倍以上の速度で走ればもたない。
もちろん普通の馬と同じようにゆっくり馬車をひくことはできるが……それもうペガサスの意味がない。
そんなわけで現状はペガサスの馬車はなし。
おそらく今後も運用されることはないだろう。
魔物に馬車を引かせるアイデア自体はよいと思うので、丈夫に造れるならば他の魔物で……というところだ。
ペガサスについてはペガサス便として個人単位の行商や情報伝達の早馬。
それと超急ぎの手紙担当にしたいと考えている。
「そういうわけだからペガサス馬車は無理だ。幻想的なロマンだけで実益性が皆無。仮に馬車が強化できたとしても、手があるケンタウロスとかのほうが運びやすいだろうし」
「そっか……」
サーニャが少し悲しそうな顔をする。
ペガサス馬車に憧れがあったのだろう。女の子ってそういうの好きだよな。
地球ならかぼちゃの馬車とか……でも冷静に考えたらかぼちゃって微妙じゃない?
そんな彼女の頭を手でポンポンと叩いた。
「暗い顔をするな。この失敗のおかげで優先して行うべきこともわかったし」
「優先すべきこと?」
「ああ。魔物ってのは普通の動物よりパワーがある。馬車に限らず、今後も家畜の道具が魔物には使えないことが多々あるだろう。なので……技術者が必要だ。魔物用の道具を作るな」
実際すでに馬車以外にも問題が出ている。
デュラハンから鎧が動きづらいと不満が出ている。
もっと重くていいから可動性を増やして欲しいと言われているのだ。
人間は重量のあるフルプレートアーマーで機敏に動くなんて想定してないが、デュラハンはそんなの関係ない。
人間なら身動き取れない重量の鎧も、デュラハンの足かせにはならない。
純粋に装甲が分厚くて頑丈になるほど強くなるのだ。流石に鎧を大きくしすぎると、今度は小回りとかの問題が出るだろうが。
そんなわけで……オーダーメイドで色々と作れる超優秀な職人が必要だ。
そうなればもう俺がどうすればよいかは決まっているだろう。
ひげもじゃ技術者の魔物を飛ばなければならない。だがそれには準備が必要だな……。
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