13 / 31
都市アルダを復活せよ!
第13話 酒の隠し味はレプラコーン!?
しおりを挟む「これより都市アルダでは酒事業を本格化する!」
俺は酒蔵に四人ほどの人間を集めてそう宣言した。
酒……それは恐るべき魔力を持った悪魔の水。
「なんでおさけ作るの?」
「それはな、魔物に献上するためだ」
俺はサーニャに対して優しくつぶやく。
酒は魔物すら魅了するおそるべき力を持ち、酒好きの逸話を持つものはかなり多くいる。
特に日本の妖怪などは恐るべき怪異を酔わせて殺すやつがすごく多い。
清めの酒などの言葉もあり、通常の飲み物とは一線を画しているのだ。
それはつまり、魔物を使役していく上でも必須なものであることを示している。
「酒はいいが……俺らは漁師だぞ」
「酒なんて造ったことないぜ」
集めた者たちはそんなことを言っているが白々しい。
こいつらは酒を造ったことがある。何故ならば……。
「そうか。じゃあ聞くがお前らが散々宴会などで飲んでた酒はどこから仕入れている? 酒はそこまで安くないし、そもそもここまで持ってくる物好きはいないだろうが」
「うっ……そ、それは酒蔵の残りを……」
思い出して欲しい。こいつらはデュラハンとバルガスの決闘時も酒を飲んでいた。
だがこんな廃墟でどうやって酒を得ている? 死んだ港に商人が持ってくるはずもない。
ようはこいつらが自分で造っているんだ。でもそれがバレると困るから隠している。
酒の製造は許可制であり勝手に造ったら密造として罰せられるからだ。
だがそれは酒蔵ギルドの権益を守るためのものであり、今の帝都アルダに酒蔵なんぞない。
なので彼らの密造を責めずに実益をとることにした。
「だが俺も酒を飲めば記憶が薄まるかもしれないな。ふとした拍子に思い出す可能性は大いにあるが」
「えっ、それはどういう……」
「バカッ! 見逃してくださるって仰ってるんだ!」
これで俺の手足のように動く人的資源を確保できた。
逆らったら捕縛するぞと脅せる便利なコマだ。
「じゃあ早速だがお前たちには酒を造ってもらう。酒にうるさい魔物に献上するものなので上等に造らなければならない」
俺の言葉に対してエセ職人たちはビシッと背筋を伸ばす。
「へ、へい! 頑張ります!」
「はぁ? 素人に毛の生えた程度で人生諦め慰め酒造ってたお前らが、そんなよい酒造れるわけないだろ! 職人舐めんな!」
「へ、へいっ!?」
「お前らの酒で魔物様が気を悪くしたら、謝罪のために一族郎党縛り首だぞ! 無理なんだから無理と言え馬……愚か者ども!」
サーニャが構えていた罰金箱を床に降ろした……危なかった。
俺の激怒に男たちはポカンとした顔をしている。
だがこれでは困るのだ。出来ないことを出来ると言い張られて、結局無理でしたとか最悪だ。
「いいか? 何で俺が魔物を大量に召喚していると思う?」
「人間不信で魔物好きだから」
「違う。人間はできないことが多すぎるから魔物使ってるんだよ!」
人間はあまりに自己評価が過大すぎる!
霊の長である類とかどれだけ痛い奴なんだよ!
霊長の意味って万物の中で特に優れている者とかの意味だぞ!?
「つまり酒を美味しくする魔物を召喚する。お前らは丹精込めて必死に、手抜きせずに神に献上すると思って酒造ればいい」
「……え? 美味い酒を造る魔物じゃなくて、造った酒を美味くする魔物なんているんすか?」
いる。というか魔物とか妖怪の類って、本当に変わったやつがいっぱいいる。
百聞は一見に如かずだ、呼び出してさっさと酒製造を開始させよう。
「古の契約を遵守せよ。我が血と言葉を以て応ぜよ。求めるは悪戯妖精、小さく内緒にこしらえる……」
俺の召喚に応じて足元にすごく小さな魔法陣が出現する。
そしてそこから……緑の衣装を着たヒゲを蓄えたオッサンが現れた。
サイズは親指ほどだろうか、油断したら踏み潰してしまうだろう。
「ヒッヒッヒ」
レプラコーンは愉快そうな声をあげるが……耳を澄まさないと聞こえない。
身体のサイズに応じて声量も小さくなるようだ。
よく考えたらそりゃそうだよなぁ……アニメとかの妖精ってみんな声大きいのはご都合しゅ……これ以上考えるのはよそう。
「こいつはレプラコーン。妖精の類だ」
「ち、小さい……」
「こんなのが足元歩いてたら気がつかずに踏み潰しかねないべ……」
「やったら一族郎党潰すぞ。死ぬほど気をつけろ……まあ妖精が踏み潰されて死ぬなんてないと思うが」
そんな虫みたいに死ぬ妖精聞いたことないしな。
でも気を付けるようには指示しておく。
「こいつがいる酒蔵の酒は美味しいんだ。だからお前ら程度の腕でも、魔物をうならせるものが造れる」
「へぇ……こげな小さいのにすごいんだなぁ」
「レプラコーン様と呼べ。ちなみに酔っぱらっていたらクルラホーンなので間違えないように」
「……何で酔っぱらったら名前が変わるんですか?」
「知らん。でも人間だって結婚したら性名変わるだろ。元の名前で呼んだら不敬だろ、それと同じと思え」
「へぇ……」
職人(笑)たちはレプラコーンを見て感心している。
ちなみにクルラホーンになったら、緑の服が赤く染まるらしいが本当かは知らない。
これで酒問題は解決したな。
「ねえライ。このレプラコーン様はどうやってお酒をおいしくするの?」
「酒に浸かりでもするんじゃね? 出汁的な感じで」
ハブ酒とか土瓶蒸しとかあるしそんな感じじゃなかろうか。
だが男どもはドン引きしたような顔をしていた。
「ち、小さいとはいえオッサンの風呂った後の酒ですか!?」
「もしくは全身の毛穴から空気中に酵素でも出すんじゃね?」
「そ、それはそれで嫌だな……」
「面倒くさいな! もう酒が美味しくなる魔法使ってると考えておけ! どうせ妖精は人の目のあるところじゃ何もしないって相場が決まってるんだから! 知らなきゃ仏だ!」
大事なのは仮定ではなくて結果だ。
ようは食中毒など起こさずに酒が美味くなればいいのだから。
そもそも日本古来の酒は口はみ酒とかで、米を口にいれて戻しての唾液パワーで酒造ってたくらいだぞ。
小さな妖精が浸かった酒くらいでグダグダ言うな!
「ねえねえ。レプラコーン様のいる酒蔵のお酒はおいしいんだよね?」
サーニャはまだ気になることがあるようで、たどたどしく俺に尋ねてくる。
俺の唯一の心の清涼剤だ。サキュバスはユニコーンと喧嘩しまくりでキツイ。
「そうだぞ。おいしくなるんだぞ」
「それってレプラコーン様がお酒をおいしくしてるんじゃなくて、おいしいお酒の酒蔵にレプラコーン様が寄ってきてるんじゃないの?」
……俺は返答に詰まるのだった。
最終的になんか酒蔵で酒造らせてみたら、めちゃくちゃ美味しくなったらしいのでよし!
ちなみにレプラコーンへの報酬は酒である。自分で酒を美味くして飲むとはエコな魔物だなぁ。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる